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フォーラム記事
ルツキ
2024年9月09日
In デジモン創作サロン
デジタルワールド広し、と言えども〝末端〟というのは存在するもので、何かの弾みで消去されてしまうような……そんな場所にだってデジモン達は暮らしていた。一体いつから存在しているかも分からない秘境ともいえるような僻地に、デジモン達の中でも〝特にユニークなデジモン〟が多く暮らしている村があった。
──とある某日、村の物知りで名の通るボコモンの家では、一大イベントが起きようとしていた。
「おお〜! デジタマが孵るぞぉ!」
桃色の腹巻きを巻いたデジモン、ボコモンが驚喜の声を上げる。
ボコモンの眼前にはデジモンの卵であるデジタマが並んでおり、それらは『赤地に黄色の星模様』『岩の様にゴツゴツとした燻し銀なもの』『紫地にペイントの様な斑模様』……と実に個性豊かであった。ユラユラと揺れだしたデジタマは、今まさにボコモンの目の前で孵ろうとしている。
パキ…パキパキッ! デジタマの表面にヒビが入ると間も無く──
「バブゥ」「スー…」「ピキーッ!」
三体のデジモンが殻を破って、産声を上げた。
幼年期のスライム型デジモン──バブモン、スナモン、キーモンの誕生である。
「いやぁー、めでたい! めでたい事じゃなぁ〜」
「バブバブゥ…?」
緑色のデジモン、バブモンが両手をあげて喜ぶボコモンを不思議そうに見上げている。それに気づいたボコモンが、しゃがんで三体と目線を近づけた。
「おおーよしよし。わしは、ボコモン。オマエ達の父ちゃんみたいなもんじゃ。みーんな、元気に育つんじゃぞ〜」
三体に向かってボコモンは、順番にニコニコと笑いかける。しかし……
「おー何じゃあ?一番勢いよく出てきた割にオマエさんは、随分と静かじゃな?生まれたばかりから、そんなに目を釣り上がらせてまあ……」
「……」
体が紫色のキーモンは、何が気に食わないのか膨れっ面でムッツリとしている。
どおした?腹が減っているのか?と、ボコモンがキーモンを宥めている様子を真ん中にいるデジモン。体が砂で出来たスナモンがジッと見ていた。……何やら両隣のバブモンとキーモンを見比べているようだった。
「スー……、スゥ!」
急にドン! とスナモンは、どういうことかキーモンを突き飛ばしてしまった。
「キゥ!?」
キーモンの軽い体は、ポヨンと飛ばされ床の上にぶつかり一回転する。攻撃されたキーモンは当然、機嫌が悪くなり『プシュー』と赤い塗料をスナモンに向かって吐き付けた。すると想定外の反撃だったのか、攻撃がスナモンに直撃。驚いたスナモンは一瞬怯むものの「やったな」と言わんばかりに、こちらも体の砂を飛ばす『砂かけ』で応戦するのである。
「キィイ!」
「スゥウ〜」
「こらこら! 喧嘩は、いかんぞ! いかーん!!」
ボコモンは、突然暴れ出した二体の仲裁に入るものの、喧嘩は収まるどころか尚も白熱し続け、砂と塗料の応酬は止まずに家の中は酷い有様となっていく。その様子は、もちろんバブモンも見ていた。
「バブ……? ゥリュ、ウゥ……」
「はっバブモン…!?」
ボコモンはバブモンの異変に気づきそちらを向くと、生まれて間も無く目の前で起きた出来事に戸惑い、怯えるその姿を捉えた。その瞳はみるみる内に潤み、今にも決壊寸前となっているではないか。
「バブゥウ……ウエェ〜ン!!」
「おお〜よしよし〜…可哀想にな〜ぁ」
とうとう泣き出してしまったバブモンを優しく宥めようとするボコモンであるが、相も変わらず〝塗料〟と〝砂〟は宙を飛び交い続けている様に──ボコモンの堪忍袋の緒がキレた。
「……いい加減にせんかぁ!!ばかもーん!!!!」
──かくしてデジモンの生存本能とも言い変えることもできる、この二体にとって生まれて初めての喧嘩はバブモンが泣いてしまった事がトリガーとなり、落とされた〝ボコモンの雷〟によって幕が引かれたのである。
*
そして三体のデジモン達が生まれた日からボコモンの家はもちろん、村の中はより賑やかに、そして慌ただしい毎日が訪れるようになる。
──そして月日は流れ、数年が経った。
「わぁ──ん! ボコモンちょっと、聞いてよぉ!!」
「なんじゃーあバコモン。何ぞあったか?」
騒がしくボコモンの家に駆け込んできたのは、バコモン。バコモンは、あの日孵ったバブモンが成長期へと進化したデジモンだ。いつも段ボールを纏っていないと安心できないほどの恥ずかしがり屋だが、穏やかで戦いをあまり好まない優しいデジモンに成長していた。
「ヤーモンがぁ、またアタシの段ボール汚したのよ──!!」
「よごしてなぁーい! ジミだから色をぬってやったんだ。つまりシンセツなんだぞーっ!」
続いて屋内に飛び込んできたのは、ヤーモン。こちらはキーモンが進化した幼年期のデジモンである。またか……と言わんばかりにボコモンは、頭に手を添えた。
「……ヤーモン、前にも言ったがなぁ……お前さんは、親切のつもりでも相手が迷惑に思っていたのであれば、それは余計なお世話であって……つまり親切には、ならんのじゃ」
「えーッ! そんなことねーよ。ぜったいカラフルなほうがいいだろー」
「アタシは、嫌なのー!!」
ヤーモンの悪びれる様子のない言い様をバコモンが、すかさず否定する。こんな調子の二体のやりとりは、この家では珍しくない日常であり、ボコモンの頭を悩ませていた。
「むう……ヤーモンお前さんは、どぉーも自分本位に考えすぎる傾向があるようじゃな」
デジモンが十匹いれば、十通りの特色が存在する。個性的なデジモンたちは、時に衝突もする。それにしてもヤーモンは、少々捻くれたところがある上、癇癪持ちで毎日のように他のデジモンと問題を起こしてボコモンを悩ませる〝なやみのタネ〟であった。
「ヤーモン……この際じゃ。今日こそは、わしの話を」
バンバン!
「おーい、旅に出ていたガネモンが帰ってきたらしいぞぉー」
ボコモンの話を遮り、窓を叩く音が室内に響く。どうやら村のデジモンであるツチダルモンが家の窓越しに伝言を伝えにきたようだ。
「えっガネモンが……?」
「帰ってきたとな」
伝えられた内容にバコモンとボコモンが、あまり色良いとは言えない声を漏らす。そんな中。
「えーっ、ガネモン帰ってきたのか〜!!」
「あ、コラ!」
ヤーモンは、声を弾ませピョンと飛び跳ねると、競り合う相手もいないのに急いで家から外へ飛び出して行ってしまった。すると静止する間も無く、その場に二体のデジモンが残され立ち尽くすこととなる。
ポカンと──静寂が訪れた。
ややあって……ボコモンが一つ、息を吐く。
「やれやれ、慌ただしいヤツじゃわい」
「……たぶんガネモンが帰ってきて喜んでるの、ヤーモンだけだよね」
バコモンは、戸惑い混じりの気遣わしげな様子でボコモンを窺う。
「あやつは、ガネモンが帰ってくる度に旅の話を聞きに行っておるようじゃな」
「きっとカモにされちゃってるんだよ、ヤーモン……」
「「……はあ〜」」
その場に残された二体の心配とも呆れとも取れる遣り取りなど、飛び出したヤーモンは露ほども知らないのだ。
*
「金は外に出て稼ぐのが一番効率がいいのだよ」
「またおカネの話かよ〜! そんなことよりさ。今回のたびは、なにかおもしろいモノあったの?」
ガネモンの元に辿り着いたヤーモンは、さっそくガネモンから旅の話を聞き出そうとしているようだ。ガネモンは、10と刻まれたコインの身体を持ち、片手にトランクを下げた老紳士のような成熟期のデジモンである。
「おお有ったとも。話すのは良いが……、しか〜しタダとはイカンぞ」
ガネモンがそう言うと、示し合わせたかの様にガネモンの持っているトランクが少し開く。すると中に入っていた同じくコインの身体の小さなデジモン、ゼニモンとコゼニモンの〝ゼニモンズ〟が少し顔を出した。
「そうだそうだ〜ボク達、貰うモンは貰うデジモンだからね!」
「タダ働きより高いモノは、ナイ!」
ゼニモンズがキャイキャイ囃し立てると「ウムそういうことだ」とガネモンが胸を張る。
「ゲェ〜こどもからおカネとろうだなんて……あいかわらずオマエたちって、がめついデジモンなんだな」
「それがワガハイ達のアイデンティティーであるゆえ」
ガネモン達の息のあった連携に若干引きながら、だから皆に遠巻きにされるんだろうな……と胸中で思いつつ、ヤーモンは「コレでいいだろ?」と言い、持っていたお金をいくらかガネモンに渡した。
「やーどうもどうも、毎度ありがとう! ……どうやらワガハイ達の〝金稼ぎ術〟は役に立っている様で何より!」
「村を含めてフィールドに落ちているモノは、一見ただのゴミでも金になる。だろ?」
「その通り! 外の世界は正に宝の山と言っても過言ではないぞ!」
「!じゃあ次の旅は、オイラもつれてってよ!」
「う〜ぬ、それはまた別の話だ」
ヤーモンは、これ幸いと提案を投げかけるがガネモンには、それも想定内であったようでバッサリと切り捨てられてしまう。
「なんでだよーケチ!」
即答されたヤーモンは、不満げにガネモンに詰め寄る。しかしガネモンは、どこ吹く風といった様子で自前の髭を撫で付けていた。
「前にも言ったガネ、この村を離れ過ぎるのは危険なのだよ。せめて幾分の処世術を身に付けねばならんぞ。……少なくとも幼年期の内はボコモンの言うことを聞いておくことだな」
「そんなことナイってば。ゴマかそうったってそうは、いかないんだからなー! ナァナァーたのむよー。そしたら〝ジュギョーリョー〟だってもーっと、はらえるんだぞーっ!」
「ナヌ?」
〝授業料〟というワードにガネモンは、ピクリと反応する。しかし「ガネモン……」というコゼニモンの声にハッとなり、イカンイカンと輝く身体を揺らす。
「グッいやはや……いやはや。この村のデジモンは、穏やかなデジモンが多いというのに、キミの様に小賢しくもワーワーうるさい子供は、初めてだ……フム。まあ嫌いではないガネ」
「ちぇー……なんだよ。コゼニモンだって幼年期じゃないか。なんでつれていってくれないんだよー……」
「ゼニモンズは、特別なのだ。吾輩の髭はレーダーとなりゼニモンズの居場所を探す事ができる。しかし、キミは違う。……小さなキミにも分かりやすく言うならば、まずは進化して強く賢くなる事だガネ。話はそれからでも遅くはない」
「……ムゥ〜」
また進化かよ。ヤーモンは、すっかりお馴染みの膨れっ面でごちる。
「替わりに料金分の旅の話なら幾らでもしてやるから機嫌を直せ。そう!金だけに!ワハハハハ!!」
ガネモンとゼニモンズがドッと息のあった笑い声を上げる。……が、もし今ヤーモンが不貞腐れていなかったとして、ギャグに笑ったのかと言うと……それはまた別の話。
*
ヤーモンがガネモンと別れてボコモンの家に帰る道すがら、立ち並ぶ民家と道を仕切る〝木の柵〟の上からヤーモンを見下ろしているデジモンがいた。
「はー相変わらず、ダメダメなダメデジモンだなぁ……おいヤーモン!」
柵はそう高くは無い。しかしヤーモンのような幼年期のデジモンにとっては、十分な高さがあり、威圧感を与えるものである。ヤーモンは、柵の上にいるのが誰なのか分かると思いっきり眉間に皺を寄せて不機嫌を露わにした。
「なんだよ。またバカにしにきたのかぁダメモン」
ヤーモンは、抗議するような視線を声のする方に向けた。
銀色のメタリックなボディーを持つダメモンは、あのスナモンが進化したデジモンで唯一、三体の中で成熟期まで進化しているという点でも相変わらずヤーモンとは、折り合いが悪かった。
「お前ぇ〜まだボコモンに、べったりなんだって? そんなんだから、まだ幼年期のまま進化できねーんだよ」
「そーそー平和ボケしちゃあ、デジモンとして終わってるよネ!」
ダメモンに同調する掠れた高い声のデジモンは、チューチューモンである。いつからかダメモンと共におり、ダメモンの後頭部の『チューチュートレイ』に居座るようになった。それから何を吹き込まれたのかダメモンは、ボコモンたちと距離を置く様になっていた。
「イヤミなうえに、うるさいヤツらだなぁおまえたちは! というかダメモンおまえは、ぜんぜんカオをみせないで……ボコモンが心配してたぞ。いやオイラはぜんっぜん!? おまえのカオなんか、みたくないけどな!」
「便りが無いのが元気な証拠、ともボコモンは言ってなかったか? ま、お子ちゃまには、理解出来なかったんだろうけど〜ぉ」
「なにぃ!!」
「おおーい、ヤーモンや──い!」
ヤーモンとダメモンが言い合っていると、少し離れた道の向こうからボコモンがヤーモンを見つけて走り寄ってきた。そしてダメモンに気付くと、表情をパッと明るくさせて満面の笑みで手を振る。
「おお〜ダメモンではないかー! 元気じゃったかの〜? 久しぶりにお前も一緒にウチに帰らんかー?」
「……遠慮しとくぜ、ボコモン。万年幼年期のヤツと居ると、ダメダメが移りそうだし? だよなぁ〜チューチューモン!」
「そりゃー、もっともだよネェ!」
「なぁんだとぉ〜!!」
「アッハハハハ!」
ヤーモンが噛み付かんばかりに怒って声を上げる。だが、その様子も可笑しいとばかりに笑い声を上げてダメモンは、乗っていた柵から飛び降りた。そしてチューチューモンと共に逃げるように去っていってしまうのだった。
「むぅ……行ってしまったか。全くアッチもコッチも……父の心、子知らずの問題児ばかりで仕方が無いのう」
「〜〜ほんっっとさ! アイツ、進化してもヤなデジモンだよっ!!」
「……わしは、お前のことも言っとるんじゃがなぁ〜」
とボコモンは呟く。だが肝心のヤーモンには聞こえていない様子で、ダメモンに対する怒りで頭が一杯なのだった。
*
「あーあ。久しぶりに帰ろうかと思ったのに……ちっヤ―モンの奴、思い出すだけでムカムカするぜ。」
村の外れの方では、ダメモンとチューチューモンが話し合っていた。
「おやおや珍しいネ我が相棒ダメモン。チミは、あのヤーモンとかいうデジモンのことがよっぽど目障りとみたネ」
「あんなチンチクリン……どーでもいいけどぉ、バコモンは優しいからアイツを放っておかないんだ。だから……ハァ〜、アイツさえ居なきゃな〜」
「ああ〜健気な我が相棒。なんというジレンマなのだろうネ……ならさ。いっその事、始末してしまおうよ……ボクらの手で」
「え……」
自らの愚痴に対するチューチューモンの思っても見ない提案にダメモンは、驚いてたじろいだ。
「どうしたんだい? 別に珍しい事じゃ無いだろう。デジモンとして至極真っ当なことさ。強く賢いチミをきっと誰もが歓迎するだろう。それとも、ボクの言うことが信じられないノ?」
「ぅ…そんなことあるもんか!」
チューチューモンに信頼を疑われ、ダメモンはそれを強く否定する。
「だったら、迷うことは無いのネ。簡単なことだよ……村の近くのあの山におびき寄せるんだ。あの山には、恐ろしい〝カイブツ〟が住んでいて幼年期のデジモンなんか一飲みにしてしまうだろうサ」
「で、でも……あの山は、村から離れすぎているし」
「だからこそだよ。ヤーモンが自己責任で山に向かったことにすれば良い……そうすれば誰も探さないし、チミの名誉だって傷つかない」
だ……だとしても。と、尚も戸惑いを見せるダメモンにチューチューモンは、さらにダメ押しする。
「チミの為を思って言っているんだぞ。ボクが間違ったことなんて今まで一度もなかったろう? 愚鈍だったチミを導いてきたのは、他ならないボクのお陰だろう」
「っそう、だ! ……そうだよな」
恩を感じている友達の言葉にダメモンは、つい頷いてしまった。
「……大丈夫。チミはボクの言うことを聞いていれば〝カンペキ〟なんだから」
*
「ねぇ、ダメモンに会わなかった?村の中で見かけたって聞いたんだけど?って、……ヤーモンどうしたの?」
ヤーモンは、ボコモンの家に帰るとスライムの様にべったりと、敷かれたカーペットに懐いていた。そして今、同じく戻って来たバコモンを横目でジトリと見上げて、さも不機嫌です。と言った態度で迎えているのだ。一方のボコモンは椅子に座りながら、それをどうしたものか……と眺めていた。
「それがなー……そのダメモンじゃが」
「オイラにイヤミを言うだけ言って、あのアイボーといっしょに、またどっかに行ったぞー」
言いづらそうにするボコモンを遮り、ヤーモンが答える。
「えー…そうなんだぁ。まだ遠くに行ってないと良いけど……」
肩を落としたバコモンは、後ろを振り向いて周囲を見渡す。そして、再び出て行こうとする素振りをするので、またヤーモンが声をかけた。
「あんなヤツ、ほっとけばいいのだ」
「ダメだよ。ダメモンが、ちゃんとごはん食べてるかとか心配だし……ヤーモンだって心配じゃないの? 私たち家族みたいに育ったじゃない」
「へん! あんなヤツ……家族なもんかっ」
「もう! ヤーモンの分からず屋!」
「コラコラ! また喧嘩するでない!」
また揉め事が始まりそうになり、ボコモンは二体のやりとりにピシャリと口を挟む。すると釘を指されたことで、しーんと、気まずげな空気がその場に流れた。
「うんやっぱり……、ダメモンが心配だからアタシ探してくる」
一息ついたバコモンは、そうおもむろに告げる。それ対しヤーモンは反射的に口を開きかけ、思い直したように一度閉じ、視線を流した。
「……心配いらないよ。オイラと違ってアイツは、もう成熟期なんだから余計なお世話って言われるぞ。……アイツは、バコモンには、イヤミじゃないみたいだけどな」
辿々しくヤーモンは、話すがバコモンは首を振る。
「ねえヤーモン……それでも私、ちゃんとダメモンと話したいよ。……わかってよヤーモン」
そう言い残して結局バコモンは、再びダメモンを探しに出かけてしまった。無情にもドアがバタンと閉まるのを見届けたヤーモンは「あーあ」と声をあげ、再びカーペットに懐くのだった。やりとりの一部始終を見届けたボコモンは、ヤーモンの様子を伺って声をかける。
「ヤーモンよ、そう不貞腐れるな」
「どーせ……オイラは、メイワクばっかかけてるヨワっちい幼年期だよ。進化だって、もうできないんだーぁ!」
「さっきダメモンに何か言われたのか? らしくないのう……いつもの前向きなオマエさんは、どうしたんじゃ?」
「……ふん」
どうやらヤーモンは、儘ならないことが続いたせいでイジケてしまったらしい。このまま放って置くのは、良くないだろうと思ったボコモンは、うーんと少し考えて……ゆっくりと口を開く。
「ヤーモン。お前は〝強いデジモン〟というとどんなデジモンだと思う?」
「強いデジモンー? ……そんなの、キューキョクタイのデジモンに決まってるだろー。見たことねーけどーぉ」
当たり前だろう。と言いたげにヤーモンは、ボコモンの問いに答える。
〝究極体〟──ほぼ全てのデジモンの共通の願いである進化。その最終形態が究極体と呼ばれるデジモンたちである。デジタルワールドにおいて、究極体にまで進化するには、並大抵の努力では立ち行かない。ゆえにその存在は正に伝説級と言えるだろう。
「たしかに究極体のデジモンは強い。じゃがな……わしはこう思うのじゃ。真に強いデジモンというのは、弱い者を守り他者を思いやる慈しみの心を持つ者のことを言うのじゃと」
それを聞いたヤーモンは、ううん? と目をパチパチさせて起き上がりボコモンに向き直った。
「でもそれって、おかしくないか?デジモンは、ジャクニクキョーショク(弱肉強食)の生きものだし……だからボコモンもみんなも、オイラに村のそとはキケンだって言うんだろう?」
「そうじゃな。多くのデジモンは闘争本能により戦い、そして進化して生存してきた。ワシらのような戦闘向きで無いデジモンは、身を寄せ合い助け合って暮らしていることが多い。弱い故に、時に追いやられる事もある。それがデジタルワールドじゃ……しかしな、強い心、強い意志。そういったものを糧に進化するデジモンだって存在しても良かろう」
そのままボコモンは、話を続ける。
「誰かの為にこそ強くなれる。その様なデジモンは、きっとこの世界の何処かに居るんじゃ……そのようなデジモンの様に、お前には成ってほしい……いやオマエさんならば成れる。ワシはそう思うぞい」
「ふ〜ん……それって、ロイヤルナイツみたいにかっこいいデジモン?」
「そうじゃのう〜……ワシは、会ったことは無いが〝騎士〟のデジモンは、正義の心を持つデジモンが多いという話じゃぞ」
「……へ〜そうなのかぁ」
正直なところボコモンの話は、眉唾物ではあったが燻ったヤーモンの気持ちを少しだけ前向きにするものだった。現にヤーモンは、そんなデジモンが居るなら会ってみたいなぁ。と思ったが、その一言は言わずに飲みこんだ。
「ヤーモン。お前さん……バコモンに鮮やかな色があった方が良いと言っておったな。ならば、いつものバコモンは嫌いか?」
「ん? そんなわけねーだろ。色がぬってあると、きっともっと人気がでてバコモンのはずかしがり屋もなおると思ったんだぞ」
不意の質問にヤーモンは「なんでそんなことを聞くんだ」と思う。一方でボコモンは、何やら満足げに頷いた。
「うむ。思い込みが過ぎるところはあれど、素直に他者を想いやれるところがヤーモンの良いところじゃな。……普段の捻くれた部分に隠れてはいるが、お前さんのそういった良いところを理解してくれるデジモンは、きっと村の外にも沢山おる筈じゃろう」
勝手に納得したボコモンの様子にヤーモンは、困惑する。今度こそボコモンの意図が分からなくなってしまった。
「な、なんだよ、急にほめたりなんかして……いっとくけど、オイラまだ何もしてないからな〜?」
「コラ、早とちりするで無い。……いやなにワシも少々、お前を子供扱いしすぎたかと思ったまでじゃ。もしかするとお前の成長を止めているのは、他ならぬワシらなのではないか。とな」
幼年期であるヤーモンが村の外に出るのは、危険を通り越えて無謀な行為である。しかしボコモンは、そのことに囚われすぎてヤーモンのデジモン本来の無限大の可能性──〝ヤーモンらしさ〟を奪っているのではないか。ヤーモンが村の外にその意味を見出しているのだとすれば無謀といえども、それを止める権利が同じデジモンである自分に果たして有るのだろうか。……ボコモンは、そう考えたのである。
「村を出たいというのは、自分の場所が欲しいからなのか?」
「……べつにそういうんじゃ、ない。……とおもう」
「その様子を見るにまだ分からん……ということか。うん。其れを探すというのも、また良いじゃろう」
「……エ?」
今の話の流れを読もうとすべくヤーモンは、思考回路をフル回転させる。
「そ、それって……あの、あのさ!」
ヤーモンは、次の言葉を探して口を開閉させて忙しない。そんなヤーモンにボコモンは、朗らかに笑いかけた。
「うむ。次に村の外に行くデジモンがいたら同行させて貰えないか聞いてやろう。ガネモンでも、……うーんマァ、良いか」
「ホント! ほんとうに……!?」
「ただし! 危ないことは、しないと約束するのじゃ。己の力量をよくよく理解して無茶だけは、してくれるな」
こちらを見つめるボコモンの目から真剣な想いを感じ取ったヤーモンは、浮き立つ心が引き締められた気がした。たまに口煩く思えるボコモンだが、ヤーモンが温かい心を忘れないでいられたのは、ボコモンが居たからだ。
「……わかったよ。ボコモン」
ヤーモンは、ありがとう。とボソッと付け加える。その呟きが聞こえたのかボコモンは、フフッと笑って椅子から立ち上がった。
「さてと……ワシもダメモンを探しに行くが、お前も来るか?」
「ぐっ……それは、イ…イヤだ」
「……そうか。無理にダメモンを許せとは言わんが、……バコモンが言う様にこのままでは納得できん、と言うのも否定できんのではないか?」
……一体ボコモンは、どこまでお見通しなのだろう。ボコモンがドアを開けて出かけて行く後ろ姿をヤーモンは、黙って見送った。
静寂の中ヤーモンは、ゴロリと寝転がり天井に目をやり目を閉じる。……しかし帰ってきて早々に踵を返したバコモン。そして今、同じくダメモンを探しに出て行ったボコモンの姿が頭から離れない。
──そうは、言うけどでもさ……。やっぱりそれとこれは、別だ……。
「なんでオイラが……」
とヤーモンは、独りごちていた。しばらくすると──コンコン。と不意にドアが控えめにノックされる音。
「やあ。さっきぶりだネ」
「あ! おまえ……ダメモンと居たヤツ!」
顔を覗かせたのは、先程のチューチューモンだった。ヤーモンは、ギロリとチューチューモンを睨みつける。
「おおっと怖い顔。待った待った。……ダメモンの居る場所を知りたいんじゃないかな?」
「なんだそんなの……!」
件のダメモンの名前を出されたヤーモンは、知りたくない!と勢いで否定してやりたかった。しかし先程のバコモンとボコモンとのやりとりの事もあり、イライラの元凶に〝ひとこと〟言ってやりたい気にもなっている。頭の中がぐるぐる回る──ヤーモンは口を引き結び、ゆっくり息を吐く。
「……そうだよ。ダメモンは、どうしたんだ? さっき一緒に居ただろ」
「それについては、ボクもとても心苦しいのだけれどネ。今、ダメモンは身動きが取れないんだ。だからこうしてボクが助けを呼びにきた訳なのだけれど……」
「たすけ……? アイツ、ケガでもしたのか?」
ヤーモンは思わず目を見開く。
「実はそうなんだ。それも村の外で動けなくなっていて……その上、ちょっと特殊な場所でネ。チミやボクみたいな小さなデジモンしか通れない安全な抜け道を通ってここまで来たんだ。成長期以上のデジモンだと通れないような狭い道だし、チミらみたいなお人好し……親切なデジモンなら、危険を顧みず助けに来てしまうだろう? それはダメモンだって心を痛めてしまう。だからこのことは、ナイショにしてほしい。ダメモンもさっきは、悪かったって……チミに謝りたいと言っていたヨ」
チューチューモンは、事の次第を調子良く話す。が、それを聞いたヤーモンは複雑な心地であった。
「なんだよ……つごうのいいこと言って。かってに村のそとにでて、かってにケガしたんじゃないか」
先程までイジケていたヤーモンは、やり切れない思いがしてついボヤキが出てしまう。チューチューモンは、それも想定済みであった様で続けて補足した。
「もちろん、ダメモンもタダで助けて貰おうなんて思ってナイヨ。助けてくれたら進化の秘密を……」
「いいよ」
ペラペラとチューチューモンが話しているのを遮り、ヤーモンは答えた。
「そんなのどうでもいいから、早くいこう」
「エ?そ、そうダネ? 行動は早い方がイイ。案内するからボクの後に着いてキテ」
チューチューモンは、あっさりと頷いたヤーモン一瞬戸惑いをみせるが、即座に気を取り直した。チューチューモンの先導でヤーモンは、ダメモンが居るという〝村の外〟へと走り出す。胸の内で、さっそく約束やぶってゴメン。とボコモンに謝るヤーモンには、先頭を行くチューチューモンの忌々しげに歪められた顔は、見えてはいない。
*
村を離れてから少し行くと、次第に傾斜が目立ち木々が立ち並んでくる。すると道無き道の先、例の山の入り口らしき付近は、格子状のフェンスで仕切られていた。しかしフェンスには、穴が空いており、そこから二体は中へ侵入した。もちろんヤーモンは村近辺に、こんな山があったこと自体知らなかった。
そしてチューチューモンは、木の根の隙間やら岩壁の間など獣道というには狭く、薄暗い道を選んで山中を進んでいく。ただでさえ山道に慣れないヤーモンは、体をあちこちをぶつけて擦り傷を作りながらも弱音を吐くのは、憚られたので必死で後を追った。
──こいつ……いやがらせ、じゃねーんだよな?
ヤーモンは、疑いを抱く。そもそも〝安全な道〟とチューチューモンは、言っていたが村の外に出たのは、これが初めてであるヤーモンには、判断がつかないのだ。その上、木の葉の擦れる音や木の影がヤーモンには、恐ろしい生き物の様にみえて恐怖を煽ってくるのである。
「びゃっっ!?」
ヤーモンは、驚いて飛び上がり近くの木にしがみ付く。どうやら、頭上から〝雫〟が落ちてきたようだ。
「ン? ……ああ。雨が降ってきたんだネ。ハーァそれくらいで大袈裟だよネ……」
「うるさい! ち、ちょっとビックリしたっ、だけだぞ!」
元々、薄暗い森ではあったがヤーモンの不安を映し出したかの様に気付けば空もどんよりと暗くなっており、次第に雨がシトシトと降り出してきていた。
「ええー信じらんなーい。全く、それでよく今まで生きてこれたよネ?」
「またイヤミかよ!ダメモンを助けてほしいんじゃないのかあ!?」
「いやー可笑しくって、思わず……プププ〜もう少しなんだからさぁ。がんばりなよ〜ぉヒヒヒ……!」
ニヤニヤとヤーモンを振り返るチューチューモンに、やっぱり来なきゃ良かったとヤーモンは思う。
「おーい! ……お──い!」
何処からか声が聞こえる。この声はと、……ヤーモンが思うと同時に。
「おお! ダメモンの声だネ。どうやら僕らの声が聞こえたらしい……こっちこっち早く!」
チューチューモンがヤーモンを促して、駆け出す。
「なんだよ。思ったより元気そうじゃんか」
憔悴した様子のない声に拍子抜けしたヤーモンは、少し迷う。そして焦らずにチューチューモンの後を追うと、そこには思った通りダメモンがいた。
「おかえりチューチューモン。……連れてきたんだな」
「ああ、連れてきたサ」
ダメモンの姿を目に入れ、ヤーモンに苛立ちや思うところはもちろんあるが、こんな所に独りだったので流石に不安だったのだろうと気持ちを抑える。
「オイラ、オマエに言いたいこと山ほどあるけど……とりあえず帰ってから」
その先の言葉を続けようとしたヤーモン。だが……
「ヤーモン……お前には、悪いが」
「消えて貰うネ」
「『ブー・スト・アタック』!」
どうしたことか強烈な臭いを放つガスを大量に撒き散らしながらダメモンは、いつの間にかチューチュートレイに収まっていたチューチューモンと共にヤーモンに向かって突撃してきた。
「!? なんのつも……うわあああ!!」
そしてそのままヤーモンを巻き込んで、木々の森の奥へと突き進み飛んでいく。
「ゔぁっ!」
突進の勢いで突き飛ばされたヤーモンは、転がった先にあった木に衝突し、体を強かにぶつけた。
「なんなんだオマエ、ふざけんな!!」
「……なんだ。まだ解らないのかよ。そこまで平和ボケしてるとはな……俺は昔っからオマエが嫌いだった……だから〝いなくなれば良い〟と思った」
ヤーモンは、息を呑む。そして、どうやら今まで押さえていた怒りを抑えていたのは、自分だけだったのだと苛立ちが募る。
「ゆ、ゆるさねェー! バコモンに言ってやるからなぁっ!」
「ハ、出来るもんならな……『ガンバルカン』!」
両手のトンファーから黒い物体が発射され、炸裂した臭いの強烈さに怯むヤーモン。さらにほぼ間を開けず、その隙を突かれる。
「『ブンブン拳』っ!」
「ッ!」
振り回されたトンファーが命中。そしてヤーモンが勢いよく吹っ飛ばされ、遠くの茂みに落ちたのがダメモンに見えた。
「ハハハ! ヤーモン程度ならラクショーだぜぇ! このままやっちまうかー!」
「弱過ぎるネ! まあーそれなら、それでもイイか……ン?」
チューチューモンが何かに気づき、ダメモンから離れて素早く木に登った。
「おっと、危ない危ない」。
「どうしたんだよ……? これは、……霧か」
気づけば周囲に霧が立ち込めており、まるで結界のように辺りを占拠していた。そして──異質な音が聞こえて来る。
ジャラリ……ジャラリ。
金属が鳴るような不気味な音がゆっくりと、近づいているようだ。
「どうやら既に怪物──ミミックモンの〝テリトリー〟の中みたいだネ……」
「……う? アレ?」
「ダメモン?」
チューチューモンが見下ろしたダメモンは、地面に体を縫い付けられたように動けないでいた。どうやら体の自由が効かないようだ。
「どうしよう動けない」
「アリャ? まさかそこまで愚鈍だとは、流石に予想外だったネェ?」
「う動けないんだ! 助けてくれ……相棒!」
助けを求めてチューチューモンに手を伸ばすダメモン。しかし彼の友は、それに対し非常に冷たい視線を送っていた。
「フー……ま、しょうがないよネーェ……愚図は、結局さ。どうあっても愚図なんだから」
ダメモンがミミックモンの技にかかったと知るとチューチューモンは、ため息を吐き、それまでの態度を一変させる。
「え……どういう事だよ。なあチューチューモン……俺たち二人でコンビだろう……?」
ダメモンは、震える声でチューチューモンを呼ぶ。しかし、何食わぬ顔でチューチューモンは告げた。
「じゃあ……〝元相棒〟生まれ変わって、もう一度やり直しなよ。バイバーイ」
そう言うと、あっさりとチューチューモンはダメモンを見捨てて、枝から枝を伝って、どんどん遠ざかって行ってしまう。
「チューチューモン!?ま…待ってくれ!嫌だ。置いていかないで……!!」
置いて行かれた事実を認められないのかダメモンは、チューチューモンが消えた方向に向かって必死で叫んだ。しかし……
ジャラリ……ジャラリ……
霧の立ち込める中でダメモンは息を呑む。そして檻の怪物──ミミックモンを視認する。そう大きくは無い四角い檻からは、取り込んだデジモンの角や羽根が飛び出ており、その恐ろしい様相は、体内でギチギチと圧縮されたデジモンの悲鳴が聞こえてくる様な気さえした。ミミックモンは檻の右側から、はみ出た腕で鎖を掴み、その先についた鉄球をズルズル引きずって〝愚か者〟を取り込むべく処刑人のごとく近づいてくるのだ。
──ああ死にたくない! でも、もう!……もうダメだ。
そうダメモンが思った時だった。
「おい!ミミックモンこっちだ! ──『ペイントスプラッシュ』!!」
不意に、木の上から聞こえた声にシステム的に反応したミミックモン。その一瞬で〝鮮やかな色の塊〟がミミックモンの体を覆い尽くし、塗料まみれにしたのだ。ミミックモンは突然、視界を濃い色彩に奪われ、前後不覚の状態に陥ってしまっていた。
「ひまもういに、いえうお!(今のうちに、逃げるぞ!)」
「ヤーモン!? うわ、ッテェ、……何す、んだ!」
木の上から飛び降りた転がる勢いのままヤーモンは、なるべく霧の影響を受けないように息を止めつつ、動けないダメモンを押し転がして逃走を図ったのだ。
雨の影響で地表は、滑りやすい状態になっており、ゴロゴロと山の傾斜をうまく利用して逃げるという計画は、思ったより上手くいった。濡れた地表を滑るように移動することで二体は、全身泥まみれになりながら坂道を一気に下った。──このままミミックモンから離れることが出来れば、雨が次第に霧をかき消してくれる、そう期待して。
「ッぷはぁ!やった結界を抜けたー!」
「……」
「なんだよ、お礼ぐらい言えよ!オイラのおかげだぞ!」
「なんで……なんでなんだよぉ。どうして俺なんか助けるんだ」
「……オイラだってオマエなんか大ッキライだよ!だけど……、だけどさ」
──誰かの為に強くなれる、そんなデジモンに成れる。ってボコモンは言ってくれた。
それでもダメモンの所業を思い出せばヤーモンは、今すぐにでも癇癪を起こしたくなる。それを抑えてヤーモンは、歯を食いしばっていた。
「……オマエをみすてて帰ったら、ふたりが悲しむから!しょーがなくなッ!!……それでッぜっったい!さっきのことは、あやまってもらうからな!」
ダメモンは何か言い返そうかと思ったが、ほら立って! ふたりが、まってるぞ! とヤーモンに背中を小突かれてしまうと結局、何も言えなくなってしまった。
──なんだよ結局、お節介かよ。こんなダメダメな俺なんか、放っておけば良いのにさ。ボコモンも……バコモンも。
空は、曇り、太陽を覆い隠している。
その上、木々の背が高い。今、二体は、自分たちが山のどの辺りに居るのか把握できず、とりあえず進んできたため
疲労ばかりが蓄積していっていた。
「う〜っダメモン!オマエは、どうやって来たんだよ〜」
「分からない……チューチューモンの言う通りにしただけだから……」
「ハァ〜!?つまり小さいデジモンだけの安全なぬけみちってのも、ウソなのか……ッ!」
結局、行きに通った道はチューチューモンの嫌がらせだったことが分かる……が、怒っても疲れるだけなのでヤーモンは、どうしようもない。
ジャラリ……。
もう聞きたく無い……そして聞かなくて良いと思ったはずの金属音。そして前方には、もう見たく無いと思った〝影〟があった。
「ミミックモン!?」
──霧の結界を抜けたのになんで……?
「あー出来損ない同士、みっともないったらナイネ。ヤダヤダ……ボクの計画は絶対だよ。チミらには、……必ず消えてもらう」
ミミックモンの本体である檻の上には、どういうことかチューチューモンが乗っていた。
「チューチューモン!?なんでアイツがあんな所にいるんだっ……!?」
「恐らくチューチューモンの必殺技の『チューチュー・ツイッター』だ……!ミミックモンを催眠状態にして意のままに操っているんだ」
「なんだよソレェ!?そんなのアリなのかぁ!!」
ダメモンが言う所によるとチューチューモンがミミックモンを操り、追いかけてきたのだ。チューチューモンは、それ程までに無情かつ非情であり勝利に貪欲なデジモンだった。
「いけミミックモン。 ……勝利するのは、このボクだ!!」
ミミックモンは、メインウエポンである左腕の武器『デッドショット』を構えて、その銃口を二体に向ける。
「ヒッ!」
ドン! ドン!
発射された銃弾は二体の側の太い枝をへし折り、地面を抉った。攻撃の範囲が狭い分、何とか攻撃を避けることに成功していたのだ。
「ふーん思ったような威力はないけど……雑魚二匹を始末するくらいなら、許容範囲内だネェ!!」
「っ……!隠れるぞダメモン」
「隠れたって、そんな一時凌ぎ意味無いネ……近くにいるのは分かってるんだからサァ」
チューチュモンは、二体が隠れていそうな箇所をミミックモンに手当たり次第に銃弾を打ち込ませる。鉄球を振り回し、銃弾を辺りに発射するミミックモンに対し、ヤーモンとダメモンに対抗手段は無いも同然で……。
「うゔ……ッ死にたくない!」
地面を這いずるヤーモンの目からは大粒の涙が溢れる。生まれて以来、初めて本物の恐怖を感じている。外の世界は、デジモンは、こんなにも恐ろしいと身をもって体感していた。
「今度こそ……お終いだ。でも、俺が囮になる。オマエだけなら逃げられるかも」
「ズビッ……いいや゛! いっしょに帰る゛っ゛」
「ハ? ……オマエ何言ってんだ」
この後に及んで、頑ななヤーモンにダメモンは語尾を荒げる。
「いい加減にしろ、何いつまでガキみたいなこと言ってんだ!俺が惨めだろ」
──こんな時まで、なんでだよ。いったい何を拘ってんだ!消えても俺は、生まれ変われば良い!さっさと諦めろよ……諦めちまえ……!
「嫌だッ!だってオイラは、まだ〝なんでもない〟……やりたいこと、欲しいものも……何も!ひとつも見つかって無いんだ!……なのに勝手にお前が諦めるなよ!!」
ヤーモンは、ダメモンに向かって叫んだ。ダメモンは、こんな状況であるが、はぁ? と呆気に取られてしまう。
──そんな、そんな程度のことなのか?それが〝今〟に必死にしがみつく理由なのか……?
そして、ダメモンは潔く理解した。
──ああコイツは信じているのか〝可能性〟を……〝理想〟ってやつを。ああ道理で鼻につく筈だ……だって俺は〝現実主義〟だ。俺が進化した時だって〝諦めて〟進化したのだ。
「っ!退け!!」
「うわっ!?」
ドン! と、ダメモンがヤーモンに体当たりした直後、ダメモンのメタリックなボディが何かの衝撃を受けて弾かれる。
「ぐうッ……!イッデェエ〜〜!」
「ダメモン!!?」
ダメモンは、そのメタルボディで銃弾とぶつかり合うことで『デッドショット』からヤーモンを庇ったのだ。
「おやぁ臆病者のチミが、他のデジモンを庇うなんて……どういう風の吹き回しだい?」
肩で息をしながらもダメモンは、震える足で立ち上がる。
「ハ、ハハハ……、さあぁ? ダメダメって、馬鹿にしてる奴が『どうしようもない馬鹿』だったから、かなぁ」
──痛い……怖いし、足がすくむ。立ち向かうというのは、恐ろしい。嫌だ。チューチューモンの言う様に〝生まれ変わってやり直す〟方がいっそ楽だ。……でも、こうして向かい合うと嫌でも〝倒すべき敵〟が見える。……チューチューモン。今でも一番気が合うと思っている。そして……友達だと思っていた。
「だから……〝サヨナラ〟だ相棒」
そう告げた瞬間、──ダメモンの体が光に包まれ、その姿形を〝大きく〟変化させていく。
「ハァまさか……〝進化〟だってェ?」
「違うぜ。よく見ろよ此れが俺の〝真の姿〟ツワーモンだ!」
光が解かれ、ダメモンを形成していた重装甲──『噴噴(ぷんぷん)アーマー』を解放した忍者デジモン、それがツワーモンである。
ツワーモン(ダメモン)は、正しく思い出した。己の在り様を。そして、己の真の姿を思い出したのだ。
──それが、ヤーモンの馬鹿みたいな発言がきっかけというのは、なかなかに癪ではあるけどな。
発射される銃弾をツワーモンはダンスを踊るように避け、時に二本の鎌型の武器『マンティスアーム』で弾き返した。
「そんな攻撃、当たらないぜ!」
「チッでも近づいて来たら、この〝鉄球〟があるんだヨォ!?」
ミミックモンは、鉄球付きの鎖を振り回してツワーモンを威嚇する。
「みたいだな」
ツワーモンは一足飛びで距離を取り、ヤーモンの側まで戻った。
「スゴ……速いぞツワーモン!もしかしたら勝てるかもしれないぞ!」
「ああ、このままアイツを倒す……とでも俺が言うと思ったか?」
そう言うとツワーモンは、困惑するヤーモンを掴み上げると背中のチューチュートレイに押し付けた。
「うおっ、落ちる〜!」
だがヤーモンには、席のサイズが合っていない。滑り落ちそうになり、掴まる腕も無いので仕方なく席の操縦桿のような持ち手に噛みつく。
「ムリらって! こへは……」
「落ちたら死ぬと思っておけ」
「はに〜〜ッ!!(なに〜〜ッ!!)」
ヤーモンを乗せ、気遣うどころか寧ろ調子良く走り出すツワーモン。その素早い動きでミミックモンを翻弄するが、動けば動くほどヤーモンの顔色を悪くした。それでも振り落とされないのは、ヤーモンの頑なな意地によるもので、ツワーモンによる、ある種の信頼……もしくは意趣返しかもしれない。
そしてスタッと、ミミックモンの鉄球の届かないギリギリ正面にツワーモンは着地する。
「くっ今更、正攻法なんて……チミには、がっかりだネ」
「否(いや)、俺の真価は変わらず〝嫌がらせ〟だぜ、チューチューモン?」
「?」
突如、分割された背中の噴噴アーマーのそれぞれから勢いよくカラフルな爆煙が噴き出し、そして瞬く間にツワーモンを包み込む煙幕と化した。
「では、是にて然らば〝元相棒〟!」
ドドン
煙幕の中から砲弾が四方八方に飛び出した。煙で軌道が隠された砲弾は、チューチューモンが視認した時には、正面に在る。
「うギャッ!」
案の定、銃弾を避ける間も無くチューチューモンの軽い体は、衝撃で弾かれた後、地面へと叩きつけられる。
「ハァッ……ミミックモン、何してる! 早くアイツらを……!?」
──体が、動かない? ハッまさか……!?
チューチューモンが煙だと思っていたのは、煙幕に紛れたミミックモンの技『ヒンダーマイアズマ』である。途中からミミックモンの洗脳が解けていたのだった。
ギョロリ。ミミックモンの檻から覗く目玉は、チューチューモンを〝捕えて〟いたのだ。
「お、おい冗談だろう? 僕は、仲間だって、言うことを聞けっ……僕っうぎゃあああ!!!!」
ズシン…
山中に地響きが響き渡る。──そして〝山には、静寂が戻った〟
*
「ゲホッ……って、なんだよ。オイラのパクリじゃないか……」
「全く違う。一杯食わせた分、俺の方がもっとスマートかつ合理的だっただろう」
「うわ……ホント、口がへらないヤツだな……」
「もう一つ、余計に言っておいてやろう。……お前が何を目指そうが俺には関係ないし、今後も馬鹿にし続けてやる」
「なんの宣言なのだ……オイラだって、オマエなんかずっと大っ嫌いだ!」
ヤーモンが先程と同じくそう返す。そして少し間をおいて、ツワーモンは直立不動のまま口を開いた。
「……すまない」
「んあ?謝るんだったら帰ってから……」
「……悪いが……ヤーモン。もうエネルギー切れでな。……もう〝ダメ〟だ」
そう言うとツワーモンは、バタンと前のめりに倒れたかと思うと、再び光に包まれる。そして噴噴アーマーに元通りに収納され、ダメモンに戻って伸びてしまった。
「エ……オイ嘘だろう?まーたオイラに運ばせるのかぁああ!!?」
ヤーモンがダメモンに呼びかけるもダメモンは、ぐったりと起きる気配がない。もーありがとう。とか、ごめんじゃ足りないのだ。と文句を言いながらダメモンをなんとか背負って帰ることにした。
そして──陰鬱だった雨は、すっかり止んでいて見覚えのある〝ハリボテ〟のフェンスを背にしてヤーモンは、空を見た。
空には、太陽。
雨が降った後の大地は、空気が澄んでいて何処までも見通せる様だ。青空は、深く青く、白い雲は絵の具を塗りたくった様にキラキラと輝き──そして、なんといっても。
「──虹だ!」
赤、橙、黄、緑、青、藍、紫の七色の色彩が空のキャンバスに鮮烈に描かれていた。
ヤーモンは、その一色一色に自身の〝中心(コア)〟を掴まれた気がした。其れは、瞳を通して染み込み。
──新たな熱を持たせるのだった。
*
「どうしようボコモン……!ダメモン見つからないし、ヤーモンもどこかへ行っちゃうし……!」
ボコモンの家では、バコモンがオロオロと忙しなく家の中を歩き回っていた。
「うむう、まさかヤーモンの奴……ダメモンを探して村の外には行っておらんじゃろうな……?」
「そんなぁ!どうしようぅ、ふたりに何かあったら……」
ダンボールの奥の瞳をうるうると滲ませるバコモンをボコモンは慰める。
「ほらほら泣き虫はバブモンの時に、もう卒業したじゃろ?」
ダメモンを探して村の中を散々歩き回ったバコモンは、帰ってくればヤーモンもいないという状況に途方に暮れていた。
「ううごめんねボコモン……アタシいつも何もできなくって……」
「そんなことは無い。悪いのは、あの心配ばかりかける〝バカモン〟の二体じゃ!」
「バカモンじゃ、なぁーいのだ!」
バン! と勢いよくドアを開けて入って来たのは、硬質的な鉛筆の体を持ち、色彩鮮やかで主張が強い。しかし、どこか素朴な印象を与える──〝成長期デジモン〟
「ヤーモン!……じゃないわ!?」
「おおお前さん、……まさか」
「フフフン、そのまさかだぞ。そうワタシは〝エカキモン〟に進化したのだ!」
どうだ! と言わんばかりに己の姿を見せびらかすエカキモン。
「これは、また何という事じゃ……」
今までヤーモンに驚かされることは、何度もあった二体だったが今日ほど呆気に取られた事は無い。開いた口が塞がらないとは、この事だった。……そしてエカキモンの後ろには、ダメモンがフワフワ浮かぶ宙に描かれた風船の上でグッタリしているではないか。「ダメモン!」
バコモンが明るい声を上げると、ダメモンは、よう。と手を上げて答えた。
「よかったぁあ〜ふたりとも戻って来たー!でもどうしてボロボロなのよぉ〜ウワアアアン!!!!」
「ウッ……バコモンが、また泣いてしまったぞ」
「当たり前じゃ!このバカモンが」
「だからバカモンじゃ……イヤ、悪かったのだ。……そうだ!バコモン。コレをやる」
そう言ってエカキモンが差し出したのは、ダンボールで作られたリボンや星の飾りだった。
「! わぁ〜……可愛い!」
泣いていたバコモンの周囲をふわっと柔らかい雰囲気が包む。
「一応、ダメモンと話して作った共同制作だぞ。ジツに……癪だがなー」
「……フン」
「嬉しい。ありがとう……ふたりとも。大事にするね」
「お、おおお〜……!」
三体の様子を見ていたボコモンは、感心していた。いや感動していた。
「まさか、まさか……お前たちが喧嘩もせず仲良く出来る日が来るとはなあ!」
「その通りだが……シツレーだな、ボコモン!」
ホロリと涙を流すボコモンを見て、エカキモンは思う。──言うべきことを言わなければ。
「ボコモン……その、約束したのに勝手に村の外に出て……ゴメンナサイ」
「待ってくれ……悪いのは、俺なんだ」
ダメモンは元凶である己が弁明すべきだと思い、体を少し起き上がらせボコモンに訴える。
「俺が馬鹿だった…本当にごめんなさい。エカキモン……というかヤーモンは、俺を助けてくれたんだ」
双方の謝罪を聞いたボコモンは、腕を組む。
「ふむう……ふたりとも戻って来た事じゃしな。そうじゃな……お前さん達の問題は、解決したのか?」
「ム……それは」
「待て。俺に言わせてくれ」
エカキモンが言葉を続ける前にダメモンは、そっと風船から降りてエカキモン(ヤーモン)を正面から見た。
「お前に俺の今までやったこと全てを許してくれとは言わない。せめて謝るよ……ごめん」
ダメモンは、地に足をつけて頭を下げる。対するエカキモンは目を逸らすまいと、その様子をジッと見つめた。
「オマエの事は、正直…許せない。でも謝らせれたから、……まあ、とりあえずはヨシとするのだ!」
重い空気を払うようにエカキモンは明るくニッと笑う。
「もうホントふたりとも、しょうがないんだから…」
そう言って微笑むバコモンの胸中には、心からの喜びで溢れていた。
「何はともあれ、一応は仲直り出来た様じゃな!〝雨降って地固まる〟ということで今回は不問としようか」
「おお一件落着というヤツなのだな、では!」
声をあげエカキモンは、外へ向かって歩き出す。
「ヨオーシ! これでスッキリしたし、ワタシは〝旅〟に出ることにするぞぉ!!」
「「「え?」」」
エカキモンの宣言に他の三体は、思わず声を揃える。
「い今からなの!?」
「イマだイマ!なぜなら傑作は、待ってはくれないからなっ」
「ちょ、ちょっと待つんじゃヤーモン……じゃないエカキモン!」
「なんだ他ならぬボコモンが言ったのだぞー?ワタシはこの通り〝成長期〟だからもう同伴は、必要ないのだ!」
「いやな?成長期に進化したからと言って、危険では無くなる訳ではなくてな……」
「やっぱり、こいつダメダメだぜボコモン。てかその?偉そうに気取ったようなワタシ口調は、何なんだよオマエ」
「ワタシは、見ての通りエカキモンなのだ!そしてワタシは、エカキモンの中でも〝スーパーなエカキモン〟だからゆえに〝ワタシ〟なのだーッ!」
「いや意味分かんねぇーよ!!」
明るく胸を張るエカキモン。そしてボコモンは、いつも通り頭を抱えた。
「ううーむ〝突然変異型〟の生まれやすいこの村の特徴が顕著にエカキモンには、出たようじゃなあ」
「どうしようボコモン!せっかくダメモンが戻って来たのに、もうエカキモン出ていっちゃうよぉ〜」
バコモンは、ボコモンに言って止めて欲しい様だ。しかしボコモンに〝目的〟を見つけたエカキモンを止める理由は、無かった。
「まあまあ、バコモン。誰にでも〝旅立ち〟の時というのは来るものじゃ。エカキモンは、たしかに少々……いやかなり急ではあるがな、ここは見送ってやらんか?」
「ええ〜ボコモンそれ本気なの……!?」
バコモンは、うーんと考えてからエカキモンを見た。そして、またため息を一つ。
「はーもう、わかった……エカキモン。でも、たまには帰って来てよね。じゃないとボコモンもアタシも……たぶんダメモンだって寂しいよ」
「……ゼンショするのだ」
「もう!どこでそんな言葉覚えてくるのよ……」
相変わらずの自分本位な態度に怒りは、するもののバコモンは姿形は変わってもやっぱり〝ヤーモン〟だなと思う。
「分かってると思うが、俺に顔見せは必要ねぇーぜ。何処へでも行けば良い。……さっきも言ったように俺には、関係ねーからな」
「言われなくとも勝手にする。……オマエも詐欺には、注意するのだな」
「ああ?何だとぉ!」
「ハハハ!もう言われっぱなしでは無いと言うことだっ」
そしてエカキモンは、ボコモンを見る。
「ボコモン……という訳で〝約束〟は継続なのだ。……なるべく危険には、近寄らないようにはする」
「そこは必ず守ると言って欲しかったぞ……ああ行ってこい。他ならぬお前の為の旅じゃからな……!」
「行ってらっしゃい、エカキモン!」
「とっとと行っちまえ!」
「ああ行ってくる!」
そうして自らが産まれて育った村を後に、意気揚々とエカキモンは旅立ったのだった。
空は、先ほど見上げた時と同じく晴れ渡り、道は果て無く、雲は何処までも流れて行く。もし空に掛かっているあの〝虹〟が消えたとしても、きっとエカキモンは、──デジモン達は。デジタルワールドの何処かで、自らの可能性を信じて生きて行くのだろう。
「さぁーて何を描こうか……いや、どこへ行こうか? スーパーなワタシとしては、兎に角! 〝バズる〟ことを目指すぞぉ!」
―終―
2
6
109
ルツキ
2024年7月16日
In デジモン創作サロン
「みつけましたわ!」
昼下がりを過ぎた頃だった。
喜色に溢れた歓声が聞こえてふと、そちらに目をやる。そこには傾きかけた太陽を背に、風船の様なプニポヨした物体が浮遊していた。逆光になっていて見え辛かったこともあり、オレの口からは思わず「うん?」と訝しげな声が漏れる。
「うん? じゃありませんわ。もしかして寝坊助さんなんですの?」
オレの声に反応してプニポヨから先ほどと同じ声が聞こえる。ラジコン……いやドローンだろうか?
おそらく黒い目の様なものがカメラだろうな……ふむ。天真爛漫そうな声からして、子供がたまたま通りがかったオレに声をかけて遊んでいるのだろう。
「貴方様に会いに……私(わたくし)、はるばるデジタルワールドから会いにきましたのよ! 本当に……会いたかったです朔弥(さくや)様!」
そう言うなり、プニポヨは本体……いや躰をオレにぶつけて垂れ下がった長い飾りのようなモノを絡ませてくる。これは、触手か? 違和感に気づき出したオレが、ドローンにしては明らかに色々おかしいと気づくのにそう時間はかからなかった。
「うわ、なんだコイツ!? 生き物なのか!?」
それにオレの名前は〝雀斗(さくと)〟だし、人違いだ!
【登場キャラクター】
ジェリーモン
お転婆お嬢様。デジタルワールドで知名度のあるアイドル。
主人公を振り回す。気高く、毅然とした振る舞い。こうと決めたら譲らない一途で頑固さがある少女のようになることがある。
・主人公(雀斗)とは、対照的なパートナー関係
・モチーフ元が水母(くらげ)とも書くように主人公を導く役割も持たせられたら良いなと考えていました。
・ジェリーモン可愛い。そして、かっこいいくらいしか筆者は、考えてません。
雀斗(さくと)
主人公。高校生くらいで捻くれていて諦めの思考が常にある。
典型的な悩みを抱えている未成年主人公といった感じ。
【ストーリー】
ジェリーモンが過去に離れ離れになったパートナー(朔弥)の「また会える」と言った言葉を信じ、並々ならぬ気概でもってリアルワールドへとリアライズしたことから始まる。そして朔弥によく似た青年、雀斗を巻き込んで好奇心のままに己のパートナーだった朔弥を探す。
・途中でジェリーモンの追っかけであるデジモンが、街で事件を起こす的な感じで考えていました。
【考えていたセリフ(モノローグ)】
ジェリーモン
「私(わたくし)を幼年期のように扱わないで下さいな」
「イ〜…ヤ! です!」
「……当人ではない貴方に、其れをを否定する権利は有りませんわ」
雀斗
どうにも悔しい。きっとこの先このおかしな出会いを忘れることは、無いのだと思うと……幼稚な思いが湧き上がってくる。
……でも、確かに以前のオレよりも今の方が満たされていると感じる。気分だって悪くはない。
【その他】
・イメージワード(意味は特にありません)
水母 元気 ペールカラー 明るい
ふわふわ ぷかぷか シャボン玉 泡
……以上をノベコンに投稿する用で考えていましたが。
完成の見通しがない(とくに起承転結の転の部分があいまい)&他にノベコン用の書きやすいネタを思いついた
などの理由で、お蔵入りになりました。タイトルも仮題のままですが、ネタとしては、結構気に入っています!
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ルツキ
2024年5月01日
In デジモン創作サロン
こちらは、2023年の超DIGIコレにて無料配布いたしました『ツカイモンとパタモン』のWeb再録(加筆修正あり)です。
【終】
↓オチのツカイモン(かわいそう)
もしも、対立したら…
実際の無配には、このあとセラフィモンvsデーモンXの落書きを載せていましたが、
ルツキには、WEB上にさらす勇気はありませんでした……お許しください。いつかちゃんと描きたいです(願望)
あとがき
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ルツキ
2023年11月30日
In デジモン創作サロン
「あまり時間がない。今から私が言うことをよく聞いてほしい」
お前にしか頼めない。そう言うと白衣の男は、武装した青いトカゲのデジモン…コマンドラモンに目線を合わせると、トランシーバー型のデバイスを両手で握らせた。そして、大きな爪や指を両手で包み込むように手を添える。
「私の身体は、まもなく限界を迎える。だが身体の崩壊後、私のデータはこのデジヴァイスにロードされる仕様になっている」
レックスと呼ばれたコマンドラモンは、驚愕のあまり、目前の男から目を離すことが出来ない。男が努めて冷静に話をしている間にも、その身体の至る箇所にノイズが走り、段々とその身体が透けていくのが目に見えて、その実体が失われていくのだから。
「レザード……身体、が」
つい堪らなくなったレックスは、話を遮り異常を指摘する。だが白衣の男レザードは、ただただレックスを見つめ返すだけである。……レザードには、自覚があったのだ。もう己の身体の崩壊は如何にもならないことを。
そして、身体を亡ってなおもレックスを縛ろうとしていることを。
「次に雨が降った夜、ミッションを遂行して欲しい。……私の、パートナーとしての最期のお願いだ。大丈夫、悲しむことはない。このデジヴァイスがある限り私はレックス……常にお前の傍にいるのだから」
このレザードという男は、このデジタルワールドに最初に降り立った人間の一人であり、研究者だった。以来、帰る手段も誰にも会わせる顔も無く永い時を生きてきた彼の身体データは今、遂に限界を迎えた。
そんな彼が最期の感情は、嫌悪感。デジモンは感情で涙を流すのか。……最期にそんなことを考えている自分に対する自己嫌悪だった。
――疑似電脳空間『デジタルワールド』…そこは現実世界に限りなく近い、ネットワーク上に存在する電子で構成された魔法の世界と言っても過言ではないだろう…少なくとも世界の仕組みがまだ解明されていない現在においては。
現実と異なる空間であるデジタルワールドには、生命が存在する。それが『デジタルモンスター』…その存在は、ネット上に自然発生したとも、とあるライフシミュレーションアプリ上の生命活動分子が変化したとも言われる。とかく『デジタルワールド』と『デジモン』については、未だに解明されていない事項が多い。現在もネットワークが広がり続けていることを考慮すればその規模は、宇宙と同等ともいえるのかもしれない。――――
ネットワークが世界中に張り巡っているように、この疑似電脳空間は現実世界の裏側に存在していてリアルとデジタルは、表裏一体で存在している。そういう可能性もなくはない…か?
――空から止めどなく降り注ぐ雨、見通しの効かない夜道を見つめていたレザードは、ふとそんなことを思った。遠方に視える街の中心部のギラギラと輝くネオンカラーや浮かび上がるビル群は、人工物でありながら小説のように異世界を演出している。だが男が今歩いているこの場所は〝この世界に元から在った〟荒廃した工場の跡地の一部だ。人間の手による開発が進み、都市めいたこの要塞(ハコ)も容量の割には慢性的な人不足の為に、まだまだ未開発部分が残っており、監視の目も届かない。町外れを分厚いコートの……住人登録の無い、怪しい男が堂々と歩いていようと人目に触れることは無いだろう。しかしフィールド(野外)に近い辺鄙な場所なだけあり稀に野良デジモンが出没することがある為、念を入れて雨の気候を選んだ理由の一つがそれである。人間に限らず、雨を嫌うのは生物であるデジモンも同じらしかった。
――だから今なのだ。仕掛けるならば、今しか無い。
「征こうかレックス」
降り頻る雨は、足元を濡らし、水溜りを形成し、飛沫を上げる。だが雨音は、筋肉運動による水音をかき消す。結果、耳に情報として伝わってくるのは単調かつ弾けるような騒音ばかりとなる。コートの男は、時間から取り残された暗く寂しい廃工場地帯を抜け、遠方の煌びやかなネオンサインを目印に歩みを進める。目指すのは〝最も未来に近い場所〟今からそこにレザードの過去の清算をしにいく――男には、腰に備えた端末『デジヴァイス』と確かな覚悟があった。
×
廃工場地帯を抜け、都市の外れである古いビルなどの建物が残された閑散地に足を踏み入れる。そこから都市内部へと進入を試みようとしていた。そのときだった。
「こんばんは。ねぇおじさん、…こんな所で何しているの?」
ふいに嵐の中で囁くセイレーンの様な声が耳に飛び込み、コートの男は歩みを止めた。前方の建物の陰からスッと姿を現したのは、オーバーサイズのロングコートを着た鮮やかな紅のベルベットのごとき髪の麗しい少女だった。雨にも関わらず、セットされた髪は形を保ち華やかな洋服は水分を含んだ様子がない。陶器のような肌を次々滑り落ちていく水滴は、白い肌を艶やかに演出していた。
少女は俗に、愛らしいと称されるであろう微笑みを浮かべていたが、行く手を塞がれた当の男は、そのニヤニヤと微笑みを浮かべる姿に怖気立つ。
「お前……、どうして」
「あらら…? 質問しているのは、こっちなんだけどなぁ〜……」
「……その、気味の悪い喋りを辞めてくれないか? それとも自棄になってその年で少女趣味に目覚めたのか? 戦場を駆ける様を雷神と称された〝男〟が」
きょとん。とした少女は、腕を組んで何やら思考すると、浮かべた笑みを強めて「フハ」と笑う。すると、それまで纏っていた雰囲気を一変させた。
「ああ、懐かしいなぁ〜! 戦車も恐れる赤毛の暴君が今や〝マイ・フェア・レディ〟も吃驚の麗しのご令嬢とは、何百年経てども…今だに訳が分からなさすぎて笑えるよな!! ……にしてもだぞ? 麗しの〝ドナ嬢〟がお前だけに微笑んでいるのだから、もう少し色良い反応を期待していたんだぞ、レザードぉ?」
打って変わって友好的、しかし威圧的にニッと歯を見せて笑う少女。見るものが見れば状況判断に困る展開だ――しかしレザードは、あくまで冷静に呆れた声で返事をする。
「……昔のお前を知っている人間に、お前に睨まれて喜ぶヤツはいないだろうよ」
「おー、そうかー? まあ当時の知己はお前以外死んだようなものだ。オレの知己に対する感覚が鈍るのもしょうがないだろう? おおそうだ! 立ち話もなんだ…近くにオレの行きつけがある。そこで昔話といこう」
「遠慮するよ、サー。私には、やるべき事がある」
と、レザードは少女(元:男)ドナの誘いをばっさりと断った。だがドナは、機嫌良く話していたままの笑顔で話を続ける。
「……おや、その賢い頭で理解できなかったか? 見逃してやろうと言ったんだ。…それで? お前、今までどうしていたんだ? 大人しく隠居生活を送っているか、死んだと思っていたが……もう一度聞く。今更、何をしに来た」
更に打って変わってドナは、目の前の男を鋭い黄眼で突き刺すが如く、明確な敵意を持って睨みつける。対するレザードは、周囲の空気がさらに冷え込んだかの様な錯覚を覚えた。
「まあ、待て。私もお前がただ昔話をしにきた訳でないことくらい分かっている。誤魔化しはしない。過去の、清算
だよ」
「ほうほう、それで? オレがみすみす侵入を許すとでも思ったのなら……見積もりが甘すぎるが? それともオレ
を出し抜けると思ったかよ」
「お前を安く見たつもりは毛頭ない。」
「なら観ていくか? ……神まで行かずとも真に〝雷〟となったオレ。いやワタシをかな?」
そう言うとドナは、見せつける様に手のひらを掲げた。するとその指先から閃光が発せられ、次第にその電光は腕まで及んだ。やがて発光する腕は、完全に電気(プラズマ)と化す。ドナは、自らの体を電気に変質させることができる。その身体は〝雷〟そのものだった。
レザードは、遥か昔にデジタルワールドに現着した当時にも、この現象を目撃していた。それを久方ぶりに目にした今、現在ドナと名乗っている〝異世界トンデモ変貌を遂げた人間が原因の頭痛〟に悩まされていた過去をレザードは、思い出していた。
「なあ君から観て、俺はどうだ。人間か? それともカイブツにみえるのかなぁレザード博士?」
「……それは生態的な話か? それとも精神の話か?」
その問いを聞いたレザードは、明確な呆れを声色に乗せる。しかし面倒ではあったが学者として真面目な気質の彼は、質問には答えるべきと考えて律儀に続けた。
「このデジタル世界においては、人間もデジモンも電子で構成された生物だ。機能的な違いはあれど、肉体というテクスチャを持ち、電子信号で動き、思考する生物という意味では、人間とデジモンに大差は無い。それぞれに生物的な能力的差異があるのは当然だとしても……私的には、愚問だよ。ならば精神の話と言うことになるかな。だけれど、それは専門外だ。…少なくとも私の同胞は、バケモノでは無かったさ」
このやりとりに意味は無い。あくまで雑談の延長線だ。
「ハ、相も変わらずお堅くつまらん野郎だなレザード君。数百年も年期が入れば少しは面白い男になるかと思ったんだがな?」
「誰であれ、お前には負ける」
「口減らずは、相変わらずの様だ」
「そう怒るなよ。怒りの熱がこちらにも伝わってくるようだぞ」
レザードの頑なな態度にドナは、呆れた様な諦めたような表情を浮かべ、フッと息を吐く。
「言いたいことはそれだけか…〝FETCH(取り出す)〟」
ドナの呟きに応じて、その正面の何も無かった空間からアサルトライフルが出現し、〝元々の彼の腕〟よりずっと細い腕に抱えられた。
「オレの自発電気のみで動く、所謂スマートガンの様な仕様でな。故にオレ以外には、扱えない特別性という訳だ。
良い銃(オモチャ)だろう?」
「なるほど。しかし流石にレーザーガン、とはいかなかったようだな」
「電圧に耐えられる素材が手に入らなくてな、クロン…デジ? ……まあいいか。今なら申し開きを受け入れよう」
「結構だ」
「そうかよ」
レザードが断ると同時にドナは、銃口を男に向け、胴体に向けて数発発砲。だがドナが立ち塞がった時点で交戦状態になるだろうということは、既にその場の共通認識となっていた。
銃弾は、男が脱ぎ捨てたコートのみに穴を開け、本体は回避して建物の壁に張り付き移動している。
「!?」
壁を這う標的にドナは一瞬、目を疑った。そのシルエットが大きく変化しており、それは〝子どもの様に小さいトカゲの歩兵の姿〟をしていたのだ。
「コマンドラモン…!?」
ドナは驚愕する。それもそのはずだ。コマンドラモンは、軍所属の軍で管理されたデジモンであるため野生には存在せず、実際に使役され始めたのはレザードが行方知れずになった後である。レザードがなんらかの方法で要塞内部及び、軍内部の情報を知っていたとしても、そのデータを盗み出すことは彼一人では不可能かつデータを有効化するための十分な設備の用意も難しいためだ。
「レックス、少々予定外があったがミッション続行だ」
「了解した」
コマンドラモンことレックスは、壁から突き出たパイプや窓の縁、要所の凹凸などを利用してアスレチックの様に移動する。
「ウチのヤツ…じゃ無いな。……どういう訳かわからんが、下っ端に任せてテメェは安全なところで指示出しとは良いご身分だなぁ!」
コマンドラモンに向かって発砲を続けるが、レックスは地上と遜色無い移動速度で、壁を蹴り機敏に不規則に動くことで回避しつつ前方上へと移動していく。その獣の様な動きにドナは、レックスが唯の兵卒では無いことを察する。ならば〝もっと上の世代〟として対処した方が良いだろうと判断する。
「面倒だ…FETCH」
ドナはライフルを投げ捨て、マシンガン2丁持ちへと切り替え、レックスの逃げ場を無くすように前後の壁を削る勢いで銃弾を容赦なく打ち込む。
「ぐっ…」
跳弾を恐れる様子がない弾丸の連射にレックスは堪らず、近くのガラスの取れた窓から落ちる様に建物内部へと転がり込む。
「誤ったな! …此処いらの建物は、見掛け倒しのハリボテだと流石に知らなかったか」
プラズマと化した身体で一足飛びに、レックスが侵入した窓に足を掛けて建物内を覗き込む。ドナが想定した通り、扉も窓も抜け穴も無い、一面コンクリートの空間。しかし、そこに標的は愚か気配、痕跡すら無い。
「? …どこへ……、……!?」
一瞬標的を見失ったかと錯覚するが、自分の真横に磁場の微弱な違和感を知覚し、ドナは即座に銃弾を浴びせる。
がしかし手応えは無い。だが居た。
標的は、たしかにそこに居た。しかしレックスは、既に外、先程ドナが居た箇所よりもさらに先を駆けていた。
「……逃すかトカゲ野郎」
――おそらく〝光化学迷彩〟ってヤツか。噂でしか聞いたことはないが、レザードに化けていたのもその同じ理屈かねぇ? しかし…回り込まれたな。奴が透明になれるなら無闇にやたらに追いかけ回してもこっちが消耗して逃げられる……積極的には、頼りたくは無いんだが背に腹は変えられん。
ドナは、ホルスターに備えていたハンドガンを取り出すと、赫い稲妻となり地面を蹴り、一瞬の内に高速で移動するレックスに光の速さで追いつかんとした。
「接近してくるぞ! 近づかせるな!」
「おう」
レックスは背負っていたアサルトライフルを構えてドナに向かって打ち込む。
ドナは、全身のプラズマ状態が解ける前に飛び上がり、近くの看板だったモノを引っこ抜き、それを盾にして、レックスの進行方向にハンドガンを構えて弾を打ち出し、それをレックスが寸でのところで回避し、再び発砲しようとしたーーそしてドナは、指示する。
「――〝ガトリング・アーム〟」
「後ろだレックス!!」
ハンドガンの球が飛んだ方角には、長い耳にジーンズ、丸い印象の一見愛らしく感じる見た目だが、両腕にはガトリングガンという凶悪かつ巨体の〝黒い〟獣人型デジモンが出現していた。そのガトリングガンは正に今放たれようとしている。
「バイバイ」
弾丸の雨がレックス諸共、周囲を更地にせんと絶え間なく浴びせられる
「いつも通り容赦なしか、あの馬鹿犬……」
ガトリング・アームの射程内にいたドナは、咄嗟に近くの建物内部へ避難していた。音が止み、外を見てみれば発砲を辞めて腕を下ろしている黒いデジモンーーブラックガルゴモンがいた。しかし敵を仕留めた後にしては、余りにもブラックガルゴモンの様子に変化が無いことをドナは、妙に思い近づく。
「どうした何、突っ立ってんだ?」
「アイツ…消滅してない」
「! ブラフか…いやレザードが何か仕込んだ……か?」
どちらにせよガトリング・アームの銃撃は当たっていない。周囲を確認するが、それらしい気配は無かった。もうどこかに身を隠したか、先に行ってしまったのだろう。
「……〝STORE(格納)〟」
先程、投げ捨てられ放置されていた銃は、再びクラウドデータとなり、消失する。
「逃げられたなジジー。耄碌したのかー?」
「チッもういい飽きた…行くぞクソガキ」
とドナは、無気力を口にする。しかし眉間にシワを寄せ口端を歪めたそれは、おおよそ少女が浮かべる表情ではなかった。
「今更、何を変えようと手遅れだろうさ……HD! 居るよな?」
「アイアイサー! 今日も勇ましく華麗なお姿バッチリ録画しておりますとも! やっぱ少女×ミリタリーは、サイコーですわ〜〜、Fuぅ〜!!」
どこからか煙と共に現れたのは、ハイビジョンモニタモンだ。ドナは、長いのでHDと呼んでいる。
「感想は聞いとらん。伝令だ。伝令! 映像は……いつも通り。好きにしろ」
「ぃやったー! 〜これは100万回再生は固いですな! ムフフフ」
……出来れば、サーがもう少し協力的だと編集の手間が少なくなって有難いんだけどな〜(チラチラ)ああ〜そういえば! 登場シーンのアレ! アレ良かったぁ〜!! ひゃっほーぅ!!!!
「なーなんか言ってんぞ?」
「ほっとけ、いつもの病気だ」
「ジジー…本当にアイツ、探さないのかー?」
「もう報告義務は果たしたからな。探さね〜」
「えー、まじぃー…?」
×
「……侵入成功したよ。レザード」
「ああ流石だ。……この先は人目も増える、さらに慎重に行こうか」
周囲はすっかり都会の真っ只中といったところ。中心部に近くなる程、複雑かつ仰々しい建物が群を成し、互いに高さを競い合っているのだ。しかしそれらは、全て一から製図して土台から組んで建っている訳ではない。百年以上建築を続けている建築物のように複雑そうにみえるビルでさえ、一瞬で建つ。此処はそういう世界だった。しかしだからといって、あまり見栄を張りすぎるとバグも生じやすい。そういう物好きの建築物以外は、ほぼ現実世界と差異が無いというのは、割と理にかなっているのだろう。
レックスは、なるべく元来のコマンドラモンという種族が備えている〝体表を変化させる迷彩パターン〟を用い、建物上部の遮蔽物が多く、ネオンサインなどで視覚情報の多い場所などを利用しながら壁伝いに移動していた。ーーそれというのも透明化は、此処ぞという場所での使用の為にレザードがレックスに搭載した能力(プログラム)で、その使用には限界があるのだ。確実なミッション遂行の為に使用が必須の場面でのみ運用すべきとレザードは定めていた。
突如、サイレンが鳴り響く。
――緊急事態発生、住民の皆様にお知らせいたします。現在、都市内部に侵入者アリ。住民の皆様におかれましては、より詳細な情報を専用のネットワーク上でご確認の上、夜間の外出をお控え頂き、よりセキュリティーレベルの高い施設への避難を推奨いたします。繰り返しお伝えします……――
サイレンと共に、侵入者を警告する内容のアナウンスが要塞都市内部に広く響き渡る。この侵入者というのは、間違いなくレックスのことだろう。
「……情報の伝達が思っていたより早いな」
「さっきの…レザードの知り合いの女の子の男の人? の仕業?」
「……十中八九そうだろうな。長引けば、そのうちカーゴドラモンが投入されるのも時間の問題だろう」
身を隠しつつビル壁から眼下を見やれば、コマンドラモン数体と兵卒らしき軍人が住民に声がけなどをしながら見回っている様子が見てとれた。
「急ぐかレックス。私たちがたどり着くべき場所DAL(デジタル・アーセナル・ラボラトリー)は、すぐそこだ。」
「施設内部へ侵入する為に研究員の認証システムを使うんだろう? そのためにDALへ出入りできる研究員一人を確保する」
「そのとおりだ。……目的のターゲットは、ここから前方2ブロック、さらに右に2ブロック先の50階立てビルの27階の左から3つめの部屋を住居としている男だ」
「ターゲットが外出中という可能性は無い?」
「調べた限りでは、よほどの気まぐれを起こしていない限りは無いだろう。その人物の研究は、在宅ワークがメインらしい」
「ずっと部屋で研究……って、できるもんなの? レザードは、頻繁に出かけていたろ?」
「私の場合は、全て個人で行なっているという特殊ケースだが……研究というよりは、分析や開発プログラミングを行なっているのだろう。…よほど人格に問題のある人間という可能性は、なくは無いが。いや、それよりも先程アレから逃れる時に〝透過〟をしたが使用に支障ないか?」
「大丈夫。あと数回使う程度なら、まだいけるよ」
レザードがレックスに搭載した透明化能力(トランスパレント)は、光化学迷彩と似通ってはいるが、表面的なテクスチャーを透明化するステルス機能だけでは無い。障害物を実際に透過し、擦り抜ける事を可能とする〝ハッキングプログラム〟なのだ。セキュリティレベルの高い場所……今回の目的地である要塞の中心部かつ中心核……DAL(デジタル・アーセナル・ラボラトリー)に直接進入することは不可能ではあるが、一般的な職員住居のセキュリティレベルであれば進入は可能なのである。
レックスは、雨のおかげもあってか危なげなく目的のビルまで辿りつくことができる。そこは比較的シンプルなビジネスホテルに近い外観だ。住人は、住居にあまり拘りが無い者が多いのだろう。目的の部屋の窓から中を覗いてみれば、内装も至ってシンプルな作業部屋といったところだ。ターゲットの男は、予想通り在室しており、デスクでデュアルディスプレイを使用し、キーボードを叩いている。今、まさにPC作業中の様子だ。
サッと確認を終えて〝透過〟を使い、部屋に侵入する。そして、とんとん。とレックスは椅子に座っている男の肩を叩く。
「〜っっ!! うるさいなぁ! 作業の邪魔するなって言っただ…イ゛デデでぇ!!?」
レックスは、イライラして振り返った男の手首を捻り、銃口を突きつける。痛みに堪えられずに男は、なし崩しに椅子から膝から崩れ落ちてしまう。
「痛痛゛痛゛! イタイぃて゛ぇ!!!」
「両手を挙げて大人しくしろ、抵抗しなければ危害は加えない」
「分かっ…分かったっ!! だから、手を離っっ…!」
男が片手を挙げて抵抗の意思が無いことを確認するとレックスは男の腕から手を離し、強く銃口を男の胴体に押し付けた
「ヒぃ何、なんだおま、お前? 軍…警備、のトカゲ…??」
「? レザード、こいつ……」
「ああ知らないようだな。外は、ずいぶん賑やかだと言うのに…全く、作業に熱を上げて没頭できる研究とは羨ましい限りだよ」
「そ、外ぉ?」
窓の外では、先程と同じ注意喚起アナウンスが繰り返されおり、室内に居てもハッキリ聞きとる事が容易にできた。次第に男の顔がみるみる青ざめていく。
「侵入者…お前が……!?」
「自分の状況は、理解できたようだな。」
「何が目的…まさかオレの、いのっ」
「DALの内部に行きたい。その為にお前の生体認証で私たちを施設内部へ招いてほしい」
「ででDAL内部だと!? 冗談じゃない! そんな事をすればオレ自身どうなるか……ヒッ」
アサルトライフルの銃口が鼻先に付き、研究員は身を固くする。恐怖の余りあわあわと口が閉じられないようだ。
「わ、かったぞ…! 通信しているヤツは、お俺の地位が羨ましいんだろ! 研究に参加出来ないから。だ、だからバケモノを使って俺たちの研究を滅茶苦茶にしてやろうって魂胆なんだろ! そうだろ!! 大体、レザルド? なんて、名前聞いたこともねぇよ! 妙な名前名乗りやがって……どうせ助手止まりの下っ端だろうが」
「レザードを悪く言うな……!」
「レックス」
レザードが静止するもレックスは低く唸り、喚く男を睨みつける。
この世で、レックスだけが知っている。誰に知られずともレザードは、一人戦っていたことを。苦しんでいたことを。レックスは、それを手伝いたくとも手伝うすべが無かった。レックスは兵士として戦う為に生み出されたから。……できることならば共に戦いたかった。でも出来たことといえば傍に居たことだけ。不安になりながらも帰りを待っていたこともあった。「お前は、もうすでにパートナーとして私の力になってくれているよ」レザードは、そう言ってくれてもパートナーとしてデジモンとして、彼の役に立ちたかったのだ。……だから今回のミッションは、レザードの最初で最後の頼み事。それを叶えたい気持ちは同じだった。
「ワープ装置まで、黙ってテキパキ、動け…良いな?」
「バ、バケモノ共め…ただじゃ済まないからな…!」
デジタルワールドは電子で構成された世界である為、あらゆる物を転送できる〝ワープ技術〟を可能としている。大型荷物の運搬はもちろんのこと、自宅と勤務先をワープ装置で繋いで、外出することなく移動することが可能なのである。この研究員も例に漏れず自宅にワープ装置を備えており、DALに出向く際に利用していた。
ワープ装置を使い、研究員の男にDAL施設内部の案内をさせて進んでいくと、一段と大きく分厚い扉が存在感を醸し出していた。恐らく決まった関係者のみが入れるレベルの扉なのだろう。
「お俺が入れるのは、ここまでだからな……へへ、どう足掻いてもこの扉は開きはしな…」
扉の前に立つと、不意にピーと言う電子音が鳴る。すると扉の横のセキュリティーランプが赤から青に変わり、徐に目の前の自動扉がスライドして通れる様になる。随分あらか様だ、とレザードは思う。
ーー招かれている。罠の可能性は高いが……
「ななんでっ最重要システムの扉が、開いて…あっ、おいちょっとぉ〜?」
混乱する研究員をよそにレックスは、扉の奥へ、奥へ…と進んでいく。すると部屋というには広大な空間に辿り着いた。内部は、奥行きが目視で確認できないほど広く、戦車がいくつも格納できそうな格納庫の様相をしていた。主要なコンピューターと思われるスパコンや大画面の操作盤なども備え付けてあるようだ。
「お待ちしていました。レザード博士」
上の階層(ギャラリー)では、やや痩せぎすの見た目は若く見える男がフェンスに手をかけて、たった今入ってきた侵入者をしゃくしゃくと見下ろしていた。
「君、まさか……テイラーか?」
「……そのとおり。ですが、貴方が仰っているのは父の事でしょう? 私はその子供で、随分前に父よりテイラーを引き継ぎました」
テイラーというのは、レザードと共にデジタルワールドへ来た時のチームの一研究員で、レザードの助手だった男だ。今、レックスを見下ろしているのは、その息子だという。
「彼は、消えたのか?」
「消えた? ええ、行方知れずです。突然、やるべき研究を放置して消えてしまいました。お陰で息子の私が苦労する羽目になりまして……今は、むしろ感謝していますがね」
「……」
「そんなことより! ああ…、お会いできて光栄ですレザード博士……! 貴方のことは、父の資料で拝見しておりました」
急にテイラーは、大声を張り上げたかと思えば、話す口調に熱が入り出す。そんな自称テイラーの息子の様子にレザードは、淡々と返す。
「私など、大昔の化石の様なものだろうに」
「いーえー? 貴方は先駆者だ。デジタルワールド調査チームの第一人者たるレザード博士。父も度々、実質のリーダーは貴方だったと言っていましたよ。……あの暴君等ではなくてね」
「軍人が嫌いなのに軍に協力しているのか?」
「研究とは、そういうものでしょう? ああ貴方ほどのお人ならば話は別でしょうが。報告にあった〝透明化〟も気になりですが。そのコマンドラモンの銃は、通常の〝M16アサシン〟とは違いますよね。興味深いな……、他にどんな改造をソイツに施したんです? 強さの秘訣とか教えてくださいよぉ」
「……なぜ私たちを内部に入れた? 君の立場ならば告発すべきだろうに」
「その質問に答えれば貴方も教えてくださいますかね? 私は、貴方ともう少しお話がしたいので。それに……せっかくの機会だ。試したいじゃあ無いですか。貴方と私……一体どちらが優れているのかを! さあさあ出て来い!」
またテイラーが叫ぶと、近くにあったワープパッドから光が立ち上り出現したのは、大人の体格と遜色のない体格を持つトカゲのような見た目をしたサイボーグ型。暗殺に特化したまさにエージェントといえるデジモン。
「! シールズドラモン……まさか、その個体は」
「!!」
「ええ。そちらのコマンドラモンは、とても懐かしいのでは無いですか?」
レックスにとって忘れられないデジモン……シールズドラモン。訓練兵だったレックスを騙し〝トラッシュの谷〟に放置し消滅寸前まで追いやったデジモン、その個体だった。シールズドラモン登場による動揺からか警戒からか、レックスの瞳孔がギュッと縮み、銃を握る手に自然と力が入る。
しかし、それもほんの僅かの間だけ。
なぜなら……
――聞かなくても分かった。レザードが目的とは関係なく、ぼくを心配しているんだろうなって感じが伝わってきた。……大丈夫だよ、レザード。だって、ぼくには。
「今のぼくには、頼れるパートナーが居る…だから、もうお前には負けない」
レックスは、そう強く宣言し、シールズドラモンを見やった。
「パートナー…? デジモンが? っふふふハハハハ!! まさか貴方とあろう人が、そんな怪物を相棒と? またまたご冗談をフフフフフ」
「あまりレックスを、私のパートナーを侮るなよ。それと先ほどの質問に返答するなら、確かに私はレックスに武器やプログラムを持たせたが、……どんな技術よりも〝絆〟に勝る力は無かったさ」
「……本気で言ってます? 単純に考えて〝セレクション−D〟をクリアしたこのシールズドラモンに、たかだか一歩兵のコマンドラモンが本気でかなう等と……どう考えても理論が破綻していますよ!」
レザードの返答にテイラーは、笑うのを辞め少々イラついたように手弄りを始める。
「……なら試してみようか。君には到底、理解できないかも知れないが」
「はあ〜、全くもって残念だ……」
シールズドラモンは、ナイフを構えて今にも獲物に襲い掛からんとしている。しかし対するレックスには、ずっと在った確かな覚悟と〝デジヴァイス〟ーーレザードが居る。
――あの時みたいには、いかない! この試練、必ず、乗り越えるよレザード!
「――ぼくに進化は、必要ない!」
――次回へ続く
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ルツキ
2023年9月01日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話のあんまり4コマじゃないシリーズ。
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【エビバーガモンの情熱】
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「それはそれとして、横暴は改めるように」
「もう…しません」ぐったり
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ルツキ
2023年5月17日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話シリーズ。
【前回】
https://digimonsalon.wixsite.com/digimonsalon/top/dezimonchuang-zuo-saron/koreha-tabunabarunoshi-hitotume-4komaman-hua?origin=member_posts_page
【楽園】
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ルツキ
2023年4月28日
In デジモン創作サロン
ラブリーエンジェモン&パタモン 「妙な空間に迷い込んでしまいましたね」 「ホント〜雑なテクスチャーだね? あ、あそこにカメラがあるよ〜! せっかくだし写真撮ろーよー」 「どうしてカメラがこんな所に……?」 「気にしなーい、気にしなぁーい。ハイ、ピース」 「ピ、ピース!(写真持って帰れるのかしら…?)」
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ルツキ
2023年3月06日
In デジモン創作サロン
『其処はきっとティル・ナ・ノーグ』の間の話。
https://digimonsalon.wixsite.com/digimonsalon/top/dezimonchuang-zuo-saron/qi-chu-hakitutoteirunanogu?origin=member_posts_page
【大地の声】
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ルツキ
2023年1月28日
In デジモン創作サロン
※最初に※ これは、とあるデジタルワールドで暮らすとあるディルビットモンのお話です。 公式アニメと図鑑準拠の性格で書きましたが、アニメの二次創作ではございません。ご了承ください。 「春眠夢心地、空は澄み、大地萌ゆる。柔らかな日常のなんと尊いことか」 自然豊かなこの大地は住処としている獣型デジモンたちにとって、掛け替えのない場所だ。デジタルワールドの神によってプログラミングされた気候は、急激に変化することはない。しかし、その安寧こそが己が守護すべきもの。とディルビットモンは、今日とて守るべき大地を巡回していた。 「ソコノ! 黄色い騎士!」 凪いだ草原に甲高い声が響き、同時にマントに何かがぶつかる。ディルビットモンが驚き見ればデジモンが張り付いていた。 「今ならこのスーパーエカキモンのモデルにしてやるぞ!」 硬質的な鉛筆の体を持ち、色彩鮮やかで主張が強い。しかし、どこか素朴な印象を与えるデジモン。 「君は、エカキモン……かい?」 「違う、スーパーエカキモンだ! ただのエカキモンではなく、ワタシわぁーッ、エカキモンとして大成するのだァー! 所謂バズを狙っているのであるぞっ」 「スーパー……?」 ディルビットモンのマントに張り付いたまま喚くエカキモン。ディルビットモンの困惑をよそに、そのまま徐に話を続けた。 「絵のモデルは、華やかなデジモンが良いとワタシは考えた。バエる騎士型デジモンは、人気だ。出来ればロイヤルナイツがベストで あるのだが〜……」 途端に力を無くしたようにエカキモンがマントを滑り降りていくので、合わせるようにディルビットモンは、屈んで手を添えた。 「だが、ロイヤルナイツには歯牙にも掛けては貰えなんだ……。なんなら眼中にも入れて貰えな゛い゛」 「それで私に声をかけた(掴み掛かった)という訳だったのか」 「断れば、未来の大きな損失だぞ! あと断ったらワタシは泣くからな」 迫力に圧され、いつの間にか正座で話を聞いていたディルビットモンは、自称インフルエンサー志望のエカキモンの哀願を聞き、 手を差し伸べて微笑んだ。その姿は誰が見ても理想の騎士そのものであっただろう。 「私でよければ微力ながら協力しよう。可能であれば、絵が完成したら拝見したい。いいだろうか?」 「いいとも! ワタシの作品を一番に拝観する権利をやろう」 と、手を取ったエカキモンは宣うが、今までまともに取り合ったデジモンはディルビットモンだけであった。エカキモンは張り切って、ウィットに富んだポージングをディルビットモンに指示した。数時間も経つと二体の周りは、草原に出現した花畑のように色取り取りの賑やかさを形成していく。そこを通りすがるデジモン達の反応もまた、千差万別である。 「ウォーグレイモンのガイア・フォースのようなイメージで……はっ! と、そこで剣を!」 「こう! ……だろうか」 「むむ〜。やはり、別の角度から〜……」 「しかしこれは、なかなか大変だ……あっ」 ディルビットモンが声を上げると、身体からボンヤリと光の粒子が漏れ出し、そのスタイリッシュな見た目をマイルドなフワフワボディに変貌させた。 「ヌあ~!! モデルは、動くなと言ったであろう! 退化など尚更だぞ!」 「ごめん……」 長く究極体でいた為にエネルギーを使い果たし、ディルビットモンはアンゴラモンに退化してしまったのだ。 「モデルがいないのであれば、仕方あるまい。暫くは休憩にするのだ」 ぐぅ~ 「……腹ごなしも済ませるか」 「手間を取らせてしまうね」 ※ 「ゴテゴテした装備は、ぬぁんなのだ! 一体何頭身あるんだ!? この作画コストめ!」 エビバーガモンの店で買ってきたバーガーを片手にエカキモンは、アンゴラモン相手にボヤいていた。アンゴラモンの前に山と積まれたバーガーは、必要経費と称したエカキモンの奢りである。 「サクガコスト?」 「ワタシにとって超えねばならぬ壁の一つだ! しかし、越えてみせるとも! ワタシは、スーパーエカキモンなのだからな!」 「ふむ。強敵……なんだね。楽な道などなく、真髄に近づきたくば難敵多し。ーーかな」 「お、おお?」 「フフフ♪」 ――作品の完成は、一朝一夕とはいかない。日々、大地を見回るディルビットモン。エカキモンはその後を着いて回り、作品作りを続けている。 「ワタシは暫くの間、構想を練ることにする」 海岸の見える眺めの良い丘は、ディルビットモン御用達だ。運が良ければ、深海から浮上してくるホエーモンの姿を見ることができる。最近はエカキモンと訪れては、バーガーを食べたり、夕日を眺めて精神を落ち着けているのだ。 そしてエカキモンとサクガコストなる怨敵との死闘も極まっていた。一人精神を統一する時間も必要であろうと、ディルビットモンは邪魔にならないようその場を離れていた。 一方エカキモンは構想を練りながら、かの騎士のことを考えていた。 大地の守護者とは言うがディルビットモンは、毎日デジモン達と他愛のないおしゃべりを繰り返しているだけだ。腹が空いてアンゴラモンに戻ってしまえば、唯のぬいぐるみ同然ではないか。騎士らしいのは、見た目ばかりである。もう少し騎士然とした姿が見たいのだが…… 「貴様がエカキモンだな」 「違う! ワタシはスーぴゃァア?!」 返答を待たずに斬撃がエカキモンの数センチ上を飛ぶ。 「問答無用」 自身に向けられる冷たい目線。それと共に振り上げられる刃。――エカキモンをデリートせんとする存在が其処にいる。 「ヤメロ! 辞め、ぅあ、辞めてくれぇええ!」 ガキン。と金属音がエカキモンの眼前で響く。が、エカキモンには傷一つない。 「邪魔立てするなら、貴様も処断するぞ〝守護者〟」 「ディルビットモン~!!」 ディルビットモンの剣が刃を防いだのだ。 相対する全身を覆う冷たい銀色は、金色とは異色。その様相は、騎士ともいえるウォーリアではあるのに正しく〝兇器〟だ。主命に忠実な天使、スラッシュエンジェモン。通常のデジモンならば、逃げる。――でなければ決死の覚悟で戦うか。 まず、話し合いは諦める。がディルビットモンは、違った。デジモン同士、分かり合えない者は無いと考えていた。 「エカキモンが何をした。彼は、ただ絵を描いていただけだぞ。」 「デジモン……のな。それが問題なのだ。事が起こっては遅い。醜悪なデマゴキーを広める可能性があるデジモンとして処断する」 「彼はそんな事はしない!」 「能天気なガーディアンの言葉など信用ならんな! ただでさえ、最近はパブリモンなる不届なデジモンが出現しているのだ! 覚えておけ……、無用なゴシップは拡散される前に潰すものだっ!!」 スラッシュエンジェモンは、エカキモンに向かって突進する。 「ヘブンズリッパー!」 「っ! バックストラッシュ」 スラッシュエンジェモンの激流のように襲いくる全身の刃。それをディルビットモンの残像が、火花を散らしつつ受け止めていく。 「チッ!」 「私がいる限り、我が朋友に手出しはさせん!」 「あくまでも、楯突くか……ならばこのスラッシュエンジェモンが総じて粛清するのみ」 金と銀。二刀流と二刀流。一方が刃を構えれば、もう一方も刃を構えた。スラッシュエンジェモンが腕を振れば、斬撃が飛び。ディルビットモンがそれをいなす。 「ホーリーエスパーダ!」 「ボルジャーグ!」 無数の刃に無涯の剣。どちらも譲らぬ絶技のぶつかり合いが繰り広げられる。 「ならば、これでどうだ! 我が渾身の、ヘブンズ……リッパーッ!!」 空に飛び距離をとるスラッシュエンジェモン。全身の刃を体の中心に集めると、縦回転させてディルビットモン目掛け、猛突進していく。 「――迎え打つぞ! モラルタ! ベガルタ!」 ディルビットモンの二本の剣が燃えるようなオーラを纏う。 今のスラッシュエンジェモンは巨大な凶刃と化し、標的はおろか大地までも粉砕し尽くすことは想像に難く無い。 「む、無理だ! 逃げろ!」 エカキモンは、叫ぶ。 ――友を。この大地を、守る! ディルビットモンは、二対の剣を正面で構え、跳ぶ。 バックストラッシュ! 一瞬で残像がスラッシュエンジェモンを取り囲む。 ――トラスゲイン! 回転するスラッシュエンジェモンの側面を矢継ぎ早に挟撃する。 「うおおおお!!」 側面からの猛攻にスラッシュエンジェモンは、堪らず体制を崩す。 「ぐっ、まだだ! ホーリエスパー……っ!?」 軌道がずれ、落下していくその先は崖。背中の翼は畳まれたまま。それを見たディルビットモンが叫ぶ。 「危ない!」 「それぇい!」 同時に飛び出したエカキモン。鮮やかな色彩が宙にトランポリンを描くと、スラッシュエンジェモンを跳ねるボールのように受け止めた。 「ぐぅ?!」 「エカキモン!」 辛うじて地につき、受け身を取ったスラッシュエンジェモン。エカキモンの傍にすかさずディルビットモンが駆け寄った。 「俺の負け、か……? 正義が敗れるなど……」 「まだ戦うなら相手になろう。しかし彼は、彼の信念を持って絵を描いている。我らとなんら変わりなどない正しき心を持ったデジモ ンだ」 「其奴を信用しろと?」 懐疑的な視線に気付いたエカキモンは、震える足でジリジリと前に出る。 「ワ、ワタシは、誓ってデジモンの信用を落とす創作はせん。……エカキモンの名に誓ってしないと誓うのだ」 エカキモンは視線をだけは逸らすまいと、肩を怒らせる。それを見たスラッシュエンジェモンは少し間を置いて、その腕を下ろした。 「……これ以上は、恥の上塗りか。もう手出しはしない。が……我らは、常にお前を見ていることを夢夢忘れるなよ」 睨まれたエカキモンがヒッと声を上げる。それを見届け、スラッシュエンジェモンは飛び去っていった。 「……あんな態度だから、他のデジモンの不評を買って本末転倒な事態になるのではないか〜」 銀翼が見えなくなったのを確認してエカキモンはそう呟き、振り返ると目線より下に退化した毛玉……もといボサモンがいた。 「この考えなしめ。幼年期まで退化するほど力を使い果たすとは……さっきのヤツがまた引き返してきたら、どうするのだ」 「でも、エカキモンもスラッシュエンジェモンを助けてくれたよね」 「甘いお前に感化されてしまっただけだ。大体、お前は守護者もっとらしくしろ」 「うん。ごめん」 「悪いと思ってないであろう? 謝罪は、悪いと思っている者がするのだぞ!」 「そうだね、……ごめんね。」 「~~ッ仕方あるまい。理想は、形にしてこそだ。……作品も形にしてこそ。だな」 二体が空を見れば、ピロモンの群れに似た雲が流れていた。この大地は、もうすぐ雨が降る周期を迎えるのだろう。 「穀粒も積もれば山となり、滴もたまれば海になる。――動かぬ石の下に水は流れない」 「大河の流れも一滴の滴から……か」 たった今、思い浮かんだことではあるが、エカキモンは意を決し告げることにした。 「ボサモン。ワタシは己の腕を磨く旅に出る。バズを狙うのは保留だ。納得のいく絵が描けたら、此処に来よう。 ……その時は、またモデルになってくれ」 「ああ、もちろんさ」 エカキモンが視線を彷徨わせ、緩急な動きで空間から一枚のデータを取り出す。 「それから、未完で情けないのだが……約束だからな。これはやる」 エカキモンは、一枚の絵を差し出した。〝勇ましい騎士〟ではなく〝優しい友達〟の絵を。 「わあ……! ありがとう大事にするね」 「捨ててもいいぞ」 「そんなの勿体ないよ」 ボサモンがピョンと跳ね、察したエカキモンがそのカラフルな手で耳にタッチする。 二体のデジモンの先行きは長く、これからも続いていくだろう。今日のように笑え合える保証など何処にもない。 それでもディルビットモンは、この大地を守り続ける。しかし自身は、決して特別なことをしているとは思っていない。デジモンな らば、空も、海も、大地も――、其れ其れがそれぞれを慈しむのは、極々当然のことなのだから。 《終》
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ルツキ
2022年9月26日
In デジモン創作サロン
初めまして。今回が初サロン投稿になります! 素敵な企画をお見かけして、滑り込み投稿させていただきました。 お彼岸らしくマンティコアモンを描きました!!! マンティコアモンは、ウイルス種のデジコアが好物。そして彼岸花には毒があります。 毒というのは、古くから人体に異常を及ぼすモノを毒と呼ぶそうです。 さらにvirus(ウイルス)の語源は、ラテン語の毒です。 マンティコアモン自体もウイルス種であり、サソリのような尾から強酸を流し込む必殺技〝アシッドインジェクション〟を繰り出します。つまり毒を持っているのです。 群生する彼岸花にマンティコアモンが引き寄せられることも無きにしも非ず。ではないでしょうか? ……ちなみに本音は、サヴァイブにマンティコアモンが出て欲しかったという個人的欲望です。
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その他
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