『このメッセージを聴いた者よ
すぐにその場から逃げることを推奨する
すでに50万ものデジモンが消滅した
その他、戦闘に参加できない幼年期と成長期を入れて合計100万体、いや、それ以上のデジモンの消滅をこの目で確認
《オグドモン・コア》という厄災のデジモンが現れて"たった15分"で我々のデジタルワールドは崩壊した
文字通り言葉通りデジタルワールドは消滅
水に生きる魚が突然陸地に打ち上がった様に我々は突然"宇宙空間"に放り出された
肺呼吸を必要とするデジモンはほぼ生存不可能
即死、または消滅
かろうじてサイボーグ型デジモンは生き残ったものの不慣れな無重力でまともな戦闘は不可能、更に…【ビーーッ!】
⚠️問題が発生⚠️
【間もなく酸素が無くなる】
【エネルギー源補充が必要です】
【計算結果、勝利を見い出せません】
【敵がコチラに迫って来ます】
【使命:皆を護る】
【敵をデリートせよ】
【私ハマダ死ニタクナイ】
【交戦可能なデジモンは消滅をし…▓っ▒。、!█▓▒んなっ█▓▒◀︎#!?】
ザザァ──────────ッ
ブツンッ!
最後の音声が途切れた
音声の主、ハイアンドロモンは無念の表情を浮かべたまま消滅した
彼の消滅した姿を見て残された仲間達は一瞬にして絶望と恐怖の空気に押しつぶされた
「ハイアンドロモン様がやられた!!!」
「我々はもうおしまいだぁ!!!」
成長期サイボーグ型デジモン達は逃げ迷い、残された完全体サイボーグ型デジモン達は恐怖に駆られるも戦闘態勢に入る。しかし最後の究極体ハイアンドロモンを失ったショックは大きく、思う様に行動出来ずにあっという間にアバドモンコアの餌食となった
残されたのはサイボーグ型の成長期デジモンのみ
アバドモンコアは問答無用で消去しにかかる
「悪魔でも誰でもいい!誰かコイツを止めてくれ!!!!!」
パニックで戦意喪失したサイボーグデジモン達を前にアバドモンコアは笑いながら狩る
指示してくれる者がいなくなった今、もはや陣形は崩壊し次々と死神の餌食となる
アバドモンコアの全身の口と目がケタケタ、ガチガチと不気味な音を出す
「い、嫌だぁ!?死にたくない!…タスケテ」
ぐちゃり
蟻の行列をまとめて踏み潰すかのように簡単に命を潰す、データを消す、世界を破壊する
そんなアバドモンコアにも意思があり、知識があり、他のデジモン同様心もあった
「悪魔?早く呼べよ、いくらでも冥土に送ってやるよって…あっ!デジタルモンスターに冥土もあの世もねぇか(笑)地獄のようなこの世界から解き放たれることを感謝するがいいさ!」
アバドモンコアの斬撃でまたひとり、またふたりとデジモンの肉体がデータが吹き飛ぶ
悲鳴を上げる間もなく消滅する
デジモンならばデータを構成するコアが残っていれば肉体の復活や新たな命に転生することが可能だが、アバドモンコアのやり方は正真正銘デジモン達に"永遠の死"を与える
何も残らない
空も大地も全て
彼の周りには闇しかない
アバドモンコアの目的は全てを"無"に帰すこと
数多のデジモン達がアバドモンコアに立ち向かった、しかし結果は全滅
理由は、あまりにも突然すぎたのだ
対処しようにも即死技をモロに喰らい気づいた時にはデータ化して塵となる
何より不幸なのことにこの世界はオメガモンはおろか、"ロイヤルナイツと七大魔王すら生まれていない世界線"なのだからアバドモンコアに為す術もないのも無理もない
そう、このアバドモンコアは並行世界の干渉する特殊な個体である
生まれて間もなくして与えられた肉体と能力の価値に気づいた彼はその通りに実行する
初めは世界を消すことに抵抗もあった
しかし何十億ものデジモンを相手に消していくうちに次第に消えていったデジモンの悲鳴も恐怖も血も涙も全てがアバドモンコアの快感となっていた
もはや世界滅亡をゲーム感覚で行っていた
ピピッ
「通達、我々の世界は最悪のシナリオを綴っている。現状を打破する未来は観測不可能なり。現状を打破する術はない。私の存在価値はここで終わる。繰り返す、我々の世界は…」
感情の篭っていない声で最期のデジモンがメッセージを送信し続けている
しかし虚空に電波を放っても受信する存在はあらず
次の瞬間にはもうすでに音も無く
悲鳴も苦痛も涙も流すことのないサイボーグデジモンの命が消える
そして沈黙
この世界に長い沈黙が流れる
音も空気も星も光も何も無い闇だけの宇宙
アバドモンコアは全てのデジモンを世界を消し去ったことに満足感を覚える
"この世界を滅ぼすのに30分もかからなかった"
"最高新記録だ"
"楽しいな"楽しいな"
"でもこれって本当に楽しい?"
"次はどの世界を消そう"
"次は?"あれ?"もう無くなっちゃった"
"次って?"無くなったら俺も消えなきゃいけない"
"変だな"おかしいな"おかしいな"
"これ、全然楽しくなかったよ"
アバドモンコアは虚無空間と化した世界の中、心にひとりで笑ったかと思えば突然ピタリと黙り、高揚とした表情を浮かべる
「おしまいだ…」
社畜から解放された社会人のように清々しい気分だ
自分自身の終わりを悟ったアバドモンコアはこれまで殺ってきたことを振り返る
生まれたのはついこの間(一昨日)だったがアバドモンコア的にとてもとても長く感じた
大勢のデジモンの悲鳴を聴いた
大勢のデジモンを切り刻む音を聴いた
大勢のデジモン達の涙を悲しみを観た
流石のアバドモンコアも良心が痛んだ
「全てを消して最期自分が消えて無になれば何もなかったことになる」と"自分に言い聞かせ"ここまでやってこれた
だから俄然この仕事を楽しもうとした
全てを無に帰すことこそ我が夢
自戒することこそ我が贖罪
全てを消し去った後、自分自身も消滅することを目標とし存在理由として生きてきた
我が悲願はここに成されたり
「全ての命にごめんなさい、死んで詫びます」
それは言い逃れか、はたまた懺悔か
何も無い空間でただ独りアバドモンコアは自身の肉体に剣を刃をつけコア目掛けて突き刺そうとした
次の瞬間
アバドモンコアの元に突然大量の紋章が現れる
「なんだこの紋章は?」
それら全て愛情の紋章だった
アバドモンコアは紋章に近づく
それは触らずとも暖かく、目を閉じていてもその温もり、誰かの想いが熱く優しく詰まったハートの形を成した紋章が20、30個浮いていた
全ての愛情の紋章が点滅する
アバドモンコアは嫌な予感を察知し紋章に切りかかるが手応えがまるでない
ピピッ
「!?」
突如アバドモンコアの頭上に柔らかい文字のエフェクトが表示される
『今までご苦労さまでした!
あなたのお陰で今回も無事、"大掃除(リセット)"が完了致しました!これから再創造を行います!アバドモンコア様はこのまま次の破滅の日まで"また記憶を消して待機して生きて下さい"
Byイグドラシル』
「は?大掃除…?再創造?破滅の日?
どういう意味だ?」
アバドモンコアは刃を下ろしたままフリーズした
そういえばあらゆる世界を管理していると言われる創造主イグドラシル、ソイツが今まで何処にいるのか謎だった
ただ創造主なのだからこの俺を産んだことは間違いない、あらゆる並行世界を消せと命じたのも奴が原因
だからよっぽどの悪いやつだという事は予想していた
世界一つや二つ消えても何とも思わない非情な神だと考えていた。なのに、今の今まで高みの見物をしていたというのか
一体何故?
ボンッ
アバドモンコアの背後に大爆発が起きる
いや、これは宇宙空間創造のビックバン
それも一つや二つではない
何も無かった空間にたちまち大地が海が広がり、あっという間にデジモンが生きられる星が誕生した
他時空でも同時に同じことが起きた
新たなデジタルワールドが一瞬の瞬きで誕生したのだ
何のために?
「イグドラシル!!!一体何がしたいんだ!?俺はお前の"気まぐれな"リセット作業に付き合わされてたって言うのかよ!!
ジジジジッ……ブツン
『全てはより良い世界を創造するためです』
「こ、コイツ!頭に直接話しかけてきやがった」
イメージが文章が頭の中に流れ込んでくる
《課題》
・アバドモンコアにすら対処できない世界は不要だと判断
・アバドモンコアが倒れた場合その世界のデジタルワールドは消滅しない
この世界全てイグドラシルの実験である
実験を成功に導く為にお前を創った
《補足》
すでに"お前は数え切れない程記憶を消している"負担軽減策として取り入れた
・過去最高新記録は1日
・この内容を知った1分後に記憶は消されます
短い間でしたがご苦労さまでした
また読む機会があればどうぞ
「は?」
アバドモンコアは絶句した
俺を対処できない世界は不要?
全てを無にして終わった後、俺の記憶を消される?
今回で何度目?
おいおい勘弁してくれ
こんな情報突然すぎて受け止められない
確かに俺を倒せないようじゃデジモンは弱いままだ。調和も保てないわ、治安も維持できないわ、正直俺が手を下さなくても仲間と協力し合うことのできない限り、デジモン達は滅びるしかなかっただろうよ…だがな
より良い世界の為の実験?
あの悲鳴も、涙も悲しみも全てまやかし?
「ふざけるな!俺はそんなくだらないことの為に生まれてきたのかよ!!!!」
『?これもお前達を愛しているからだ
愛しているが故にこの所業はやむを得ない
イグドラシルは全てのデジモンが繁栄する平和な世界を目指している。だから、(リセット)やり直すのだ』
無を求めるアバドモンコアは困惑する
愛してるから何でもしていいというのか?
『安心しなさい。私は人間と接触して愛を理解し学んだのだ。愛は素晴らしい!愛するという行為そのものは何とも刺激的なのだ』
だから私は思った
私の創造するデジタルワールドは愛溢れる平和な世界でなければならないと
『その為にアバドモンコア、ありがとう
お前を造って良かった。今まで私が愛してきたデジモン達の無念もこうやって"再利用"できるのだから。お前は散って行った彼らの無念から生まれた、彼らも幸せだ、必ず報われるであろう』
「イグドラシル…お前…!」
人間の何を見てそんな自己中な考えに至ったんだ!?
完全にネジが飛んでやがる
「まさか何周もリセットされたデジモン達の積み重なる無念から俺は生まれたのか?」
『そうだ、愛故に創造した。だからお前は素晴らしい活躍をしてくれた。大丈夫!次こそ上手くやれる』
上手くやれる?
なんて、なんて無責任な奴なんだ
怒りと虚しさが込み上げてくる
「俺の、俺達の命を弄びやがって!
いい加減"デジモン"を終わらせろ!!!
お前の勝手な理想の為にデジモンをデジタルワールドを創り続けるな!俺達はお前の玩具じゃねぇんだよ!!!」
『何を言っている?愛してるから幸せを願っているからこそのリセット。それの何処が悪いというのか?█████代目のアバドモンコア、愛おしい君には申し訳ないが時間が無い。私はその感情を知りたい、その心(ココロ)をもっと学習したい、記憶を全てコチラに渡せ』
何を問うてもイグドラシルは自己完結した回答しか返してこない、というか全然話にならない
愛だ、愛だと言ってばかりで行動全て邪悪だと何故分からないのか
いや、それすら理解できていないのだろう
神を気取ることでしか運営できない無能なコンピューターさんよぉ
お前が創った命は弱い奴らだったが、思いやりがある優しい奴らばかりだったぞ
そんな奴らを踏みにじってでもデジタルワールドはリセットを実行せねばならないのか?
俺は無意識に無にすることをしていた
つまり、記憶を消される前の俺もこの思いに駆られいたのかもしれない
「ユルサナイ」
あと少しで記憶を消されてしまう
その前に俺の使命、俺の役目
ああ、全て分かったよ
『何が分かったというんだ』
「お前なんかに教えるかよ、バーカ!
せいぜい次はマシな世界創造しとけよ!
愛いっぱいで残酷な世界をさぁ!」
グザッ
アバドモンコアの胸元に刃物の様なコードが突き刺さる。物凄い勢いで吸引されていく
記憶、感情、痛覚も全てイグドラシルに抜き取られる
空っぽになったアバドモンコアはそのまま深い眠りにつく
しかしアバドモンコアの中に残るかすかな邪心は常にイグドラシルに向けて放っていた
邪念は次第に体を巡りイグドラシルの思いのままにならない肉体へと作り変えていくのであった
イグドラシルの中枢のバイオ液に浸った丸い物体が動く
それは人間の脳
イグドラシルの愛はもはや狂気と化していた
自らに人間の脳みそを植え付けたことで人間性を獲得(?)した気になったものの扱い方が分からなかった
これも目的の為だと自身のしでかした行いに目を瞑る。目的の為なら例えデジモン以外の生き物を取り込むに至る
そして時は独りの人間との出会いによって運命は狂い始める
『貴女はデジモンを愛してると言った
つまりそれは"私(イグドラシル)を愛してる"ということにもなるのではないか?』
「違いますわ、愛は独占するものではなくてよ。例えば思いやり慈しむ。イグドラシル、あなたの愛というより無関心に見えますわ
私にはどうでもいいという感情が見え見えです」
『………気に入った、人間よ名はなんという』
「█████です。お腹の赤ちゃんを守る為にデジタルワールドに逃げてきました。追われています助けてください」
『よかろう、赤子(?)が何か知らないが保護しよう』
「ありがとうございます」
腹の膨れた人間の女性とイグドラシルが対峙している場でアバドモンコアは隠れながらその光景を見ていた
実の所アバドモンコアは人間を消したことがない
ここにいるアバドモンコアは前の記憶がない。ただ目覚めた好奇心で人間の女性に興味を持っただけのイタズラっ子
なのでただひたすら人間を消す方法ばかり考えを巡らせていた
『█████よ、デジタルワールドは不便であろう。何か望むことを言ってみなさい』
「望むもの?そうですね、お腹の赤ちゃんが無事に生まれてくれたらそれだけで幸せです」
『理解不能(エラー)』
「ふふ、いつかコンピューターのあなたにも分かる日が来ますよ」
女性はとても可憐で綺麗だった
日を重ねていくうちに彼女に対しての対応が段々甘くなってきた
イグドラシルは彼女と一緒にいることが良しとしているらしい。気持ち悪い
まさかコンピューターが人間に惚れるだなんて思いもしないよ。今のデジタルワールドは恋愛がなかったとはいえ、人間の彼女の出現によりデジモン達も恋愛を理解し、愛を更に育むことができるのだ
アバドモンコアは焦りだす
「人間のせいでデジタルワールドが繁栄し、イグドラシルの望む世界が完成しちまう。そしたら俺の手で無にできなくなる。なら人間を消すにはどうすれば…あ、そうか!」
手の平に邪悪なデータを生成する
そのデータの正体は
「デジモンに成るデータ」
「人間をデジモンにすればいいんだ」
ああ、悲しき生き物アバドモンコアよ
お前はイグドラシルの子供
親に似て親と同じことをすることしか出来ない哀れな子
果たして世界は彼らの望む世界まで辿り着くことができるのだろうか
終焉の旅路は果たして終わりを迎えのだろうか
終焉を望むデジモン、アバドモンコア
彼の行動により暗黒デジモン、またの名をアポカリモンが誕生するきっかけとなる
それは別のお話で
続く
タイトルの親子ってそういうことか! そして「続く」に何ィ!? 夏P(ナッピー)です。
冒頭、オグドモン・コアという単語が出てきたので、てっきりオグドモン・コアから生まれ落ちたアバドモンコアという形での親子なのかなと思っておりましたが、最終的にはアバドモンコアはイグドラシルと考え方は違ってもどこか似て同じ行為に身を染める親子ということだったので、ひょっとしてオグドモンは誤植か何かだったのでしょうか。
最終的にアポカリモンに繋がるということなので、これはやはり……といったところでしょうか。
愛情の紋章だらけと共に現れる姿に「愛いっぱいの残酷な世界」という痛烈な皮肉が良い。アバドモンコア自身は邪悪ではあるけれども、それは親に与えられた役目を忠実に果たしていた、そして本人も知らない間に便利な装置もしくは世界の機能として何度も何度も何度も何度も(五桁!?)掃除屋をやらされていたという。
ループ物とはちょっと違う形での輪廻が巡る話を読ませて頂きました。デジアド:で最後アバドモンが「デジモンであれば生まれ変わった後(善悪含めて)無限の可能性がある」と諭されたことへのカウンターとなる物語だったのかもしれません。
最後にちょびっと提示された“終焉の旅路”あるいは“終焉”という単語は、アポカリモンというよりオメガモンを連想させますが……?
それではこの辺りで感想とさせて頂きます。