人類がデジモンと呼ばれる不思議な生き物と出会ってそれなりの時間が経った。
当初はお互い不干渉を前提に共存の在り方を探っていたが、それぞれの中で誤ったデジモン像や人間像が膨らみ問題になることも増え、関わりが増えて自然にゲートが開いてしまう事も多くなった。
そこで、交換留学が行われることになった。
デジタルワールドでは性質ごとに別々の学校に行くのが一般的なため、性質ごとに男女一人ずつ、十六人の『選ばれし子供達』が留学することになった。
竜、水、聖、獣、暗黒、虫・草木、機械・変異、そして鳥。
私は交換留学生の中の一般枠に選ばれ、鳥の学校に行くことになった。
「……ピナモン、また会えるかな」
子供の頃、人間界に迷い込んできたピナモンというデジモンと一夏を過ごした経験を買われてということになる。
「ピナモン、資料にあった一緒に一夏を過ごしたというデジモンだな?」
丸い紫色の球体の身体に赤いトサカ、鶏の様な姿のデジモンがそう私に話しかけてきた。
彼はシンドゥーラモン、私が通うことになる朱雀学園高等部の同級生であり、今回の交換留学のデジモン側のサポート窓口でもある。
「うん、といっても十年以上前だから向こうも覚えているかどうか……」
「まっ、学校もここしかないでもないし期待しないほうがいいだろうなぁ」
「だよね……」
「でも、近い種の繋がりは結構あるから、こっちで色々仲良くなったりすれば知ってるやつには会えるかも」
シンドゥーラモンはそう言ってかかかと笑った。
「うん、頑張るよ!」
「あ、あと『パートナー』の件も忘れずにな」
『パートナー』、この交換留学はデジモンと人間の交流促進が最終目標にある。
だから、私の態度に問題などがなければ、高校の一年間を朱雀学園で過ごした後もデジタルワールドに留まれたり、人間界でもデジモンと暮らせる権利を得る。政府が管理する為に一緒に暮らすデジモンは一人だけで、登録もしなければいけない。
その一緒に暮らすデジモンが『パートナー』。
「人間界への渡航権にもなるから、ちゃんと考えてな」
これは、私が最高のパートナーと一緒になる物語。

☆☆☆☆☆
コンコンと寮の部屋の戸を叩く音がして開けると、シンドゥーラモンがいた。
「寮の設備面で問題はあるかな?」
「あー……トイレの配管が細い気がするかな」
寮のトイレは小型から大型まで三種類ある、扉の大きさがちょうど良かった中型を選んだのだけど、配管が細くて不安になるぐらいだった。
「鳥デジモンは飛ぶ為に頻繁にトイレに行く種が多いから、体格に対して配管が細いんだよな。大型種向けのトイレを選ぶといいだろう、寮や校舎の新しいトイレは本来の便座の上に便座がつけられる様になってるぞ」
シンドゥーラモンはそう言った後、一通り部屋を見回して、一枚のプリントと赤い蝶ネクタイを一つ取り出した。
「よしっ、じゃあサポート役として、今後のサポートについての案内な」
紙にはデジモン側からのサポートの詳細が書かれている様だった。
「まず、基本的に、今後俺のサポートは基本ないものと思ってくれ」
「え!?」
「放り出すってわけじゃないさ、人間界から取り寄せする品物があるとか、傷害事件・事故が起こった時なんかには、こっちも対応する責任があるもんな」
困惑する私に、シンドゥーラモンは言いたいことはわかるぜと頷いた。
「でもな、人間とデジモンの差は大きいだろ? だから、トラブルを無くすことは多分無理だし、小さなトラブルならサポート役なしで周囲のデジモンに相談して解決できないと、今後の交換留学ってのは難しいよなって話なんだ」
確かにそうなんだろうけれど、正直なところ不安は大きい。
「……当然、どれだけサポートの介入が必要だったか、は『こっちで暮らせる権利』の取得にも関わってくる。パートナー一人いればこの世界で暮らせるってことを示してもらえないとだからさ。ピナモンを探すんなら、欲しいだろ?」
それは欲しい。私は強く頷いた。あのピナモンに会って、また明日も遊ぼうって約束を守れなかったことを謝るんだ。
「まぁ、心配すんなって! サポート役としては、って話だからな。クラスメイトとして恋バナの相談とかには乗るからさ!」
パートナーにするにあたって素性調査もあるし、とシンドゥーラモンはぼそっと呟いた。
「ありがとう、シンドゥーラモン」
「おう、じゃあまた明日、入学式の後の教室でな」
そう言って、扉を開けてシンドゥーラモンは出て行った。
「あ、忘れてた」
戻ってきた。
「その蝶ネクタイ、もし暴力に訴えかけられそうになったら使えよ。デラモンってデジモンになれる。長時間つけ続けると取れなくなるから、つけたまま寝たりとかは禁止な!」
じゃあな、と今度こそシンドゥーラモンは出て行った。
私はとりあえず鏡の前で、プリントと一緒に渡されていた赤い蝶ネクタイを着けてみた。
すると、あっという間に身体が縮んで、頭に金色の王冠を被り、背中に木を背負った青と白の羽毛の鳥デジモンに姿を変えてしまった。
「わぁお……すっご」
くるっと一回りしてみる。この姿ならば誰もデジモンだと思うことはないだろう。
「服着てないのだけ気になるけど……そこは、デジモンの感覚に慣れるしかない、のかな?」
一通り楽しんだ後、私は蝶ネクタイを外し、政府支給のなんちゃって制服の上着ポケットにそれを入れた。
「明日の入学式、楽しみだなぁ」
☆☆☆☆☆
余裕を持って寮の部屋を出たはずだった私は、学園の中で迷子になっていた。
この朱雀学園、新入生向けの案内の通りに行くと、当たり前の様に道が途切れて飛んで超える様書かれていて、飛べるデジモン向けの構造であることを嫌というほど思い知らされた。
メンテナンス用らしい階段を降りて登って降りて登って、どうしても見つからないところをどう渡ればとぐるぐる探し回っているうちに道を見失ってしまった。
「おーい、なんか困り事か?」
不意にそう声をかけられて振り向くと、青い仮面をつけ、背中からコウモリの様な翼を生やした四足獣のデジモンがいた。
このデジモンも鳥の分類でいいのだろうかという姿で、猫のように頭を下げてるのにそれでやっと視線が同じ高さになる大きさ。
でも画面の下の瞳はとても優しげに見えた。
「ん……? もしかして、人間か? 入学式はどうした?」
そのデジモンはそう言って不思議そうな顔をした。
「あ、はい。なんとか飛ばずに行ける道を探そうとして迷ってしまって……」
「そういうことか……時間がないから今は俺が送るけど、入学式が終わったら生徒会室に来るといい。マップをあげるよ」
前足に私が捕まると、そのデジモンはもう片方の前足でそっと包み込むようにすると、翼だけはためかせてゆっくり飛び上がった。
助走して加速してから飛ぶタイプの骨格に見えるけれど、私に気を遣ってくれているのがわかる。抑えるような前足で風も防がれて、飛んでいる間に感じる風は心地いい程度だ。
上空から見ると、学園が縦にも横にもあまりに広いことがよくわかる。人間が過ごすには何か乗り物がいるんじゃないか、この広さ。
「……全く飛べないと多分苦労することも多いだろうけど、困ったらいつでも生徒会に相談しに来いよ」
「はい、あの……名前聞いてもいいですか?」
ゆっくりと旋回しながらホール手前まで降りていく。
「俺は三年のグリフォモン。じゃあ、他にも迷子がいないか見回ってくるからこれで」
私の名前を告げる暇もなく、グリフォモン先輩は走って飛び立ってしまった。
「……行っちゃったけど、カッコいい先輩だったな」
さて、新入生はどこにいけばいいのかなと辺りを見回してみる。
デジモンは年齢以前に種族差が大き過ぎて新入生も在校生も全然区別がつかない。せめてお揃いのリボンでもしてれば話が早いんだけど。
「あら、あなたそんなところで固まって何してるのかしら?」
不意に上空からそんな声が降りかかってきた。
「へ?」
紫、水色、ピンク、目に鮮やかな三色の鳥デジモンが私のことを見下ろしていた。
「オニスモン様、アレ人間ですよ……! 交換留学で来るっていう……!」
「あら、じゃあ足元のデジ文字がよく読めなくて突っ立ってたってことなのかしら? あなたが行くのは左よ」
足元、と言われて見てみれば、地面にテープか何かで新入生、在校生と案内が貼られている。
体格差が大きいから看板とかよりこの方が効率的、ということだろうか。
「あ、ありがとうございます!」
私がそう礼を言ってお辞儀をすると、オニスモン先輩の足元にいた別のデジモンにぐいっと肩を押された。
「礼を言うならさっさと退きなさい! オニスモン様の通行の邪魔よ!」
「やめなさいな、みっともない。言わなくても退いてくれるわよねぇ?」
そう言葉を発した口と私の距離はあまりに遠い、なのにその遠くからでもはっきりと見えるほどその瞳は大きかった。
もちろんですとかなんとか言って、私は急いで教えてもらった方向に走った。
オニスモン先輩、綺麗だけどちょっと怖くて、でも教えてくれたから優しいのかもしれない……よくわからない人だった。
☆☆☆☆☆
「こっちかな?」
新入生らしいデジモン達の列に並び、名簿から名前を探してさらにクラスごとの列に移動する。
「おーい、君はこっちだよ」
一年一組の列に並んでいると、半鳥人とでも言うべき、下半身が鳥らしく腕の側面に翼も生えた人型のデジモンが声をかけてきた。
首につけた教員の証のスカーフの二色の組み合わせでそれが自分のクラスの担任だと認識する。
「え、と……シルフィーモン先生?」
「お、ちゃんとプリント確認してきててえらいねぇ。私がシルフィーモン、君の担任だよ。君は最初に入学式で壇上に立ってもらう。簡単に挨拶ぐらいしてもらうから考えてね」
正直全然ヒトとは違うけれど、鳥のデジモンに囲まれたこの環境だと、シルフィーモン先生はなんだかとても安心感がある。
「……挨拶?」
それはそれとして挨拶は聞いてない。
「簡単なので大丈夫、人間と思わず悪ふざけで攻撃する子でもいたら危ないんじゃないかってことでの顔見せだから」
デジモンって悪ふざけで攻撃するんだ。
「確かに、悪ふざけでビーム撃つぐらいならやっちゃう子はやっちゃうねって話になったんだよ」
悪ふざけでビーム撃つんだ。
☆☆☆☆☆
そういう訳で、私の入学式はわやわやで終わった。壇上に立たされた後の記憶がない。
先生が弱めの成長期ぐらいの強さという謎の単位を出したことと、在校生の中からビームが飛んできてすぐ横を通ったとこまでは覚えている。
それから、シルフィーモン先生に連れられて私達はクラスの教室まで移動した。
席はかなり個性的な作りで、椅子になったり止まり木になったり変形する作りらしい。種によっては無い方が楽ということまである様だった。
流石にオリエンテーションの内容は人間界と大差なく、つまらない説明が何事もなく終わった。
そして、クラスメイト達はあっという間に周囲のデジモン達と交友を深めるべく、数人ずつで固まりはじめた。
「あれ、人間だよな」「人間って過激派がちょこちょこなんか事件起こしてたよな」「十年ぐらい前だけど鳥デジモンの誘拐とかもあったし」「興味はあるけど子怖さが勝つよねー……」「わかる、最初に行くのは無理だよねー」
ちらほらと、周囲の話の種にされているのは聞こえるものの、誰も話しかけてはこない。
そりゃそうだ。人間がらみで色々あったから企画された交換留学だし、イメージが良くないところでは良くないに決まってる。
さて、どうしたものか。比較的怖がってなさそうな子を選んで声をかけて、とりあえず生徒会室へ行かないと学校生活自体ままならなさそうだし。
「ねぇ、君一人で帰れるの?」
そう声をかけてきたのは、ゴーグルをかけた黒っぽくて細長い口ばしの鳥のデジモンだった。
「私は中等部から通ってるから多少詳しいんだけど、この学園、歩いて外に出るの難しいし、登校してくるのも難しかったんじゃない?」
「実はそうで、来る時はグリフォモンって先輩に助けてもらって、生徒会室に地図を受け取りに行こうかなって……」
「それ、私の兄さん」
「え!?」
「……似てないのはわかってる。で、生徒会室への行き方はわかる?」
ゴーグルの奥の目が一瞬しかめられたが、すぐにまた元の様に変わった。
「……わかんないです」
「案内するわ。飛べないと本当に不便な作りしてるから、この学園」
「ありがとう、えーと……」
「シーチューモン、今後も何か困ったら頼ってくれていいから」
彼女がそう言ったのを聞いて、なんとなく私は笑った。
「何かおかしなこと言った?」
「グリフォモン先輩も同じ様なこと言ったから、似てるなって」
私がそう言うと、シーチューモンが少し微笑んだ様な気がした。
「じゃあ、行くわよ」
☆☆☆☆☆
校舎内を歩いていく。頭の上を他の生徒達が飛んで他の階との間を行き来しているのを見上げながら廊下を歩いていく。
「各階のトイレの位置は同じだけど、階によって廊下の途切れている位置が違うから気をつけて」
「なんで一つ大きな吹き抜けじゃないの?」
「鳥のデジモンも落下すれば怪我するし、この建物の高さだと死にかねない。デジモンだからってみんながみんな強いわけじゃないの」
シーチューモンはそう言ったあと、小さく兄さんみたいにねと呟いた。私は聞こえなかったフリをした。
階段はほとんど誰も使ってない様で人通りもほとんどなく、それどころか階段周りは明かりも幾つか切れているようで、普段使われていない分管理も行き届いていないようだった。
「……灯り、持ってる?」
一瞬疑問に思ったけれど、もしかすると暗いところだとよく見えないのだろうか。
スマホのライトを、と取り出そうとして、ポケットのどこにもないことに気づく。そういえば朝から使っていない。多分、寮の部屋だろうとは思うけれど。
「えと、あ、そうだ。手つなぐ?」
そういえば、ピナモンも鳥目で、遊び過ぎて暗くなった帰り道では、私が抱えて帰ったっけ。
「……アレ、委員長じゃない」
不意にそんな声がして、次いで羽音がしたと思ったら、艶やかな美しい黒の羽毛と金色の仮面、そして足が三本のデジモンが私達の前に二人降り立った。どちらも似ているけれど、骨格から違う。仮面の意匠も片方は機械的でもう片方は神々しさがあった。
「……ヤタガラモン、こんなところで何を?」
シーチューモンは嫌そうに闇に溶け込みそうな二体のデジモンに尋ねた。
「それはこちらのセリフ。普段あまり人がいないから、ここって逢引きスポットなんだけど……人間と逢引きとはなかなか素敵な趣味ね、委員長」
私を見て、神々しさを感じる方のデジモンがそう口にした。馬鹿にしているというのは私でも雰囲気で分かる。
「……そうでしょ? 私達、これから生徒会室に行くの」
シーチューモンはそう言いながら笑顔を作った。声は朗らかすぎて笑っていなかった。
「……へぇ、半獣のお兄様に何かおねだりでもしに行くの?」
そうそのデジモンも朗らかな調子で口にした。
「えぇ、といっても生徒会で配ってるものを受け取りに行くだけ。四六時中双子の弟を連れまわしている誰かさんと違って、自分の都合で振り回したりしないわ」
「そう、それはそれは……」
またそのデジモンが口を開こうとしたのを、もう一人のデジモンがくちばしを掴んで止めた。
「悪いな委員長。昔人間がらみで色々あったから……こいつ、数少ない友達のお前が人間といるのが気に食わないんだ」
淡々とした調子で機械のような仮面の方のデジモンはそう言った。
「私は委員長のことを友達だなんて思ってない!」
「……私も思ってませんけど?」
シーチューモンがそう言うと、神々しい仮面の方のデジモンは明らかに悲しそうな顔をした。
「……な?」
機械のような仮面の方がそう言って、私は思わずうなずいた。
「やっぱり私人間嫌い!」
そう言って、神々しい仮面の方が飛んでいくと、もう一人もまた悪いなと言ってから飛んで行った。ちょっとかわいいかもしれないと思った。
「そういえば、ヤタガラモンって言ってたけど……どっちがヤタガラモン?」
「どっちも……人間もやっぱり羽毛が綺麗な子は気になるんだ?」
鳥デジモン的には羽毛の色合いはステータスらしい。人間も髪とか目とか気にするし、そういうことだろうか。
「でも、シーチューモンさんの尻尾のうろことかも私は綺麗だと思うよ」
「……変な趣味してるのね、他の娘に言うのやめた方がいいわよ」
そう言ってそっぽを向かれてしまった。
これは変な趣味だったらしい、どうもよくわからないけど、そういうことらしい。難しい。
☆☆☆☆☆
ちょっと距離を感じながらも、生徒会室まで辿り着いた。
シーチューモンがコンコンと足でドアをノックして、扉を開く。
「失礼しまーす」
「あら、グリフォモンの妹さんと……今朝の人間ね。また何か困ってるのかしら?」
そんな声がはるか高いところから降ってくる。
「オニスモン会長、お久しぶりです。私は付き添いで、兄に用事が」
シーチューモンがそう言うと、久しぶりねとオニスモンは頭をぐっと下げた。オニスモン先輩が生徒会長だったんだ。
「でも残念ね……今ちょうどグリフォモン、どこか行ってしまったのよ」
オニスモンがそう言うと、不意に部屋の扉がきいと開いて、後頭部にもふと何かふわふわの毛が当たった。
「お? もう来てたのか」
見上げると、グリフォモン先輩がいて、私は彼の胸元の羽毛に頭を突っ込む形になっていた。
「……兄さん、呼んでおいてどこ行ってたの?」
「生徒会室がどこかを教えてなかったからな。クラスまで探しに行ってたんだが、シーチューモンが案内してくれたんだな」
そう言ってグリフォモン先輩はシーチューモンの頭を前足でポンポンとした。
「兄さん、子供扱いしないで。それより地図は?」
「そうだったな。じゃあこっち来てサイズ選んでくれ」
グリフォモン先輩はひょいと私の上をまたいでパソコンの前に陣取った。
「あら、先に印刷しておかなかったの?」
「学園だと、紙で欲しい時はみんな自分のサイズに合わせて図書室で印刷するのとか当たり前だから、それの練習もできたらと思ってな」
ふーん、とオニスモン先輩はそう言って頭を上げると元していたらしい作業に戻ってしまった。
私はデジタルワールドの用紙サイズの幅の大きさに面くらいつつ、足元に投影されたタッチパネルを操作してA3ぐらいだけどほんのり違うサイズの地図を印刷する。これより小さいと見にくいぐらいのサイズだった。
「このあとは何か予定あるの?」
シーチューモンに言われて、私は少しスマホを落としたかもしれないことが気になっていたが、いや、ないよと首を横に振った。
「じゃあ、寮までは私が送っていくわ。地図を読み違えるかもしれないし」
「うん、よろしく」
私がそう言うと、心なしシーチューモンが笑ったような気がした。
「また何か困ったら、おいで」
グリフォモン先輩はそう言って、前足をちゃんと上げて生徒会室を出る私を見送ってくれた。
そのあと、シーチューモンと一緒に道を確認しながら寮まで帰った。
「じゃあ、これで」
そう言って、寮からシーチューモンが飛んでいく。
「また明日! シーチューモン!」
「また明日」
私の言葉にシーチューモンはそう言って、さらに私の名前を続けた。
私はさらに手を振ってそれを見送った。
☆☆☆☆☆
「あるとすればこの辺りの筈……」
寮の部屋に戻ってスマホを探してもなかったので、グリフォモン先輩に拾ってもらった辺りまで歩きながら探していく。
「ねぇ、探してるのってコレ?」
ふと、そんな声がした方を見ると、鳥と言うよりも音符に蝙蝠の翼が生えたような奇妙だけど癖になる愛らしさのある見た目のデジモンが、スマホを咥えていた。
「それ私の! ありがとう! 探してんだ〜!!」
私がそのデジモンに手を伸ばすと、不意にバチッと音がして、私の横を電撃が掠めた。
「サウンドバードモンから離れろ」
額に稲妻の形の角を生やし、全身にも同じ形の黄色い模様が入った蒼く凛々しい鳥のデジモンが私を睨みつけていた。
「サンダーバーモン! ちがうよ、ぼくが落とし物を拾って渡そうとしたから受け取ろうとしただけなんだ!」
サウンドバードモンが小さな身体で必死に割って入ってスマホを見せつける。
「……人間だろ。わざわざ自分と同じ種族が固まってるとこから出てくるようなやつ、俺達には無縁の存在だろ。近づかない方がいい」
サンダーバーモンは、サウンドバードモンからスマホを取り上げると、ぽいと投げ捨て、さらにサウンドバードモンを咥えて飛んでいってしまった。
「……なんだったんだ、一体」
でも、もしまた会えたらサウンドバードモンにはもうちょっとちゃんとお礼が言いたい。サンダーバーモンは、ちょっと会いたくないけど、あの威圧感は上級生かな。
さて、寮に戻らなきゃ。
☆☆☆☆☆
寮の部屋に戻ると、シンドゥーラモンが扉の前で待ってた。
「入学式の日からよっぽど遊んだみたいだな。監視役として何かあったら記録いるから、一応聞かせてもらおうか」
「うーん、でも大したことは……」
「真面目な話、接触した中に過激派の縁者とかいないかも調べなきゃだから、大したこと話してなくても関わったデジモンは教えてな」
「じゃあ……」
私は今日会ったことをシンドゥーラモンに全部話した。
「ふむ、グリフォモン副会長にオニスモン会長は三年、サーチャーモンはクラスメイトで、ヤタガラモンの双子は確か二年だったかな。一応あの二人も生徒会なんだぜ、クールな方が書記で優雅な方が会計だ。サンダーバーモンとサウンドバードモンは……知らないなぁ」
「シンドゥーラモン、高等部の生徒みんな覚えているの?」
そんな大したことできないってとシンドゥーラモンは笑った。
「目立つやつとクラスメイトぐらいだって。アーマー体と成長期、どっちも高等部はもちろん中等部でもまぁまぁ目立つ世代だからいたらチェックしてるはずなんだが……中等部生かな」
「中等部かぁ……じゃあ、次会えるのはいつかわからないなぁ……」
「まぁ、中等部寮は隣だし、この時間に外にいたなら寮生だろ。すぐ会えるさ」
ほら窓からも中等部寮が見えると、シンドゥーラモンはそとを翼で指した。
「そっか……そういえば、なんでシーチューモンが委員長って呼ばれてるか知ってる?」
「中等部で三年間クラス委員長やってたかららしいな。生徒会役員も書記と副会長をやってたらしい」
「マジで知ってるのなんかキモいな……」
私がそうため息を吐くと、蹴り飛ばしてやろうかと言った後、そういえばとシンドゥーラモンは別の話を切り出した。
「お前、ちゃんと名乗ったか?」
「え? 言われてみれば名乗ってないかも……」
こっちに自分の種族は教えても、誰からも名前を聞かれなかった気がする。
「デジモンは同種がそばにいない方が多いから、悪気なく人間呼びしてくるぞ」
「そうなの!? 同種のデジモンとか同時にいたらどうするの?」
「学校なら、何年何組のシンドゥーラモン、みたいに区別するかな」
クラス分け名簿だと出身地名とかで分けて、普段困らないようになるべく同じクラスには同種がいないようにしてたりするんだぜとシンドゥーラモンは言った。
「えー……デジモンの感覚、わかんない……」
「んー、こっちとしては同種だらけの方がわからない気もするが……そうだな、深い関係になると愛称とか付けるのはデジモンも同じ。『種族じゃなくて特定の誰かを指す言葉で、しかも自分だけが使う名前で呼ぶこと』、それがデジモンにとっては結構な親愛表現なんだぜ?」
「なるほどね……それ、名前で呼ばせようとするのって勘違いされない?」
普通に接してもらおうとするだけで、何股もかけようとしてるみたいに勘違いされるのはちょっと流石によろしくない。
「人間界では当たり前って言えばわかってくれると思うし、仲良くなりたい相手に言うなら、まぁ意図した以上に効果あるんじゃねぇかな?」
けらけらと笑うシンドゥーラモンに、私は一回ぶん殴ろうかなと思った。
そういえば、シーチューモンは私の名前を知ってるみたいだったのはなんでだろう。私だけどこ出身のナニナニモンって表記じゃなかったから、目についたのかな。
それとも……
「シーチューモンがピナモンだったりするのかな……」
わからないけど、また明日会えるのがちょっと楽しみだった。
うーむ、これはどれが恋かがわからない。夏P(ナッピー)です。
タイトルからしてハリポタ的な複数の寮が存在して青龍朱雀白虎玄武のどれかの寮に入寮してそこで──みたいな話であるはずがなく、これは良い乙女ゲー。シンドゥーラモン氏に話しかけると
「おう、今日は何をするんだ?」
⇒部屋で休む(セーブ/ロード)
好感度チェック
学校の外へ出る(アイテム購入)
DLC(●レイステーションストアに移動します)
みたいなメニュー出る奴だ……とか言ってたら後書きで既に言われててダメだった。お前は攻略できないんかい!? やたら目立つのに操作できないスピードワゴン状態。このモードはエネルギーが溜まっている分だけ、無料で遊べちまうんだ!
ヤタガラモン氏が二名いらっしゃいますが、これはアクセル版とセイバーズ版ということでいいんでしょうか。グリフォモン兄さんも含め、最初に名前で呼んだ奴でルート確定するんだ多分。シルフィーモンが一番攻略しやすい気もするのは多分サロンに投稿されてる某御方の影響。
ピナモンは一応ヤタガラモンの幼年期だったな……。
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。