金属質な響きを持った澄んだ声。
月光をくしけずったような黄金の長髪。薔薇の模様が入った仮面。すらりと高い背丈。純白の上着を纏い、頭部には白銀の冠を飾っている。足には硝子の靴。
大変美しいデジモンだ。
彼女はサンドリモン。パペット型の究極体。
某月某日。
「サンドリモンが持つ硝子の靴が欲しい」という依頼を受けた僕達は、火山地帯にある「灰かぶりの城」に向かい、そこでサンドリモン達と戦闘になった。
何とか勝利した僕達は、彼女から硝子の靴をもらい、依頼人に渡した。話はそれで終わり。
そのはずだったのだが……。
「我が城での貴方の立ち回り、大変素晴らしいものでした」
何故だか、彼女は僕達の前にいた。
「戦ったのは、リリモン達だよ。僕は君に褒められるようなことは、一切していない」
「過ぎた謙遜は、自他共に毒ですわ。私の目は節穴でなくてよ? 貴方も武器を振るっていたのを、私は見ていました。私に膝をつかせた一撃……あれは確かに貴方のものです」
「それはどうだろう……覚えていないな」
「ふふ……意地の悪い方ですこと」
その微笑みだけで、どれだけの者が虜になるだろう。そんな不謹慎なことが頭に浮かんだ。
「今日は、何の用があってこの町に? 依頼なら、一回テイマーチームを通した方がいいよ」
「残念ながら、依頼ではありません」
依頼ではない。その言葉に疑問符が浮かぶ。なら、彼女の目的は一体何だ? 依頼でもなければ、ここに彼女が来る理由など、無いだろうに。
そんなことを考えていると、サンドリモンが僕の手を握ってきた。
「私の目的は、貴方です」
「?」
彼女の目的が僕? それは一体どういう──。
「私の王子様。貴方と夫婦になるために、お迎えにあがりました」
「「ええーーーーーー!?」」
リリモンとブルコモンの叫び声が、ビリビリと大気を揺らした。
「え、え!? 夫婦!? 夫婦ってことは、結婚? ……駄目よ結婚はお互いの気持ちが、ってそうじゃなくて!」
「結婚って本気か!?」
「ええ、本気です。私は彼を夫に迎えるつもりです」
「は……?」
キッパリと告げられた言葉に、僕は間抜けな声を出すことしかできなかった。王子様? 結婚? 夫婦? 何だ? 何をどうしたら、そんな話になる?
「意味がわからない」
思わず、本音が口からこぼれる。……恐らくだが、僕以外が同じ状況になっても、僕と同じ心境になるだろう。
すると僕の混乱を他所に、背中と膝の下に手を差し込まれ、柔らかく体を持ち上げられた。
それは、俗に言うお姫様抱っこ。
僕も稀に、リリモン達にするそれ。
「さあ、私の王子様。共に城に参りましょう。早く婚礼の準備をしなくては」
「ちょっと待って!」
「そうだ待って! 貴方のしていることは誘拐だ!?」
「まあ、誘拐とは失礼な」
リリモンとブルコモンが、慌てた様子でサンドリモンを止めに入る。てんやわんやの大騒ぎになってしまった。通行人がいないことが唯一の救いである。
……いや。もしかしたら、いた方が良かったのだろうか?
意味のわからない状況に、僕の脳裏に場違いなことばかりが過った。
「——おい……さっきから話を聞いていれば、好き勝手言って……どういうつもりだ!?」
地獄の底から響くような、寒気のする声。先程から沈黙していた、ベルスターモンの声だ。
殺気を滲ませながら、ベルスターモンがサンドリモンの額と思われる場所に銃を当てる。
ちり、と空気に火花が散った気がした。
「どう、とはどういうことなのでしょう? 彼を私の王子様として迎える。それだけでしょう」
「それだけ!? ふざけるな! そいつは私の男だ! 速く返せ! お前になんか渡せるか!!」
「まあ? この方は私の王子様でしてよ? 一体いつ貴方のものになったのです?」
「お前が来るずっと前からだ!」
いや違う。一体いつの間に、僕はベルスターモンのものになったというのか。そんな記憶は一切無い。
「闘技場に行くぞ……私が勝ったら、大人しくお家に帰りな!」
「私が貴方に負けるとお思いで?」
「は……吠えていられるのは、今のうちだ」
絡み合う視線は、刃のように鋭い。
頭上で繰り広げられる静かな戦いに、僕はため息を吐くしかなかった。
そういえばサンドリモンってパペット型なのでした。夏P(ナッピー)です。
公式設定にある「舞踏会という武闘大会を開き~」という高度なダジャレも何のその、というか公式設定どおりの展開でした。ガラスの靴の設定や効果を知っていれば、それを手に入れることがどんな事態を招くかわかっていたろうに……そして修羅場。結局ここでも武闘大会やるんじゃないか!!
リリモンとブルコモンが常識人というか「あなたのしていることは誘拐だ!」が真っ当すぎて少し笑いました。意味が分からないという本音も本音すぎる。
ベルスターモンは銃使いと仲良くなれるらしいので、ガラスの靴をキャノンにできるサンドリモンともいずれ仲良くなれるんじゃなかろうか……?
それでは今回はこの辺で感想とさせていただきます。