・
第35話:天覆いし鋼の樹
その時、園田靖史は自身の抱く感情が何であるか、理解できなかった。
皆本環菜は微塵も揺るがぬ瞳で園田靖史の現在の在り方を否定した。お前の戦いは間違っているのだと、お前の胸に根差す思いは何の得も生み出さないと。それは違うと言い返したかったのに、言い返せなかった。それはつまり、靖史自身にそう信じる心があるということ。
それを認めたくないというのに、先程の環菜の冷徹な表情が脳裏には焼き付いている。彼女が語った言葉が大脳を破裂させんばかりに延々と繰り返され、園田靖史の心を侵食してくる。それが戦闘を終えて疲弊した靖史には何よりの苦痛となる。頭をコンクリートに叩き付け、脳天を砕いてやろうかと、本気で思った。無論、それが実行に移されることは無いのだが。
その理由の最たるものは環菜が語った通りである。要するに、園田靖史は死にたくなかっただけなのだ。
「何で……何で……何でだよ……!」
ダスクモンとして戦いに負けたことよりも、園田靖史として言い負かされたことに対する苛立ちの方が遥かに大きい。渡会八雲、長内朱実、そして皆本環菜。この世界に残されたという人間の中で彼が知る者達は例外無く園田靖史を超える何かを持っていた。ダスクモンの力を手に入れて互角――否、スピリットを用いて尚も対抗できるか判然としない化け物達である。
環菜と戦う前まで抱いていた、八雲に対する陶酔に似た勝利感など既に吹き飛んでいる。今の靖史の心には、今まで心の内に溜め続けた他者への羨望と嫉妬のみ。
『……情けない。それでも闇の闘士を名乗る者だというの?』
「なっ……!?」
不意に響く声は彼以外の誰にも聞こえなかった。それは喉に引っ掛かるような印象を持ちながらも少し甲高く――そう、まるで女性のような声だった。
「だ、誰だ……?」
『ああ、やっぱりね。スピリットを託した時から不安だったんだけど……もう俺の声も忘れたか? 園田靖史』
「……その声。ま、まさか――」
唐突にトーンの下がったその声は、聞き間違えるはずも無い、闇の闘士の幻影の声。かつて融合世界にて瀕死の状態に陥った園田靖史に闇のスピリットを託し、静かにデータの粒子と化して消滅の憂き目に遭ったはずの存在。
それが今、園田靖史の心の中から靖史自身に語り掛けているのだ。しかも靖史に闇のスピリットを授けた時と同じ、明らかに女性だと思わせるような口振りで。
「い、生きてたのか。俺はてっきり――」
『死んだ……ね。残念だけど、既に自我を失って久しい私達十闘士に明確な死、完全な消滅なんて存在しないわ。……とはいえ、私を含む十闘士は須らくかつて人間として生を営んだ者。けれど月日が経てば死の記憶とて磨耗する。それは炎の闘士も光の闘士も、私達十闘士は全て同じこと……ん? ああ、光の闘士だけは違ったかな。未だに自分の死に際に捕らわれてるものね、あの女は』
かつてダスクモンだった者の声は明らかに女性の色を持っていたが、確かにその声音は無機質で冷徹な闇の闘士として納得のできる声だった。無味乾燥という表現が一番正しいだろう。奴は確かに言葉の上では光の闘士のことを愚弄しているのかもしれない。だが、そこにそれ以上は無い。奴の言葉には何の感情も篭められていないのだ。単なる棒読みとは違い、口調には抑揚も緩急もあるのに、そこから何も感じ取ることはできない。
それが自分の頭脳に直接話し掛けてくる事実に、園田靖史は狼狽を隠せない。
「なっ、なら教えろ! 何で俺にこんな力を!?」
『……必要無いというの? てっきり、あなたには必要だと思ったのだけどね。その力で憎き渡会八雲を黙らせ、思う存分破壊の限りを尽くせたんだもの。少なくとも、凡人の園田靖史には到底味わえない高揚が楽しめたと思ったけど。……今更そんな力は要らないとでも言う気かしらね……!?』
再び声のトーンが下がる。まるで心臓を鷲掴みにされているような錯覚。奴の声にはそれだけの威圧感が存在した。
「で、でも俺は――」
『ねえ園田靖史……あなたには崇高な目的があるんじゃないの? 渡会八雲を倒す。……今まで親友という仮面を被って自分を馬鹿にし続けてきた、そんな許せない男を倒す。さっき、あの紛い物にも言ってたわよね。……そう。あなたは渡会八雲を倒すの。倒さなきゃならないのよ。そうしなきゃ、あなたがあなたでなくなってしまうからねぇ?』
背後には間違い無く誰もいないはずなのに、その時靖史は首筋に息を吹き付けられたような錯覚を覚えた。
奴は声だけで靖史を誘惑する。先程まで無味乾燥だったその声色に、いつの間にか淫靡な色が加わっている。その声は環菜が先程必死に闇から引き戻そうとした靖史の心を、更なる深みへと落とし込んでいく。
つまるところ、その声は靖史を巧みに先導しているのだ。もっと先へと、もっと闇へと。
『無論、人一人の命だもの。あなたの迷い、躊躇いは人間として当然のこと。とても好ましい考えよ。でもね、園田靖史。万が一あなたがダスクモンとしてその目的を完遂できたとして、その行為が結果的に世界を救うことになるとしたら……どうする?』
「俺が……世界を?」
『その通りよ。仙川……いえ、渡会八雲はいずれ必ず世界を滅ぼすことになる。世界を滅ぼさなければならない理由が、彼にはあるの』
それはまるで、八雲の人生を見てきたかのような言葉だった。妙に達観した色がある。
「な、何で八雲がこの世界を滅ぼさなきゃならないんだ。……理由を言えよ」
『彼の夢は知ってるわね? 渡会八雲は悲しみを認めない。絶望を許さない。理不尽な死の横行を否定する。当然、この世界はそれら全てが罷り通ってしまう世界。……だとしたら、彼がこの世界で自分の夢を叶えようとすれば、世界を滅ぼす以外に方法は無いわよね?』
そういえば、と何気なく靖史は思い出す。
八雲の夢を聞いたのは最近のことだ。だが彼が誰かの悲しむ姿、誰かの泣く姿を嫌っていることは昔から知っていた。中学生の頃、大して関わりの無い女子が虐めに遭っていた時、普段は何事にも受身の八雲が積極的に問題解決に乗り出していたことは記憶に新しい。
無論、だからと言って彼が悲しみを無くすためだけに世界を滅ぼすなんて言葉を信じられるわけではない。だが相変わらず直接脳に響いてくる声には、確かな真実味が存在した。
『だけど、そんな一人の夢のために世界に生きる皆が犠牲になるなんて認められない。それだったら、彼に世界が滅ぼされるその前にあなたが彼を倒してしまえば世界は破滅を迎えない。ええ、そうすれば間違い無くあなたはこの世界に長らく崇められるでしょうね。……救世の英雄として、ヒーローとして』
その瞬間、園田靖史が感じたのは妙齢の女性が自分を励ますように、両肩を優しく抱いた擬似感覚。闇の闘士、即ちダスクモンであるはずの彼女は、聖母のような穏やかな笑みを湛えて靖史の顔を見据えている。当然、それは全て幻覚でしかない。この場には女性などいない。ただ、靖史を闇に引き込もうとする謎の声が響いているだけだ。
だが靖史の心は既に崩れていた。環菜に散々否定された直後、唐突に肯定されたのが何よりも効いたのかもしれない。この際、相手が何者かなど気に留める必要も無かった。
ヒーロー。世界を救う英雄。そんな存在するはずも無い大層な者になるなど、考えたことも無かった。だが彼女は自分にその器があると言ってくれている。そうだ、確かに皆本環菜は自分が得た力を間違った力だと言っていたけれど、この闇のスピリットも間違い無く古代に魔王を封印した戦士達の魂を継ぐ存在なのだ。そんな子供っぽい充足感に、靖史の心は次第に満たされていく。
無論、奴はそんな彼の心すら全て見越した上で執拗に闇へと誘っている。
「……できるのか、俺に。環菜ちゃんにさえ負けた俺に、世界を救うなんてことが」
『必ずできるわ、あなたならね。あの紛い物は関係無い。渡会八雲を倒しさえすれば、世界は救われる……そして今それができるのは、あなたしかいないのよ?』
それがトドメだった。それきり、その声はしなくなったけれど、それで完全に園田靖史は篭絡したのだ。
彼はもう迷わないだろう。十闘士のスピリットも持たない、自分より低俗な人間の否定など気にも留めない。今後、たとえ環菜が自分を諌めようとしても力を以って制する。そうだ。自分には世界を救うという明確な目標ができた。ならば、その力の在り方の正否を問うなど二の次だ。
何故なら、世界を救う以上に大切なことなんてあるはずが無いんだから。
『堕ちた……か。ここまで単純だと、いっそ清々しくもあるわね』
一方、決意に満ちた表情で駆けていく園田靖史の心の中で、先程の声の主は嘲笑っていた。
先程の女性の声など、所詮は闇の闘士が持つ多数の人格の中の一つでしかない。いや、多数の人格というのは御幣がある。元来、闇の闘士は人格を持たぬ。あの超古代の決戦の後、光の闘士と並んで彼の魔王に反抗を企てたが故の報いだ。つまり、園田靖史を誘惑した女性は闇の闘士が演じた姿でしかなかったのだ。それに靖史は見事に篭絡した。愚かと言うか単純と言うか、それは彼の長所であると同時に欠点なのだろう。
とはいえ、少し懐かしかった。先程の女性の声は生前の自分に最も近い声音だから。
『さて……それじゃ見せてもらいましょう、園田靖史。あの仙川八雲が言ってたように、歴史っていうものは繰り返されるのか、それとも――』
そんな風に楽しげに、かつての闇の闘士は笑っていた。
自分で遅くまで寝ていると決めた日以外、八雲は遅くとも七時半までには目が覚める。これは、前日にどれだけ夜更かしをしていようと同様である。だから昨日は午前四時まで起きていたとはいえ、普段通り七時前後には起床していた。
要するに、体内時計。七時に起きることは既に八雲の体には刻み付けられている。
「それにしても……」
もう一人の同居人が問題だ。あまりにも遅すぎる。現在の時刻は午前十一時半。いくら寝るのが遅かったからといっても、この時間まで呑気に夢の中というのは、目覚めが悪すぎではないだろうか。昔の朱実はむしろ早寝早起きを地で行くような性格だったはずだが――。
大きく欠伸をすると、話し相手を求めてベランダに出る。そこからはマンションの下にある駐車場が見下ろすことができ、どこか真剣な表情で話し込んでいる様子のミスティモンとナイトモンの姿が見えた。彼らは体格的に家の中に連れ込むのが不可能なので、悪いがその場所で夜を明かしてもらうことにしている。もう少し大きな家に住んでいれば良かったと思ったりもした。
冷蔵庫からリンゴを三つ取り出すと、その内の二つを彼らに投げてやる。
「おっす。ミスティモン、ナイトモン」
「八雲君。起きたのですね」
「そりゃな。……こんな時間になれば誰でも起きるだろ、普通に考えて」
「……朱実殿ですか?」
流石は契約者と言うべきか、ナイトモンは鋭い。それにしても、こやつがリンゴをどこから食しているのか知りたいものだ。どうやら仮面の中に放り込んでいるようだが、そこが口とも思えないわけである。
朱実はあの後、部屋に戻って数秒で眠りに落ちていたようだから、就寝時間は八雲より早いはずだ。それなのに、現在も呑気に夢の中というのはどういうことだ。今までは女の子が相手ということで我慢してきたが、いつぞやの恨みを晴らすべく踵落としを敢行するのも辞さない状況になってきた。
寝る子は育つと言うが、いくらなんでも遅すぎる。そもそも、これ以上育たなくていい。要するに、頭脳に栄養が行っていないのかと思うほど、あの女は体の発育が凄まじいのだ。
「まあな。ナイトモン、アイツって毎朝こうだったのか?」
「いえ、随分と朝は早い方でした。……私の察するに、恐らく彼女は何らかの興奮状態では早起きになるものかと」
「あ~、そういえば修学旅行の時、起床時間の三時間前にバックドロップ喰らって起こされた時があった気がする。……要するに、あの女は今まで修学旅行と同じノリでいたってわけだ。端から要らなかっただろうけど、心配して損したな」
つい愚痴ってしまうのは本当に心配していたからだ。ジャンヌに襲われたと聞いた時には、八雲は気が気でなかったというのに。
起床時間の三時間前というと、つまり午前三時。そんな時間に叩き起こされ、まだ日も昇らない内にホテルの外で延々と殴り合ったのも、今では良い思い出と言えるのだろうか。無論、その後で担任からは凄まじい折檻を受けた上、そんな寝不足が影響して昼時の飯盒炊爨で大ポカをやらかしたのは、間違い無く悪い思い出だろうが。
しかし、この世界でもそんなノリでいたとは、相変わらず末恐ろしい女だ。きっとあの女はサバンナやらジャングルでも何ら問題無く生活できるに違いない。
「まるで八雲殿は朱実殿の保護者のようですね。とても同い年には見えません」
「だから殿はやめろって。……まあ、朱実に言ったら『それは逆だ!』って言い返されそうだけどな。それでナイトモン、ミスティモン。あれから何か変わったことって無かったか?」
「変わったことといえば、一つだけ」
躊躇いがちにミスティモンが口を開く。
「昨晩、八雲君と朱実さんが眠られた後に市の中央が妙な光に包まれるのが見えました」
「妙な光?」
「……ええ。緑というか青というか、何と言うか奇妙な光でした。八雲君にも案内されたので覚えているのですが、あの辺りは確か中央公園の一帯だと思われます。調べてみる価値はあるかと」
「なら決まりだね。今日はそこに行ってみることにしよ」
唐突に響く甲高い声。要するに、いつ起きたのか長内朱実がそこにいた。
「おはよ、八雲」
「……お前、いつ起きた?」
「今」
微塵も迷わず、しれっと告げる。ベランダの手すりに行儀悪く顎を乗せ、横に立つ八雲の顔を覗き込んでくる欠伸交じりの女には何の悪気も無い。
当然、八雲としては空腹と落胆で爆発の二歩手前。思わずアルゼンチンバックブリーガーを仕掛けたくなったが、万が一本気で決まった時のことを鑑みて踏み止まる。朱実曰く、渡会八雲の弱さはその甘さ故らしいが、女の子相手に本気でプロレス技を仕掛けることが強さなら、そんな強さは当然のように要らないと思う。
そこまで考えて、ふと気付く。いつの間にか、朱実を女の子扱いしている自分自身に。
「……悪い物でも食ったかな」
「何か言った?」
考えるのはやめにした。長内朱実は間違い無く女の子だ。しかも、見た目だけなら飛び切り可愛い女の子だ。自分も流石に年頃なのだから、そろそろ異性のことに興味を持つぐらいは構わないだろう。だから、この話はこれでお終い。それ以上を考えるのはやめにしよう。
しかし、ポニーテールを解いた朱実は普段とはまた違った可愛さがあると思う。要するに、そういうことだ。
これは数時間前、ちょうど八雲と朱実が床に着いた頃の出来事。
どこを通ってこの場所まで来たのかはわからない。だが気付いた時、靖史は二宮市の市街地に位置する中央公園まで来ていた。公園といっても入り口付近には何ら遊戯の道具などは置かれておらず、単なる広場といった印象である。とはいえ、日中は子供達の笑顔で賑わう憩いの地として知られた場所だ。
また平和な場所に戻したいと思う。その日々を取り戻すために自分がすべきことは一つ。
「八雲を倒す……か。はは、案外簡単じゃねえか……!」
これで如何に環菜でも自分の戦いを嫉妬とか憂さ晴らしとか、そんな妄言で愚弄することはできまい。それを考えれば笑いが止まらなくなる。そして、迷いの無くなった自分にはブラックラピッドモンなど相手にもならないだろう。この次の機会こそ完膚なきまでに叩き潰して、あの生意気な女を自分の所有物にしてみせる――!
そんな時、彼は頭上に浮かぶ巨大な存在に気付いた。
「こ、これは……?」
十闘士としての彼の本能は、その存在の正体を一瞬で看破する。それは鋼の闘士の獣形態、その名をセフィロトモン。だが球体が幾つも連なり合って形成されるその姿は、どう考えても獣には見えないこともあり、とにかく異形の存在に思える。
そんな彼の前に、公園の木陰から一体のこれまた異形が姿を現す。
「……メルキューレモンかよ」
「随分と迷っているようだな、闇の闘士よ」
その口振りは大仰。数日前に長内朱実を破った鋼の闘士は、その不敵な表情を崩さない。
彼は大袈裟なまでに両手を広げると、靖史をセフィロトモンの中へと誘う。この中なら建物を破壊する憂いなどせず、存分に戦えると。全ての迷いを振り切って、ただ戦いのみに没頭することができるという誘いは、園田靖史には確かに甘美である。だが如何に靖史とて、彼の者の真意が理解できない以上は誘いに乗ることはできない。
「何を考えてんだよ、テメエ。……俺が何を目的にしてるか、忘れたわけじゃねえだろ」
「……それを承知で言っている。それに、お前が何をしようが、私には関係も無いことだ」
「へへ、言うじゃねえか。なら乗ってやるよ、鋼の闘士。別に環菜ちゃんに言われた所為じゃねえし、テメエの目的に興味はねえが、自分の住んでる街をこれ以上壊すのは嫌だからな」
そうして、二体の闘士はセフィロトの樹の中で、各々が戦うべき敵を待つ。
何故か再会して以来、ずっと朱実にイニシアチブを握られている気がする。
街中を二人と二体で並んで歩いていく中、八雲にはそのことが不満だった。立場で言えば、確かに喧嘩でも言葉でも朱実が上に立っている。彼女の方がリーダーシップはあるし、行動力も高いからだ。だが冷静な判断を求められたり、また慎重に行動する必要がある際には基本的に朱実は八雲に主導権を委託することが多かった。
そのはずなのに、おかしい。朱実と再会してから、妙に彼女は強気だ。本来、他人の前を歩くようなことはしない彼女の姿を知る八雲にしてみれば、それは違和感がありすぎる。
「ねえ八雲。唐突ながら質問があるんだけど」
「……なんだよ、何か用か?」
「アタシの寝顔、そんなに可愛かった?」
「ふぐっ」
思わず息が詰まった。にこやかに笑う彼女の顔が、あまりにも眩しかったから。
「あはは、相変わらず初心だねえ八雲。見惚れてたんなら見物料取るよ~」
「そ、そんなことあるかっ。何で俺がお前なんかに見惚れなきゃならんのだっ」
「そう赤くなるな、ワトソン君。……先に言っておくがな、アタシはフリーだ。安心して告白するが良い」
何故それを宣言するのかわからないし、そもそも朱実に恋人ができるとは微塵も思っていなかったが、まあ少し安心したことも事実である。ていうか、誰がワトソン君だ。
朱実と一緒にいると高校生活やら受験への不安やら、そんな事項が全て些事に思えてしまうから恐ろしくもある。自然と童心に返れるのだ。彼女には何の隠し事もする必要が無い。世界で唯一、八雲が安心して自分の全てを曝け出せる人間こそが、この長内朱実である。孤児院の義兄弟達とは今では殆ど付き合いが無いのだが、その中で朱実と再会できたことは僥倖と言えるのかもしれない。
こんな状況なのに、不思議と楽しい。靖史とは違った意味で、彼女は渡会八雲にとって掛け替えの無い存在だった。
それは恐らく当然のこと。互いに言葉に出したことは無いが、少なくとも八雲は朱実に対して誰よりも好意を抱いているし、きっと朱実の方も同様だろう。性格的には真逆と表しても過言ではない二人が何故いつも共にいることを選んだのかと聞かれれば、結局はそこに収束される。八雲は朱実のことが好きだし、朱実は八雲が好きだ。だから万が一それが恋愛対象としての好きではなくとも、互いは互いに唯一無二の存在であることに相違は無い。
そんな二人の仲睦まじさは、後ろを歩くナイトモンやミスティモンにも伝わったようで。
「……微笑ましいですね。かつての英雄のパートナー達も今の私達と同じ気分だったのでしょうか?」
「かもしれんな。……確かに、見ていて眩しいものがあることは否定できない」
ナイトモンの口調は堅苦しい。契約者である朱実や、その友人である八雲には常に敬語で接するし、ミスティモンに対しても厳格な言葉遣いを崩すことは無い。立場が対等な自分と話す時ぐらいは、もう少し柔らかい口調で話して欲しいものだとミスティモンは思う。
とはいえ、そんな彼もまた好ましく思えるのも事実であろう。彼だからこそ朱実は無事に八雲と再会することができたのだ。
「もしかしたら、八雲君や朱実さんはその英雄の後を継ぐ者達なのかもしれませんよ」
「あの二人が世界を救う……と?」
その問いに首肯。実際、渡会八雲という少年は不器用な優しさを持つ、ミスティモンにとって理想とされる人間性を持つ存在だった。きっと、古代に世界の危機を何度も救ってきた人間とは、きっと彼のような少年少女であったに違いない、そんなことをミスティモンに思わせたのだ。
その一方、ナイトモンは僅かに考え込んで一言。
「さて……な。私に言わせてもらえば、八雲殿はともかくとして、朱実殿は世界を滅ぼす破壊神になるような気がしてならないのだが」
「手厳しいですね。……でもあなたは、そんな朱実さんに付き従うと決めたのでしょう?」
「……それを言われると痛い。では逆に聞くが、君の方はどうなのだ? 君はどうして八雲殿と行動を共にしている?」
ナイトモンは真剣な様子で聞いてくる。はぐらかそうと思ったが、それを前にして誤魔化せる度量はミスティモンには無い。
「……見たくなった、という答えでは駄目ですかね」
「見たくなった……とは?」
「文字通りの意味ですよ。あの渡会八雲という少年がこの世界で何を為し、この世界に何を齎すのか見てみたいと、そう思ったのです。……とはいえ、私も随分と彼に影響されてきたのかもしれませんね。何と言うか、今では私自身が世界に対して何をできるのかを試したいというのも、そこには含まれているようですが」
元々、八雲と契約を交わしたのは成り行きだった。朱実の人間性に魅せられて契約を交わしたナイトモンとは違い、ミスティモンは飽く迄も知識の探求者として彼と行動を共にすることを決めた。だが彼と行動を共にする中でミスティモンの考えは変わってきていたのである。
渡会八雲は何事にも必死で、今にも擦り切れてしまいそうな生き方をしている。ならば、次第にそんな彼を手助けしたいと思うようになるのも当然だったろう。だが彼の必死さは無残に破壊された町々、何の罪も無いのに理不尽に殺される者達など、弱肉強食のこの世界では当然のことに対しても向けられる。それを彼は許さないし認めない。少しでも破壊を減らし、また少しでも犠牲者を無くすために、八雲は剣を振り続ける。
何故なら皆が笑える世界、つまり誰も悲しまない世界を作ることが彼の夢だから。
「……夢物語だな。誰も悲しまない世界とは誰も死なず、誰も傷付かない、即ち戦いの無い世界ということだろう? 我々は元より戦いを生業とする者達だ。そんな我々から戦いを無くしたとなれば、その時点で我々は……いや、この世界は存在意義を失う」
「まあ、恐らくそうなんでしょうけどね。けれど、私も少しは共感できる面があることも否定できないわけでして」
わかっている。恐らくこの世界で彼の夢が叶うことは無いだろうということは。
だが戦いの無い世界を夢見て、いつか完全な平和が訪れることを信じて戦うことは、決して罪ではないと思う。実を言えば、ミスティモンも戦いが好きではないのだ。だから時折この世界の在り方に疑問を抱くことも、決して少なくは無かった。だとしたら、戦いを終わらせる戦いも間違いであるはずが無いのだ。かつて世界の安寧のために戦った先人達も、きっと自分達と同じように平和な世界を夢見て戦ったに違いないのだから。
「……まあ、話はここまでみたいですね」
「ああ。間も無く目的地だ。朱実殿、ご用心を」
次第に見えてきた中央公園。その上空に滞空する無数の巨大な球体を見据え、二体の契約者は静かに呟いた。
・
・
第36話:倒すべき敵
「ん……?」
「あれ?」
いつの間にか、八雲と朱実は見知らぬ荒野に立っていた。
記憶が判然としないが、確か中央公園で巨大な球体を見上げたところまでは覚えている。その瞬間、周囲が奇妙な光に包まれ、気付いた時はこんな場所に立っていた。彼ら二人の知る限り、こんな荒野がこの町にあった覚えは無い。それなりに田舎の二宮市だが、都心のベッドタウンということもあり、現在では随分と開発が進んでいるのだ。
だがナイトモンとミスティモンには理解できていた。今自分達に何が起きたのか、そしてここがどこなのかが。
「なるほど。これが噂に聞く、鋼の闘士の獣型形態というわけか。十の属性を持つエリアの一つ、土の戦闘エリア……」
「……流石と言うべきでしょうか。見事に誘い込まれてしまいましたね」
「だが問題はあるまい。我が主は罠だというのなら、その罠ごと食い千切ってみせるような女性なのだからな」
その信頼感は、いっそ気持ちの良いほど。ナイトモンは心の底から朱実の強さを認めているし、故に彼女のことを微塵も心配していない。だがミスティモンは彼ほど楽観的にはなれなかった。確かに八雲とて朱実に匹敵する戦闘力を持つのかもしれない。しかし彼は何かと危なっかしいのだ。危険はできるだけ避けたいのが実情だった。
その一方で、当の本人達は周囲を見渡しつつ困惑した様子を見せている。
「ていうか、今時この国にこんな荒野があんのかしらね」
「……空が赤い。やっぱり普通の場所じゃないみたいだな、ここは」
「アタシ達、あのデカブツに吸い込まれたってこと?」
油断無く周囲を索敵する八雲と違い、朱実は飽く迄もリラックスした呑気な表情。そこに二人の戦いに対する気構えが知れるというところか。
「ええ、朱実殿。恐らく我々を吸い込んだあの物体は、鋼の闘士の獣型形態。名をセフィロトモン」
「……鋼の闘士?」
その名を聞き、朱実の表情が険しくなる。思わず先日一撃を受けた脇腹へと手を伸ばしていた。八雲とミスティモンにはそんな彼女の険しさの理由がわからない。とはいえ、八雲は朱実の様子から直感的に違和感を感じ取ったのかもしれない。
だからこそ、らしくないと思いながらも朱実の頭に手を置いて。
「……無茶はすんなよ」
それだけを口にする。元家族として、同じ義父を持つ者として、それはきっと不器用ながら精一杯の愛情の形。
「いきなり何だっての?」
「いやな、何か今のお前を見てると兄貴として不安になってくるわけだ。……ま、可愛い妹への兄貴の精一杯の手向けとでも思ってくれよ」
「……そういう言葉、アンタには似合わんよ。大体アンタ、兄貴ってイメージじゃないし」
「うぐっ……」
口下手な自分が朱実を言い負かそうと思ったのが間違いだったか。とはいえ、不安になったというのは本当だ。
「そんなことは一度でいいからアタシに勝ってから言うんだね。……八雲に心配されるほど弱くないつもりだよ、アタシは」
「……それはそうなんだろうけどな」
その言葉に秘められたのは強い信頼。この世界に来て以来、自分は誰かを傷付けることばかりしている。あの亡霊の鎧武者との戦いを経て龍斬丸を手にした瞬間から、渡会八雲はそういう存在になった。それでも可能な限り誰かを傷付けることは避けたいし、当然のように誰かを守りたい、泣かせたくないと思う気持ちは決して消えることはない。
だが尊敬する義父は常々こう言っていた。剣とは人を傷付ける物であり、それ以上でも以下でもないのだと。
忘れようとしていた記憶が甦る。あれは確か、義父が亡くなった日のこと。孤児院の階段で談笑していた八雲と義父。その時、階下から義父を呼ぶ声が響き、そちらに向かおうとした義父は、階段で足を滑らせた。何が理由だったのかは知らない。ワックスが塗り立てだったのかもしれないし、はたまた何も無かったのかもしれない。けれど、とにかく義父は階段から落下した。それだけで、尊敬していた義父はあっさり他界した。
驚くほどあっさりした死だったからか、八雲は呆然として泣けなかった。十人近い義兄弟達が次々と部屋から飛び出してきて、救急車を呼んだり義父に縋って名を呼んだりし始めた。八雲もまた覚束無い足取りで義父に歩み寄る。既に心臓が止まっていることを知ったからか、義兄弟達は須らく涙を流していた。
『何で……?』
それが正直な思いだった。要するに、八雲はその中にいながらも全く泣くことができなかったのだ。
悲しいと思った。辛いと思った。理不尽だと思った。それなのに、涙が出ない。それが何よりも彼を驚かせた。自分は義父との付き合いが一番長いのに、誰よりも尊敬していたのに、何故か涙が出ない。何故か泣けないのだ。
『泣けよ、おい……! 何で俺、こんなに冷静なんだよ……! 死んだんだぞ? 親父が、安さんが死んだんだぞ……! 泣けよ、泣け……! 泣けよぉぉぉぉ……!』
必死に涙を求めるその姿は、明らかにおかしかった。どう見ても、人間としては破綻した存在だったに違いない。
それでもその数秒後、八雲の瞳を涙が伝ったのだ。だがそれは義父の死に対しての涙ではない。彼はただ泣き続ける義兄弟の姿を前にして、初めて泣いたのだ。悲しむ義姉、泣き喚く義弟、憤る義兄。八雲はそんな彼らを見ていたくなくて、本当の悲しみを覚えたのだった。
『……親父殿』
『えっ?』
不意に背後から響いた声。そういえば、義父を囲んでいる中にアイツの姿は無かった。八雲は涙を拭くことも無く、ただ振り返った。恐らくアイツもまた、自分と同じように何らかの形で涙を流しているのだと信じて疑わずに。
だが、それは違っていた。そいつはその場で、最も有り得ない顔をしていたのだ。
『へえ……死んだか』
アイツは、要するに笑っていた。何故そんな風に笑えるのかわからない。コイツのことは誰よりも知っているつもりだったが、そんな表情で笑う姿を見るのは初めてだった。何と言うか、それは邪悪な笑みに見えた。きっと憎み続けた相手を殺した殺人犯はこんな顔をするのだろうと思えるほどに。
その瞬間、八雲は確かな恐怖を覚えた。コイツは怖いと、本気で思ったのだ。
何故そんな光景を思い出したのかはわからない。ただ、朱実を見ていたらそんな記憶が唐突に脳裏に浮かんできたのだ。だがあの邪悪な笑みを浮かべていた人物が誰なのか、未だに思い出せない。恐らく朱実ではないと思いたいし、彼女がそんな表情をするはずが無いのだ。悲恋のドラマを一緒に見ていた時は毎週のように泣く姿を見ている。
しかし、何故か彼女に聞いてみようと思ったのだ。
「朱実、一つだけ聞いてもいいか?」
「なに?」
「五年前……義父さんが死んだ時だよ」
何気なく口に出した言葉に、朱実の目が僅かに釣り上がったように見えた。
これ以上は聞くべきではないかもしれない。下手をすれば、この質問は自分と朱実の今までの関係を壊すことすらある質問だ。だがどうしても聞いておきたかった。自分が今の夢を抱くに至ったあの時、彼女が何を思い、何をしていたのかを。
「皆が義父さんの周りで泣いてる時だよ」
「………………」
「お前は――」
二人の間に走るのは緊張。それは今まで一度も無かった鋭い空気だ。だが、その彼らには似合わない空気を打ち破るかのように。
「朱実殿、何か来ます!」
「地中からのようですね。……八雲君、気を付けて!」
契約者の声で我に返る二人。見れば、確かに前方の土が盛り上がり、次第に近付いてくる。モグラか何かが地中を移動しているような、そんな感じ。
そして八雲達の数メートル手前、その地中の生物は彼らの前に姿を現した。
その一方で、こちらはセフィロトモンの外部。先程の八雲達と同様にして、環菜とクラウドは中央公園を訪れていた。
背後には不満そうな表情のブラックラピッドモンの姿。実際、彼はかつて環菜を襲ったこの炎の闘士に心を許していなかった。だというのに、昨晩からこの男は何か思惑があるかのように環菜と行動を共にしている。それには戸惑いを隠せないし、何よりも気に入らない。
セフィロトモンを見上げ、クラウドは僅かに目を細めた。
「……鋼の闘士め。あの男、最後まで朱実と靖史を苦しめる気か」
「園田君と長内さんがこの中にいるってこと? なら渡会君も一緒ね?」
環菜の何気ない質問には首肯。起源を同じくする存在だからか、互いの居場所がわかってしまうのは十闘士の性だろう。鋼の闘士の考えは理解している。要するに、奴はどこまでも自分本位に行動しているにすぎない。それを奴自身は朱実や八雲のためだと勘違いしているのが厄介なのだ。仮に自らの力でメルキューレモンを倒したとて、朱実には何の得も無い。ただ、彼女が無駄に傷付くだけだろう。
それは許せない。朱実は如何なる時でも穢れ無き存在でなければいけないのに。
「……私達も行くべきかしら」
「ああ。だが環菜、お前は残れ。……恐らくブラックラピッドモンの力ではセフィロトモンのバリアは突破できまい」
「舐めんなよぉ、僕だってあれくらい」
少し愚弄されたように感じて、抗議の声を上げるのは漆黒のサイボーグ。
だがそれに聞く耳を持たぬように、クラウドは一瞬にして獣の体と翼、また人の頭部を持つ魔人へと姿を変えていた。融合形態アルダモン。昨夜、ベルグモンを容易く退けてみせた現時点では最強の闘士と目される存在。それを前にすれば、流石のブラックラピッドモンとて言葉は無い。
「安心しろ。今の俺には誰も死なせる気は無い」
「……渡会君も? 園田君も?」
その二つの名前を耳にして、アルダモンの顔は少しだけ歪んだ。
「時と場合、また状況次第だが……少しだけ希望が見出せそうなのでな。それに賭けてみようと思う」
そんな勝手なことを言い残し、アルダモンは空中のセフィロトモンに突っ込んでいく。強力な干渉があるようだが、その程度のバリアで融合形態が動じるはずも無い。僅かに顔を顰めたアルダモンだが、即座にバリアを突破してセフィロトモンの中に突入していった。
その姿に対して環菜は端的な感想を一言。
「……やっぱり似てる」
「えっ? 似てるって誰と誰がさ、環菜」
「………………」
契約者の言葉には答えなかったのは、確固たる証拠が無いから。だが彼はきっと彼なのだ。
懐かしい奴の姿を前にして、朱実は僅かに目を細めた。
八雲と朱実の前に姿を現したのは、かつて彼らを襲った土の闘士、グロットモン。相変わらずのでかっ鼻ゴブリンといった奴の容貌を目にすると、流石の八雲や朱実とて懐かしさを禁じ得ない。あれから随分と長い時が過ぎたような感覚があるが、時間に直すとまだ三週間前後しか経っていないというから驚きだ。
奴との邂逅以来、八雲も朱実も十闘士という存在とは密接に関わってきた。倒された水の闘士と木の闘士。八雲を兄と慕い、朱実を襲った光の闘士。唐突に現れて八雲を狙うも、環菜を見て暴走した炎の闘士。朱実を試すような言動を見せた鋼の闘士。そして八雲と朱実が再会するきっかけを作り、遂には園田靖史が進化した闇の闘士。
かつて八雲が目にした石碑を信じるなら、これで現存する十闘士の存在を全て確認した計算になる。とはいえ、朱実は水と炎の闘士を、また八雲は鋼の闘士を見ていないわけだが。
「はっはっは、久し振りだなぁガキども! まだ生き残ってたとは驚きだぜぇ!」
「それで、何でアンタがこんな場所にいんのよ、でかっ鼻」
「へっ、相変わらず歯に衣着せぬ物言いをしやがる女だな。……いいぜ、下手な前置きは一切無しだ。来いよ!」
威勢良く来いよと挑発しておきながら、グロットモンは自分からハンマーを振り上げて襲い掛かってくる。
そのスピードはかつて戦った時よりも遥かに速い。それを前にして、八雲は靖史の言っていた言葉を思い返している。十闘士とは元々この世界の存在。故に人間界では十二分に能力を発揮することができなかったという。数字にすれば、それは本来の六割程度の力で存在しているにすぎないのだと。
だが関係無い。相手がどの程度の力だろうと、自分達は全力でそれを打ち砕くのみだ――!
「その程度のスピード……アタシなら瞑目してようと避けられるよっ!」
「……悪い、朱実。流石にそれは俺には無理だ。けど……!」
振り下ろされたハンマーは一瞬前まで八雲達がいた場所を叩き割る。そのパワーも以前とは段違いだ。今の奴ならあの時の空き地など粉々にしてしまうに違いない。あのハンマーを喰らえば、人間の骨など粉微塵に粉砕されてしまう。
それを避けた。朱実は言葉通り本気で目を瞑りながら、八雲は全く表情を変えずに。それは彼らの契約者も同様である。
「ほう、避けやがったか。……流石の俺でも四対一は少し厳しいかもな」
「なら……どうするんよ?」
「ようし、出て来い! オロチモン!」
拳を振り上げるグロットモン。瞬間、周囲が淡い光に包まれ、奴の背後に巨大な竜が姿を現した。
オロチモン。奴が叫んだその名前を信じるなら、それはヤマタノオロチを模したモンスターと考えて間違いあるまい。巨大な大蛇のような頭部を幾つも備え、尻尾の先には鋭い刃が見える。その血走った瞳は今まで出会ってきたモンスターの中で最も狂気に満ちているとも思う。
だが留意すべきはその巨大さだろう。全高は軽く10メートルを超える。当然、ミスティモンやナイトモンよりも遥かに大きいし、かつて戦った中で最も大きかったアシュラモンすら上回る。八雲達はまさに見上げるような威容と対峙することを余儀無くされる。
正直、尻込みした。このでかっ鼻の契約者にしては、あまりに立派すぎではないですか?
「……ガッデム。こんな化け物あり?」
「驚きで言葉も出ねぇようだな! オロチモン、やっちまえ!」
グロットモンの指示を受け、オロチモンがその鎌首を伸ばして八雲と朱実を飲み込まんと迫る。だがスピードは遅い。咄嗟にミスティモンとナイトモンが各々の契約者を抱き抱えるような形で空中に逃れることに成功した。
「わ、悪いな。助かった、ミスティモン」
「ええ。……ですが、どうします?」
そうだなあと思案する。正直、あの化け物を前にすれば流石に勝てる気はしない。何よりも奴は巨大すぎる。自分や朱実の攻撃程度では怯むことも無いだろう。
眼下を見れば、グロットモンが「テメエら、下りてきやがれぇ!」とハンマーを振り回しながら叫んでいる。どうやら、契約者も含めて連中は空を飛べないらしい。ということは、逆に考えれば滞空している以上は攻撃を喰らうことは無いということか。それは空を飛べる契約者のいるこちらには、この上なく好都合である。
だがこの状態でいることは、隣の女には耐えられなかったようで。
「ナイトモン、下ろせ! アタシは戦う、戦うのだぁ!」
「……あのな朱実、少しは作戦とか考えろよ。今のままじゃ敗北必至だろうが」
「随分と弱気になったもんだね、八雲。アタシ達が負けるなんて決まってるわけ無いっしょ。大体ね、勝負は時の運って良く言うよ? ……尤も、アタシはその運さえも味方に付けてみせるけど」
この女は相変わらず強気だが、それも当然かもしれない。喧嘩を売られれば朱実は買わずにはいられない、というより勝たずにはいられない性分なのだ。正直、八雲は朱実が喧嘩に負けた姿を見たことが無い。それどころか、相手からパンチを喰らうところも一年に多くて三回ぐらいしかなかった。
それを考えれば、メルキューレモンの攻撃を受けたことは彼女にはこの上ない屈辱となったのだが、そのことを八雲は知らなかった。
「まあ、お前ならそう言うだろうけど、頼むから今は抑えろ。……ん?」
「八雲……どした?」
八雲が目を留めた方向に、朱実とナイトモンも振り返る。そこは赤黒いこの世界の空。突然その空間に亀裂が入ったのだ。その亀裂は次第に大きく、また激しくなり、やがて空が文字通り砕けた。ガラスが割れるような音がして、その場所から一体の魔人が飛び込んでくる。
八雲は思わず目を見張った。悪魔のような翼と豪腕を誇るその姿に見覚えがある。それは皆本環菜を襲ったヴリトラモンだ。
「いや、違うのか……?」
「……何のこと?」
その頭部は魔竜ではない。あれは明らかに三週間前、八雲を狙ってきたアグニモンの兜だ。故にその闘士は人と獣の力を併せ持つ。二つの異なる魂を融合させた、人と獣の更に先に位置する存在。それが割れた空から舞い降りた闘士の正体である。
インド神話の火の神の名を持つアグニモン。また同じくインド神話に名を残す悪蛇を想起させるヴリトラモン。その二つの先に位置する存在こそ、融合形態アルダモン。
グロットモンにさえ、目の前に降り立ったその存在は衝撃である。
「なっ!? ゆっ、融合形態だと!?」
「……久しいな、土の闘士。それにしても、お前ともあろう者が鋼の闘士の手先に成り下がるとは……随分と落ちぶれたものだな?」
同じ十闘士と相対した炎の闘士の言葉に含まれるのは、徹底的な侮蔑の色。それは飽く迄も挑発でしかないのだが、グロットモンは憤慨の様子を隠せない。そんな同志の姿を前にして、アルダモンは薄く笑ったように見えた。恐らくこの上なく愚かしく思えたのだろう。この程度の挑発で冷静さを失う土の闘士のことが。
契約者と共に八雲と朱実も地上に降り立つ。土の闘士を挑発するアルダモンに、八雲は何か違和感を覚えていた。軽い挑発に我を忘れる相手を侮蔑するその姿は、どこかで見たことがあるような――。
「そっ、それより! テメエ、何しに来やがった!」
「何しに……とはご挨拶だな。俺はこうしてお前と向き合っているんだ。……ならば、俺達が為すべきことは一つしかあるまい?」
つまり、それは戦うということ。同じ目的を持つ者同士が潰し合うということ。
「裏切りか……テメエ、まさかルーチェモンを裏切る気だってぇのか!?」
「「ルーチェモン!?」」
その驚きは八雲と朱実の契約者から。ナイトモンもミスティモンも互いに衝撃を隠せない様子だ。
「……どうしたんよ、二人とも」
「い、いえ。ルーチェモンとは超古代、我々の世界を治めた長の名。ですが、圧政を布いた彼は十闘士によって倒され、ダークエリアに封じられ、未来永劫目覚めることは無いと言われているのです。……そもそも、その十闘士の魂を受け継ぐ者が彼らなのですから、その伝説は紛れも無い真実のはず……」
「でも、おかしいですね。彼の言葉から推測して、彼ら十闘士とはつまり」
「……ルーチェモンの手下ってことか」
ナイトモンとミスティモンの言葉を引き継ぎ、八雲が纏めた。
初めて十闘士という存在を目にした時から、奇妙な感覚があった。あの【反転】が行われた日、唐突に現れた炎の闘士は「奴と契約した」と言っていたのだ。そして、アルボルモンとグロットモンが組んでいたように、ジャンヌと靖史以外の闘士達には明確な繋がりがあることは容易に推測できた。つまりラーナモンがジャンヌを亡き者にしようと現れたのは、ジャンヌがその裏切り者だからということになるのだろう。
つまり靖史とジャンヌを除く五人の闘士はルーチェモンとかいう奴の手下ということ。
「聡明だな、渡会八雲。……だがお前の推理は状況証拠からの推測にすぎん。考えてもみろ、光の闘士はともかくとして、闇の闘士がルーチェモンの配下でないという証拠がどこにある? あの【反転】が行われる前日、お前はベルグモンと出会っているはずだ」
「何でお前、そんなことまで……」
「ちょっと待ちなよ」
その時、今まで黙っていた朱実が唐突に口を開いた。彼女の鋭い視線は真っ直ぐにアルダモンへと注がれている。
「……長内朱実、何の用だ?」
「何でアタシの名前を知ってるのかに興味は無いよ。……けどね、人に話す時に仮面を被ったままってのはどうなんよ?」
「仮面も何も、これが俺の顔なのだが?」
「……嘘だね。八雲の話を聞く限り、十闘士って連中は全員人間の姿を持っているはずだよ。実際、アタシもジャンヌとか名乗る幼女にいきなり襲われたし。それにね、八雲の友達の園田……靖史だっけ? そいつも闇の闘士になったって聞くけど」
靖史の名前を出す時に少し躊躇したのは、朱実なりの気遣いだろうか。
「アンタらはスピリットとかいう代物で変身だか進化だかしてる。でもね、そんな物で魂を着飾った強さなんてアタシは認めない。アンタがその仮面を被り続けるというのなら、そんな仮面はアタシの手で叩き壊す」
それを見てアルダモンは笑う。遠い過去を懐古しているような、そんな表情。
「フッ、朱実……お前は如何なる時でも朱実らしいな。その強さはこの世界でも健在というわけだ」
その言葉と共にアルダモンの進化が解ける。
そこに現れたのは言うまでも無く、燃えるような赤髪と体格的には随分と大柄な龍斬丸を携えた長身の剣士である。八雲にとっては三度目の邂逅。しかし朱実にとっては初めての対面。そのはずなのに、朱実は炎の闘士の顔を見て雷に打たれたような表情になる。知っている誰かに街中で偶然会った時に見せるような表情だった。
やがて、その驚愕の色が満足げな笑みに変わっていく。そう、長内朱実は笑っていたのだ。
「なるほど……そういうことね? 道理で変だと思ったわけだ」
「おい朱実、どういうことだよ。俺にはさっぱり状況が掴めないぞ」
「……渡会八雲、少なくとも今のお前が知る必要は無い。それで、話の続きだったな? お前達がベルグモンと出会ったところまで話したか……」
既に炎の闘士の視界に八雲はおらず、ただ彼は朱実だけを見つめていた。
何と言うか、八雲に言わせればこの男は環菜やら朱実やら女の子に見惚れる癖でもあるのだろうか。そう邪推してしまうぐらい、この世界に残された女の子が美少女だということもあるのだろうが、何か気に食わない。俺を無視して話を進めるなと言ってやりたい。
「ベルグモンが人間界に姿を現したのは恐らく【反転】の基点となるこの町の調査のためなのだろう。尤も、人間界全てに視点を向ければ、この町と同じような【反転】の基点など無数にある。今回の【反転】で最も都合が良かったのがこの町だと、それだけのことだ」
「……なら何で靖史にスピリットを託した? アイツはそんな力、望んでなんか」
「さてな。闇の闘士の心など誰にもわからない。そもそも、奴には明確な自我など存在しないからな。奴はかつて光の闘士と共にルーチェモンに反旗を翻し、無様に失敗した愚か者だ。その際、罰としてルーチェモンに生前の人格を奪われたというわけだな」
「テメエ、それは機密事項――!」
それ以上話させまいと、ハンマーを振り翳してグロットモンがクラウドに飛び掛かる。
だが炎の闘士は全く慌てること無く、振り向き様に龍斬丸を引き抜いて抜き打ちを見舞う。八雲と朱実にすらその太刀筋は軌跡しか見えなかった。だが紛れも無くクラウドの一撃はグロットモンを遥か後方まで弾き飛ばしたのだ。八雲にとってはやっと縦に振ることができるようになった龍斬丸で、ああも容易く抜き打ちを行うとは、その絶対的な力量の差を感じざるを得ない。
「ぐっ……ぐわぁぁぁぁーーーーっ! お、オロチモンーーーーっ!」
「次は契約者か。……チッ、少し面倒だな」
その叫びに応じて、契約者の仇を討たんと今度はオロチモンが迫る。流石のクラウドとて今度は生身で受け止めるのは不可能だと判断したか、素早く左腕のD-CASを振り上げる。その瞬間、オロチモンが突撃して周囲が大爆発を起こす。
突風が周囲を襲い、八雲達は咄嗟に吹き飛ばされまいと身構える。
「クラウド。お前、最近は人使い……ていうか、モンスター使いが荒いんじゃないの?」
「……感謝はしている。それで十分だろう?」
爆煙の中から聞こえてきたのは、そんな涼しげな会話。煙が晴れた時、クラウドは元の場所に何事も無かったかのように立っている。
そして、彼の背後にはオロチモンと組み合う巨大な魔竜の後ろ姿。その体格はオロチモンより僅かに劣るようだが、決して押し負けているようには見えない。血のように赤く染まった体色を持つその竜は八雲やミスティモンには見覚えのある存在だった。
グラウモン。両腕に硬質なブレードを備え、口から火炎を吐く炎の闘士の契約者――だが。
「……アイツ、あんなに大きかったか?」
「確かに……何かが違いますね」
すぐに二人は違和感に気付く。奴の両肩付近には巨大な突起物が見え、また幾本かのコードが周囲に張り巡らされている。オロチモンの胴体を取り押さえている両腕は、まるでそれ自体が刃のような腕。その胸部は金属装甲で覆われ、その姿はまさにサイボーグといった印象。何よりも、体が明らかに巨大化している。
その姿はまさに巨大(メガロ)。故にその名をメガログラウモン。
「まさか……アイツも進化したのか」
「まあ、そういうことだな。だがお前の契約者とて進化したのだ。奴が進化したとしても何ら不思議はあるまい。それよりも話の続きだ。……長内朱実、お前は確か鋼の闘士へのリベンジのためにこの場に来たのだったな?」
「そうね。……何でアンタが知ってんのか知らないけど」
「ならばお前は先に行け。……すぐ先にゲートがあるはずだ。恐らくその先で、鋼の闘士はお前を待っている」
この男の考えが八雲には全く理解できない。自分や環菜を襲ったこの男が、今は自分達を助けようというのか?
無論、それは彼と初対面の朱実も同じだったようで。
「アンタ……何でアタシらの手助けをするわけ? 八雲に聞いた限りじゃ、アンタは八雲やあの皆本を襲ったって話だけど」
「……さてな。気紛れと思ってくれて構わない。だがお前なら信じてくれるのだろう?」
「どうかな? 正直、アタシは渡会八雲のことなら信じられるけど、アンタのことはわからんからね」
おやと思った。朱実はこの時、初めて八雲の苗字を「渡会」と呼んだのだ。
それに何か会話の内容がおかしい。噛み合っていないような気がする。だが両者の間にコミュニケーションは間違い無く成立しているのだ。つまり、二人は言葉以外の方法で語り合っているということ。そして、それに八雲の介入は不可能だということ。
だがそのことが炎の闘士が自分や朱実、環菜や靖史のことを何故知っているのかという疑問に対する一つの答えに繋がるのではないかということは、おぼろげながらも理解できた。
「渡会八雲。……まあ、そういうことだ。グロットモンの相手は俺が引き受ける。お前はメガログラウモンと共にオロチモンを制するんだ。朱実のことを思い、また靖史のことを救いたいと思うのなら、全力を以って奴を倒してみせろ」
「お前は何でそんなことまで……!」
その疑問から逃げるように、クラウドは八雲を一瞥してアルダモンに進化すると、グロットモンが吹き飛んだ場所へと飛び去っていく。
残されたのは八雲と朱実、そして彼らの契約者だけだ。目の前ではメガログラウモンとオロチモンの一大スペクタルが行われている。当初、互角に見えた両者だったが、オロチモンは持ち前の体格を生かして次第に相手を押し始めた。進化したメガログラウモンを押すほど、奴は相当な強さなのだ。確かに援護及び協力は必要かもしれない。
だがその前に八雲は朱実に一つだけ聞きたいことがあった。
「朱実。お前、アイツの何を知ってるんだ?」
「……珍しく単刀直入だね。ま、それも当然だと思うけど」
苦笑する朱実。何と言うか、こういう顔は彼女には一番似合わない表情だと思う。
「ただ、悪いけど今は言えない。アイツにも何か思惑があるんだろうから、少なくとも今だけは信じてみても構わないんじゃないかって、アタシは思う」
「……朱実」
それが少しショックだった。初めて朱実が自分に対してハッキリと何かを隠したのだから。
けれどそんな時、唐突に朱実が八雲の両肩を掴んで引き寄せた。まるでキスでもするのではないかと思うほど、二人の顔が近付く。けれど、朱実の顔が目を見張るほど真剣なので、八雲にはそんな不埒な考えは微塵も浮かばなかった。その顔は何かを言いたくても言えない、そんな表情。自分にだけは隠し事をしたくないという朱実の思いが、痛いほど伝わってくる。
だから、前述のショックは一瞬にして霧散した。彼女だって辛いのだ。ならば、義兄である自分がそれを乗り越えなくてどうするのか。
朱実の顔が一瞬だけ泣きそうに歪む。そんな顔は見たくないので、目を瞑って見ないことにした。
「でもね八雲、これだけは言える。……アンタは渡会八雲だよ? どんなことがあったって、どんなことをしたって、アンタは渡会八雲でいていいの。あの優しい義父さんと義母さんの息子であることを誇りに思いな。以前のアンタ、仙川八雲に戻る必要なんて無い。……それだけは忘れないで。アタシの家族はアンタ、アタシが好きなのは間違いなくアンタなんだから」
「朱実、何を……?」
それは告白だったのだろうか。だがそれにしては、悲壮感が強すぎる気がする。そもそも、どうして彼女がそんなに泣きそうな顔をするのか、その理由が全くわからない。それに、何故この場所で仙川八雲という名前が出てくるのか、何故こんな時に義理の父母のことが出てくるというのか。
朱実の顔は笑い飛ばすには真剣すぎた。けれど、真剣に受け取るには突拍子が無さすぎた。
それでも彼女は可能な限り真摯に思いをぶつけてくれる。言えないことがあっても、その内に重いものを抱えていたとしても、長内朱実はどこまでも自分のことを想ってくれているのだと知らされる。それが何よりも、渡会八雲を勇気付ける。
朱実は顔を赤くすることすらしないので、八雲も全く恥ずかしさを覚えなかった。やがて朱実は八雲の肩を軽く小突いて彼から離れると、クラウドが指し示した方向へ駆け出す。リベンジのために、彼女自身の信念を貫き通すために。無論、ナイトモンもそれに続いた。
残された八雲の隣に並び立ったミスティモンは、軽く頭を掻きながら苦笑気味だ。
「……何と言うかね、感服しましたよ。凄いんですね、愛の力って」
「からかうなよ。それよりさ、準備はいいのか?」
ミスティモンの皮肉を受け流し、八雲は前方に目を戻す。
そこにはぶつかり合う二頭の雄々しき竜の姿。既に取っ組み合いの体勢からは離れ、オロチモンが尾のブレードを叩き付けるように振るい、対するメガログラウモンが腕の刃で斬り結ぶ形。ダメージこそ受けていないが、メガログラウモンは完全に防戦一方。オロチモンというモンスターは、冗談抜きで本当に強いらしい。
だがオロチモンは倒す。奴との戦いは必ず制してみせる。
「……絶対勝つからな、ミスティモン」
「それは当然でしょう。……どうやら、彼とはまた共闘することになりそうですね」
「だな。もしかしたら、これも運命って奴かな?」
我ながら珍しく、おどけるように笑う。理由は知らない。
だがアルダモンが最後に見せた射抜くような目は確かに八雲に語っていた。お前が本当に渡会八雲だというのなら、本当に園田靖史のことを助けたいと願うのであれば、奴はお前が倒せと。オロチモンすら倒せぬようでは、お前に親友を救うことなどできぬのだと。
だから迷わない。オロチモンを倒すのは自分、渡会八雲だ――!
【解説】
・オロチモン(Vi種、完全体)
土の闘士の契約者。十闘士の契約者の中でも最大級の体躯を誇る魔竜であり、進化したばかりのメガログラウモンと互角以上に渡り合う屈強なデジモンである。
本作が十闘士メイン、つまり頂点にあやつがいる時点で、オロチモンは絶対重要ポジションとして出さなければならないと決めておりました。何故土の闘士の契約者に選出したかと言いますと、アイツの技が地味に蛇の名を冠していたからです。
作中で描写はありませんが、成熟期はエクスブイモンです。
・メガログラウモン(Vi種、完全体)
炎の闘士の契約者であったグラウモンが進化した姿。セフィロトモン内部の戦闘にて八雲や朱実の手助けを不本意ながら行う。グラウモンの時も言いましたが本作の主人公デジモンである。本作の主人公デジモンである。
作者がギルモン系列で最も好きなのはこのメガログラウモンですが、話の都合によりあまり活躍できない。
【後書き】
そもそもビースト進化がセフィロトの樹というのはどういう発想なのか。デジモンフロンティア中盤の山場にして、エリア四つぐらいは雑に瞬殺されて終わった気がしないでもないセフィロトモン戦。ラーナモンすらその回のゲストデジモンと変わらない扱いで討ち取られた為、実質的にダスクモンとメルキューレモンだけが重要だったセフィロトモン内部での戦いは、当然本作でもオマージュさせて頂きました。
そんなわけで、セフィロトモン内部にて闇と鋼、主人公二人の宿敵となる者が待ち受けます。アルダモンは原作とは逆に外側から内部に侵入する形でしたが、そうなるとベオウルフモンは……?
残り6話で第一部が終了、そこまでお付き合い頂ければ幸いです。
←第33話・第34話 目次 第35話・第36話→