「さぁ! 今年もこの時期がやって参りました! 年に一度のデジモンドラフト会議! 今年の目玉は何と言っても超完全体級オールラウンダー『シャッコウモン』ではないでしょうか? エテモンさーん」
「そうですねぇ、ボルケーモンさん。シャッコウモンは完全体の中でも最強格の種族にして、激レアな古代種の突然変異型デジモン。天使の系譜特有の聖なる攻撃に加えて高い防御力。その上、どんな地形でも戦える機動力と頑丈性に圧倒的稀少性を誇る属性フリーというアドバンテージ。しかもまだ完全体と伸びしろ十分。未来のスター候補間違いなしです」
「ドラフト会議始まって以来の全十二チームからの一位指名の可能性も十分にあり得そうですね」
「そうなる可能性も非常に高いですね。我々は今から歴史的瞬間に立ち会えるのかもしれません」
「それではエテモンさん。準備はいいですかー?第六十回デジモンドラフト会議~~」
「「開催でーーーーす!」」
第一話『神々の入場』
ここはデジタルワールド・イリアスの最高標高地点『オリンポス神殿』。十二の空の玉座それぞれには神々を象徴するシンボルが施されていた。十二の玉座は一つの円卓を囲むように均等に並び、その円卓の中心にはたった一つの木箱が置かれていた——。
「さーて、最初に登場するのはこのデジモンだー!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に最初に現れたそのデジモンは葡萄と樽の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「前シーズンは怒涛の快進撃で見事ビッグスリーの座に食い込んだ……。オリンポスランキング第三位、バッカスモーン!」
中継のカメラドローンがバッカスモンをズームで映し出す。
「前シーズンは前半苦しい展開で下位に沈むも、一昨年のドラフト三位ワーガルルモンが四聖獣バイフーモンへと奇跡の大型進化を遂げチームを牽引。新人王にも選ばれる大活躍をみせたバッカスモンチーム。正に主人公ムーヴの台風の目となった今まさに一番注目されているチームです!」
「いやー。去年のバイフーモンの活躍は本当に凄かったですね。しかもまだ寿命も長そうですし、今から来年が楽しみです」
「『白虎ブーム』なんて世間では盛り上がっちゃたりしてね。私も推し変してしまいました。でも、エテモンさん。バッカスモンチームには不安材料もあるんですよね?」
「いやー、ほんっとにそうなんですよ。長くチームの顔として支えてきたスレイプモンとクラヴィスエンジェモンの二体の寿命によるお別れですね。まぁ、デジモンであるからには仕方ないですよね」
「我々が成長期の頃は大人気だった二体ですもんね。一度でいいから二体の優勝する姿がみたかった。バイフーモンのいる来年こそは!ってタイミングだったんですけどねぇ」
「まぁ、これも醍醐味ですよね。だからこそ、今回のドラフトが大事なドラフトになるってことでしょうね」
「シャッコウモンが入れば優勝狙えるチームになりそうですね」
「おーっと!次に登場するのはこのデジモンだー!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは二匹の蛇が巻き付く羽の生えた杖の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「数年前まで上位常連だったものの、ここ数年は育成に苦しみ『世代交代失敗』とまで言われる始末のこのデジモン……。オリンポスランキング第十位、メルクリモーン!」
中継のカメラドローンがメルクリモンをズームで映し出す。
「いやー。このチームは本当に厳しい状態にありますよね。エテモンさん」
「そうですね……。チームの状況が良かった時期に素材型のデジモンを取り過ぎた印象がぬぐえませんよね」
「気持ちも分からなくもないんですがねー。まさか、デビモンもグレイモンもグラウモンも全員デスモンに進化するなんてこと、一体全体誰が予想したでしょうか……」
「まぁ、デスモンもあれで魔王型の強力なデジモンなんですけどね。チーム構成上同種のデジモンばかりだと……ってところが素材型ドラフトの怖いところですよね」
「となると、やはりエテモンさん。今年のメルクリモンチームは即戦力になる究極体を中心に取ることが予想されるということでしょうか?」
「一番はやっぱりシャッコウモンだろうね。まぁ、でも究極体は中心になるのはそうだろうね。その分、寿命も踏まえて成熟期を数体は確保しときたいよね」
「成熟期だと、今年はやはりX抗体のドルガモンなんかが目玉になっていますが」
「ドルガモンって、そんなん上位で余裕あるチームに取られるに決まってるよ。上位は究極体いくしかないんだから」
「そうですよね。失礼しました」
「そして、続いてのデジモンの登場だー!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは戦士の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「その荒々しい好戦的なスタイルで一部のデジモン達から根強い指示を受け続けるこのデジモン……。オリンポスランキング第五位、マルスモーン!」
中継のカメラドローンがマルスモンをズームで映し出す。
「前シーズンは、ミレニアモンが大暴れでしたね」
「いや、あれは暴れすぎでしょ。もう少し冷静に戦えていればこんなマルスモンチームはこんな順位で終わっていませんでしたよ」
「いや、まあ、それもマルスモンチームのチームカラーと言いますか。それがあっての強力なデジモンの生まれやすい環境とも言われてますし」
「でも。実際のところ、それもなんの根拠もないってところがねぇ」
「マルスモンチームですと他にも、クレースガルルモンやシュラウドモンなんかも強力ですけど、エテモンさんの来シーズンの注目デジモンや今回のドラフトの補強ポイントだと思う戦力なんかはどんな感じでしょうか?」
「来シーズンの注目は、やっぱりミレニアモンがズィードミレニアモンになるのかどうかかな。補強ポイントなんかはやっぱりオールラウンダーになるだろうね。マルスモンチームは現状地形に弱いですからね」
「そうなるとやっぱり……」
「シャッコウモンはピンズドだね。是非欲しいだろうね」
「まだまだデジモンの登場は終わらなーい!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは立派な盾の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「前シーズンは高い戦力は整わなかったものの、高い戦略性とチーム運営で何度もジャイアントキリングを成功させたこの智将……。オリンポスランキング第四位、ミネルヴァモーン!」
中継のカメラドローンがミネルヴァモンをズームで映し出す。
「このミネルヴァモンチーム、前シーズンのホームでの勝率は驚異の八割越え。盤石な勝ちパターンと地の利を最大限に活かしたデジモンの起用で何度も格上を撃破してのこの順位。試合アーカイブの視聴数は圧倒的ナンバーワンの数字を叩き出した名勝負メイカーでしたが、エテモンさんの一番痺れた戦いはどの勝負でしたか?」
「いやー。名勝負ばかりで選ぶのも大変ですけど、強いて言うならあれかなー」
「お、もしかしてあれですか?」
「ビックスリー、ネプチューンモンチームとのアウェイ戦。ベルゼブモン対リヴァイアモンの七代魔王対決。あれは痺れましたねぇ!」
「本当に名勝負でしたね」
「ホームでも負けている苦手なリヴァイアモンに圧倒的不利な地形でエースのベルゼブモン当てるって、最初はミネルヴァモンチームの作戦ミスかと疑ったけど。まさかベヒーモスを囮にして不利な海中に身を潜め、不意を突き、ゼロ距離でダブルインパクトを何発も打ち込んでリヴァイアモンを倒すなんて。あんな失敗する確立の方が高い一か八かの作戦を四位で終わるか五位で終わるか決まる大事な試合でしてくるなんて思ってもいませんでしたよ」
「しかも、あの試合がベルゼブモン対リヴァイアモン初勝利ってドラマチックですよね。通算で一勝七敗ですよ」
「逆にそれがリヴァイアモンの隙を作ったのかもしれませんね」
「そんなミネルヴァモンチーム。エースのベルゼブモンも寿命が近そうですし、そろそろ大型新人が欲しいところですよね」
「ベルゼブモン同様、一体で戦略の幅が広がるオールラウンダーのシャッコウモンはチームカラー的にもベルゼブモンの後継にちょうど良さそうですよね」
「さてさて、どんどん参りましょう。続いてのデジモンです!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは炎と金槌の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「前シーズンは念願の最下位脱出。今年は更なる下剋上なるか……。オリンポスランキング第十一位、ウルカヌスモーン!」
中継のカメラドローンがウルカヌスモンをズームで映し出す。
「前シーズンはね。五シーズンぶりの最下位脱出ということで、エテモンさん」
「コメントしなきゃダメか?」
「お願いします」
「まぁ、良いデジモンは育ってきているんじゃないかな。去年は五チーム競合一番人気のX抗体メタルファントモンを獲得したし、注目だったデジタマモンも遂に四大竜ゴッドドラモンに進化して勢いもあるんじゃないかな」
「ゴッドドラモン。とても強力ですよね。ウルカヌスモンチームと言えば数年に一度スターが産まれることで有名ですが、ゴッドドラモンにもそのスターの片鱗はあったりするんでしょうか?」
「うーん。まだ、デュークモンクリムゾンモードがいた頃の記憶が我々の中に残っていますからね……」
「そうですよね。デュークモンの時ですらあの人気だったのにクリムゾンモードになった時は、デジタルワールド・イリアスの全デジモンが一度は観てみたいと思う程の大フィーバーでしたからね……」
「まぁ。これから活躍次第なんじゃないでしょうか?」
「そうなりますよね。ちなみにウルカヌスモンなのですが、シャッコウモンには自らの脚で視察するほど惚れ込んでいるという情報も入っていますね」
「まぁ、間違いなく指名してくるでしょうね」
「お!やってきましたね。次のデジモンはこの方です!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは太陽の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「昨シーズンも中堅止まり。しかし、確実に強くなってるあのチームを率いるこのデジモンの闘志はメラメラだ……。オリンポスランキング第八位、アポロモーン!」
中継のカメラドローンがアポロモンをズームで映し出す。
「このチームは何といっても遂に覚醒したパイルドラモンに注目が集まっていますよね」
「伝説の古代種。二柱のロイヤルナイツへの可能性を秘めるブイモンに注目が集まった五年前のドラフト会議。異例の成長期デジモンのドラフト一位は八チーム強豪の大人気でしたからね」
「そんなデジタルワールド・イリアスの全デジモンが注目した成長期の進化先はエクスブイドラモン。前シーズンはその期待と人気を背負い異例の成熟期での早期デビューを果たしたことによる経験値の獲得でパイルドラモンに進化しました!」
「異例の成熟期でのデビューは五戦零勝と厳しい結果に終わりましたが、それを経てシーズン中に進化したパイルドラモンでは四戦三勝と良い結果を残しましたよね」
「前シーズンは計九戦三勝ってことですもんね。しかも、完全体で勝率七割五分と超高成績を残しました。いやー。規格外と言っても過言ではない活躍でしたね」
「流石は属性フリーの古代種といったところですね。そこら辺完全体どころか一部の究極体とも渡り合えるポテンシャル。しかも、まだ進化と寿命が残っている圧倒的アドバンテージ。パイルドラモンの活躍こそがシャッコウモンの期待値を上げた要因でしょうね」
「シャッコウモンは基本的にはパイルドラモンよりも強力な完全体だと認識されていますからね。きっと、これ以上の活躍をみせてくれると思います」
「私はパイルドラモンとシャッコウモンの対戦なんかも観てみたいと思うのですがエテモンさん、そこんところどう思っていますか?」
「いや、同じ境遇だからこそ、同じチームで共に戦うところをみたいなと思います」
「シャッコウモンへの期待が集まる中、あのデジモンの登場です!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは月の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「シャッコウモンを指名する確率を四割ほどと公言しているこのデジモン……。オリンポスランキング第九位、ディアナモーン!」
中継のカメラドローンがディアナモンをズームで映し出す。
「女型のデジモンを中心にドラフトすることの多いディアナモンが今回のシャッコウモンの初十二チーム指名の運命を握っていると言っても過言ではないでしょう。エテモンさんの見立てではこのチームの一位指名どうなると思いますか?」
「前シーズン九位ですからね。シャッコウモンを指名するんじゃないですか?」
「その心は……」
「やっぱり、シャッコウモンがまだ完全体と伸びしろがあるところがポイントだと思います。天使の系譜であれば、オファニモンやマスティモン、ラブリーエンジェモンなんかも進化先として期待できますし。何より、複雑な地形を苦手とするチームですから、オールラウンダーであるシャッコウモンは喉から手が出るくらい欲しいと思います」
「やはり、シャッコウモンはそれほどの逸材だという……」
「その通りですね。それにどうせくじ引きで決まるわけですし、今回のディアナモンチームの他の一位指名候補もレディデビモンと二位でも外れ一位でも十分狙えるデジモンですからね」
「レディデビモンは過去にも何度も上位指名をされる人気デジモンだと思うのですが」
「昔は、ね。ここ最近じゃあ、リリスモンにもマスティモンにも進化しない良くてピエモンの期待値低めのデジモンってイメージが強いかな」
「なるほど。シャッコウモンを指名しても損はないからとりあえず狙うということですね」
「そうなりそうですね」
「おー! 今度はあのデジモンの登場だー!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは鳩の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「その寵愛を受けることが全デジモンの夢である。オリンポス十二神人気ナンバーワンのこのデジモン……。オリンポスランキング第七位、ウェヌスモーン!」
中継のカメラドローンがウェヌスモンをズームで映し出す。
「いやーぁ……」
「「ねぇ?」」
「エテモンさん。ウェヌスモンは今日も本当に美しいですね」
「私も大ッファンでして。贔屓チームなのであまり言うとね、ファンの方に怒られちゃいそうなんですけどね……」
「エテモンさん。今日は解説で来てるんですから、思う存分解説しちゃってくださいな」
「このウェヌスモンっチーム語るには何と言っても前シーズンの主力にしてリーグ五位の勝率を誇るチームの勝ち頭ラグナロードモンからでしょう。ウェヌスモンが大事に育てたレジェンドアームズの二体のデュランダモンと長くチームを支え今にも寿命を迎えそうといった状態だったブリウエルドラモンが遂にジョグレス。ダークエリアの炎を纏う特異型のウィルス種デジモンにもかかわらずデータ種の盾ブリウエルドラモンとワクチン種の剣デュランダモンを駆使して相性差を覆すその戦闘スタイルは戦いたくないデジモンナンバーワンにも選ばれています。他にも十闘士エンシェントビートモンやX抗体ディノタイガモンと珍しいデジモン多いチームですが今私が特に注目しているのが、完全体の三体エアロブイドラモンホーリーエンジェモンヤタガラモンの前シーズンから出場数を増やしてる若手です。ここにもしシャッコウモンが加わればかなり熱いんじゃないでしょうか。ウェヌスモンチームの魅力はそんなデジモン達の進化先が楽しみになる育成環境です、本当に推せるチームですよね。ボルケーモンさん」
「え、えぇ……」
「因みにボルケーモンさんが注目している若手プロスペクトデジモンっていたりするんですか?」
「私はマルスモンチームのベテルガンマモンですね。そろそろ完全体になる頃ですし、進化先が気になる期待の一体かな、なんて思ってチェックしてます」
「流石公式実況デジモン。良いチョイスですね」
「ありがとうございます」
「さて、続いて入場してきたのはこのデジモンです……」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは小麦の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「手堅い作戦と采配で常に安定した順位をキープするこのデジモン……。オリンポスランキング第六位、ケレスモーン!」
中継のカメラドローンがケレスモンをズームで映し出す。
「前シーズンのシーズン通してたったの三体のデジモンを全く同じ起用で使い続けの見事六位入賞でした」
「地力の高い三体がレギュラーでしたからね。個人的にはシーズン中に進化したブルムロードモンやヘクセブラウモンの新戦力も見てみたかったんですけどね」
「グランドラクモンなんかはシーズン中に調子の悪い時期なんてありましたからね。やっぱりファンからしたらなんでブルムロードモン使わないんだろう。この地形なのになんでヘクセブラウモン使わないんだろう。この相性ならエースのタイラントカブテリモンとガイオウモンのところ逆にしてもいいんじゃないか。なんて声も結構ありましたよね?」
「そこら辺の采配は結果論ですからね。実際激戦の中、シーズン六位と高成績ですからね」
「レギュラー陣の中に来シーズンで寿命を迎えるデジモンはまだいなさそうですけど、来年はブルムロードモンやヘクセブラウモンの出番というのはエテモンさんの見立てではありそうですか?」
「ケレスモンチームの方針的に実戦経験をかなり重視しますからね。世代交代のタイミング以外ではなかなか難しいんじゃないかな」
「今のチーム状況をみると世代交代ってのは二つ先のシーズンから始まりそうですがそうなるとシャッコウモンにいかない可能性も……」
「ケレスモンはシャッコウモン取りにいくと思いますよ。世代交代も近いですしレギュラー固定主義のチームですからね。長く戦えそうな安定感あるデジモンは絶対に逃したくないと思ってるんじゃないでしょうか……」
「皆さん長らくお待たせしました。前シーズンチャンピオンの登場でーす!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは一対の指輪の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「前々シーズンでは十位と低い順位だったものの前シーズン大大大下剋上を果たして見事シーズンチャンピオンに輝いたこのデジモーン……。オリンポスランキング第一位、ユノモーン!」
中継のカメラドローンがユノモンをズームで映し出す。
「いやぁ、エテモンさん。ココで来ましたよ、前シーズンの王者が……」
「来ちゃいましたね」
「前シーズンは大下剋上、正に台風の目といった活躍で敵なしといった感じでしたね」
「前シーズンのユノモンチームには本当に驚きましたね。シーズンをぶっ壊すエグザモンとオルディネモンを一気に用意してきたわけですから」
「やっぱりターニングポイントはエグザモンへの進化でしたよね」
「あれはルールを熟知して完全に狙っていないと無理ですもんね。ユピテルモンの為に三シーズンかけて用意したって言ってましたからね」
「まぁ、結果的にヒール的な役回りになってしまい人気の方は全くといった感じでシーズンを終えたわけですが……」
「元々人気の低かったチームでしたからね。ただまぁ、ここからシーズン連覇でもしたら自ずと人気は出てくると思いますよ」
「このまま順調に進めば三連覇も夢じゃない戦力ですもんね……」
「まぁこのチームもこのタイミングで人気を獲得する為にもスター候補のシャッコウモンは押さえておきたいところだよね」
「各チーム事情にピッタリフィットしそうなシャッコウモン。これはライバルに取らせてはいけないという面でも絶対に欲しいデジモンになっていますね」
「残るデジモンもあと二体。続いて登場するデジモンはー!」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは一対の馬の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「過去全シーズンの平均順位が驚異の三位、常勝軍団を率いるこのデジモン……。オリンポスランキング第二位、ネプチューンモーン!」
中継のカメラドローンがネプチューンモンをズームで映し出す。
「エテモンさん。このデジモンは貫禄が違いますね」
「やっぱり常に強いチームを率いているわけですからね。余裕……みたいなものがありますよね」
「前シーズンは二位で終わったわけですけど、来年こそ優勝したいって気持ちが強いんじゃないでしょうか?」
「このチームは本当に二位が多いチームですからね。最後に優勝したのはもう六シーズンも前になりますから、そろそろ優勝したいって時期だったところに今年のユノモンチームですから。非っ常に悔しかったんじゃないですかね」
「エースのリヴァイアモンを筆頭にアルフォースブイドラモン、ヒュドラモン、バンチョーレオモン、ジャスティモンと強力なデジモン達が相性に応じて控えているとても良いチーム状況ですからね」
「ただ。このチームまだ次世代が育っていないんだよね」
「ダークナイトモンとかタンクドラモン、去年はドラフト二位でラプタードラモンを獲得していた気がするのですが……」
「そうなんだけど、トレーニングの状況的にどうやらまだ時間かかるらしいですよ」
「前線のデジモン達の寿命もそんな長くなさそう、確かにそれは不安材料ですね……」
「結局どこもシャッコウモンを必要としている状態だってことだよね」
「そして、最後はやはりこのデジモンの登場です」
ボルケーモンの実況と共に円卓の間に現れたそのデジモンは雷の描かれたシンボルの玉座へと着席する。
「数多のスターを産み、最多優勝回数を誇る最強チーム。しかし、前シーズンは度重なる不運とユノモンによる策略によってまさかの都落ち……。オリンポスランキング第十二位、ユピテルモーン!」
中継のカメラドローンがユピテルモンをズームで映し出す。
「長くチームのスターとして活躍し、三連覇の立役者となったオメガモンとの別れを経て挑んだ前シーズンでしたが。まさかの最下位という結果に終わってしまいましたね」
「シーズン開始時の戦力は十分に優勝を狙えるチームだったんですけど。本当に不幸の連続で全てが嚙み合わないシーズンになってしまいましたね」
「オメガモンにエースを託されたデュナスモンの早期寿命による離脱、突然スリープモードに入り戦闘不能状態になったベルフェモン、ユノモンの策略によってブレイクドラモンの進化の贄となってしまったスレイヤードラモン、突如ルインモードで暴走しそのままデジタマに還ってしまったシャイングレイモン、戦力不足で怪我が完治する前に出場し死んでしまったズィードガルルモン……。憧れの銀河系軍団の崩壊にデジタルワールド・イリアスの多くのデジモン達が悲しみの淵に沈んだでしょう」
「期待の若手だったセイバーハックモンも心労が重なりプラチナヌメモンになってしまいましたからね……」
「今はベルフェモンを除くとチーム内の究極体がプラチナヌメモンだけですからね。今回のドラフトに一番賭けているのはユピテルモンチームかもしれません」
「ユピテルモンチームのサポーター達はシーズン中からシャッコウモンを獲得できるのかといった話題で溢れかえっていましたからね。今日を一番楽しみにしていたのはユピテルモンチームのサポーター達なんじゃないかな」
「心なしかカメラに映るユピテルモンの表情も固く感じますね」
「と、いうことで。年に一度、オリンポス十二神が揃う唯一の時間がやって参りました。遂にこれから各チームの一巡目選択希望選手の発表が始まります……」
第二話『第一巡選択希望選手』
オリンポス十二神。デジタルワールド・イリアスにおいて世界の管理者ホメロスによって選ばれし十二体の神人型デジモンにして最高位の守護者である。世界守護者たる彼らには寿命は存在せず、力で及ぶデジモンも存在しない。しかし、彼らも又デジモンもであった。デジモンにとって闘争はコンセプトそのもの。神になったとしても、決して切り離すことの出来ない本能であった。そして、ホメロスに与えられた永遠の命は本来短命で疎に短い人生を強さの高見を目指す為に費やすデジモンにとっては退屈を通り越して懲罰に等しい底なしの奈落そのものであった。
六十年前、そんな永遠に痺れを切らした神々はこのオリンポス神殿にて初の会合を開くことになった……。
ここはデジタルワールド・イリアスの最高標高地点『オリンポス神殿』。たった一つの木箱が置かれた円卓を囲むように、この世界を守護する十二のデジモンは自らを象徴するシンボルが施された玉座に静かに着席していた——。
「オリンポス十二神の皆様。今回のドラフト会議の司会を務めさせていただきます。ボルケーモンと申します。どうぞよろしくお願いいたします」
ボルケーモンの挨拶に数名の神がコクリと頷く。
「例年同様、第一巡に関しましては抽選とさせて頂きます。全チームの一巡目が終わり次第、第二巡以降のデジモンの選択に入らせて頂きます。第二巡以降は前シーズンの結果を踏まえて最下位から順番に、次の第三巡は優勝チームから順番に、その後も往復する形での順番で選択を繰り返し、全てのチームが選択終了次第終了とさせて頂きます」
説明が終わると、それぞれの神の手元にはホログラムのタッチスクリーンが表示される。
「では、第一巡目のデジモンの選択に移らせて頂きます。お手元のスクリーンを操作してデジモンを選択してください。全チームの選択が完了後、開票させて頂だき、選択が重複した場合は抽選へと入らせていただきます——」
会場が沈黙に包まれると共にデジタルワールド・イリアス中に緊張が走る。
ある神は即決し、目を瞑って腕を組んでいる。ある神はホログラムのスクリーンを睨むように見つめている。ある神はスクリーンを操作して、満遍なく端末の情報を漁っている。ある神は祈るように両手を合わせている。また、ある神はスクリーンの操作に手間取っている。そんな神々の一挙手一投足にデジモン達の視線が集まっていた……。
「さて、全チームの選択が完了したようです。これより、開票へと移らせて頂きます」
ボルケーモンのアナウンスに全デジモンが息を吞み、僅かな聞き逃しも無いようにと呼吸を止める。
「では、発表させて頂きます——。第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがユピテルモンをズームで映し出す。
「ユピテルモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れるのを感じ、ユピテルモンはニヤリとドヤ顔で何度も頷いた。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがウルカヌスモンをズームで映し出す。
「ウルカヌスモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れることなどをまったく気にしない様子で、ウルカヌスモンは八本の腕を器用に組んでジッと佇んでいる。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがメルクリモンをズームで映し出す。
「メルクリモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れると、メルクリモンは愛刀アステカを握った拳を空高く突き上げる。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがディアナモンをズームで映し出す。
「ディアナモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れると、それを制止するかの用に中継のカメラドローンに向かって目を閉じたままピンと張った掌を向けた。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがアポロモンをズームで映し出す。
「アポロモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れたことに、アポロモンは上機嫌な様子で鬣を靡かせた。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがウェヌスモンをズームで映し出す。
「ウェヌスモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れると、ウェヌスモンは中継のカメラドローンに向かって投げキッスでファンサービスをする。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがケレスモンをズームで映し出す。
「ケレスモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れるのを不快そうにケレスモンは首を傾げる。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがマルスモンをズームで映し出す。
「マルスモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れるのに対してマルスモンは高々と笑う。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがミネルヴァモンをズームで映し出す。
「ミネルヴァモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れるとミネルヴァモンは足を崩し背もたれに深く身体を預け胡坐をかく。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがバッカスモンをズームで映し出す。
「バッカスモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れとバッカスモンは巨体を世界と同じように揺らして笑顔で中継のカメラドローンに手を振ってみせる。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがネプチューンモンをズームで映し出す。
「ネプチューンモンチーム——。『シャッコウモン』」
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中がデジモン達の歓声で揺れると、それを当然のように振る舞い貫録をみせた。
続けてボルケーモンは次の発表を始める。
「第一巡選択希望選手……」
中継のカメラドローンがユノモンをズームで映し出す。
デジタルワールド・イリアス中のデジモン達が歴史的瞬間の誕生を逃すまいとより一層にボルケーモンのアナウンスに全神経を集中させる。
もし、十二のチーム全てが同じ候補を一巡目で指名するとなるとそれはこの六十年の長いドラフト会議の歴史の上で初めての快挙であり、未来永劫に破られることのない伝説……いや、神話として語られる続けるかもしれないことである。
数秒前までの興奮がデジタルワールド・イリアス中から一気に冷める刹那の出来事すら、このデジタルワールド・イリアス始まって以来の初めての出来事であることにも一体のデジモンたりとも気づいてはいなかった……。
そして、遂にその時が訪れた——。
「ユノモンチーム——。『シャッコウモン』」
…………。 …………。 …………。 …………。
……ウ。
ウォォオオオオオオオオオオオ!!!!
デジタルワールド・イリアス中のデジモンが、歴史的瞬間に立ち会えた喜びと感動に祝福の雄叫びを響かせた。そのとてつもないエネルギーは世界の壁をも突き破り、向こう側の世界に多大な影響を与えていたとも露知らず。デジモン達は只々喜びと感動をしばらくの間分かち合った。
中継に映ったユノモンの表情と言えばそれはもう満足げであり、誇らしさに満ち溢れている。
感動のあまり涙を流しながらも、ボルケーモンは司会としてドラフト会議の進行を再開した。
「以上の結果をもちまして。暦史上初の十二チーム競合でシャッコウモンの抽選を開始いたします。木箱の中のくじを前シーズン最下位のユピテルモンチームから順番に引いて頂き、私の合図で同時に開封していただきます。当たりくじには、交渉権獲得のデジ文字が施してあり、外れくじは白紙となっていますので当たりを引いた方は当たりくじを中継用のカメラドローンに見えるように掲げて頂きます。では、くじの準備が出来ましたので、円卓中央の木箱から順番にお願いします……」
第三話『シャッコウモンを引き当てろ!』
デジモンドラフト会議。六十年前、デジタルワールド・イリアスの守護者である一二のデジモン達によって始まったリーグ戦形式のデジモン達の闘技の祭典『イ・リーグ』に参加するデジモンを公平に選抜する為に始まった年に一度の神々会合である。『イ・リーグ』の目的は主に二つ。一つは、ホメロスによって与えられた永遠の命による神々の退屈凌ぎ。もう一つは、デジタルワールド・イリアスに住むデジモンの闘争本能を枯らさず進化を促しつつ、その矛先を与えることで暴発を防ぐ、平和維持への布石としての機能であった。
「例年通り、一巡目のみは入札抽選。全チームの選択が確定するまで、外れたチームは再度入札を繰り返すルールとなります。そして、このドラフトでは暦史上初の全チームによる一体への入札……。つまり、全チームによるシャッコウモンの争奪戦となります。そして、最初にくじを神はこの方です……」
ユピテルモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は十二枚。内、当たりくじはたったの一枚。一見、公平なくじ引きのように思えるこのくじには一つのセオリーが存在する。それは先に引くデジモン程有利であるといったものである。理屈としてはこうである……。
『最初にくじを引く者のみが、十割の確率で当たりくじが入った状態でくじが引ける』
この考え方は決して数学的な確率の考え方では決してない。だが、何故だか先に引いた者の方が当たりくじ引き当てる確率は高くなっているのだ。勿論、オリンポス十二神のデジモン達が強力な力を持ったデジモンだから当たりくじが分かる訳ではない。
このくじ引きはホメロスによって作られた至って強力な力で神聖なによって守られている。その力は木箱の中に入ってしまえばホメロス自身すら干渉することのできないほどに強力であり、オリンポス十二神と雖も決してイカサマのしようがない。そこら辺のヌメモンとも平等になる木箱なのである。だからこそ平等なのだが、セオリーもまた確実に存在する為、平等性を少しでも上げる目的でくじ引きの順番は前シーズンの下位からであると決まったのだ。
前シーズン悔しくも最下位に終わってしまったユピテルモン。オリンポス十二神でリーダー格であるユピテルモンにとって、最下位という状況は不運という言葉で片付ける以外にあり得ないことであった。前シーズンはそれが叶った。しかし、見方を変えればあれは全てがユノモンの策略であったとも捉えられる。イ・リーグが始まって以来、あんなに本気で優勝を取りに動いてきたユノモンは一度も見たことが無かった。ユノモンは見る目さえはあれども神々の中ではそこまで前衛的に力を入れるタイプではなかった。ユノモンはユピテルモンを愛するユピテルモンのパートナーのデジモンである。故にユピテルモン本人にはその真相は明白だった。ユノモンはユピテルモンに執着している。それが答えである。ユノモンはユピテルモンの気を引くために、この六十年の間、ずっとチャンスを窺っていたに違いない。普通のデジモンからすれば幾度の人生を歩む長い時間も永遠の命を持つ神々にとっては取るに堪えない短い時間。ユノモンにとってこのゲームの楽しみ方は最初からこれだったのかもしれない……。
育成の計算も狂い、究極体デジモンがジエスモンに育てるはずだったプラチナヌメモン一体のみ。そんなユピテルモンチームの現状打破には、完全体と寿命も長く、そこら辺の究極体をも凌ぐ即戦力としてのシャッコウモンは最悪の現状を打破すべくか細い勝利への一縷の望みそのものであった……。
ユピテルモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り十一枚——。
続いて、ウルカヌスモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は十一枚。
イ・リーグにおけるウルカヌスモンを一言で表すと『ミーハー』である。ウルカヌスモンは他の神々と暇を持て余してはいなかった。ウルカヌスモンには鍛冶がある。デジタルワールド・イリアスの鍛冶神であるウルカヌスモンの仕事はデジモン達の武器や防具といった様々なモノの創造である。ウルカヌスモンは殆ど休むことなく鍛冶場に籠りモノを造る。それ故にデジモンの調査に全く力を入れていない。武器や防具を受け取りにきた客との世間話が唯一の情報源になっていた。その中には、自チームのサポーターも多く、中には自分自身を売り込むデジモンもいる。だからこそ、ウルカヌスモンは有名な注目デジモン、人気のデジモンへ特攻する。それで今までに何度かエースやスターを産んできた。『ミーハー』であることこそウルカヌスモンの成功体験を基に辿り着いた最強の戦略であるのだ……。
ウルカヌスモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り十枚——。
続いて、メルクリモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は十枚。
前シーズンはデスモン軍団を率いることになったメルクリモン。ユピテルモンチーム同様に育成のタイミングが嚙み合わずあわや暗黒期突入寸前のこのチームもシャッコウモンに賭ける思いは人一倍強い。メルクリモンは順位に拘りの強いデジモンだ。そして、ユピテルモンのように育成の上手くないデジモンでもある。それだけあって、ドラフトでの補強をどの神々よりも重視するチームになっている。それだけあってデジモンの能力を引き出すのはかなり得意なチームであり、即戦力として期待されているデジモンを活躍させるのが非常に上手である。特定の推しのチームやデジモンがいない箱推しのデジモン達に言わせれば、シャッコウモンが行くべきチームはメルクリモンチームだと言う。
メルクリモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り九枚——。
続いて、ディアナモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は九枚。
女型のデジモンでチームを構成することに拘りを持つディアナモン。では、何故シャッコウモンを選択したのだろうか……? その理由は明白である。前シーズン、ライバルであるアポロモンチームにわずかな差で負けてしまったからだ。ディアナモンにとって究極体以外の全てが女型のデジモンへの進化を秘めていると言っても良いだろう。実際にディアナモンチームの育成成功率は極めて高い。デジモンの進化は環境に左右されることが多いと言われている。ディアナモンチームには多くの女型デジモンが在籍している。だからこそ、完全体であるだけでシャッコウモンは優先度が十分に高い。それに昨シーズンはアポロモンチームのパイルドラモンの活躍に何度も泣かされた。それだけあって同じ古代種フリー型の完全体デジモンへの執着も大きいのだ。上記のように理由はいくらでもあるのだが、結局のところディアナモンにとって最悪のシナリオがアポロモンチームにシャッコウモンを取られることなのが決め手であった。
ディアナモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り八枚——。
続いて、アポロモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は八枚。
前シーズン、パイルドラモンの活躍により大きく注目を浴びたアポロモン。そんなアポロモンだからこそ、シャッコウモンのポテンシャルを最も正しく評価しているチームだろう。もし、パイルドラモンとシャッコウモンが同じチームに揃うことがあれば最低三シーズンは安泰と言っても良いだろうし、その後の二体の進化先によっては連覇も夢ではないかもしれない。何よりも、この二体のスターが並ぶとなればデジタルワールド・イリアス中のデジモン達からアポロモンチームは注目の的となる。サポーターの応援はデジモンの大きな力になる。これはイ・リーグが始まって初めて発見された新しいデジモンの特徴の一つであり、スターと呼ばれるデジモンを生み出す重要なファクターだ。アポロモンチームはあまり人気のないチームだからこそ、この好機を確実に掴むことを最大の目的に添えている……。
アポロモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り七枚——。
続いて、ウェヌスモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は七枚。
ウェヌスモンチームは来シーズン注目のチームだ。エテモンの説明があったように圧倒的エースのラグナロードモンを中心に強力なデジモンと勢いのある若手がバランス良く躍動している。しかし、前シーズンの順位は七位と今一歩の成績で終わっている。ラグナロードモン以外の戦力はリーグ全体でも中堅であり、相手のエース級相手に勝ち星を上げられるデジモンがいないことを意味している。逆を言えば若手の進化先さえ良ければ来年は一気に順位を伸ばすチームでもある。だからこそ、ウェヌスモンは若手に経験を得る機会を積極的に与えているのだ。良い経験の蓄積がデジモンをより優秀なデジモンへと進化させる。デジモン育成の基礎であるそれをウェヌスモンは大事にしている。その中で一つでも順位を上げる為には究極体と渡り合える強力な完全体デジモンが重要になってくる。育成しながら勝ち星を上げることこそがウェヌスモンチームのスタイルであり人気の要因だ。愛情掛けて育てたエースラグナロードモンの為にも、ウェヌスモンはシャッコウモンを引き当て是非ともリーグ優勝を勝ち取りたい。
ウェヌスモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り六枚——。
続いて、ケレスモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は六枚。
手堅い戦力を揃えるケレスモン。世代交代すら見据えたその優秀なチーム編成は目を見張る。しかし、ケレスモンの目利きは厳しくケレスモンチームでは一流デジモンでない限りレギュラーメンバーに入るのは至難の業である。戦略でなく、手堅く戦い手堅く勝利する。それこそはケレスモンの美学であり、闘い方だ。そんなケレスモンですらこのシャッコウモンには一目置いていた。類稀なる戦闘センス、必殺技のアラミタマの完全体離れした破壊力、そして何より属性フリーというレギュラー固定のケレスモンにとって最も魅力的な弱点なしのアイデンティティ。無尽蔵なポテンシャルを持つシャッコウモンはケレスモンチームでの成長も著しいものになるだろう。そんなケレスモンだからこそ、この十二チーム競合になんの疑問も持っておらず下位のチームほどにシャッコウモンに賭けているということはなかった。当たれば万々歳。ドラフト会議なんてそんなものだ。戦力に余裕のあるケレスモンチームにとって、シャッコウモンは毎年恒例のドラフトの目玉と変わりない当たりくじに過ぎなかった。
ケレスモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り五枚——。
続いて、マルスモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は五枚。
マルスモンが求めるデジモンは一貫してパワフルなデジモンだ。スマートな闘いなんてお断りの暑苦しい正面からの殴り合い。シャッコウモンにはその素質が備わっているとマルスモンはみていた。特にマルスモンが評価したのはその強靭な身体の硬度だった。デジモンはみんな派手な必殺技を持っている。では、闘いで一番盛り上がるシーンはどこだろう? それが必殺技をモノともしない圧倒的な力の差、そしてそれを示すかのようなカウンターを決めるシーンだ。勿論、これはマルスモンとそのチームを率いる熱狂的なサポーター達の意見でしかないのだが。軍神であるマルスモンにとって闘いは全てであり生業だ。闘いに勝敗以上を求めて何が悪い? そんなマルスモンチームだからこそ、強いデジモンが育つのだ。シャッコウモンを外したところでマルスモンは動揺しないだろう、寧ろ高揚する可能性だってある。だってそうだろう? もし自分のチームでないのであれば、シャッコウモンと戦えるのだから……。
マルスモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り四枚——。
続いて、ミネルヴァモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は四枚。
コンスタントに上位を維持してきたミネルヴァモンチームには未だ黄金期が訪れていない。過去に八度の優勝経験したミネルヴァモンチーム。しかし、連覇は未だにゼロ。優勝したシーズンも戦力の均衡したシーズンで上位複数チームがギリギリの戦いをしたシーズンのみである。ミネルヴァモンは憧れ続けている、圧倒的ゲーム差でリーグを制するその時を……。過去にも何度もスターの原石をドラフトで逃し続けた。そして、その多くがリーグのスターへと成長し所属するチームを優勝へと導いていくのを目の当たりにしてきた。そんなスターの原石の中にもシャッコウモン程の逸材なんて見たことがない。シャッコウモンは原石なんてレベルじゃなかった。完成されたスターそのものがミネルヴァモンの目の前に降ってきたのだ。こいつが自分を優勝に導く逸材だ。ここから黄金期が始まる。そんな確信をこの知将は感じ取っていた。
ミネルヴァモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り三枚——。
続けて、バッカスモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は三枚。
バイフーモン効果『白虎ブーム』によって最も注目されているバッカスモンチーム。しかし、チーム状況は決して余裕があるとは言えなかった。スレイプモンとクラヴィスエンジェモンのおかげでバイフーモンを筆頭にチーム戦力の整備は順調。だがしかし、優勝するには心許ないといった状況だった。そんなバッカスモンの頭に何度もよぎるスレイプモンとクラヴィスエンジェモン。この二体生きていてくれれば。そんなところに現れたのがシャッコウモンだった。まるでスレイプモンの聖なる鎧のようなボディにクラヴィスエンジェモンのような神々しさに満ちた天使の輝き。バッカスモンに二体が帰って来たと思わせるその風貌と力。シャッコウモンこそが優勝への最後のピースだと運命を感じたのだ。だからこそ心に余裕が芽生えこの日この時を待ち望んでいた。「心配することはない、私にはスレイプモンとクラヴィスエンジェモンがついているんだ」。二体の幻影が木箱に手を伸ばすバッカスモンの手の甲に手を添えてバッカスモンに頷きかける。これが、バイフーモンとシャッコウモンの伝説の始まりであるかのように——。
バッカスモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り二枚——。
続けて、ネプチューンモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は二枚。
ユピテルモンチームからオメガモンが抜けた前シーズンこそ優勝できるはずだった。その結果が二位である。現戦力は圧倒的だ、エグザモンさえ出てこなければ……。負け惜しみなんて言っていられない、来シーズンもユノモンチームと競り合うことになるのは明白だった。前シーズンのように無駄にゲームも落としていては決して優勝はできないであろう。だからこそ、他のチームにシャッコウモンを取られる訳にはいかないのであった。ネプチューンモンチームではシャッコウモンは即戦力になれないだろう、良くて次世代のエースといったところだ。下にも良いプロスペクトデジモンが沢山いる、そこにシャッコウモンが加われば良い競争になるだろう。この場において、ネプチューンモンだけが先を見据えてドラフトに臨んでいた。それこそがネプチューンモンの神髄であり、ネプチューンモンチームの安定した強さなのである。
ネプチューンモンは木箱から一枚のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
木箱の中のくじ、残り一枚——。
最後に、ユノモンが席から立ち上がり、円卓中央のくじの入った木箱に手を伸ばす。木箱の中のくじの枚数は一枚。
ユノモンは鼻からシャッコウモンに興味なんてなかった。シャッコウモンに入札したのは最初にくじを引くことが決まっていたユピテルモンへの嫌がらせである。ユノモンにとってはユピテルモンこそが全てである。反応が見たいからちょっかいを出す。かまって欲しいから意地悪をする。このイ・リーグのその手段の一つとしてしか考えていない。デジモンを育てるのは好きだ。まるで人間夫婦の子育てのようで楽しくて優しい感情に包まれるから。だけれども、デジモンである以上子供達は我々夫婦の子供は生まれないし、ユピテルモンはそんなユノモンの気持ちを全く理解していない。ユノモンはカタチだけでも良いからユピテルモンと一緒に育てた自分たちの夫婦の子供が欲しかった。そこで目を付けたのがユピテルモンチームのウィングドラモン。イ・リーグのルール上、ホメロスの結界によりデジモン達は殺し合いができず戦いが終われば傷も癒える。しかし、寿命の近いデジモンが命を削り寿命を迎えることとイレギュラーによるジョグレス進化はデジモンのコンセプト上認められたルールであった。ユノモンはこれに目を付け、三年かけてユピテルモンチームのデジモン達の寿命の削り、ブレイクドラモンを育て上げた。結果は知っての通りである。ユピテルモンチームのデジモン達は次々と倒れ、スレイヤードラモンはブレイクドラモンに吸収された。もしエグザモンがスレイヤードラモンと対等にジョグレスして生まれていれば消えてしまうのはブレイクドラモンだっただろう。しかし、これは必然的に起きたジョグレスではなかった、だからこそこうしてエグザモンはユノモンの下に帰ってきている。ユノモンが求め続けたユピテルモンと一緒に育てた夫婦の子として……。
ユノモンは木箱から最後のくじを引くと、自分の玉座に戻っていった。
ユノモンの着席を確認するとボルケーモンのアナウンスが始まった。
「それでは、くじの開封をお願いします」
カサカサッ
中継用のカメラドローンが十二柱の神を一斉に映し出すと、一柱の神が高々と頭上にくじを掲げた……。
ウォォオオオ!
デジタルワールド・イリアス中に歓声と悲哀の声が響き渡る。そして、神々はくじを外した十一柱の神のそれぞれの様子がカメラに映し出された。悔しそうな表情を浮かべる者。高笑いをする者。拍手を送る者。面白くなさそうにする者。様々な様子を見せる神々の視線の先には一柱の神が誇らしげに交渉権獲得と書かれた当たりくじを掲げ続けている。
「抽選の結果、シャッコウモンの交渉権を獲得したのは……。ユピテルモンチームです」
ウォォオオオ!
セオリー通りのアドバンテージを活かして当たりくじ引き当てたのはユピテルモンだった。笑顔溢れるユピテルモンに中継用のカメラドローンが近づくとマイクをユピテルモンへと差し出してコメントを促した。
「ユピテルモン様。見事当たりくじを引き当てましたが、その時の感覚というのはどのようなものだったでしょうか?」
ボルケーモンが中継用のカメラドローンを通してユピテルモンへと質問する。
「初の十二チーム競合ということで、当たるかどうか不安もあったのですが。前シーズンは不運にも最下位に落ちてしまった分。この順番というアドバンテージをしっかり活かせたことは、来シーズンの立て直しに向けて良いスタートが切れたんじゃないかなと思います」
「シャッコウモンもカメラの向こうで観ていると思います。シャッコウモンに向けて最後に一言もらってもよろしいでしょうか」
「はい。うちのチームの来シーズンの目標は立て直しになるでしょう。だけれど、しっかり若手は育っているし戦闘センスに秀でたプラチナヌメモンもいます。数年後は君を中心にまた優勝を狙えるチームになっていると思うので私たちと二人三脚でユピテルモンチーム……。盛り上げていきましょう!」
ウォォオオオ!
——そして、第六十回デジモンドラフト会議は終了した。
「いやー。今年も凄いドラフトになりましたね。エテモンさん」
「シャッコウモンはユピテルモンチーム。良いチームに入れたと思いますね」
「これからユピテルモンがシャッコウモンへの挨拶に向かう様ですよ」
「ユピテルモンはもうオリンポス神殿を出たようですね」
ここでボルケーモンに一通の連絡が届く。
「と、ここで速報です——。ユピテルモンを待つシャッコウモンに進化の動きが……。シャッコウモンに進化の動きが!?」
「ちょっとボルケーモンさん、どういうことですか?」
「どうやらユピテルモンの到着を待っているシャッコウモンが進化の光に包まれているようです」
「そんな、まさか……。シャッコウモンは完全体になってから日が浅い、こんな状態で進化してしまったら……」
「どうやら現場との中継が繋がっているようです」
「早く見せて下さい!」
シャッコウモンを映す中継の映像は、シャッコウモンを包む進化の光を確かに映し出していた。周囲のデジモン達は地元のスターであるシャッコウモンの……。その進化先を期待のまなざしで眺めているように見える。そして、そこにユピテルモンが到着した……。
「こ、これはいったい……。まさかシャッコウモンが!?」
ユピテルモンが到着したと同時に進化の光は小さく、小さく収束すると、その中から一体のデジモンが姿を現した……。
「ピキィ!」
ふわりふわりと宙に浮きユピテルモンの周りを嬉しそうに周回するピンクの小さなデジモン。それは滅多に見ることのできないネットの海に棲む妖精型デジモン。その首には大きなホーリーリングがまるで本体かのように備わっている。幻の稀少種にして最弱の究極体——。
『マリンエンジェモン』であった——。
初めまして、夏P(ナッピー)と申します。
この時期ならではの風物詩、プロ野球のドラフトをモチーフとした物語、拝読させて頂きました。
実況と解説のボルケーモンさんとエテモンさんの小気味良い掛け合いに楽しさを覚えておりましたが、アポロモンチームのパイルドラモンが成熟期時代五戦全敗で完全体への進化後は三勝一敗、つまり三勝九敗ということで貯金作れない投手はね……などと畜生な感想を抱いてしまいましたがそれはそれ。寿命と進化も加味したチーム作りはなかなか想像に楽しく、成熟期だけで揃えた強豪チームもいるんだろうなとか考えておりました。
イ・リーグはイリアスのイなのでしょうが、もしやイグドラシルのイでホメオスタシスのホ・リーグ(ロイヤルナイツの13チーム)もあるのかなと考えたり。実力のイ、人気のホ。いやロイヤルナイツ各球団に進化前含めて在籍していましたが。バッカスモンチームはワーガルルモンがバイフーモンに、つまりウルフ由伸が阪神に進化という事実に戦慄にして驚愕。
しかしタイトル通りメインとなるのはシャッコウモン。既に実況解説のお二人がフラグを建てていたので複数球団の競合は確実、しかし上記のパイルドラモンがシャッコウモンと同じジョグレス体として並び称されていたので、これはつまり残るもう一体、アイツがいるということ──!
10球団「シャッコウモン!」
アポロ長嶋「シルフィーモン」
ディアナ王「シルフィーモン」
シルフィーモン「長嶋はんや! 王はんや! ワシは小物チームに興味無いんじゃアホンダラァ!」
みたいなドカベンプロ野球編の山田と岩鬼みたいな展開が来ることを警戒していましたが、ガチで12球団競合でした。しかもユノモンに関しては単なる嫌がらせだった。バッカスモンとか見た目魔人ブウなのでクジ操作できそうですが真っ向勝負。何故だ!!
そして無事に最下位のユピテルモンこそが交渉権を獲得!
と思ったら進化、しかも地の文で最弱と明言されるマリエン。このガックリ具合、マリン→海→カイ→カ〇エン、まさしくてょ。ユピテルモン様は来年もCS逃すことでしょう。ユノモンが夫婦の営み(意味浅)を求められてるので、いずれオリックスと近鉄の如く合併する未来が見えるぜ。つまりホ〇リ〇エ〇〇〇モン様辺りが新球団設立として名乗りを上げると信じておりますぞ。
オリンポス12体を球団に例え、ドラフトという思わぬ形で描かれた作品、大変楽しませて頂きました。
この辺りで感想とさせて頂きます。