「すみませーん!お届け物でーす!」
見習い配達員ブラックテイルモンが訪れたのは、はじまりの街の近辺に立てられた元はマッドサイエンティストが住んでいたとされる 屋敷…だったのだが、足を運んで来てみれば保育園とかいう看板を掲げた2階建保育施設に変わり果ててブラックテイルモンはビックリした。が、驚いている暇は無い。配達の仕事はやり通さねばならない。
ところが呼び鈴やポストはまだ設置されておらず、仕方なく玄関らしき戸を開けると独特なペンキと科学塗料の臭いが漂い、内部は改装中で所々むき出しの柱と板が張られてない床が地面を覗かせている
先程の声が届いたのか2階から「はーい!」と可愛いらしい声が返答し、すぐさまドタドタと階段を降りる音が響く。部屋から現れたのは人間の女の子だった
「何か御用ですか?」
「お嬢ちゃん、ここはマッドレオモンのお宅であってるかい」
「…マッド?」
お届け物があるんだけど、とブラックテイルモンがガサガサとリュックから取り出したのは赤いリボンで包装された群青色の袋。そして一緒に挟まっているメーセージカードにはデジ文字ではない不思議な文字が描かれていた。少女はメーセージカードを読むとキラキラと目を輝かせながら「旦那様からだわ!」とぴょんぴょん跳ねながら紙袋を抱きしめる
「届けてくれてありがとうございます!」
少女の純粋な笑顔にブラックテイルモンは思わず照れた自分の顔を隠す。自分が配達員の仕事に就いた理由はお客様の笑顔をみることだ。しかしまだ未熟で見習いなのでついつい客の個人的なことに首を突っ込んでしまうのが難点だ
「いえいえこれも仕事ですから。ところでお嬢ちゃんマッドレオモンの召使い?」
「確かに、召使いというのはあながち間違ってはいませんが…」
「悪いこと言わない、ここに居るのは止めといた方がいいよ。ここのマッドレオモンはここら辺じゃマッドサイエンティストで有名だから。お嬢ちゃんも改造されちゃうよ」
「改造…つまり作り替えられるということですか?」
先程輝かせていた少女の顔が曇り、キュッとスカート裾を掴む。次第に顔が下に俯いてしまう
ああっ!またやってしまった!
配達員は必ず依頼人に荷物だけ届けること
くれぐれもプライベートには絶対に踏み入らない!のが規則なのに
「不安なこと言ってごめんなさい!」
「え?別に謝らなくても大丈夫です!改造されたのは事実ですから!」
「いえいえ!お客様を不快にさせてしまったら配達員失格です!この通り申し訳ございませんでした!!!」
大声で謝罪土下座する迷惑な新米配達員ブラックテイルモンを宥める少女。ふとブラックテイルモンは耳を疑った
「へ?事実?」
ああ…ダメだ、好奇心に負けるなブラックテイルモン
これ以上聞いたら職場の先輩に怒られるぞ
けど、聴きたい!!
「もう改造されたの?」
ゴクリと唾を飲み込む
あのマッドサイエンティスト、一体この子に何をしたっていうんだ
知りたい
「はい、私…旦那様にこの身を改造されました」
「へぇ…」
ドキドキと興奮で鼓動が激しく鳴る
これは恐らく聞いてはいけないことだ
これ以上聞いたら自分はマッドレオモンに消されるかもしれないのに
「体の何処を?」
もじもじする少女にさらに「何処を?」と強く聴くと少女の人差し指がスッとスカートのウエスト部分へと指誘う
「そこを改造されたのかい?」
また聴いてしまう
けど目で見ればわかる。そこなんだね
これは善意だ。マッドサイエンティストのすることだ、きっとこの子にえげつないことをしたに決まっている
そうだ、これは確認だ
分かってしまえば後は彼女のスカートをめくればその部分を見る事ができる
「ちょっと見せてくれないかな」
「えっと…それは…」
「おい、俺のものに手を出そうとするとは、覚悟できてるんだろな?」
「ひっ!?!?」
ブラックテイルモンの背後に現れたのはここ最近金と暴力で各地を暴れまわっていると有名なアスタモン。返り血を付けた手袋でブラックテイルモンの寝首を摘み外へ投げ出す
「いだっ!!!」
「契約を守ってやったんだ。命があるだけ感謝しろよ」
やれやれと気だるそうにアスタモンが玄関に入ると少女の「おかえりなさい!」と歓喜に満ちた声と抱きつく音が聞こえてくる
「まさか、あのアスタモンがマッドレオモン?!」
ほぇ…あの嫌われ者のマッドサイエンティストが進化していたなんて知らなかった
てっきり一生肉体改造し続けている変人とばかり思ってた
ブラックテイルモンは砂まみれになった体を起こし、早いとここの場から逃げようとした
が、運が悪いことにうっかりアスタモンと少女の会話の様子を目にしてしまう
「旦那様、会いたかったです…!」
「2ヶ月留守にして悪かったな」
「旦那様…」
「おい!旦那様はやめろ、アスタモンって呼べよ」
「いいえ!旦那様と呼ばせて!!その為にこれを私に贈ってくださったのでしょう?」
赤いリボンで包装された群青色の袋と人間の文字で『ミコトへ おめでとう』と記されたメッセージカードをアスタモンに見せる
「…まぁな」
「旦那様…ミコトは幸せ者です!」
「それは俺も同じだ」
返り血が付いた手袋を外しミコトの顔に添えるとアスタモンの顔が急接近し…
「あだっ!!!!」
ブラックテイルモンは気絶した
アスタモンが投げた石が顔面に当たったからである
「見せもんじゃねぇぞ」
「どうなさいましたか旦那様?」
「あー、早いとこ保育園作ってお前たちを安心させなきゃな…ってな」
「また一緒に暮らせるんですね」
「ああ…その為に色んな所から資材と金集めてんだ」
「私、良い保育士さんになれるでしょうか…」
「なれるさ、この俺を惚れさせた女だ。最高の保育士にもなれるだろうよ」
「旦那様…いえ、アスタモン…///」
「共に築こうぜ。お前の夢と俺の夢が合わさった最高の愛の巣をよ」
ミコトは嬉しさのあまりアスタモンの手を頬擦りし、アスタモンは彼女の体を自分の顔の近くまで持ち上げ、ニヤリと微笑むと悪魔のような真っ赤な大きな口を開くと同時にガタンッと玄関の戸が閉まる音が響く
ドサリと落ちたアスタモンからミコトへの贈り物
落ちた衝撃で包装の中からとても小さな人間用の服が愛情の紋章の光を放つ2人を見下ろしていた
〖人間と結婚した悪魔 その後〗