※本作品は、2018年1月28日開催のデジモン二次創作イベント「DIGIコレ6」にてDYNE(@dyne_gcl)様主催のオリジナルデジモン小説アンソロジー「DiGiMON WRiTERS 02」に参加させていただいた際の作品です。
そして、「アンソロ初参加の初短編作品」です。初短編作品です(大事なことなので(ry
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デジタルワールドのとある森…
「あ…あぁ…。」
怯えた表情でその場にへたり込むデジモン、「パルモン」の姿があった。その目の前には戦士のような姿のデジモンが一体と、足元に三体の植物デジモンが倒れていた。植物デジモン達は体の所々が凍りついている。
「パール…逃げ…て…」
パルモンに似た姿の倒れているデジモンが、今にも消え入りそうな声で言った。直後、植物デジモン達はデータの粒子となって消えていった。
「僕に刃向かうからこうなる。君は臆病者だから助かったのさ。」
人型デジモンは、そう言うと素早く飛び去っていった。
「アール…ローラ…マーシュ…。」
パルモンは三体が消えていった場所まで這っていき、飛び去っていったデジモンに向かって叫んだ。
「返して…返してよ!平和な森を、私の大切な親友を返して!!」
当然その声はもう届かない。それはすなわち、彼女の力では望むものを取り戻せないことを意味していた。平和な森も、彼女の大切な親友も…。
―――――
俺の名はゼット、デジタルワールドのとある街で暮らしてる。昔は「はじまりの街」なんて呼ばれていたらしいが、当時は住民もいねぇわ、ろくな施設もねぇわでチャチな場所だったそうだ。ま、今はそれなりに繁栄してるがな。ちっぽけだった肉畑も、俺が経営を始めてからは立派に畑の体を成している。前はベジータって名前のベジーモンがここを管理してたが、俺が買い取ったのさ。貴重な肥料を投げつけるような奴に、経営なんかできるわけねぇからな。
ちなみに、ウチの『Zasso肉』は一口食えばあっという間に満腹になる、極上肉なんか比べ物にならねぇほどの代物だぜ?当然タダでは食わせねぇ。ウチの肉が欲しいってんなら、相応の「ブツ」を持ってきてもらわなきゃな…。
「あ、あの…。ゼットさん…ですか?」
「ああ、俺がゼットだ。森の妖精さんが、こんなところに何しに来た?」
朝っぱらからリリモンが来やがった。お高くとまった妖精風情が、まさかウチの肉を買うつもりか?残念だが、こいつはてめぇらみたいな細身で少食の奴には似合わねぇ。
…そう、これはさっき言ってたべジータがまだ肉畑にいた時の話だ。あいつの極上肉はわりと名の知れたブランドだったみたいでな、妖精デジモンや女性型デジモンにも人気があった。だがそいつらにとって、肉の味なんかどうでもよかったんだ。そいつらは、高級なものを買った自分を周りに見せつけておいて、肝心の肉は半分も食わねぇうちに捨てやがった!しかもべジータはその光景を見て、なぜか嬉しそうにしてた!訳を聞いたらそいつ、「可愛い娘達がウチの肉を宣伝してくれたんだ!最高の気分だよ!」なんて言い始めた。怒りを通り越して呆れたね。
俺は金を貯め、プライドの欠片も無いベジータから畑を買い取った。経営方針を大幅に変えた俺の名は、瞬く間に街中に広まった。特に大食らいのデジモンは、うわさを聞いた途端に毎日列を成して来た。前に来たアトラスって名前のヘラクルカブテリモンは、一度に5個も買ったのをたった3日で食い終えた。最高の気分だったよ、商人冥利に尽きるってもんだ。その時に商売の愉しさを知った俺は、生半可な客との取引を断るようになった。そういうわけで、この小娘も相手が悪かったな。
「私、アロマっていいます。ここの噂を聞いて来ました。お願いします、私たちを助けてください!」
その小娘が言うには、どうやら自分たちの森が危機に瀕しているらしい。…いや知らねぇよ。俺は物心ついた時からこの街で暮らしてるから、正直言って外の事情なんかどうでもいい。小娘は俺が聞いてもいないのに続きを話し始めた。
「私たちの森には、ときどき山の方からトリデジモンがエサを求めてやって来るんです。始めは友好的でしたが、味をしめた彼らは群れで略奪を始めました。やられてばかりという訳にいかなかった私たちは、『ローヤルベース』と結託して抵抗軍を結成しました。」
ローヤルベース…聞いたことがある。確か空中秘蜜基地とか銘打ってたな。森の上空に居を構えるその浮遊基地には、高い飛行能力を持った昆虫型のサイボーグが数多くいるらしい。確かに、空から襲いかかるトリ種族を迎え撃つには、そいつらの手を借りるのがうってつけだな。
「抵抗軍の活躍もあって、それまでの一方的な略奪は無くなりました。でも今度は、戦闘行為そのものが激化して、次第に物資が足りなくなっていきました。今は食料すら足りない状況です。」
ああ、そういうことか。ようやく理解できたわ。
「助けてほしいというのはそのことなんです。一口食べれば満腹になるという『Zasso肉』を、どうか私達に提供してもらえないでしょうか?」
「断る。」
「そんな!どうしてですか!?」
「どうしても何も、俺がおたくらに手を貸す理由が無いからさ。俺は慈善事業をやってるわけじゃね
ぇ。対価を払えない奴に、やる肉は無いって言ってんだ。」
「…!」
この小娘、ちょっと脅したらあっさり引き下がった。さて、畑の見回りでもするかね。
「よい…しょっと。」
「?なんだその袋。」
小娘がデカい袋を持って戻って来た。そろそろ営業妨害で訴えてやろうか。
「誰もタダでもらおうなんて言ってません!!ホントは持ってきたくなかったけど、これでどうですか?…ウッ、やっぱり臭い…。」
おったまげたね。中には大量の肥料が、これでもかというほどに入ってた。
「これだけの肥料、どこから持ってきたんだよ。」
「森のガーベモンに手伝ってもらったの。わざと縄張りに入って、バズーカを撃たせたのを集めました。」
「まさか手掴みか?妖精族のおたくが?」
「森を守るためですから!このぐらい、どうってことないです!」
…妖精にも物好きがいるもんだ。しかし参ったぜ、妖精のイメージアップと契約対価を一度に見せつけられちまった。ここまでされりゃあ、いっぱしの商人として逃げるわけにはいかねぇなぁ。
「…引き受けてやる。だがその前に、俺の方から言いたいことが二つ。」
とは言ったものの…うわぁ、めっちゃ嬉しそうな顔してるよ。言いづれぇなぁ…。
「まず一つ、俺に頼みたいことはZasso肉をローヤルベースに届けることで、その対価は袋いっぱいの肥料なんだろ?だったらそれを先に伝えろ。商談において、余計な前置きほど相手をうんざりさせるものはないからな。それともう一つは…」
…だ・か・ら!その「承諾してくれたことで頭がいっぱい」って感じの満面の笑みはやめろ!反省する気ゼロか!
「…ゴホン、もう一つ、これ以降は俺に敬語を使うな。契約が成立した以上、俺たちは対等であるべきだ。おたくにかしこまった態度とられると、こっちも相応の受け答えをしなきゃならねぇ。」
「わかった!よろしくね、ゼット!」
話聞いてんのかい。
「道案内と護衛は任せて!ゼットはお肉を運ぶだけでいいわ。」
「そうかい。それで肝心の肉はいくつ提供すればいい?」
「20個!ローヤルベースまでお願いね!」
やっぱ引き受けなきゃ良かった…。
「急いで!もう戦闘が始まってる!」
「おたくなぁ…、一度にこんな注文した客はいなかったぞ!しかも配達って!」
受け取った肥料を畑に撒き、俺は依頼に取りかかった。20個も注文するだけあってその対価の量は半端じゃなく、作業を終わらせる頃には太陽がもう真上まで来ていた。眼前に迫る森とその上空のローヤルベース周辺では、既にトリ種族とムシクサ種族が熾烈な争いを繰り広げている。…これからあの戦禍の中に突っ込むのか。
「ハチミン!良かった、無事だったのね!」
アロマが森の入口近くにいるデジモンに声をかけた。
「アロマさん!すると、そちらのお方はもしかして…」
「ゼットだよ!お肉を持ってきてくれたの!」
「そうですか!はじめまして、ゼットさん。ハチミンと申します!」
ずいぶん礼儀正しいファンビーモンだな。
「どーも。おたくもローヤルベースの一員か?」
「はい!」
「そいつは良かった。なら俺をそこまで連れてってくれや。…ん?」
森の中からデジモンが三頭ほど飛び出してきた。…どうやらこいつらは穏やかじゃなさそうだがな。
「ニクダ!」 「ニクヲヨコセ!」 「オレタチノモノダ!」
「大変!あれはトリ軍団の尖兵、ディアトリモンだわ!ニオイを嗅ぎ付けて来たのね!」
アロマが驚いた様子でそう言った。
「ここは私とアロマさんで食い止めましょう!ゼットさんはお肉を取られないようお願いします!」
―――88コール!
ハチミンがけたたましい羽音を上げ始めた。どうやら仲間を集めるつもりらしいが、その間おたく自身分は無防備になるようだな。
「ハチミンに近づかないで!」
―――フラウカノン!
アロマの放った光弾が、ハチミンに一番近いディアトリモンを吹き飛ばした。それを見て、他の二頭も足が止まる。
「キョウテキダ!」
「ゾウエンヲヨコセ!」
ディアトリモン達がそう言うと、森の中から増援が次々に湧いてきやがった。
「こっちの増援が来るまで足止めしないと!えい!!」
アロマのキックがディアトリモンの頭部を捉えた。吹っ飛ばされたやつは後ろの連中をドミノ倒しにしていく。…見かけによらずパワーあるな、アロマの奴。
「テキハヤツラダケダ!」
「オクスルナ、ススメ!ススメ!」
だがディアトリモン達の勢いは衰えない。
「キリがないわ!増援はまだ?」
「ローヤルベース周辺も敵が多いみたいです!増援はまだかかりそうです!」
「そっか、ごめんねゼット、もう少し待ってて!…ああもう!近づかないで!」
今度はビンタで吹っ飛ばした。おっかねえ。しかし参ったな、このままじゃいつまで経っても森に入れない。
…仕方ねぇ、あまり戦闘は得意じゃないが、商売のためだ。一つ手を貸してやるか。
―――デッドウィード!
「ドワッ!」
「ナンダ!?アシガトラレル!」
「あれ?ディアトリモンが転んでる…?」
「悪いが、俺はもう行かなきゃならないんでね。肉は鮮度が命なのさ。見たところ、コイツらは空飛べねぇんだろ?なら足止めするのは簡単だ。」
「なるほど、雑草を操ったのね!」
そう、こういった草原では俺の得意技「デッドウィード」が一番効力を発揮するのさ。ほら見ろ、おもしれぇぐらいに引っ掛かってるぜ。
「コッチニタオレルナ!」
「ナニヲヤッテル!ケンカシテルバアイカ!」
「これであいつらはしばらく動けねぇ。俺は先に行くぞ。」
「うん、後は任せて!私はこいつらを片付けるわ!この森の中央に、一番大きな樹があるの!そこでまた会いましょう!」
俺は無言で頷くと、うっそうと生い茂る森の中に入っていった。
ふー、さすがに20個も持って歩き続けるのはしんどいな。…お、ここがアロマの言ってた、中央の大木ってやつか。周辺が開けてるから、確かに待ち合わせにはピッタリだな。ん?あいつは…
「ゼット殿ではないか!久しいな!」
「なんだ、ご無沙汰だなアトラス。ウチの肉を気に入ってくれたんじゃなかったのか?」
「かたじけない。本格的に戦闘が始まってからというもの、地上部隊の隊長である我輩は手が離せなくてな。ゼット殿に礼を言いに行く暇も無かったわ。…ところで、その大荷物は?」
「おたくの大好物だよ。すぐ真上のローヤルベースに配達するよう頼まれたのさ。」
「そうであったか。ならば、我輩が運んで行く代わりに、少し分けては頂けぬか?」
「おいおい、地上部隊の隊長さんは忙しいんじゃなかったのか?まあ俺を上まで連れてってくれるんなら、今度ウチに来たときに割引してやるぜ。」
ドスッ
…え?
「ぐわぁっ!!」
「アトラス!?なんだこれ…矢か!一体どこから!?」
アトラスの羽根に突き刺さった矢を抜きながら、俺は周囲を見渡した。直後、手に持った剣で中央のデカい木を切り倒しながら、攻撃してきたヤツが俺達の前に舞い降りた。木はメリメリと悲鳴を上げながら倒れ、土煙を巻き上げた。
「隙を見せたな、アトラス。大将の統率が無くなれば、君達の勢力も一気に衰えるだろう。」 「き、貴様は…!?」
―――――
「ハァ…ハァ…。なんとか全部追い払えたみたいね。」
そう呟くアロマの前には、おびただしい数のディアトリモンが横たわっていた。命までは取らなかったため、中にはまだうめき声を上げている個体もいる。その光景を見て、増援にやって来たファンビーモン達は目を丸くしている。ハチミンはアロマのもとに駆け寄るが、彼女は森に向けて飛び始めていた。
「アロマさん!そんなボロボロの体で行くのは無茶です!!せめて応急処置を…!」
アロマを気づかうハチミンに対して、彼女は笑顔を見せ気丈に振る舞った。
「大丈夫よ。それよりゼットが待ってるから、早く行かないと!」
「どうしてそこまで…!」
するとアロマは、顔をうつむかせて話し始めた。
「私ね、この森で生まれ育ったから、ここしか居場所が無いんだ。だから、何をしてでもこの森を守りたいって思うの。アールもローラもマーシュもあいつらに殺されて、もう私には友達も家族もいないから…。」
「アール」と「ローラ」と「マーシュ」とは、アロマがパルモンだった頃、よく一緒に遊んでいた親友のアルラウモン、フローラモン、そしてマッシュモンのことだった。トリ種族の侵略に抵抗した彼らは、運悪く敵の長に殺された。その日以来、当時「パール」と呼ばれていた彼女は、命を落とした彼らをいつまでも忘れないよう、三人の名前の頭文字を用いて「アロマ」と名乗ることに決めたのだ。
「あの子達がいなくなってから、私は強くなりたくてこの姿まで進化したわ。それ以来私は、この森を守るためにできることは何でもしてきた。凶暴なトリ種族のデジモンを何度も追い払って、ただでさえ嫌いなガーベモンの縄張りに入って、頑固な肉畑主に頭まで下げて…。ここまでしてもかつての平和な森を取り戻せないなんて、とっても悔しいじゃない!だから私は最後まで戦う!」
「アロマさん…!わかりました!私も最後までお供させていただきます!!」
ハチミンの決意を聞いて、アロマはいつもの笑顔に戻った。
「さあ、急いで森の中央に行かないと…っ!」
「アロマさん、どうしたんですか?…あっ!」
アロマとハチミンが見据える先で、一番大きな木が切り倒された。森の中央にあたる場所と推測できる。
「あの子達が眠っている樹が…。」
アロマはわなわなと唇を震わせた。
「今、空から森の中に入っていったあいつ…忘れもしない!あいつの名前は…」
―――――
「ペルセウスか!?おのれ貴様、不意討ちとは卑怯な!」
土煙が晴れ、攻撃してきた奴の姿が明らかになった。黄金の小鳥を引き連れた戦士のようなデジモン…ヴァルキリモンだな。
「生き延びるためさ、悪く思うなよ。とはいえ幼なじみだからな、命だけは助けてやる。」
ペルセウスとか呼ばれたヴァルキリモンは、右手に剣を持ったままじりじりとこっちに歩み寄って来てる。羽根をやられたアトラスは、その場で苦しんでいる。
「君が持っているその食料、渡してもらおうか。」
参ったな、相手は究極体だ。俺ごときがいくら抵抗したって、あいつにかなうわけがねぇ。
「させぬ…させぬぞ…!」
「アトラス!?」
アトラスはフラフラと立ち上がった。羽根を貫いた矢は体にも少し刺さっていたらしく、右腕の一つは左の脇腹を押さえている。
「…まだ立ち上がるか。」
「無理すんなよ。大将のおたくが倒れちゃ元も子もねぇぞ。」
「そういうわけにもいかん!ゼット殿が持ってきてくれた肉は、必ずや我々に勝利をもたらす!その好機を、ここで潰されるわけにはいかんのだ!!」
それを聞いたペルセウスは、やれやれという顔をしていた。
「何か勘違いしてないか?僕らは食料を求めてここに来ている。それをくれれば今日のところは引き上げるさ。…そうだ!ゼットとか言ったな?君が僕達の元に来ればいいんだよ!」
…商談で一番嫌われるタイプだな、こいつ。不意討ちしてきたくせに、相手の態度を見て急に平和的解決に持ち込もうとしやがって。後からならなんとでも言えるさ。
「…確かに、俺がおたくらのとこで肉を育てれば、おたくらの食糧難は完全に解決される。そうなれば、トリ種族とムシクサ種族の争いも無くなって万々歳だな。」
ペルセウスはそれを聞いて、満足そうな顔をしている。
…すぐにそのにやけ面をしかめてやるがな。
「よし、交渉成立…」
「だが俺は商人だ。対価を受け取った以上、仕事は最後まで引き受けるさ。それに俺にはプライドがある。少しでも多くのデジモンに、ウチの『Zasso肉』を食ってもらいてぇのさ。そういう訳だから、欲しけりゃきちんと対価を持ってくるんだな!」
俺は商人として、最高の選択をした。他人がどうとかは関係ねぇ。このデジタルワールドでは、自分に悔いのないよう生きることが一番の幸せなのさ…。
「…。」
ペルセウスの野郎、ずっとだんまりしてやがる。
「どうした?あまりの驚きに声も出ないかい?ペルセウスの旦那。」
「気安く名前を呼ぶなァ!!」
ペルセウスがいきなり大声を上げたもんで、さすがの俺も驚いた。
「この名前は、僕と彼が兄弟の盃を交わした際、互いにつけた名前だ!ザッソーモンごときに呼ばれる筋合いは無いッ!!」
ペルセウス、いやヴァルキリモンはそう言うと、再びアトラスの方に向き直った。
「そう決めたはずだったな、アトラス!?なのに君は、そいつに平然と名を呼ばせている!君に誇りは無いのか?」
アトラスは何も言わず、じっとヴァルキリモンを見据えている。
「アトラーカブテリモンだった頃から何も変わらないな!騎士道精神などと称し、君は誇りを捨ててでも何かを守ろうとする!」
「そう言うお主は変わってしまったよ、ペルセウス。常に正面から戦いを挑み、幼年期達の憧れであったシルフィーモンの姿が、もうどこにも残っていないではないか。」
「それも生き延びるためさ!君のような生き方では必ず身を滅ぼす!それがなぜわからない?…もういい、愚か者である君には、義兄弟として僕自らが手を下してやる!!」 「決闘というわけか。受けて立とう!」
―――ギガブラスター!!!
アトラスの放った電撃の槍が、ヴァルキリモンを貫いた…ように見えた。
「やはり変わらないな、君は。」
ヴァルキリモンに攻撃はかすってもいなかった。
いや、アトラスがわざと外した、と言った方が正しいな。
「僕が連れている『フレイヤ』は、危険を察知すると知らせてくれる。そのフレイヤに反応が無かったということは、僕がかわすまでもなかったということだ。」
「ぐっ…。」
必殺技を放った反動で限界が来たのか、アトラスは膝を地につけた。
「兄弟相手に手は出せないか!?死ぬまでその甘さは直らないようだな!」
―――アウルヴァンディルの矢!!!
「ぐあぁぁッ!!」
ヴァルキリモンが、背負ったボウガンから素早く何本もの矢を放った。アトラスは、後ろの木に数本の矢で羽根を打ち付けられた。
「超音速で飛び回ると言われるヘラクルカブテリモンも、これでは身動きがとれまい。…もっとも、すでに飛ぶことはできなかっただろうがな。」
「ぐ…!」
「今楽にしてやる…!」
ヴァルキリモンは剣をアトラスに向け、まっすぐに走り出した。
―――デッドウィード!
「!?」
ヴァルキリモンの足が止まった。正確には俺が止めた。
「悪いが、そこまでにしてくれねぇか?アトラスはウチの大事な上客だ。今後の商売の邪魔する奴ぁ、たとえどんな野郎でも許さねぇぜ。」
「邪魔をしているのは君の方だろ…!」
ヴァルキリモンはこっちを睨み付けてきた。その時、対峙する俺達の脇から、アロマ達が飛んで来た。
「ゼットさん!この状況は…?ああっ、アトラスさん!大丈夫ですか!?」
「ヴァルキリモン…!私の親友が眠っている樹を、よくも…!」
ハチミンはすぐにアトラスの元へ駆け寄った。アロマは、大木を伐ったのがヴァルキリモンであると確信している。どうやらあの木は、戦いで死んだデジモン達の墓だったらしい。
「アールとローラとマーシュの仇、ここで取らせてもらうわ!」
「やれ、フレイヤ。」
「フラウカノ―――うあッ!」
アロマが手首の花弁から砲を出した瞬間、黄金の鳥が彼女の頭部に激突した。アロマは、そのままのけ反る形で仰向けに倒れた。
「痛った…。」
「君ごとき、直接手を下すまでもない。…さあゼット!いい加減考えを改めろ!」
「こいつ…!」
まだ立ち上がろうとするアロマの前に、俺は立ちはだかった。
「ゼット、何してるの?成熟期のあなたがあいつに敵うわけないでしょ!?」
「じゃあ聞くが、おたくはそんなボロボロの体であいつに勝てるのかよ。」
「勝てるかどうかじゃない!死んでいった親友の誇りを取り戻すために、私は戦うの!」
「だったらおたくは生きるべきだ。その方が誰かさんも喜ぶ。」
「あなたに何がわかるの?護衛は任せてって言ったでしょ!おとなしく私を戦わせて!」
「おたくの過去は知らねぇ。だがな、俺の仕事はこの肉を運ぶことで、おたくはその仕事の依頼人でもある。依頼人に先立たれちゃ、こっちも困るのさ。」
「対価はもう渡したわ!これ以上、私に何を求めるの?」
「『礼』がまだだ。」
「…!」
ようやくアロマが口を閉じた。さあ、こっからは俺が話す番だ。
「ただ仕事するだけなら、マシーン型にやらせた方が効率的だろう。だがな、俺は感情を持つデジモンだ。『ありがとう』とか『お疲れ様』とか、取引の相手からそう言われんのが、俺の仕事のやりがいなのさ。だから俺は、一度請け負った仕事は最後までやり通す。」
仮に命を落とすことになっても…な。言わなくても悟ったのか、アロマは目に涙を浮かべている。
「どこまで頑固なのよ…!」
俺はヴァルキリモンの方に向き直ると、こう言った。
「その障害が、ペルセウス!お前のようなやつでもな!」
「その名を呼ぶなと言っただろう…!」
ペルセウスは剣を持つ手に力を込めた。俺はやつを見据えたまま声を上げた。
「アロマ!アトラス!ハチミン!出血大サービスだ!俺が死んだら畑の肉、全部持っていけ!」
「ゼットさん!!」
「ゼット殿!!」
「ゼットーー!!!」
「うおぉぉぉぉ!!!!!」
「はあぁぁぁぁ!!!!!」
俺とペルセウスは、ほぼ同時に駆け出した。
―――スクイーズバイン!!!
―――フェンリルソード!!!
二つの必殺技が同時に放たれた。
…結果はわかりきってたけどな。
…ずいぶん長い走馬灯だったな。俺はやつの剣で切り上げられて、ちょうど大木が切り倒された跡に落ちた。やつの剣は切りつけたものを凍らせる性質があるらしく、真っ二つに切られた俺の体はみるみる凍っていく。
肉は無事か? 俺は背中の方に目を向けようと、固まった体を無理やり動かした。引きちぎられるワイヤーフレームが悲鳴を上げる。だがこんなことでへこたれちゃ、ザッソーモンの名が廃る!切られようが叩かれようが、絶対に自分の信念は曲げない!燃やせ雑草魂!!! …良かった、肉は一つも凍ってない。後は、この肉を新鮮なうちに、すぐ真上のローヤルベースまで届けなきゃならねぇ。そう、俺の仕事はまだ終わってない。こいつを運んで、アロマに礼を言ってもらわなきゃ…な… …待っ…てろ…よ…… ……………
―――――
「ゼット!!ゼットーー!!!」
アロマは大粒の涙をこぼしながら、ゼットの方に向かって何度も呼び掛けた。しかし、返事は帰ってこない。
「終わりだな。後は食料を手下に運ばせればいい。だがその前に…」
ペルセウスは剣に纏った氷を払うと、アロマ達の方を向いた。
「今の僕はかつてない怒りにとらわれている!ザッソーモンごときに、二度も名を呼ばれた…!この怒り、君達で憂さ晴らしさせてもらう!!」
「何よ…あんたの怒りなんか、私に比べればちっぽけじゃない!上等だわ、返り討ちにしてやる!!」
アロマはなんとか立ち上がり、花弁の砲をペルセウスに向けた。
「ゆくぞ、フレイヤ!…フレイヤ?」
両手でボウガンを構えながら、ペルセウスは友の名を呼んだ。しかし、その姿は彼の傍らにはなかった。
「フレイヤ!どこへ行ったのだ!?」
ペルセウスはなおも名を呼び続け、上空へ飛び立った。彼が見下ろすと、先程切った木の上で凍りつき、完全に生命活動を停止しているザッソーモンがいた。そしてすぐそばには、フレイヤの姿もある。
「何をしている!…これは?」
ペルセウスは目を疑った。ザッソーモンの周りを、美しいオーロラが囲んでいたのだ。
「ペルセウス…お主は自分の力に気づいておらんかったのか。」
「なんだと?アトラス、どういうことだ!?」
ペルセウスが困惑した様子で問いかける。ハチミンに傷の手当てをしてもらいながら、木に持たれかけているアトラスが口を開いた。
「ヴァルキリモンに進化したお主は、特別な力に目覚めている。それは、戦いで命を落としたデジモンのデータに、再び命を吹き込む力なのだ。」
「!…だが、この戦争で死んだ僕の手下には、そのような力は起こらなかったぞ!」
「もちろん、誰にでもというわけではない。お主がそのデジモンを『勇者』と認めん限りはな…。」
「勇者…?勇者だと…!?」
オーロラに包まれたザッソーモンはデータの粒となって、切り株に沈んでいった。
「僕は彼を…無意識のうちに勇者と認めていたのか…!?」
切り株が突然、まばゆい光を発した。同時に、凄まじい地響きが辺りを揺るがす。
「なっ、何!?地震!?」
ハチミンは驚き周囲を見渡した。
「違うわ…あれ!見て!!」
アロマが指差した先で、切り株は急成長し始めた。
「な、なんだ!?」
ペルセウスはフレイヤを連れ、すぐにその場を離脱した。切り株からは新しい命が伸びていき、やがて切られる前よりさらに巨大な樹となって、ついにはローヤルベースまで到達した。
「これが…生まれ変わった命なのか…。」
ペルセウスは棒立ちでその光景を見ていた。驚くべきことに、大樹からは実の代わりに、『Zasso肉』より大きな肉がたくさん実り始めた。戦っていたデジモン達はそれを見ると、一目散にその樹へと集まっていった。
「ゼットさん、最期までお肉を背負ってたから…!」
ハチミンが目を見開いて言った。
「仕事は最後までやり通す、か。有言実行どころか、まさか戦争の原因そのものまで解決してしまうとはな…。」
アトラスがポツリと呟くように言った。
「みんな…みんなあそこにいるんだわ…!アール、ローラ、マーシュ、それにゼットも…!!みんなの願いが、想いが通じたんだ!!」
アロマが涙を浮かべ、笑顔でそう言った。
「…そこのファンビーモン!」
「は、はいっ!?」
ペルセウスがハチミンを呼んだ。突然の呼びかけに、ハチミンは戸惑いながら返事をする。
「ローヤルベースに伝えろ。『増援は必要無い』、とな。…行くぞ、フレイヤ。」
ペルセウスはそれだけ伝えると、手下のデジモン達に命令し、森を後にしていった。
「アトラスさん、これって…?」
「…どうやら、長く続いた我々の戦いに、終わりが告げられたようだな。」
ペルセウスが飛び去った方向を見ながら、アトラスが言った。
「じゃあ、森にまた、平和が戻ったのね…!」
アロマはそう言うと、肉の生る大樹を見上げた。
―――こうして、トリ種族とムシクサ種族の間で勃発した戦争は、終焉を迎えたのであった…。
―――――
戦争の終結から一年が経った。ハチミンはタイガーヴェスパモンに進化し、ローヤルベースの隊長として建設作業の指揮官を担っている。アトラスはハチミンの手当てによって回復し、今は森の長老としてデジモン達から敬われている。ペルセウスはあの戦争以来考えを改め、トリ種族とムシクサ種族の間に再び友好関係を築こうと努力している。そしてアロマは…
「ハチミン!久しぶりね!」
「パールさん!お元気そうで何よりです!」
森のデジモン達から『アロマの樹』と名付けられた大樹の根元に、彼女はいた。そう、アロマはあの戦争以来、再び自らを「パール」と名乗ることにしたのだ。彼女は「アールとローラとマーシュは、あの樹の中で生き続けている」と考え、アロマの名を樹に冠したらしい。
「ハチミンすごいじゃない!ローヤルベースの隊長なんでしょ!?立派に進化したのね!」
「いえ、それほどでも…。パールさんこそ、『バンチョー』の称号を獲得したという話がローヤルベースで持ちきりになっていますよ。アトラスさんに代わって、森を守っておられるのですよね?」
進化しても、ハチミンの礼儀正しさは相変わらずのようだ。パールはしばらくハチミンと世間話で盛り上がった後、真面目な表情で話し始めた。
「ハチミン、私ね…山のデジモン達との条約を締結しようと思うの。」
「…ということは、トリ種族と我々ムシクサ種族の間に友好関係を築く、ということですか?」
「ええ。ペルセウスさんのことはまだ許せないけど…彼も信頼を回復するために、できることはなんでもやってるみたいだから。」
「パールさん、それって…。」
「うん、戦争の時は私もできることをがむしゃらにやってたから、その気持ちがよくわかるんだ。あの時私の想いが報われたように、今度は私が彼の想いに報いてあげたい。」
「…わかりました。ローヤルベースの隊長として、私も協力します!」
「ありがとう、ハチミン!」
パールはハチミンに礼を言うと、アロマの樹を見上げながら言った。
「アール、ローラ、マーシュ、見ててね!私はこの森を、もっと繁栄させてみせる!!」
―――――
多くのデジモン達で賑わう街の一角。今は雑草が無秩序に生えている肉畑に、彼女はやって来た。最後に畑主が撒いた肥料で成長した大量の肉は、彼女の善意によって街中のデジモンに配られた。畑主が最期に残した遺言は、無事に叶えられたのだ。
「やっぱり、あなたへのお礼はここで言わないとね…。」
彼女はそう言うと、畑に生えている雑草を器用に絡ませ、あるデジモンの姿を象った。森を救った勇者の像を、彼の畑に現したのだ。最後に彼女は像にキスすると、小さく、しかしはっきりとこう言った。 「ありがとう、ゼット。」 心なしか、像が照れているようにも見えた。 ―――おしまい
前任者がサイヤ人の王子だ……くそったれええええええ、夏P(ナッピー)です。
というか、ベジータから始まって即出てくるザッソーモンのゼットも含めて初っ端から要素がドラゴンボール過ぎてくそったれええええええ! とても畑で取れる肉が食いたくなる話でしたが、てっきりザッソーモンがザッソーモンのまま驚異的なパワーアップを遂げて私はやり遂げましたよするのかと思いきや普通に死ぬんかいお前。亡き友の名を背負ったアロマ女史は元よりビンタや蹴りでディアトリモンの大軍を蹴散らす女傑だったようですが最後にシレッとバンチョー化してるみたいでダメだった。
アトラス氏はカッコいい台詞を吐きながら即刻磔にされて悲惨。でもシルフィーモン時代のペルセウスと互角っぽかったのは嬉しいぞ! というか、ペルセウスが結果的に無意識の内に奴を認めていたのか──とあまりにベジータ過ぎることしてきてくそったれえええええ!! ローヤルベースがむっちゃ戦力として活躍してる作品を初めて見たかもしれん……。
なんかほぼドラゴンボールに支配されてましたがこの辺りで〆させて頂きます。