CAUTION!!
本作にカッコいいオリンポス十二神は出てきません!!
……天の川。
それは今なお空に輝く神秘であり、星に魅せられた古の先人達の目を引き続けたもの。
天文学により膨大な数の恒星の集団であるというその実体が把握されるまでの間、遠方にある星とも月よりも遠い場所にある現象とも言われてきた。
またの名をミルキーウェイとも呼ぶが、これはギリシア神話におけるとある女神に関係している。
英語圏においての呼び名は、ギリシア神話の知名度故の呼びやすさからくるものだろう。
……それはさておき、デジタルワールドにもこの天の川があるかどうかは管轄しているOSに委ねられる。
イグドラシルの管轄にこの天の川は存在していたが、一方ホメロスの管轄「イリアス」には天の川がなかった。
これは、そんな差異から始まった、(ごく一部の)オリンポス十二神の苦労の一日の記録……
☆飛び散れミルキーウェイ☆チキチキ搾乳レース 〜 その母乳は鉄錆の味
さて、オリンポス十二神の大黒柱たるユピテルモンの元に、その願いは届いた。
本来ユピテルモンは悪しきデジモンを断罪する立場にある存在で、その願いに込められたものからは程遠い存在である。
彼に願い出たのは、幼年期デジモン達。
最近、他のデジタルワールドからやってきたデジモン達から土産話を聞いていたのだが天の川というものの存在に強く惹かれたようだ。
『自分達も天の川を見てみたい。たなばたという、楽しいお祭りをやってみたい』
というものだった。
「……ふむ」
言わずともわかる。
これは難題だ。
いかに大元たるユピテルもといゼウスが万能であろうと、それに基づいてデータをカタチづくられたユピテルモンはそうもいかぬ。
「…このイリアスにも多才なデジモンは数多い。幾人かオリンポスの神族からツテを頼むとするか」
これが、とんだチキンレースでかつ自身の妻を巻き込む事件に発展しようとは思うまい。
少なくとも、この時点で、彼には後々ケラウノスを持ち込む程とはいかずも久方ぶりの雷霆を落とす仕事が待っていようとは思わなかった。
…………
「天の川?」
「…ってのを、ユピテルモンはイリアスの空に浮かべたいんだとさ」
ユピテルモンから名指しで集められたのは四名。
メルクリモン、アポロモン、ディアナモン、そしてマルスモンだ。
ディアナモンが手持ち無沙汰と言わんばかりに、その脚をぶらぶらさせる。
「天の川ってあれでしょ?夜空の上に流れてる光った変なやつだよね。ユピテルモンも変わってるなあ」
「いや、あいつじゃなくて幼年期デジモン達からの願いらしい。楽しい祭りもやりたいって事をどうにか汲みたかったらしく、後はいつもの丸投げだ」
「そいつは仕方ねえ」
ゴキゴキと首を鳴らして、マルスモンは説明役のメルクリモンに尋ねた。
「で、具体的にはどうやるつもりなんだ?俺やそこの太陽神に向いたお仕事なんだろ」
「少し待て。まずは天の川そのものについて先に調べるぞ。元は現実世界からのものだ、ネット世界にダイヴして検索かけるから」
01000111110001100111001100011000
00100100011110011001100011001100110001100………
「というわけでわかったぞ」
「過程すっ飛ばしやがったな…それで?」
なんやかんやして実体を持たぬ状態から戻ったメルクリモンにアポロモンは説明を促す。
説明は以下同文…だが、ミルキーウェイの由来を聞いた約二名に激震が走る。
「……母乳……」
「……だと……っ!?」
ざわ……ざわ……
……ざわ……ざわ……
そんな出所不明のざわめきはともかく、ディアナモンは首を傾げた。
「母乳ってナニ?」
「人間も含む現実世界の生物の一部、その中でも雌だけが出せる液体さ。俺達デジモンと繁殖方法が違って、赤ん坊というものを生むんだがそいつに飲ませるんだ」
「飲ませたら?」
「すぐにとはいかんが、育つには欠かせないらしい。…でだ、この母乳ってのが空に飛び散ったのが天の川ってわけ」
「ふーん」
なんか釈然としない反応をされたが、そんな事よりも問題は母乳の出処だ。
ギリシャ神話において非常に有名な女神ヘラがいる。
この女神ヘラの乳を、まだ乳飲み子だった後の英雄ヘラクレスに飲ませ不死身にしようという試みがなされた。
だがヘラクレスは夫が人間の女に産ませた不義の子だ。
慈母の如き優しさで乳をやる……など、彼女がするはずもない。
というか、ヘラでなくても拒否反応を起こす女性は多いか。
コソコソ飲ませようとするも気づいたヘラが赤子を突き放した瞬間に乳が飛び散り、これが天の川になったというわけだが……
「………なあ」
「………なあ」
神妙な面持ちでマルスモンとアポロモンが顔を見合わす。
「おう、どうした?」
「母乳で天の川になるってんならさ……」
イヤーな予感を覚えたメルクリモンだったが、二名の発言はまさに予測可能、回避不可だった。
「……はぁ……」
外出した愛おしいひとを想い、深いため息が漏れる。
ユピテルモンのパートナー、ユノモンに決して安らぎを約束された一日はない。
データの元となったユーノー及びヘラに負けず劣らずの嫉妬心を持つ彼女のこと、出先でまた夫がコナかけてないかと案じてばかりだ。
たまーに臨界点を振り切り、ヒステリックモードに変わって暴れ回ることもあったりするが今の所その様子は(幸いにして)なさそう。
その様子を、後ろからメルクリモンとアポロモン、マルスモンがこっそり見ている。
その更に後方で、ディアナモンは第三者目線と言わんばかりの"観戦"の姿勢だ。
(おい、本当にやるのかよ?)
(だって他に何か案があるのか?)
いや、どう考えたってあったと思うのだけど(byディアナモン
(とにかくせーので行くぞ…これでダメならプランDだ!)
Bじゃないんだ……(byディアナモン
「!」
ユノモンがハッとして椅子を立つ。
淑やかに振る舞う彼女だがそこはロイヤルナイツに比肩するオリンポス十二神の一人、戦闘態勢も辞さぬ構えで振り向いた彼女が見たものは……
「ばぁぶう…」
「ばぶばぶ、ばーぶばぶ」
「ばぶぶ、ぶびっびばーぶばぶ」
そこにいたのは、ベビー服に身を包み、おしゃぶりを口に咥えたゴッツイ野郎ども三名。
流石のユノモンも気が抜けたか沈黙して立ち尽くす。
というか、絵面的にキツい(byディアナモン
『母乳ください』
某はちみつくださいに匹敵するふてぶてしいお願いを喃語(なんご)で繰り返す面倒くさい赤子三名。
『母乳出して やくめでしょ』
ディアナモンが陰ながらため息をついて数秒後。
ボロ雑巾のように吹っ飛んでいく三名が見えたのだった。
「始まってから5分で3乙なんて最低」
「まだだ…まだ、やれる」
「諦めたら試合終了なんだよ!」
なんでさ。
「一体何をしているのですか、貴方達…戯れにも程がーー」
呆れながら次の攻撃を構えた彼女に、死角からマルスモンが突撃をかける。
「ばぁぶぅうううー!!」
「まだ喃語でしゃべるんだ…」
マルスモンが狙うはユノモンの胸部を守る鎧。
その硬いガードを破ればたわわが露わに…!
そんな塩梅で狙いをかけ、靴と腕に仕込ませた暗器を振るおうとした。
直後の、落雷。
「どわっ!?」
「マルスモン…貴様一体何のつもりで我が妻に手を!」
夫の乱入入りまーす。
「ユピテルモン様!」
「よくよく見れば、アポロモンにメルクリモンまで!貴様ら、一体ナニをしでかそうとしてくれとるんだ!!」
「誤解だー!!!」
「……帰ろ」
結局、ディアナモンは独り帰宅。
その途中で立ち寄ったウルカヌスモンに頼んで、なんとかイリアスの夜空に天の川を飾ってもらい、幼年期デジモン達は七夕を楽しめたのだった。
…どうやってだって?
それはまあ、企業機密というやつじゃ!(鍛治神談
七夕から気付けば一週間経っていましたが夏P(ナッピー)です。
タイトルから狂ってると思いましたが内容も吹っ飛んでた。オリンポスの皆さん愉快な人達なんですね。ウルカヌスモンがどうやって天の川を……?
私はてっきりタイトル的にも(前科あるし)「それは人間の女にしか出せぬらしいからな、行くぞ人間界!」とか言い出してんほおおおおおおお祭りが始まるのかと思いましたが、展開だけ見れば割と真面目だった。そもそもユピテルモン様が依頼かける四人のチョイスがおかしかったのでは……?
それでは少し短めですが、笑い過ぎたため今回はこの辺で感想とさせていただきます。