カメラマン女性とデジモン2体の珍道中になるよていでした
カリ、カリカリ、とダイヤルを回し、小さなディスプレイに映し出された写真をじっくりと吟味する。
食い入るように見つめるディスプレイ、一眼レフのレンズは意図したその一瞬を理想通りに切り取っていた。
「ええやん。これかわいくね?」
「まあいんじゃない、転送する?」
「よろしくぅ」
カメラから取り出したメモリーカードを、手渡せば、目の前のモニターに写真が投影された。
そのまま「Now Loading……」のくるくる読み込むアイコンをしばらく眺めていれば、読み込んだパーセンテージが満ちていく。
「転送完了〜はい」
「ありがと、今回もいい写真が撮れたね」
カメラストラップを首にかけ、背もたれにしていたリュックを背負い直す。
下に草原が広がる景色を目に焼き付けて、1人と1体はまた歩き出した。
◇
近年、ネット空間に生息する電脳生命体「デジタルモンスター」達がリアルワールドへの進出がじわじわと増えつつある。
リアルワールドに憧れを持つデジモン達のように、自身らの世界に近いようで全く違う、デジタルワールドの広い世界に人間も興味津々だ。
お互いの交友のため、今現在デジタルワールドへは調査員が送られている。日々その観測データを蓄積し、その世界の成り立ちや環境などを把握、いずれは安全なデジタルワールドとリアルワールドの行き来を目指しているところである。
その調査員に選ばれた人間、玉造あかるはカメラが趣味であった。
この任務、あまりにも私にちょうど良すぎる。
美しい光景に生き生きと活動するデジモン達の姿を捉えてやろうと鼻息を荒くしてデジタルワールドに降り立ったのだ。
だが、デジタルワールドは言わば「野生の王国」、人間1人では丸腰で肉食獣の檻に放り込まれるようなもの。
そこで協力者として、データ転送役を兼ねたモニタモンともう1体を連れ立って旅をしているというわけだ。
『少しいいかね?先程の、もう少し画角はどうにかならなかったのかね?あと明るさがもう少し……』
「うるせーなまたァ!文句あるならお前が撮れッ!」
カメラの中から響く理知的な声は評論家じみたコメントを放ち、あかるのカメラマン神経をじわりと逆撫でる。
モニタモンと、もう1体の同行者であるメルキューレモンだ。
デジタルワールドの知識にも明るく、用心棒に足る実力を持つデジモンだが、如何せん『一眼レフ』という鏡を使う道具に親近感以上のものを抱くのだろう。普段は居心地がいいのだというカメラの機構内でくつろいでいる。
だが、こうやって写真に口出しすることが多く、あかると撮影時のコンディションの好みがぶつかることも多い。
逆にモニタモンは「いい感じだからいんじゃね?」と極めてドライな立場をとっている。
アマチュアカメラマン調査員と鋼の闘士、中立のモニターというメンツの珍道中真っ最中、というところだ。
「そろそろなんかこう、迫力ある写真がさ撮りたいねえ。なんか絵になる場所やデジモンはいないかねえ」
「巨大なデジモンはやっぱ迫力あるよ〜。あっちから南に行けば、竜型デジモンが多くいるし、あと古くからの火の遺跡があるしぃ」
『私は熱いのは嫌だよ。西に森がある、妖精型デジモンの住処だ。花畑や清々しい森、華やかな画が撮れるだろう』
「え〜悩む、アタシ寺院とか遺跡巡り好きだから寺院にも行きたいし、自然を被写体にイイ感じのも撮りたいなあ」
支給されたオートバイの荷台にリュックを括り付ける。
エンジンをかければ小型ながらパワフルな音を立てて快適に走り出た。
あかるの地元によく似たようで少し違う、舗装されていない道も快適だ。
2体の話し声が賑やかに旅路を彩る。
さあ、どこにいこうか。
◇
「暑いの嫌って言ったじゃないですか!ヤダーッ!!!!」
メルキューレモンが叫ぶ。
自然と妖精達の華やかさに惹かれ、オートバイを西に走らせた先。
トレイルモンの駅を見つけた1人と2体は偶然途中停車したトレイルモンに乗り込んだは良かったが、南へ向かうトレイルモンだったのだ。
太陽が鮮やかに照る、暖かな気候。
オートバイを走らせるあかるの肌に汗が滲む。
その辺で手折った、いい感じの大きな葉っぱをうちわ代わりに扇ぎ、モニタモンも涼をとっていた。
「トレイルモンって結構気まぐれだったりすんのかな。さっきの子可愛かったからいっぱい写真撮っちゃった」
「貴方が行き先を確認していないだけですよ、本当にそそっかしいんですから」
「じゃあ早く教えてよ!まあアタシは西でも南でもどっちでも良かったんだけど」
オートバイを走らせる中、デジモン達の姿が多く見え始める。
ふと、モニタモンが声を上げた。
ミラーを確認すると、小さなデジモンが目を丸くしてあかるのオートバイを追いかけていた。
あまり見ない人間の姿が物珍しいのだろう。
あかるはスピードを徐々に下げていく。
「びっくりさせてごめんなさい、私人間のあかるです。今デジモンの皆さんの生活ぶりとか、素敵なところの写真を撮って旅してます」
オートバイから降り、路肩に駐車したところで、あかるは小さなデジモン達に視線を合わせて話しかける。
それに合わせて、カメラからメルキューレモンが飛び出て緊急事態に備え始める。この人間は本当に危機管理出来ませんね……と呆れを込めた目であかるを見ながら。
「ぼくアグモン!」
「ドラモンだよー」
「2人とも脚が早いんですね、あっという間に追いついちゃった」
「ねえそれカメラ?ぼく初めて見たよ」
「それでシャシン?がとれるって、パドマサマが言ってた」
何気ない会話をしつつ、あかるは2体の様子をカメラにおさめる。
そんな中2体の会話から出てきた『パドマサマ』なるジンブツ名はあかるの興味を強く引きつけた。
「パドマサマ、火の神様かな」
「そうだよ!この先の山に寺院があるの」
「エンシェントグレイモンで有名な大きい遺跡なんだけどそこにいるよ!優しくて頭がいいんだ、ぼくたちパドマサマだいすき!」
「ニンゲンも好きって言ってたし、会いに行ったらよろこぶかも!」
「モニタモンが言ってたやつだ、ありがとうございます!ぜひ行ってみます!」
2体の無邪気な言葉から、既にパドマサマなるジンブツ像が見えてくる。
メルキューレモンはあまりいい顔をしていないが、まあ無視しよう。
オートバイのスタンドを上げて跨る寸前。
ふと後ろを振り向くと、アグモンとドラモンが大きな目を輝かせてオートバイを見つめていた。
「ねえそれベヒーモス?」
「かっこいい〜」
「ベヒーモス……?これはウルトラナズナっていうオートバイで」
「……デジタルワールドに、バイクに乗るデジモンがいるんですよ。そのバイクがベヒーモスと言うんです」
「ヘェ!なんか大食漢な怪物みたいな名前だね」
「ベルゼブモンの乗り物なんだよ!」
「怖いけどかっこいいよね〜」
「こういうのン」
「ドアァッッッッ?!?!?!?
いきなりびっくりするからやめて?!」
◇
しばらくオートバイで道を走ること小一時間。
道中の深い熱帯の森でザッソーモンの群れに追われたりスナイモンに襲われかけたりとえらい目にあったが、メルキューレモンの助けもあり、オートバイもカメラも無事なままピンチを切り抜けることが出来た。
「ここを抜ければ遺跡はすぐでっせー」
「ウッヒョー!デカい遺跡興奮してきたなあ、いい天気だし絶対最高だわ!」
デジタルワールドに来て初めて遭遇する遺跡に、あかるの気分はルンルンに向上していく。
先輩調査員が見たという巨大な海底遺跡の話を聞いているのだ、先程アグモンたちが話していた遺跡ならば同じくらい素晴らしいものなのだろうという期待が胸を高鳴らせた。
「出口だ〜〜〜〜〜〜〜〜!
あ?」
森を抜けた。
抜けたが。
「えっ?もう夜?そんなはよ日落ちる?まだ日没まで5時間もあるが?」
◇
……ていうところまで書いて後はアポロモンとかアグニモン出して天岩戸する予定でした!!!!!!!
創作の神がポテチ食ってたから間に合わなかったです
主人公の玉造あかるのモチーフは八尺瓊勾玉を作り、玉祖神社に祀られる玉祖命、天明玉命でした。
勾玉を作ったことでカメラ・レンズにも神徳がある神様なので、カメラ・神器繋がりで鏡のメルキューレモンとコンビを組ませた次第でした。
【嘘言】
大変面白く読ませて頂きました! 夏P(ナッピー)です。
メルキューレモンが面白キャラ過ぎる。後書きでも触れられている通り日本神話モチーフなのでしょうが、お前八咫鏡ポジションだったのかよぉ! 主人公のあかるさんが八尺瓊勾玉なので、そりゃ龍魂剣(草薙剣)を持ってるアグニモンもといカイゼルグレイモンも主役になるわけだァ!
アニメで「金属が炎の熱で溶けていくゥ(※炎の闘士誘い込んだの自分」という失態を犯して敗退した通り、ドラゴン系を含む炎を苦手とするメルキューレモンがいい味を出している。でもまあ最後に「鋼を強くするのもまた炎なのだ!」と理解・覚醒してカメラを一段階進化させる様は神展開でしたね。いや自分が進化するんじゃないんかい!?
カメラマンが主人公ってなかなかレアで斬新だと思いました。いや一番は一眼レフに収まってる鋼の闘士でしたが。
それでは今回はこの辺りで【嘘言】とさせて頂きます。