密室にて #1推し
快晴様の常設企画『推し活一万弱』に参加させて頂きます。
気付けば謎の部屋に閉じ込められていた。
周りには年齢バラバラの幾人かの男女たち。
そして部屋の正面には天井から吊り下げられた巨大なモニター。
恐らくこの部屋にいる誰もが同じ事を思っただろう。
──これはデスゲームだと。
話で聞いた事くらいはある。
最近ではデスゲームを題材に取り扱った作品が多く世に出回っているなどという話も聞く。
まさか実際にそれが行われて、自分が巻き込まれる日が来ようなどとは予想しなかったが。
状況を把握する頃、モニターが付き1人の人間が映し出された。
黒いフード付きコートを羽織り目元を覆う白い仮面をつけ、テーブルに肘をついて両手を組む人間。
デスゲームの主催者というやつだろうか。
次いで流れてきたのは機械音声で厚手のコートを羽織っている事もあり性別はどちらかわからない。
『皆さんにはこれから──推しについて語って頂きます』
……は?
コイツ今何言った?
オシニツイテカタッテイタダキマス?
何の呪文だ。
怪訝そうな顔をしたのはきっと自分だけではない筈だ。
ここはデスゲームが開かれて悪趣味なゲームマスターを愉しませる為だけに名も知らぬ隣人を手に掛けなくてはならない、生き残りをかけて人間の闘争心やら醜い本性が暴かれるような、そんな場所ではないのか。
だがゲームマスターと思しき人間はそれ以上語ることはなかった。
「なんかよくわかんねーっすけど、推しについて語りゃあ良いんすね!それなら任せるっす!オーガモンの兄貴マジソンケーっす!リスペクトっす!オレもあんな風なワルになりてーっす!」
髪を金髪に染め、耳にピアスを付けた如何にもチャラそうな青年が先陣切って意気揚々と語り出す。
お前そんな見た目で舎弟キャラだったのか。というかっすっす煩い。
オーガモンがカッコいいのは認める。あのガタイの良さとかすげーし憧れるよな。顔に傷あんのも歴戦の猛者感あるし。
「わたしは、ツチダルモンが好き!あのまんまるでやさしそうなおめめがね、ステキなのっ!まぁるい体もふかふかしててあったかそう!」
それに続くように長い黒髪を後ろで2つ結びにした大人しげな幼い少女が元気いっぱいに身振り手振りで訴える。
ツチダルモン、良いよな。
マスコットみてぇな丸みを帯びたボディが最高に可愛いと思うぜ。この子の言う通り小さくてつぶらな瞳もより可愛さを引き立てているよな。
「ウハハハハッ!若いモンは元気でいいのう!だがワシも負けておらんぞ!ワシの推しはメギドラモンじゃ!あの凶悪そうな顔つきが“わいるど”じゃろ?胸に刻んだ“でじたるはざぁど”なる刺青もええのう!ワシの若い頃を思い出すようじゃ!」
年老いてはいるものの、背中が曲がらずピンと立つジジイが語る。
メギドラモンってまたすげーの出して来やがったな…だがま、悪くねぇセンスじゃねぇか。あのいかにもワルそうな外見、嫌いじゃないぜ。ドラゴンっつーのは見るだけでテンション上がるし皆好きだよな。
にしてもデジタルハザードを刺青呼びすんのって…しかも若い頃思い出すとか…いや、深く突っ込むのはやめとくか。
互いに認め合い、褒め合いながらも三者三様に熱く語り合う3人。
それらを眺め、フッと笑って声を張り上げた。
「おいおいテメェらわかってねぇなあ!いいか、クイーンチェスモンこそ至高だろ!?」
全く。
女なら強い女に憧れるのが当然ってもんだろうが。
アタシもいつかあんな風になってみてぇ。
「クイーンチェスモンはなぁ、盤上の最強の黒の駒にして小心者のキングチェスモンを支えて国を守る強くて立派な嫁さんなんだよ!…あの黒いボディをじっくり見た事あるかよ?自分の身を守る最大の防御、鎧でありながら女性らしさを失わずしなやかですらりと伸びてる手足!各部位を防護するピンク色の甲冑なんて女性らしさを引き出しつつも黒いボディと上手く馴染みやがってて決して派手でも下品でもねぇ、王族らしい気高く気品に溢れた容姿じゃねぇか。所々にハートを加えてるのも女性らしさと女王らしさを表しててポイントが高え。女王の名に恥じない凛とした佇まいに芸術家どもがこぞって褒め称えて形に残したくなるだろう彫刻めいた美しさ。兜の隙間から溢れる煌めく銀髪、口元だけでも兜の下の別嬪な顔が想像出来るってもんだぜ!」
兜の下に隠されている美しい顔立ちを想像し、ヒュウ、と口笛を鳴らせば黙って聞いていた他の三人が一斉に口を開いた。
「ほほう。やるじゃねぇか嬢ちゃん」
「へぇ…アンタもかなりリスペクトしてるみたいっすね!」
「お姉さんすごーい!でもわたしだって負けないもん!」
「おーおー、全員纏めてかかって来やがれ!言っとくがこれで終わりじゃねぇからな!クイーンチェスモンといやぁ射程の広さと攻撃力の高さでも有名なんだぜ!これはアタシの考察だが実際のモデルになったチェスのクイーンの駒も盤上を、縦と横、斜めのラインを自由自在に縦横無尽にどこまでも駆けて行きやがるからな、そのデータをベースにしてるんじゃねぇか?捕捉したが最後、敵がどこに居たってどれだけ離れたって射程圏内にいりゃその高い攻撃力でぶっ飛ばしちまうんだぜ!く〜っ、痺れるぅ!!」
その後も好きなだけお互いの推しについて語っていれば、気付けばアタシたちは元居た場所──それぞれの自分の部屋へと戻って来ていた。
結局あの空間が何だったのか、主催者のやつが何を企んでいたのかはわからないが──アタシの胸は充実感と同じくらいの熱量を持った良きライバルたちに出会えた喜びで満たされていた。
ライアーゲームみたいなが始まるのかと思いきやまさかの! 夏P(ナッピー)です。
いやてっきり主催者の仮面(?)の男が実は誰かの推しデジモンそのもので、仮面を自ら剥ぎ取りつつ「よく言った! しかしここで私の推しを語らせてもらおう! それは君達人間だよ君達はデジモンに遥かに劣る非力な生き物でありながら多種多様な軌跡を見せてきた見たまえ選ばれし子供達とそのパートナーのオメガモry」みたいな感じで語り出すのかと警戒していましたがそんなライアーゲーム(ドラマ)みたいな展開はなかった。
オーガモンやツチダルモン語ってる次にメギドラモン持ってくるので「ジジイてめえ!」となりましたが、そういえば以前ちこさん=メギドラモンのイメージでしたがこのジジイもしや……? と思ったらアタシも普通に究極体でダメだった。しかもクイーンチェスモンとは確かにやるな若い嬢ちゃんと唸らされる気持ちもわかる。しかしクイーンは動き過ぎるのが弱点あなたの負けよアルビナス。
これはデジ活。同じ熱量で語り合える同志(とも)を見つけた喜びに満たされたのに即座にデス(カッション)ゲームが終わり解散とは惜しい。この人ら絶対どうせすぐに再会を果たしてまた四人でファミレスでデジモントークしてるんだ!
というわけで、今回はこの辺で感想とさせて頂きます。