究極体がタマゴから生まれるのはまず有り得ない。皆が幼年期から始まり、時間の経過によってまたはある程度力をつけ、条件を満たすと進化する。それがデジモン世界での理である
しかし、ある日を境にタマゴから究極体デジモンが孵るという異例が起き始める。彼らの特徴的なのは知能が幼年期レベルであり、力はコントロール出来ず、ある者は自らの足で立つのもままならない
彼らは誰の手で生まれ落ち、誰の差し金で究極体で生を受けたのか?
それを知るのは暗黒のデジモンただ独り
「とうとう生まれたな」
今日も世界の何処かでタマゴから孵った究極体デジモンを保護しにアポカリモンは奔走する
巨大なデジタマは突如空から降ってくる
墜落する場所が火山であろうと氷山であろうと様々な場所にランダムで落ちるが不思議なことに全てのタマゴは必ず無傷で鎮座している
ここ暗黒世界で闇のオーラを纏った一つのタマゴが人知れず孵る
パキパキパキッ ゴトッ
タマゴの中から究極体デジモン。ベリアルヴァンデモンが誕生する
「はぁはぁ……ゲホッゲホッ!」
殻を破り初めての呼吸をする
そして初めて見る外の世界を見渡す
周りは全て闇、闇、闇、闇、闇、真っ暗だった
誰もいない、ひとり、私は誰?ここは何処?どうして誰もいないの?
込み上げる寂しさにベリアルヴァンデモンは恐ろしい外見では想像もつかない声を上げ、幼子のように泣き出す。
そんな彼の前にゲートが開く、アベリアルヴァンデモンの前にアポカリモンが現れる
「おいで」とアポカリモンは泣いているベリアルヴァンデモンを大きな触手で抱き寄せる。ベリアルヴァンデモンは本能で悟った。
とてつもない闇の力、間違いない!
私の"親"だ!と
そう思って安心したのかベリアルヴァンデモンはアポカリモンの触手の中で自らの尻尾を掴んで眠りについた。
「まるで大きな赤ちゃんだ!」ピコがそう言うと「そうだな」とアポカリモンは返す。
「これからこの子どうするの?」
「我の手で大切に育てる。特に闇のデジモンは道徳を重視して教育せねばな」
「それじゃ今日からボクたちがパパとママだね!」
「…ピコの好きにすればいい」
ベリアル『無価値』『無益』を意味する名を持つ魔王デジモン
お前の生が今後どうなるのか我にも分からない。遠からずお前の意思でこの世界を滅ぼすことになるのであれば我の手で消すかもしれない。出来ればそうなって欲しくない
「我の望み願いが時空を歪ませ、無我の中この世界に産み落とされた可愛い可愛い我の分身、我が生き写しよ。」
我(アポカリモン)を殺す兵器としてどうか力をつけてすくすくと育っておくれ
究極体デジモンがタマゴから孵る現象の正体
それはアポカリモンの強い自殺願望によるものであった
各自デジタルワールドの守護者として君臨するその時までたくさん愛情を注ぐ
愛しい者に殺されるならば自らの望み、完全なる消滅をすることが出来ることを信じて
「アポが今まで育てた子たちに殺されるって…辛くない?」
「子らに恨まれても構わん。寧ろその方が気が楽だ」
「アポが育ててきた子たち、きっと皆アポのこと恨まないとボクは思うよ」
だって皆、アポのこと心から大好きだから
「こんな醜い我を愛そうとするのはピコ、お前しかいないと思ってたぞ」
「もぉ!アポのわからず屋!鈍感!スケベ!」
「(スケベ?)我が子の前で卑猥な言葉は極力使うな。覚えたら取り返しのつかないことになる」
眠るベリアルヴァンデモンの頬を優しく撫でる。その時のアポカリモンの表情はとても穏やかで微笑んでいた
「そういうところだよ、本当に馬鹿だよ…」
無自覚なアポカリモン。そんな困った親を今まで育てた子供たちは決して放っておけないだろう。それはピコも同じ、そして"世界"もだ
例え命を落としてでも彼を守ろうとするピコたちと同じ様に、世界そのものがアポカリモンを救いたいと願っている
何故そこまでアポカリモンという終焉をもたらすデジモンを救いたいのかって?
だって彼も私たちと同じこの世界に生を受けた生命に違いないのだから
【補足】
私ざたるおんのアポカリモンは他者を愛し己を心から憎むという矛盾している存在です
もしも良いアポカリモンがいたら…という動機で始めたアポカリモン小説、書いていくうちに更に彼のことが好きになりました。
だからこそデジアドのアポカリモンが嘆いていたセリフ、心情を肯定し受け止めてくれる誰かがいたらいいな…と想いピコが生まれました。
私はアポカリモンこそ救えば真のハッピーエンドがあると信じてます!