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【Part 1/3】
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アウトドア的娯楽をこよなく愛する少年――坂本翼にとって、異世界DWで迎える最初の夜は刺激に満ちたものであった。
人工の光源が一つも無い暗闇の平原から空を見上げると、地球から見えるそれとは全く異なる――馴染みのある北半球は勿論、本の知識でのみ知る南半球からも見える筈の無い――未知の星々が広がり、そこに電子回路の基盤めいた線の集合が天の川の如く横たわっている。仰視の姿勢に疲れて目線を地上に戻すと、所々に生き残る樹木や草が仄かに光を発する花や実をぶら下げているのが分かる。そんな幻想的なパノラマを薄く包み込むように、微風の音と、散りばめるような電子音の断片が時折空間を流れて行く。
「ねえドラコモン、この草の実って何? 食べられるなら沢山集めて……あっ!? 今なんか飛んだ!! 流れ星!? この世界にも宇宙空間と小惑星が――」
「だから騒ぐなって! つーか、ほっつき歩いてねーで火の番しやがれ!」
ドラコモンの小声の罵倒に、ああ忘れてた、と我に帰る翼。時は夜もとっぷり更けた頃――DWにも地球同様昼と夜があるらしい――、翼とドラコモンは焚き火を囲んで眠る仲間達の見張りを任されているのであった。野宿の場所が決まったのは太陽(である筈の、天をごくゆっくりと滑る光源)が地平線上で朱い半円になった時分で、デジモン達の判断と子供達の同意の下、食料の確保を後回しにして休息をとる段取りとなった。暖を採るためにコロナモンが枯れ枝の山に灯した焚き火を夜通し燃やし、同時に万が一の夜襲に備えるため、交代でテイマーとパートナーが1組ずつ見張りに付き、ひなた・コロナモン組、誠・ベアモン組に続いて翼・ドラコモン組3番目の見張りを務めている――筈だったのだが、翼は気付かぬ内にDWの夜景に心を奪われ夢心地で近辺をうろついていたという訳だ。
「ていうかさ、火の番ならドラコモン1人で済むじゃん! 後で交代したげるからさ、しばらく見ててよ!」
「僕の提案の意味、ちゃんと分かってくれなかったみたいだね……」
突如背後から口を挟む声に、げっ、と肩を竦める翼。恐る恐る振り向くと、そこには白い目をした――暗がりだったので一瞬本当に白目に見えた、などと茶化すことすら許さない雰囲気を醸し出している――クールビズの少年、早勢健悟の姿があった。
「いやいや、ちゃんと分かってるよ!? 人間は火の番、デジモンは外敵の警戒……コンビでやった方が素早く対応できる、人間とデジモンだからできる分業、でしょ?」
「おや、意外だな。敢えてそこまでは説明しなかった筈だけど」
「そう考えると合理的、ってだけだよ」
テイマーとデジモン、バディ同士で見張りを行う。この方式を提案したのは健悟だった。対オーガモン戦における翼の働きかけの影響か、「テイマーとデジモンは行動を共にするもの」という認識が早くも定着しつつあるようで、健悟が細かい理屈を付け加えるまでもなくこの提案は可決された。1人当たりの休憩時間を増やしたければ見張りは1人ずつにすればいいし、監視の目を増やしたければ人間同士・デジモン同士でも構わない。
「分かってくれてるならいいんだ。でも、あんまりパートナーから離れると、命が危ないのは他でもない君自身だよ」
「……仰る通りです……」
翼がいそいそと焚き火の元へ戻ると、健悟も何とはなしといった様子で焚き火から少し離れた場所に腰掛けた。
「へっへっへ、怒られてやんの」
「べ、別に怒られてないし……ところで、健悟はどうして起きてたの? 交代にはまだ早いと思うけど」
思いつくまま翼が問いかけると、健悟はショルダーバッグからタブレット端末を取り出しつつ答えた。
「眠れなかったから」
「もしかして、オレが騒いじゃったから……?」
「それはない、心配しないで。……時差ボケ、みたいなものなんだ。RWからこっちに来た時点で、昼夜が大分ズレてたんだ」
「え、そうだっけ? オレはそんなに気にならなかったけど」
健悟の指摘を受けるまで、翼はRWとDWの間に「時間」の差があるなどとは露も考えなかった。DWはRWと隔てられた空間である、という点は何となく理解していたが、翼がDWへ足を踏み入れた時点で日の傾き具合はRWのそれとほぼ同じだったため、時間はDWとRWで連続しているものと思い込んで気にも留めずにいたのだ。
「翼君や他の子達は、きっと日本から来てるんだね。僕はイギリスから来たんだけど、イギリスは日が暮れてたのに、WWW大陸は朝だったんだ」
「そうだったんだ……じゃあDWの中にも時差があったりするのかな。でもこんな変な世界だし、地表全体で昼夜が同時に変わったりするかも……そもそもDWが地球と同じ形状かどうかも分かんないし……」
独りごち、翼が空と地平線とを交互に見比べていると、ふふっ、と健悟が小さく笑った。
「やっぱり、君も疑問に思うんだね」
「え……そりゃまあ、ね。分からないことを分からないままにするのは、あんまり好きじゃないから」
「君みたいな人になら、個人的な調査の手伝いを引き受けてもらえるのかな。何も疑問に思わない人には、謎が解けないもどかしさを理解してもらえないからね」
「――――そう、だよね! すごく分かる!」
ぼやくように健悟がこぼした言葉は、翼がRWでの生活に抱いていた不満をずばりと言い当てていた。翼は、中学転入後間も無い誠に世界地図を見せながら大陸移動説の不思議について語った時、「そんなん知らなくても生きて行けるし」と一蹴された過去を思い出した。
「知りたいことがあるなら、オレも手伝うよ! 何でも言って!」
「ありがとう。近い内に《LEAF》の機能をいくつか検証したいから、その時は改めてお願いするよ」
ほんのり微笑む健悟を見て、翼は、彼とは思ったよりも良好な人間関係を築けるのでは、という期待を抱いた。
しかし同時に、何となくではあるが、翼には己と健悟の決定的な違いを肌で感じた。2人の違いとは、銘々を研究に駆り立てる「原動力」――翼が純粋な好奇心で動いているのに対し、健悟は何かしらの目的或いは義務感に従って動いている、という点――である。翼らテイマーには「大陸北端へ辿り着きリヴァイアモンを討つ」というゴールが示されてはいるが、健悟にとっては恐らくそのゴールさえも手段の一つに過ぎないのだ。彼はオファニモンから世界を救う使命について聞かされた直後でありながら、「事態の本筋が分かる」という理由だけで、仲間の一人も募らず、真っ先に北へと向かい始めた。そこにはリヴァイアモン討伐よりも重要な、しかし翼ら赤の他人には知る由も無い事情があるに相違無い。
「さて、坂本君。そろそろ交代しようか」
「えっ? まだいいよ、そんなに時間経ってないし」
「僕はしばらく眠気が来そうにないから、ね。……ヒョコモン」
「はっ、ここに」
呼びかけに応え、ヒョコモンがどこからか健悟の傍に現れた。ヒョコモンが今まで起きていたのか寝ていたのかは定かでないが、いずれにせよ見張りを交代する準備はとうに整っていたと見える。
「じゃあ、お言葉に甘えて。おやすみ、健悟」
「うん、おやすみ」
翼はそっと健悟から離れた。この後の見張り番は健悟・ヒョコモン組とレミ・ルナモン組、夜明けまでの残り時間で彼らが肝を冷やすトラブルに遭わぬよう祈るばかりである。
焚き火の熱がほどよく届く範囲に、落ち葉を敷き詰めただけの即席の布団が2つ。翼はその内の1つにそっと横たわった。これは翼が父・龍三から教わった野宿テクニックであり、寝心地の向上や体温の維持といった効果がある。オーガモン一味と接触した地点からこの場所にかけては枯れた草木が多数存在し、全員分の寝床を拵えられる環境が整っていたため翼はこれを仲間達に提案した。この提案は仲間達全員に歓迎・採用されたため、DWにおいて翼の知識が役立った最初の例といえた。
とはいえ、この程度で自身の有用性が示されたなどとは翼は考えていない。明日はもっとマシな働きをしようと決意を固め、翼はそっと目を閉じた。眠気は翼が思うより速く翼の五感をフェードアウトさせ、ドラコモンが隣の布団に寝転がった音を最後に記憶さえも途切れさせた。

ep.03「本能の発露」
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覚醒の一歩手前でゆらゆらと微睡む意識の中、翼は焚き火の薪が弱々しく弾ける音を聞いた。それを合図に翼の全身の神経が一斉に目覚めると、白み始めた晴れ空が視界一杯に広がり、ひんやりとした風が煙の臭いを乗せて翼の顔を撫ぜるのを感じた。
寝覚めは快適であったものの、翼は己の置かれた状況を想起するのに数十秒の時間を要した。先日までの出来事をようやく思い出した時、翼はリフレインした諸々の衝撃に背中を叩かれ飛び起きた。
「おはよ、翼君。早起きだねー」
「おはようございます、タスクさん」
消えかかった焚き火の傍らに、黒髪ストレートの少女木島レミと、彼女のパートナーであるルナモンがリラックスした様子で座っている。翼の記憶する限り、彼女らは見張り番の最後の一組、夜更けから早朝までを担当することになっていた。言い換えれば彼女らは子供達の中で一番の早起きを求められる組でもあった。
「ああ、おはよう……2人も結構早起きだったみたいだけど、眠くないの?」
「私は平気、家では毎日5時起きだったから」
「わたくし、夜の方が得意ですので」
翼の問いに答える2人の顔は、確かに眠気の負担をあまり感じさせなかった。そういえば昨日見張りの順番を協議した際にも、彼女らは一番最後を志願していた気がする。
「……あの、さ。翼君……昨日のこと、やっぱり怒ってる?」
これ以上話す用事も無いと思っていたところに、レミがやけに申し訳無さそうな顔で問いかけた。
「昨日の…………? え、オレ何か怒ったっけ?」
「ほら、昨日翼君が転んだ時。誠君と一緒になって笑っちゃったけど、あれよく考えたらサイテーだったなって……ほんとゴメン!」
「あー、あの話? 別に気にしてないよ」
「私が気にしてたの! あの後、どこか痛めてないかって確認しようとしたら急に戦いになっちゃって、謝るタイミングも逃しちゃったから」
「大袈裟だよ、怪我だってしてないし……レミは優しいんだね。ドラコモンの肩も気遣ってくれたし」
「優しい、のかな。私、そんなにいい性格してないよ。でも、目の前で苦しんでる人は絶対に見捨てない。そう決めてるんだ」
「……そっか。心に決めた生き方があるって、なんかかっこいいな」
苦笑いとも照れ笑いともつかない曖昧な笑みを見せ、視線を逸らすレミ。
会話と呼ぶには十分な言葉を交わせた(と思われる)ので、話が途切れたこと自体に気まずさは感じなかった。それよりも翼が気にしたのは、レミが昨日からルナモンと会話らしい会話をしていない上目を合わせる素振りも見せない点だった。思い返すと、レミは自身がDWに呼び出されたことに納得していない様子で、ルナモンに対して心を開こうという意思も全く見せなかった。にも関わらず、ルナモンはレミを守るために命懸けで戦い、今でさえ明後日の方向を眺めるレミをやや遠巻きに見つめ続けている。間違っても口には出せないが、LEAFに導かれた5組の中で最もパートナーシップに不安が残るのはこの2人であるように翼には思えた。
「どーしたよ、朝から辛気くせぇ顔しやがって」
翼の右隣からそんな言葉を投げかけたのは、同じく目覚めたばかりのドラコモンであった。翼がDWに降り立ってから1日と経っていないが、翼は己の顔が口よりも饒舌であることをドラコモンとのやり取りから知り少しばかり驚いていた。
「いや……オレとドラコモンって案外いいコンビなのかもな、って」
「ンな顔で言うことじゃねぇぞ、それ……まあほら、朝日浴びて目ェ覚まそうぜ」
ドラコモンはそう言ってひょいと立ち上がり、一つ大きく伸びをした。翼も徐ろに立ち上がり、促された通り朝日の昇る方へ顔を向けた。
地平線の際に浮かぶ目映い光が、夜空の色を残す千切れ雲を緋色に燃え上がらせている。RWのそれと変わらない清らかさと力強さで輝くそれは、少し寝ぼけたままだった翼の脳を隅々まで冴え渡らせ、痩せた大地と気怠そうに体を起こす仲間達の顔を照らし出した。
朝日に導かれるまま目を覚ました子供達は、2、3とりとめも無い言葉を交わした後、程無くして昨日の道の続きを歩み始めた。付近に川や泉といった水場が見当たらなかったため顔を洗うことは叶わなかったが、道中に細々と生え残った木々からいくつかの果物――バナナの形だが柑橘類に似た表皮の謎めいた果物3個と、にっこり笑顔の模様が表面に浮かぶリンゴが2個――が採れたため、一行はそれを切り分けて食べることで小腹を満たし喉を潤すことができた。とはいえ、子供達は皆空腹からかやや俯きがちで口数も少ない。
「そーいえばさ、ルナモンって確か頭から水出せたじゃん。あれ飲めたらスゲー便利じゃね?」
前日よりも活力に乏しい声で誠がそう言った。これについては翼も考えなかった訳ではないが、攻撃の手段として用いられる《ティアーシュート》が飲み水に利用できるほど安全かと問われるととてもそうは思えない。
「あれ、当たると痛いですし、飲むとお腹壊しますよ」
「マジ!? スゲー危険じゃん」
「そうでなければ、攻撃には使えません」
ルナモンの返答はごくシンプルなものだった。いや飲んだことあるんかい、飲むとお腹壊すって純水か何かかいと問い質したい気持ちはあったが、無用な詮索であるような気がしたので翼は敢えて口を開きはしなかった。
「マコト。何度も言うようだけど、この草も結構おいしいんだよ」
「いや、でもそれその辺に生えてた草じゃん? なんかヤだわ……」
ベアモンが緑色の小さな草葉を口に放り込みつつ、同じ色形のものを誠に差し出している。そんな様子を見て翼が思い至ったのは、食物とそうでないものとを見分けられるのはその環境に住み慣れた者のみであるということだった。先の謎の果物のように翼ら人間の知らない物体が数多転がるこのDWでは、一見食せそうにない食材や、一見食せそうな毒物などに出会うこともあるだろう。人間の知識や先入観があてにならないとなれば、デジモン達に判断を委ねるより賢いやり方は無い。
それ頂戴、と翼が言うと、ベアモンは快く草を手渡してくれた。見た目は一見RWにもあるパセリで、匂いや手触りにも不審な点は無い。パセリといえば、ステーキやハンバーグといった肉料理の付け合わせでよく見る苦い野菜。そう思いながら口に放り込むと、口一杯にハンバーグの旨味が広がった。ちょっと待て、何故お前から肉の味がする。
「……誠、これハンバーグの味するよ」
「マジで!? くれ!」
翼が押し付けると、誠はそれをかっさらって迷わず食べた。触れ込みに何の疑問も抱かないのか、と翼は呆れたが、当の誠が美味そうに草を食べているので良しとした。
「うおお、スゲージューシー! ひなたも食ってみ?」
「ワタシはいいよ……ハンバーグ味の草、って、なんかお口が変になりそう」
だよね、と翼は口の中で呟く。そもそも、そんなバグのような植物を慌てて腹に入れずとも、もう少し先へ行けば他の食物にありつけるかも知れないのだから。
翼が目線を少し上げると、仲間達もそれにつられて顔を上げた。彼らの行く手に現れたのは、でたらめな増築を繰り返し膨れ上がったツリーハウス、とでも呼ぶべき不恰好な建物。それが盗賊達のアジトであることは、パートナー達がにわかに足音を潜め始めたことですぐ察しが付いた。
F-D DATABLOCKS
Kda003 - KENGO's DIARY site-A Level.5
〈encounter〉
〈mission〉
〈team〉
DW滞在1日目。極めて興味深い事象・情報に出会うことができた。以下に主な出来事を記す。
・人間の子供4人、及びそのパートナーデジモン4体と遭遇。子供達は全員日本人で、かつLEAFを所持していた。子供達とデジモン達はDWへ来る前にファーストコンタクトが済んでいたようだが、まさか日本にもデジモンがリアライズしていたのか?
・〈オファニモン〉を名乗るデジモンから、DWの情勢と僕達人間がDWへ呼び出された理由等についての説明を受けた。曰く、
「ウェブ大陸(僕達が降り立った陸地の名前らしい)の北端が魔王リヴァイアモンに支配され、DWのみならずRWまでもが侵略の危機に晒されている。(僕達)人間の子供は、パートナーデジモンを使役する《テイマー》となり、その絆とLEAFを駆使してリヴァイアモンを討たねばならない」
とのこと。通信が途絶えてしまったため詳細は聞き出せなかったが、魔王を倒さなければRWに帰れないと見て間違いは無いだろう。何とも勝手な話である。
・オーガモン率いるゴブリモンの群れと接触、戦闘。当方の戦力レベルⅢ5体に対し、敵戦力はレベルⅣ1体にレベルⅢ60体超と、極めて不利な状況ではあったが、パートナー達の連携と子供達の助力により辛くも勝利。
・4人の子供達、及びそのパートナー4体と暫定的に手を組むこととなった。最初に協力を申し出たのは坂本翼という少年(上述の戦闘でもテイマー達に協力を要請していた)で、後に彼は僕の個人的な調べ物(LEAFの諸機能に関する検証)に力を貸してくれるとも言った。
以上の出来事を経て、暫定チームは死傷者を出すこと無く生き延びている。夜が更けた今現在、僕は焚き火とそれを囲んで眠る仲間達を見張りつつこの日記を書いているが、新たな問題が起こる気配は無い。
Zfr015 - ZERO-FIELDS REPORT site-A level.5
〈operation〉
〈server〉
〈interrupt〉
DW時間0655、観察対象らが移動を再開。これを受け、DW時間0800を以ってZF及び機械化旅団の一個小隊による南部平原地下拠点制圧作戦を開始。
DW時間1004、南部平原地下拠点の制圧を完了。警備として配置されていたガードロモン5体の記憶領域を初期化、拠点に近付く人間及びデジモンに対する積極的防衛を最優先事項として命令。
拠点制圧完了後、直ちに拠点内部の調査を開始。
調査の結果、北東部の大型拠点にあったものと同じ正体不明の仮想サーバーが最奥部に設置されているのが確認された。前回と違い自己破壊プログラムが発動する前にシステムを制圧できたため、詳細な機能と性質について調査可能な環境が実現した。
件の仮想サーバーは、結論から言えば「表層トラフィックを行き来するデータを無作為に傍受・ダウンロードするだけ」のものである。傍受対象のデータにはDWの土壌や植生を維持するリソースデータも含まれ、これがWWW大陸各地で発生している地殻変動や干ばつの原因と目される。ただ、集積されたデータがどこかへ転送される様子は無く、定期的に正体不明のユーザーがデータを丸ごと取り出すのみだった模様。このユーザーに関しては、アドミン相当の権限が与えられていること以外に手がかりは残されていなかった。
これが魔王派組織の拠点にあるということは、少なくともこれは魔王やそのフォロワーにとって重要なものだと考えられる。しかし、このサーバーのプログラムは一般のデジモンには扱えないタイプの言語で構築されている。そもそも集積するデータの種類が雑多で、通常生データでは何の役にも立たないものばかりだ。リヴァイアモンの食料にするならばもっと上質なデータを用意できる筈である。これでできることといえば、トラフィック管理AIのラーニング程度のものだろう。
Zfr016 - ZERO-FIELDS REPORT site-A level.5
〈Digivolution Support〉
〈Connection Depth〉
〈condition〉
DW時間1219、ガードロモン達と観察対象らの接触を確認。戦闘開始後間も無く、観察対象らのLEAF5台において《進化補助プログラム》のアクティベートが確認された。最初にアクティベートを完了したのは、最も初期交感深度が低かったユーザーR・Kで、短時間の内に交感深度がアクティベート最低ラインまで上昇していた。詳細な事情を把握するためには、システムログの分析とユーザーに対する直接のヒアリングを要する。
上記の事象が引き金となったのか、他のLEAFでも次々に交感深度上昇が確認できた。ユーザーT・S、R・K、K・Hの3人は、元々感情変位ベクトルの同調率が高かったため、補填生命エネルギーの要求量が少なかったが、残る2人は体調に異常が出るレベルのエネルギーを要求され、H・Hに至っては一時的な意識障害を起こしたために進化補助プログラムが緊急停止されている。
Nda029 - NAOTO's DIARY site-A level.5
〈occupation〉
〈monitoring〉
〈interest〉
央基の奴、レポートのRW標準時をサマータイム表記にするの忘れてるっぽい。まあ、別に致命的な入力ミスじゃないので、放っといてもいいか……。
宿を離れて魔王派集団の拠点に滞在しているが、どうも居住を前提とした造りにはなっていないらしく、内装の殺風景さと通気の悪さで不快指数が爆上がりしている。例の子供達に風穴でも開けさせてみたい。
とはいえ、待ちぼうけの間に面白いものも見られた。正規版LEAFの動作ログを観察していたところ、ある1人の少女が急にデジモンに心を開き、チームで一番最初に進化補助プログラムを起動してみせたのだ。キジマ・レミという名前らしい。機会があればじっくり話を聞いてみたい。
上述の少女といい、イギリスのハッキング少年といい、央基はデータに特徴のあるテイマーに注意を払っているらしいが、個人的にはデータ上は大したことのない残りの3人もそれなりに成長が楽しみである。特に交感深度が最初から高めだったサカモト・タスク少年なんかは、データリンク開始時のノイズやパートナーの出自も含めて色々と興味深いネタを秘めている気がしてならない。あくまで気だけだが。