「ようこそ、ようこそ。いらっしゃい」
少女を1人供に引き連れ、唐突に響かせてやったオレサマの声に、イザサキ タスクを囲んで本日の予定なり何なりでも話し込んでいた選ばれし子供とそのパートナー達が、一斉に振り返る。
置かれた状況の通り、呼ばれてもいない魔女のように宴の席ならぬ選ばれし子供達の拠点に足を踏み入れたのは、むしろオレサマ達の方なのだが。
だが美しい娘を言祝ぐ場に、娘本人が不在というのもいただけない。
『選ばれし子供』という徳を
人とデジモンの合いの子という有り得ない美を
最強のパートナーデジモンという富を
その他も合わせてざっと11の贈り物を頼んでも居ないのに押しつけられた姫君は、いくらか早く反抗期を迎え、13番目の賢者を引き連れて、呪いの糸車の針先を、父王にこそ突きつける。
「宴も酣。昔々あるところにで始まりめでたしめでたしで締めくくられる美しい絵本の表紙を開くまでも無く、戦の神までリュートの音に踊り騒ぐこの世の春なるお楽しみに水を差すのは少々心苦しいが、こうして時計を持っている以上は、店じまいを告げるのも絵本屋の仕事でね」
ほとんどが究極体。最低でも完全体未満は存在しない、ざっと見渡しただけでもそうそうたる面子のデジモン達が、瞬く間にオレサマ達を取り囲んだ。
少女――リンドウが、彼女の手を引いて来たオレサマの手を握り返す力を強める。
……ああ。そうだな。
12番目の妖精が何かとしゃしゃり出ない内に、そろそろおっぱじめちまおうか。
とはいえここで仕舞いだ、花ぐらい持たせてやるよゲイリー・ストゥー。
回りくどいだけで意味も意義も無い、お前の人生みたいな行為だが――お前が飽きもせず繰り返していた口上ぐらいは、最後まで、な。
「さあさあさあさア、名残惜しさにふるって踊れよ端役ども。喇叭も鳴らして盛り上げていこうぜ。なんたって――」
整然と並んだ選ばれし子供のパートナーデジモン達が、得物を掲げて降り注ぐ。
「――オレサマとお前らは、お友達だ」
瞬間。
オレサマの足下から伸びた影が、平面という次元を突き破って『迷路』に顕現する。
無数の帯と化した影はその一面に『口』を咲かせ、飛びかかってきたデジモン達を絡め取るなり、食らいつき、囓り取る。
さながら豊穣の稲田を貪り尽くす蝗の群れ――蝗害の体現。
これを以て、ただの悪魔は、奈落を意味する名を戴く。
「ディアボロモン、進化――――アバドモン」
再び有象無象と化した選ばれし子供とそのパートナーデジモン達をすっかり食らい付くし、電子的な光の這う白い壁の全てを黒に染め上げ。そうしてようやっと、オレサマはたった1匹の芋虫に向けて、その名を宣言する。
「よう、ワームモン。世界の終わり(メアリー・スー)を始めに来たぜ」
イザサキ タスク――の皮を被ったワームモンは、未だゲイリーの姿を保っているオレサマにやれやれと頭を振り、そして顔を上げるとオレサマではなく、周囲を見渡した。
「大丈夫。みんなの想いは無駄にしないよ」
刹那、死骸の破片も残すこと無く噛み砕いてやったワームモンの同胞達が、そうまでしてなお人もデジモンも問わずに塵芥となった己を光り輝かせて、ワームモンの元へと集結していく。
それもまた、いつか見た『進化の光』。
「ンな心にも無い台詞を吐けるくらいなら、せめて助けるポーズぐらい生前に見せてやれよ」
「何故? みんなの力は一つに合わせた方が、ずっと強い」
「……オレサマ、性質の上じゃア晴れてお前と虫仲間みてぇだが、やっぱり真性の昆虫の気持ちはわかんねーな」
「「虫」って一括りにしないで。……モルフォモンだって、あんなのじゃない」
オレサマによる一方的な虐殺を目に焼き付けて。
その上で、此度は呼吸を整えて。
ミヤトの物だった聖なるデバイスからモルフォモンをリアライズさせたリンドウが、静かに血縁上の父親を睨み付ける。……おい。そういう訳で今大事な場面なんだ。叩くな、モルフォモン。オレサマの足を。いつまで経ってもこンのクソガキは……ッ!
「それは、もちろん。僕とそのモルフォモンは違う。タスクのパートナーである僕と、あくまで『迷路』産――実験用のデータ塊に過ぎないそれとのスペックは雲泥の差だ。気持ちが解らないと言うなら、それは僕の方だ。どうして? リンドウ。そんなつまらないものを大事にしても、タスクみたいな立派な選ばれし子供にはなれないんだよ?」
正体が割れた今、もはや僅かにでも取り繕う気は無いのだろう。ワームモンは心底不思議そうに首を傾けて、人の目玉で虫の眼差しを己が娘へと投げかける。
「……そういうところが、気色悪くて嫌。大嫌い」
リンドウは、芋虫と対峙した一般的な年頃の人間の少女として、あまりにも真っ当な感性で吐き捨てた。
「よくない言葉だ。後でちゃんと教育し直さないと」
「あんたから教わる事なんて、反面教師として以外何も無い」
「――っと、話の最中にすまんのう!」
相変わらず空気を読まずにオレサマの持つゲイリーのデバイスの方から飛び出してきたコウスケが、リンドウとワームモンの間に割って入りながら羽団扇を広げた。
「お前さんら。「着いた」ぞ」
「そうか」
案内の終了を告げるコウスケに、オレサマは空間一帯を囓り取り、コウスケの示した座標に向けて移動していたアバドモンの触手を影の中へと収納する。
影から解放された景色には、さしものワームモンも驚いたのかもしれない。僅かにとはいえ目を見開いて、不意にオレサマ達を囲った『水晶』の煌めきを見渡している。
「ここは――そうか」
だが、空間の最奥。その中心に座すいっとう強い『光』を視界に収めるなりすぐさま気を取り直すと、ワームモンはコウスケに、次いでオレサマに向けて、穏やかに微笑んだ。
「君も、そして『我らの君』の友人も、随分と気が利く」
「いやワシの友、9体の他におらんが?」
「ありがとう。一つ手間が省けた。……まさか、連れてきてくれるとは」
「なァに。事のついでだ。『ここ』に用があるのはオレサマの方こそさ」
デジタルワールドより移設されし、我らが父の水晶宮――イグドラシルの玉座。
オレサマ達は、神の御前とやらに居る。
「君が、我らの君に、用?」
「流石に察せよ」
「いいや、解っているとも。だから、察していないのは君の方だ」
ゲイリー・ストゥーとイザサキ タスクを挟んで。
選ばれし子供の最強の敵と、選ばれし子供の最強のパートナーが、真正面から向かい合う。
「お前を殺して、オレサマは本物の神になる。そうなりゃ世界は台無しさ」
「世界の秩序は僕が護る。君には僕が神になった世界で生き続けてもらわなきゃ」
「リンドウ」「わかってる」
「行こう、タスク。ブイモン」
「モルフォモン、ワープ進化――ベルゼブモン! ……メアリー!」「応」
「ワームモン、進化。スティングモン。ブイモン進化。エクスブイモン」
「「ジョグレス進化!」」
「ジョグレス進化――」
全てを無に帰す銘を刻まれた、身の丈を上回る剣を掲げた純白の聖騎士(パラディン)。
対する、『暴食』の冠と剣――否、オグドモンの『全て』を取り込み、擬似的にリンドウの、最高の選ばれし子供とパスを繋いで。そうしてようやく奴と相対するオレサマの姿もまた、終わりの名を冠する騎士と似通ったもの。
全てを飲み込む暗がり色の右半身には、罪人を責め苛む悪魔の黒い槍。
これまで流し流させてきた血の色をした左半身には、食う物を選ばぬ蝿王の赤い砲。
2つの力の取り合わせだけならまだしも、たなびくマントまで、面白くない事にそっくりそのまま。
つまるところきっと、我らの父は。
結局の所、騎士の王こそを、この世でもっとも偉大であると褒め称えたのだろう。
気に食わねエな、全くよう!!
「アバドモンコア」
消滅を司るアバドモンの全てを集約した『心臓』として名乗りを上げ。
「インペリアルドラモン:パラディンモード」
竜の名を騙る虫の騎士が、それに応じる。
とまあ、こうしてもっともらしく仰々しい儀礼を挟んだところで何て事は無い。
デジモン同士が向き合ったら、後は太古の昔から、ヤる事なんて、1つだけ。
殺し合いの、始まりだ。
オレサマとワームモンは同時に動いた。
1つ数え終えるよりも先に、タスク達が受け継いだ先代の遺品『オメガブレード』が、オレサマの右腕、黒槍『ビンジェラード』と2度、3度と交差する。
弾かれはしても、斬られはしない。砕けはしない。
インペリアルドラモン:パラディンモードの力は、『初期化』の力。
単なるデータ破壊ならクラモンの増殖ですぐに肉体を埋め直す事が出来るアーマゲモンでさえ、肉体を構成する力を「無かった事」にされてしまえば太刀打ち出来ない神の御業(チート)。
だから、考えた。
『絵本屋』に潜って、散々に考え抜いた。
そうして思い至った結論が――結局シンプルこの上ない『消去』の力を用いたもの。
アバドモン。
デジタルワールドを消去(デリート)するために生まれるデジモン。
ネットワークに蔓延る『人の負の感情』から生まれたデジモン――たとえば、クラモンのような――の、最終到達地点。
そういう訳で、まあ。
オレサマがこの姿に至ったのも、やはり当然の帰結という事らしい。
『消去』の力で、『初期化』の力を消し飛ばす。
……目論見は、上手くいったのだろう。
そうしてオレサマは、今一度『最強のデジモン』に対する壁となった。
「まったく」
息の一つも乱さずに、溜め息一つ、ワームモンが零す。
「リンドウも少し、やんちゃが過ぎる。タスクはもっと良い子だったのに」
「親の教育が悪いんだろうなァ」
「じゃあ、リンドウを取り戻したその後が大事、という事だね。がんばらないと」
とはいえそれだけでは決定打とはなり得ない。
『初期化』の力もまた、『消去』の力が剣に、本体に届く前に、悉くそれを無に帰し続けている。
オレサマはあくまで、スペックの上でインペリアルドラモン:パラディンモードと並んだだけ。鍔迫り合いが出来るようになっただけ。……いや、ここまで盛って性能面で五分五分かよ。重ね重ね、マジで面白くねえな。
……ただ、これまで選ばれし子供という存在を殺してきた経験と、ベルゼブモンを介してリンドウと繋がったからこそ解る。
ベルゼブモン――モルフォモンとリンドウを繋ぐパスは、あまりにもか細く、心許ない。
小さな手の平にどれだけ強く力を込めたところで、ガキの腕力が強まる訳も無し。
聖なるデバイスを握り締めて幽かに白むばかりの手が、どれだけ祈るように組み合わさったところで、何かの解決策になる訳でも無いのだ。
真のパートナー同士じゃ無い。
真のパートナー同士じゃ無くても、これだけの力なのに。
真のパートナー同士じゃ無いから、真のパートナーを――本当の父親を、上回れない。
それじゃあ、真のパートナー同士なら。
リンドウの選ばれし子供としての才能は、ワームモンにどれだけの力を施すと言うのだろう。
「リンドウは絶対に渡さねエ」
『ビンジェラード』の側面を力の限り『オメガブレード』に叩き付け、その反動を利用してオレサマはワームモンと距離を取る。
もちろん逃げた訳じゃ無い。それが出来る段階など、もう数十年も前に過ぎ去っている。
「『デスチャージ』!!」
左手の赤い砲身から『消滅』の力を凝縮したエネルギー弾を撃ち出す。
同じ所に留まる真似はせず、ワームモンを中心に据え、円を描くように立ち回りながら1発。また1発。銃撃というよりは爆撃といった様相で。
「『エクリプスノーン』」
続けざまに、着弾したエネルギー体にリソースを注ぎ込み実体を与える。
本来のアバドモンのものとは少々仕様の異なる、特別製だ。
「これは。……オメガモンの見た景色も、こんな感じだったのかな」
テクスチャこそ今のオレサマの左半身に似た口だらけの赤いカラーリングだが、姿形はオレサマの元の姿――ディアボロモン。
もちろん見た目だけじゃ無い。
『消去』の性質以外の性能も、ほとんどディアボロモンそのものだ。
ディアボロモンもどき達をワームモンへと一斉にけしかけ、オレサマもその後に続く。
ミヤトのジエスモンが今更のように哀れになる程凄まじい剣捌きで『オメガブレード』はディアボロモンもどき達を易々と斬り払う。が、元より解りきっていた事だ。
多少なりでも、目くらましになりゃそれでいい。
「『ビンジェラード』ッ!!」
ワームモンの正面から飛びかかっていったディアボロモンもどき数体を巻き添えにしながら黒槍を突き出す。
振り抜く最中にあった『オメガブレード』では僅かに防御が間に合わず、しかしこれっぽっちも焦る事無くワームモンは身体を傾け、槍の穂先を躱す。
だが。
掠った。
ほんの、ほんの幽かにではあるが――これまで傷一つ与えられなかった聖騎士の銀の翼を、このオレサマの槍が、奴の剣がオレサマを捉えるよりも先に。
「!」
まあ感慨に浸っている間なんぞ有り得ない。
返す刀。折り返してきた『オメガブレード』の切っ先を跳んで躱す。かわいそうに、ただでさえ穴の空いていたディアボロモンもどき達が、今度こそ真っ二つだ。
名残惜しむようにひるがえったオレサマのマントにまで備わった無数の目玉が、一つ残らず哀れみの涙の代わりに光を湛える。
「『ゲーズイレイザー』!!」
零距離での、呪いの光線。
目玉という目玉の赤い瞳から光線は雨のようにワームモンへと降り注ぎ、その性質故に空間までをも抉り取って、周囲に盛大なノイズを走らせる。
ブランクデータの白いカスに包まれて、純白の鎧が、見えなくなる。
「やったかの!?」
リンドウの側で戦いを見守っていたコウスケが声を張り上げる。
……左の半身から、舌打ちの大合唱だ。
「縁起でも無ぇフラグ立ててンじゃねーよ」
解ってやっているのだろうが。コウスケなりの「油断するな」だとしても、担げる験はひとつでも担いでおきたいこの盤面で、この野郎……。
とはいえ。
「……」
「はっ」
空間の削りカスを掻き分けて、ぬっとワームモンが再びその姿をオレサマの眼前にさらす。
「多少は見られるナリになったな」
鎧はもはや純白ではない。
輝かしき黄金にもくすみと陰りが見える。
青い地肌には、赤い血糊も。
ゲイリー。お前がお前を殺した婆さんから習った持論は正しかった。
デジモン同士の戦いは、出来る事が多い方が勝つ。
スペックが同じなら、尚のこと。
いくら無敵の剣を持ち、その剣を自由自在に扱えようとも。
文字通り手足に等しい槍に砲筒。実質の分身。呪いの邪眼。……アバドモンコアの遠近を問わない手札の数には、ちいとばかし分が悪かったという訳だ。
今はまだ、清廉なる聖騎士には神の加護に等しい守りがあり、いくら追い詰めようともたったの一手で覆されかね無いほど、変わらずに切っ先は鋭いが――
「――このままでは、僕は負ける」
虫は感慨も無さげに、ただ、事実を口にする。
今はワームモンの斜め後ろにあたる壁際に居るリンドウが、ごくりと固唾を呑み込むのが見えた。
「聞きたかったぜ、その台詞。いいや、聞く気も無かったのに、聞く羽目になっちまった」
選ばれし子供とそのパートナーなんざ、オレサマに殺されて当たり前だったのに。
「だから、まあ。命乞いにゃア耳、貸さ無えぞ」
だったのに――こんなにも時間をかけてしまった。
まさか。と。ワームモンは、首を横に振る。
「だけど、君の脅威度は改めよう、ディアボロモン――いや、アバドモンコア。君を生かしておく事は、あまり有益とは言い難いのかもしれない。……少し、名残惜しいのだけれど」
「ここからは手加減無しだのなんだの、それこそ負け惜しみみたいな死亡フラグでも立てる気かい?」
「いいや? 僕は最初から本気だとも」
そう、ずっとね。と。
ワームモンが、『オメガブレード』を前に掲げる。
途端。白刃に電子の青い光が――『初期化』の力が具現化し、迸り、渦を巻く。
……手加減を止めたようにしか見えないのだが。
「……」
だが、少々腑に落ちない。
力を解放するのは良いが、これでは隙だらけだ。
現にオレサマは既にその場を発ち、『ビンジェラード』の標準を奴のデジコアに合わせて猛進している。
斬撃は躱せば良い。
ディアボロモンの時では無理だったろうが、今なら。今ならいかに奴の攻撃範囲が広かろうとも回避できると確信を持っている。
剣筋に全身全霊を乗せれば――その後は。
「これは、賭けだ」
オレサマの内心に答えるように、ワームモンが呟く。
「そうかよ」
それなら遠慮は要らない。
胴元が一番儲かるようにと、コイツの御破算を願うのみ。
「『ビンジェ」
ワームモンが、剣を振り被ったままオレサマに背を向けた。
「は?」
「え?」
コンマ数秒遅れて耳に届いた、呆けたようなリンドウの声に、オレサマのデジコアが
『暴食』――モルフォモンと
選ばれし子供の『疑似』パートナーデジモンと交ざった心の臓が、ざあっと荒い大波を打った。
「リンドウッ!!」
声がひっくり返る。
ワームモンの前を、隣を、通り過ぎる。置き去りにする。俺の方こそ、背を向ける。
攻撃を加えては間に合わない。
剣を振り下ろすだけなら、心臓を穿たれても出来る。コイツなら。
「『オメガブレード』」
何て事は無い。
因果応報。今までオレサマが散々やってきた事だ。
選ばれし子供が死ねば、パートナーデジモンはそれに続かなければならない。
ただ、それだけの話だ。
……リンドウの眼前にまで駆けつけ、ようやっと振り返ったオレサマの側には。
既に彼女の名のような。
モルフォモンの翅を彩る鱗粉のような。
鮮やかな青色が、きらりきらりと輝いていた。
「ゲイリー?」
名前を呼んで。
たっぷりとオレサマを眺めて。
そうしてようやく事態を理解したのか。
リンドウが、声にならない悲鳴を上げた。
「……」
ああ、ただ。
コイツの声がキンキン頭に響くって事は、なんだオレサマ、生きてるのか。
驚いた。
リンドウが生きていて、
オレサマも生きている。
だったら、まだまだ――
ぐしゃあ、と。
オレサマが動き始めた事で、いよいよ形を保てなくなったのか。
辛うじてテクスチャを縫い止めていたワイヤーフレームがするりとほどけ、水晶の床に落ちた左肩が粉々に潰れて、ノイズになって溶けた。
「っ、すまんアバドモンコア。ワシでは『ソレ』が限界じゃった……!」
ほとんど消し飛んだマントにどうにか残った目玉を動かすと、胴の鏡に亀裂が入ったコウスケが、柄にも無く金の丸い目だけで険しい表情を描いて無い唇を噛み締めているのが見えた。
「じゃがどうにか動けい! 奴が」
「なるほど、それが我らの君に気付きをもたらした『鋼』の力の一端という訳か」
暖簾でも掻き分けるように、青い手がコウスケを軽く薙ぎ払う。
遠くで、硝子の割れるような音がした。
「『初期化』や『消滅』とはまた違う……技の性質を反転させての相殺かな? こちらの世界には概念の無い『ジュットウシ』という原初の究極体の概念。さぞかし、本体は強力なデジモンだったんだろう。ねえ、リンドウ。君もそう思うだろう?」
「……っ」
「よくもまあ……コイツを殺そうとしておいて、いけしゃあしゃあと話しかける」
「言っただろう。これは賭けだった」
でも、君はきっとリンドウを庇ってくれると信じていたよ。と。ワームモンが微笑む。
もしも自分がイザサキ タスクの側に居たら、きっとそうしていたのにと。そう、信じて疑わない顔で。
「行かなかったらどうするつもりだったんだよ」
「その時はその時さ。人間には新しい生命を産み、育む力がある。それはデジモンには出来ない素晴らしい能力だよ」
「……クソ虫がよう」
立っているのもやっとの足を踏み出して『ビンジェラード』を突き出す。
だが、それこそヤケクソの一撃。ワームモンは最低限の動作で穂先を躱し――どころか左手で側面から槍を掴み、握力だけで潰して折った。
『初期化』の力に侵食されている。
全身が、どうしようも無く脆い。
そんな状態のオレサマを、『ビンジェラード』とすれ違うようにして繰り出された『オメガブレード』が刺し貫いた。
「っあ゛、があ――――――」
『オメガブレード』はそのまま昆虫標本のピンのようにオレサマの身体を煌めく壁へと縫い止めた。
的にされた肩口の目玉を中心に、『初期化』プログラムが全身を駆け巡り、蝕み、内側からオレサマを殺そうと暴れ回る。
あの時と同じ。
同じなのに、今は、簡単には死ねない、壊れない身体で。
痛い
痛い、痛い
痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い
「君が死にきらなかったのは嬉しい誤算だよ、アバドモンコア。そのまま初期化され続ければ、君の性質上、ジョグレスしているベルゼブモンの方が先に死ぬだろうから」
「――っ」
「やっぱり君には、この先も世界の敵で居続けてもらおう。もちろん、当初の予定よりこまめに『処置』をしながら、ね」
「あ――」
オレサマは
この先
永劫に
「さあ。そういう訳だから行こうか、リンドウ」
ワームモンの姿が、インペリアルドラモン:パラディンモードから彼のパートナー・イザサキ タスクへと。リンドウの父親へと切り替わる。
もっとも、オレサマを縫い留める剣がこのままな以上、変わったのは姿だけだろうが。
それでも、ワームモンは人の手を差し出す。
握って返せと。自分のパートナーとなるべき少女へ。
そうしなければ、お前を殺す事も出来ると見せつけた上で。
「……う、あ」
リンドウは
「……だ」
彼女のために、自分の手を握らせない選択をした男を知っているリンドウは
「やだ。……やだ。やだ、やだやだやだ!」
きっとそんな、何の『心』も籠もっちゃ居ない手など、どうしても取れなかったのだろう。
普段の比では無い。
ただの癇癪。
万策は尽きた。
直接手を払いのける事すら出来ない。
首をぶんぶんと横に振って、頭を抱えて身を縮こめて、もっともっと小さな子供のように叫ぶだけ。訴えるだけ。
「……」
ワームモンはそんな無様なリンドウを、しばらくの間心底不思議そうな目で見下ろして。
「ああ、そうか。教育をしなきゃいけないんだった」
差し出していた手の平を、拳に変えた。
「ダメだよリンドウ」
「キャアッ」
「子供は親の言う事を聞く物だ。いつまでも我が儘ばかり言っていてはいけない」
「痛い。痛いっ! やだっ、やだあっ!!」
「「やだ」じゃない。返事は「はい」。痛くして欲しくないならどうすればいいか、解るよね?」
「……は」
「うん?」
「『お父さん』は、もっと痛かった! なのに我慢した!!」
「そうだね。今僕はとても心が痛い」
「そんな事しなくて良かったのに!!」
「僕には親として君の我が儘を叱る義務がある」
「そんな事、しなくていいから――どうして、一緒に連れて行ってくれなかったの?」
「君が勝手に出て行ったんだろう?」
「どうして一緒に居てくれなかったの?」
「僕は君の側に居るじゃないか」
「たすけて――助けてよッ!! お父さん!!」
「そうじゃなくて」
ワームモンが子供をあやすようなツラを貼り付けたまま、また、拳を振りかぶる。
「「わかりました、言うことを聞きますお父さん」って言うんだよ、リンドウ」
オレサマは、右手で振り下ろされたワームモンの拳を受け止めた。
「……」
「黙って聞いてりゃ……いい加減にしろよ、このロリコン青虫」
1つ口を開けば全ての口という口から血反吐が零れる。
構成データが半ば分解しかかっているのを良いことに――いや、良くは無いんだが――自分から肩口を斬り開いて脱出自体は適ったとはいえ。ほとんど千切れかかった右腕では、槍の形に留めておくどころか、人の皮を被り直した拳さえ、握り潰す事も敵わない。
爪を食い込ませるのがやっと。
ささやかな爪痕を刻むのが――精一杯。
「リンドウは、お前の娘じゃねえんだよ」
このクソマヌケが。
何が「誰でも良いから俺を愛して」だ。
最初から何でも無かったオレサマと違って。
もう既に、欲しいものはなんでもかんでも持ってやがったクセに。
聞こえたんだろ。
聞いてんだろ。
屍の分際でオレサマを動かせる程度には、ちゃんと自覚してやがったクセに!
オレサマは――お前が『妬ましい』よ、ゲイリー。
――ぷつん、と。
力んだ拍子に、「イザサキ タスクの」皮膚に、小さな小さな、穴が空く。
血が滲んだ。
呆れを表現する言葉を探していたワームモンが、その瞬間、さっと血相を変えた。
「タスクを傷つけるな!!」
人間の皮を引っ込めるように形成された青竜の腕が、ほとんど裏拳みたいな勢いでオレサマを払い飛ばす。
自分の身体が、鉱石の壁にヒビを入れながら沈み込んだのが解った。
「ひ――ひひっ」
そんな有様で、笑ってやる。
もう笑うしかなかった。
流石に超究極体の力を人間のリンドウに振るうわけにはいかない。
だからあの腕は、ルルを刺し殺した時や、ある程度加減できる成熟期の力でリンドウを殴った時みたいにテクスチャだけを整えたモノじゃなくて、正真正銘イザサキ タスクの、人間の腕。
選ばれし子供のパートナーデジモンは、パートナーの人間を傷つけられる事を、けして許さない。
「見ろよリンドウ。指さして嗤ってやろうぜ……! ソイツは父親どころか、お前のパートナーですらない。相も変わらず、「イザサキ タスクの」ワームモンさ!」
「……!」
コウスケが既に言っていた事だ。
暴力を振るっていた以上、考えてみれば当然の話だ。
だが、まあ。百聞は一見にしかずってところだな。
目の当たりにしたモノを言葉にすれば、嫌でも頭に、こびりつく。
「惨めなガキのまま首を横に振り続けろ。お前がソイツを拒み続ける限り、そいつはずっとずうっと「イザサキ タスクの」ワームモン。死体に蠢く死出虫だ」
突きつける。
叩きつける。
なまじデジモンの力を引き出せる子供に「当たった」ばかりにすっかり神様気取りにのぼせ上がった、太古の昔から姿形の一つも変えられない芋虫風情に、身の程を。
「もう一度、よく考えろ! お前の『運命のパートナーデジモン』は――」
「――もういい」
壁から剣を引き抜いたワームモンが、声を張るばかりで身動きの一つも取れないでいるオレサマへと差し迫った。
「諦める。君が死ねば、僕しかいない」
処刑人さながらに
ヒステリックに子供を殴る毒親のように
拳に今度は剣の柄を握り締めて。
ワームモンが、腕を振り上げた。
そうして、からん、と。
からん、からん。と。
ひょっとすると、16回程鳴っただろうか。
担う「手」を失って落ちた『オメガブレード』が、水晶の上で跳ねた音は。
「――は?」
べちゃべちゃと、濁った水音がその音に相応しい粘り気のある腐汁を伴ってその後に続く。
床に飛び散る吐瀉物じみたそれが、劇毒に内側から溶かされた自分の逞しい手指だったとようやく気付いた瞬間――
「――ッ!?」
困惑と嫌悪感に表情を引きつらせ、左手で素早く拾い上げた『オメガブレード』でなおも侵食の進む腕を切り落としながら、ワームモンがその場から跳び退く。
ちゃんとそんな顔も出来るんじゃねえか。
ようやく、少しは親しみが湧いたよワームモン。
まあ、どうにしたって、最初から。お友達になんざなる気はねえが。
「……それで?」
軋み、砕ける身体に鞭打って、オレサマは水晶の上にこさえたクレーターからずるりと這い出す。
「心遣いは痛み入るが。どうしてよりにもよって、いの一番。『お前』が力を貸してくれたんだい?」
『仇』だろう? オレサマ達は。と問いかければ
――だって、ころころ方針を変える男って、ネガの好みじゃないんだよね。
オレサマのデジコアの向こう側で、ソイツは蠱惑的な面で子供っぽく頬を膨らませる。
さながら、焼いたバンズのように。
「……相方共々ブレない奴だな、一周回って安心したよ」
オレサマはその場を蹴って、後退ったばかりのワームモンへと肉薄した。
「誰だ」
『オメガブレード』と、失くした筈の――ただし、骨のように白い――『ビンジェラード』がかち合う。
「その分、『お前』は解りやすくていいな」
「誰と話している」
奇しくも片腕しか使えなくなった者同士だが、両手剣と片手の槍とでは勝手が違う。
打ち合う毎に肉体に亀裂が走ろうとも、立ち回りの上では、少なくとも。オレサマはこの瞬間、初めてワームモンよりも優位に立っていた。
――傲るな。貴様は長物の扱いがまるで成っていない。
「見た目通りに老害じみた事言うなよ」
――事実を口にしたまで。確実に仕留めてもらわねば困るのだ。我が主の仇。その首、必ずや我の物に。
「違う。オレサマのだ」
『ビンジェラード』――否、義手『デスルアー』をさらに変形させた槍が、今度は火を纏う。
魔王達お馴染みの、地獄の炎を。
「――ッ、その、炎は――」
――へぇ。一応、個人は認識してたのッスね。あんなに上手に猫被ってた以上、当然かもッスけど。……まあ、いまさらどうって話でも無いッス。
「……妙に火力が高いと思ったら、『お前』、なんで居るんだよ」
――喋りかけるな。お前は死ね。……でも、ジブンも。『あの子』は嘘を吐いてなくて、ジブンはそれを信じなかった。
それだけッス。と炎だけを残して、気配が掻き消える。
……死の要因と、死なせた原因。『憤怒』の炎は、その怒りに関わった全てを律儀に舐め焦がす。と。
どいつもこいつも。『選ばれし子供のパートナーデジモン』って奴は。
「何故。何故?」
じりじりと嫌な臭いと共に装甲が焦げるのを見て、いよいよワームモンがその場から跳び退いた。
回避の意味しか、無い行動だった。
「何故、アバドモンに関連の無い力を使える? その炎は――デーモンの」
――……我のもあるが。
「自分の剣に。……『初期化』の力に聞いてみろよ」
再び、オレサマの方から距離を詰める。
逃げる聖騎士を、追い駆ける。
……『オメガブレード』が、オレサマのかき集めたあらゆるモノを「無かった事」にしようとする中で。
オレサマがこの『迷路』でせっせと取り込んできた七つの罪の冠と剣もまた、その例には漏れず――『元ある形』に、戻ろうとした。
ワームモンの、どころかオレサマすら意図しない形で、段階を踏まねばならなかったのだ。
冠と剣を戴いていた、7体の魔王という形へと。
「ついこの間までいがみ合い殺し合っていた仇同士が! 亡霊となった今じゃあ今この瞬間殺り合っている片側を呪い、片側を助ける。さながらあのマヌケがいつか縋り付いた、愉快な歴史劇のようじゃあ無いか!」
――……メアリー。
「そう目くじら立ててくれるなよ、白馬のサリー、王様の愛馬のなり損ない。クライマックスなんだ。……だが、そうだな。これじゃあ柄にも無く終盤にしゃしゃり出る端役の役回り。オレサマは『アイツ』の敵に回るつもりはねェよ。地獄の犬畜生。残忍な猪。不格好な蟇蛙。ひとたび舞台の上に立てばそんなものが、悪党、悪党とはやし立てられながら、神の寵愛を賜った聖なる騎士よりもてはやされる! そっちの方が、ずっとやりがいがある」
――坊やの好きなお話の事ですね。……よくご存知で。あなたは、あの子の友達ですものね。
「違うが?」
オレサマと『アイツ』の「俺とお前はお友達」は、そういう意味じゃ無いのだが。
あと30過ぎの男に「坊や」はキツい。
……まあ、いい。色々と。
「オレサマはメアリー・スー」
マントの切れ端をより合わせて1本の帯に、マフラー状に変形させる。
「だったらハナシの結末は、オレサマの都合に合わせて改変しよう」
黒い炎が、纏わり付いた。
鎖に見立てて、ワームモンの右腕の残りへと差し向ける。
――……。
「……」
――…………。
「……おい、『お前』も何か言えよ。『お前』の事なんざ、そういや1ミリも知らねえけど」
「あー、じゃあワシが代わりに」
ひょい、と。オレサマの肩口に、鏡の欠片が飛び乗った。
俺様自身の赤い瞳だけが、鏡の中に映り込む。
「……息災のようで何より」
「目ん玉全部節穴か?」
そうは言っても、元の姿はそっちだろうに。
「まあええわい。……さしずめ「面倒だしどうでもいいから好きに使って」ってところじゃな」
「ンなこったろうと思ったわ」
そうじゃなきゃ『怠惰』なんざ勤まらんか。
コウスケの代弁をありがたく受け止め、ついに捕らえたワームモンにマフラーを焼き付け、引き寄せる。
チェーンデスマッチだ。
お互いにもはや、逃げ場は残されていない。
正真正銘、悪徳の王と本物の騎士同士。
「お前に馬はやって来ない。オレサマが勝利の花輪を飾って、話は終わる」
「――っ」
突き出された『オメガブレード』がオレサマの胸を穿つ。
激痛がこぞって引き返して来る。
――言って。メアリー。あなたが『あの子』を、ちゃんと覚えているのなら。
両の手が塞がって――今度こそ、ワームモンは完全に身動きが取れない。
「「ともなれば、心に決めたぞ」」
先のように。『初期化』が、屍に息を吹き返させるのか。
噛み締めた歯を決死の思いで開けば、自然と口上が口をつく。
高らかに、謳い上げる。
「「『俺』は悪党となって、この世の中の虚しい楽しみを憎んでやる」」
――絶望して死ね。
「な――」
左腕の肉が瞬く間に盛り上がり、今一度赤い『口』を――いや、『嘴』を、大顎を形成する。
「――『ロストルム』!!」
――『ロストルム』!!
身の程知らずなある男がこの世全てに対して燃え上がらせた嫉妬心が、ワームモンの胸元に食らい付く。
「ぎ、ギャ……ッ!?」
めりめり、ばきばき、ぼきぼき。……うぎゃーとまでは言わんが。
鰐の顎は、ワームモンが未練がましく片割れから担ぎ上げた竜の顔を模した純白の鎧に、容赦無く亀裂を走らせて行く。
だが――まだだ。
まだ足りない。噛み砕けない。
この出力では、先にこちらにガタが来る。
オレサマ達が、朽ちて果てる。
「リンドウッ!!」
すっかり腰を抜かして。
身体を震わせて。
顔のあちこちを赤に紫に腫れ上がらせて。
「言え、言ってやれッ!!」
もはや惨めな子供以外の何者にも見えないリンドウへと、力の限り、声を張り上げる。
「お前の、パートナーは、誰だッ!!」
……あれだけやられても。
これだけ痛めつけられても。
ずっとずっと渇いたままでいた瞳が――不意に潤んだ。
唇をひん曲げ、眉を寄せ、鼻を赤らめ、服の裾を聖なるデバイスごと握り締め、しゃくり声を上げる。
「――て」
リンドウの目から
「助けて、お父さん。モルフォモン」
涙が零れた。
「そいつを倒して――――ゲイリー・ストゥー!!」
ほとんど悲鳴のように、リンドウが絶叫する。
呼応するように、聖なるデバイスが黄金に煌めいた。
冠のように、リンドウの頭上で『∞』にも似た紋章が光る。
ワームモンが極限まで目を見開く。
ひゅうっと鋭い、それでいて掠れた息を吐く。
リンドウ。
人為的――デジモン為的? まあどっちでもいい。
そういうモノとして生み出された、最高傑作の『選ばれし子供』
この瞬間、彼女は己の才能を以て、自分の『運命』を、自分で『選んだ』。
「聞こえてンだろモルフォモン!」
呼びかける。
オレサマと交ざった、アイツの『運命のパートナー』に。
「起きろッ!! 『てめぇ』も歯ァ食い縛れ!!」
――――リンドウ以外が、僕に指図するな!!
ワームモンの目論見通り死に体だった蝿の魔王が、少女の涙で蘇る。
全く以て、感動的。お手本のような『メアリー・スー』だ。
目玉の中の瞳が全て緑に切り替わり、左腕の顎の中から砲筒が突き出る。
血の繋がりも無い男を父と慕って愛を貪った少女の『暴食』の罪が、どす黒いブラスターとなって顕現した。
「リンドウっ、待て。待って! 君の、パートナーは」
「――『カオスフレア』ッ!!」
混沌の炎が、腹の足しにもならないような妄言を呑み込んだ。
遅くなりましてすみません。これ1話から読み返さなきゃ感想書けねえと気付いて、ちょっと時間がかかってしまいました。夏P(ナッピー)です。
あー、全てはここの為に構成されてたんだなと気付く「オレサマはメアリー・スー」燃え。その一方でまさしくディアボロモンの逆襲の逆転、あのインペリアルドラモンパラディンモードがこんなにもサイコな奴に思えるとは。初っ端あっさり死んでいった『選ばれし子供』の皆さんの力を淡々と“合わせる”ワームモンとの対比で、七つの罪と言葉を交わし合うアーマゲイリー、いやアバドゲイリー。虚無であるアバドモン(コア)もインパラと対比されている一方で、多くの人やデジモンと出会ってきた果てに辿り着いたこの姿は、色んな意味で絶対に虚無なんかじゃないよなとなる奴。
そして……
待っていたぜェ、この展開!
絶対に来ると思っていた偽物の絆が確かなものになる展開! 折檻されるリンドウに「ワームモンてめええええええ」となる中で絶対にやってくれると信じていた! 超カッコいい、我々はいくつになってもこうした展開に心を震わされてしまうものなのです。アバドゲイリーもですが、飄々とした性根が如何に狂わされ乱され壊されようとそれでもと貫く姿は超カッコいいぜ!
それでは今回はこの辺りで感想とさせて頂きます。