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自分は他のデジモン達とは違う。そうした認識が予てよりあった。
成長期、成熟期、完全体。
そういった枠組みとはまるで異なった場所に、自分という存在は在るのだと漠然と理解していた。
そもそも自分が何者なのかすら、彼は理解していなかった。
同じ世界に生きているから、ただそれだけの理由で周りの者達は彼を自分達の仲間として扱ってくれていたが、果たして彼自身には他の皆のように始まりの街で生を受けた記憶はない。気付いた時にはこの世界に生きていた。この姿で生きていた。
そして決定的なことに、彼はそれ以上進化も退化も行うことが無かった。
外見だけで言えば彼は成長期、未来への可能性に溢れる幼き姿のはずだった。しかし彼はその身一つで完全体をも屠る戦闘力を示した。未完の身で完全体を上回る力を持つなど、古代の世界に舞い降りた幼帝ルーチェモン以外に有り得ないというのに。
ならばマメモン族のように小さき体躯でありながら完全体か究極体なのかと言えば、それは必ずしもそうではない。
同族はおらず行く末も定まらない。
そんな自分を、自分達を、世界はどう定義付けるのだろう。
【短発作品企画】枠を飛び越える者【CfS】
「時に相棒よ」
「何だい相棒」
荒野の崖上にて。
討ち果たした者達の残骸を見下ろして互いに語らう。
「俺達強いよな」
「ああ、俺達は間違いなく強い」
自分達は二人で旅をしている。さすらいの賞金稼ぎと言えば聞こえはいいが、単なる根無し草としてこの世界を生きている。
今日もまた砂漠の町から少し離れたこの場所で昨今暴れ回っているというマンモンの群れの討伐任務を請け負ったばかり。その任務自体は滞りなく終了し、背後で数十体の古代獣の屍が続々と粒子の塵となり消え失せていくのがわかる。それらを確認した以上、自分達はこれから町に戻って礼の言葉と物品でも受け取ろうかという段階。
完全体の群れを容易く討伐できる者など今の時代そういない。
そう、自分達は間違いなく強いのだ。
けれど。
「どうせ言われるんだろうな、成長期でそんな強いなんて信じられないとかさ」
「俺は成熟期だが」
「同じだろ。完全体の群れを倒せる成熟期なんていねーよ」
成長期の先に位置する成熟期、成熟期を上回る完全体。
それが世界の道理であり真理だ。この世界は強さこそが唯一絶対の理であり、それに従えばレベルが下回る者が単体で上回る者を下すことはない。
「あーあ、いつからだろうな。俺が成長期呼ばわりされるようになっちまったの」
「シャウトモン期とか名乗っていたものな」
「なら相棒はバリスタモン期な。それでいいってのに、世界ってのは堅っ苦しいもんだぜ」
項垂れるように肩を落とし、二体の連れ合いは町へと戻っていこうとする。
そこに。
「ウガウウウウウッ!!」
叩き付けられる棍棒。
いや巨大な骨か。咄嗟に背後を振り仰いだ二体の前に、白骨の巨象が君臨している。
「打ち漏らしか、相棒」
「らしくねーこと考えてたからだな、相棒」
倒したはずがまだ完全に息絶えていなかった一体のマンモンが進化し、怒りに燃えて自分達の仇へ襲い掛かってきていた。
完全体と言われる選ばれしモンスターを更に超越した、進化の頂点に位置する存在。どこか原始的な外見と技を持ちながら、文字通り一騎当千の強さを誇るぜ帯的な存在。
それが究極体。それがスカルマンモン。
「やるか、相棒」
「そうだな、相棒」
互いの顔を見やってニヤリと笑う。
シャウトモンのマイクとバリスタモンの拳を軽くぶつけ合い。
「「パワー! アップ!!」」
放たれる眩い光と共に二体が溶け合い、新たな姿へと変化を遂げる。
「「シャウトモンX2!!」」
その姿、一騎当千を上回る一騎当万。
デジクロス。そう呼ばれる力がある。
ジョグレスとは違う。互いを高め合うその進化とは何もかもが異なる。ただ主となるデジタルモンスターの存在はそのままに媒介となったデジタルモンスターを取り込む形でそれは成る。なればこそ、この力は言わばアーマー進化やスピリット進化といった伝説のアイテムを用いた進化に近いとされる。
いつ生まれたのかは知らない。そこに誰も興味は無く、ただ純然たる力の形としてこそ世界の皆の興味は在った。強大なデジモンを取り込めば容易く強くなれる、吸引したデジモンの特殊能力を我が物として使役できる。力を求めるデジタルモンスターにとって、そんな簡易に己を高めることのできる概念の誕生は己の強さへの欲求を歪める甘美な毒だった。
だが悲しいかな、このデジタルワールドの基本理念たる弱肉強食の理はどこまでも残酷で、だからこそ平等だった。
強大なデジモンを取り込むことができるのはそれ以上に強大なデジモンのみ。
必然、デジクロスは結局強者が弱者を効率よく狩るシステム以外にはなり得ない。弱者がただ倒されるのとは違った形ながらも強者の糧となることは変わりなく、故にいつしかデジクロスは倒した敵を吸収(ロード)する行為と同一視されていく。デジクロス自体は名も亡き魔王バグラモンがダークナイトモンと共に見出したシステムと伝わるが、その源流はファイル島を席巻した堕天使デビモンが配下を歯車に変えて取り込み巨大化したことだとも、孤高の魔王ベルゼブモンが敵対するタオモンとラピッドモンの力を吸収して我がものとしたことだとも言われており、元より強者がより強大な力を得る為のシステムであることは間違いなかった。
そもそも世界とは規則的であり画一的であるべきもの。
強者が弱者に打倒されることなどあってはならない。これはデジタルワールドにとって不変の真理。
故に世界は下克上を望まない。
故に世界は奇跡など求めない。
デジタルワールドは強者が弱者を喰らい、研鑽を重ねて成り立ってきた世界なれば、そこに弱者の為の救済システムなど不要なのも当然の話だ。
ブラストモンと融合して魔獣と化した色欲の魔王リリスモン、配下のスコピオモンを吸収したことでカオスドラモンに酷似した姿へと疑似進化を果たしたムゲンドラモンなど、既に最強と呼ばれる者達が更なる高みへと至る手段としてデジクロスは在る。故に下々の者にはそんなものは無縁の概念、忘れ去られた伝承の一つとなっていく。
そんな世界、そんな時代。
彼らは生きている。
成長期、シャウトモン。
成熟期、バリスタモン。
そう定義付けられながら明らかにその範疇を超えた彼らは、加えて高位なる者、邪悪なる者の特権と言われたデジクロスをも使いこなして世界に己の存在を逞しく生き抜いていた。
「拙者は馴れ合いなど好まぬ」
そう言って山吹色の孤狼は走り去っていった。
「どうも俺らとは話が合いそうにねーや」
甘味処の店先、シャウトモンはデジタケの串焼きを頬張りながらその後ろ姿を眺めている。
「しかし彼奴一人で砦の悪魔とやらを倒せるとは思えんぞ、相棒」
「問題はそこよ、相棒」
バリスタモンの言葉に首肯。
山頂に築かれた砦に住まう強大なデジモンが周囲を苦しめている。そういった情報を得てシャウトモンとバリスタモンはこの村を訪れていた。まず情報収集も兼ねて村人達から話を聞き、可能ならその強大なデジモンとやらを倒した礼の約束を取り付ける為だった。そのデジモンが現れたのはつい最近で、依然として正体もわからず見たことの無い能力を使うらしい。そんな情報収集の最中に顔を合わせたのが、同じように砦へ討ち入ろうとしているらしきあの山吹色の狼型デジモンだった。
「ドルルモンって名乗ってたぜ。村のもんじゃなさそうだ」
「……俺のデータベースにもそんなデジモンは存在しないな、相棒」
マシーン型としてのバリスタモンの頭脳の埒外とすれば、最近発見された新種だろうか。
この世界は日夜新しい種族が芽吹いている。そうした出来事も決して珍しい話ではない。マシーン型デジモンが定期的にメンテナンスやアップグレードを求められるのは、そうした知識やデータを更新する意味合いが大きい。
ただ。
なんとなくシャウトモンには感じるものがあった。
「……なあ相棒」
「何だい相棒」
「アイツ、何だと思う?」
確信があるわけではない。だから純粋に勘と呼ぶべきもの。
自分達がどうしてこの世界に生きているのか、シャウトモンもバリスタモンも知り得なかった。それは当然の話で、全ての生命は己の生まれる前の世界も己の生まれた理由も自らの手で知ることはできない。我思う故に我ありとはよく言ったもので、自分が世界に存在する前に為された己の起源など知る由もない。自分達が他のデジタルモンスターとはどう考えても異なる存在だったとしても、親も創造主も傍にいないこの世界では己の存在意義を知ることはできない。
二人は敢えて気にしないようにしているが、時折果たして自分達は何なのだろうと思う時がある。
成長期と成熟期に区分されながら完全体をも屠る強さ。伝承とは異なる形でデジクロスを使いこなす異質さ。決してこの世界の枠組みに囚われない可能性が、自分達には確かにある。
「成長期……ではないな。成熟期にしては幾分と小柄だが……強いて言うなら、やはり成熟期になるだろう」
「初めて意見が合ったな。俺もそう思う」
「……言うほど意見が合うのは初めてだったか?」
そして先刻出会ったドルルモンと名乗る見知らぬ奴にも、そんな自分達と近いものを感じた。只者ではないと思うのは、恐らくそういうことだ。
自分達がデジクロスして生まれる新形態、シャウトモンX2は究極体とも互角に渡り合える力を発揮する。完全体を容易く倒せるバリスタモンが成熟期に羅列されているのだから、それがパワーアップした形態としては当然のことかもしれない。けれどシャウトモンX2もまた成熟期にカウントされている。究極体を倒せる成熟期という矛盾した存在は、その実きっと自分達のデジクロスにはまだ先があるのだと示しているように思えたのだ。シャウトモンX2でこれなのだから、その先に至ることができれば果たしてどれだけのパワーを発揮できるのか、それを考えるのは楽しかった。
そしてもう一つ。あのドルルモンとかいう奴を気になった理由。
「気にすんな、相棒」
隣で同じように串焼きを頬張っているバリスタモンの横顔を眺める。
遠い昔、選ばれし子供というパートナーデジモンと共に世界を救った英雄がいたという。その中の一人に知識を携えた人間の子供と、そのパートナーとしてカブテリモンが存在した。己の起源も存在理由も知らない相棒は、その両者の特質を併せ持って生まれた存在のように思えるのだ。そしてそれは、ドルルモンも同じだ。同じく英雄に数えられる友情を輝かせた人間の子供とガルルモン、馴れ合いを好まぬといった彼の姿もまた、バリスタモンと同じように過去の英雄の姿を模しているのではないかと。
しかし一つの疑問も湧く。
もしドルルモンが自分達と同じだったとして。
バリスタモンがカブテリモンの、ドルルモンがガルルモンを模した存在だったとして。
同一的存在であるはずのシャウトモンは。
自分は果たして、如何なる英雄を模して造られた存在なのだろうかと。
狼は山頂の砦へ向け、薄暗い密林を駆ける。
気付いた時、自分はこの姿でこの世界にいた。有り体に言えば、記憶が無かった。
自分が何者なのかもわからないまま世界を巡った。どこかで自分を知っている者がいないかだけを求めて荒野を彷徨った。当然のように旧知の者と出会うことはなく、むしろ自分が何モンなのかすら誰にもわからなかった。元より孤独な生き様だったが、これは流石に応えた。世界に一人ぼっちで放り出されたような浮遊感だけがあった。
『ドルルモンでいいんじゃねーか?』
ある時、出会った星型のデジモン達にそう言われた。
スターモンズとそう名乗った。ドリルを備えたガルルモンみたいな奴、そんな安直なネーミングらしかったが、やがてそれが名乗るべき名前となった。しかしスターモンズの方も幾分と変わっている、少なくとも自分の知っているスターモンとはこんな金平糖みたいな奴らではなかったはずだが。
『気にすんな、相棒』
気付けば相棒と呼ばれるようになり、気付けば彼ら──と言っても明確な意思があるのは中心の彼だけらしいが──を頭に乗せて共に旅をするようになっていた。
旅の中で多くのことを知った。ドルルモンもスターモンズも相変わらず知る者はいなかったが、どうも自分達はこの世界の常識の範疇では推し量れない強さを持っているらしい。例えば自分は基準で言えば成熟期とされるが、野良の完全体なら苦も無く相手取ることができた。その強さをある者は称賛し、ある者は恐怖した。自分達とはまるで違う生き物、デジタルモンスターではない別の何かを見るような目で、自分達のことを見ていた。
とはいえ、それを特別気に病むことはない。それはきっと、共に旅する相棒がいたからだろう。
『恐れられていこうじゃねえか、強さがなんぼのデジタルワールドだ。テメエの強さで全員黙らせればいいのよ、相棒』
『違いない。拙者もそう思う、相棒』
自分達はどこか普通のデジモンとは違う。
成熟期に設定されていても、その常識から飛び出した場所に自分達の生は在る。一人なら辛く苦しいことだったとしても、それは共に生きる者がいればこんなにも誇らしく想えることなのだと知った。
そんな中、スターモンズが攫われた。
山間部の村を訪れていた時のことだった。
村を襲撃してきた野盗達を相手にドルルモンが奮戦して無事に撃退できた後、彼らは姿を消していた。一人の村人から星形のデジモンを野盗の生き残りが抱えて逃げていくのが見えたと聞き、また山頂の砦に蔓延るデジモンが昨今珍しいデジモンやアイテムを集めているらしいという情報も得た。
居ても立っても居られず、ドルルモンは村を出た。
ガルルモンにも勝るとも劣らない俊足で山道を駆ける。村を発つ前に話しかけてきた流浪のデジモンの存在など当然ながら頭の片隅にも残っていない。ドルルモンの頭にあるのは自分を相棒と呼ぶ唯一無二の存在を失う恐れ、そしてそうなれば自分は再び孤独な世界へ放り出されることになる事実への恐れだった。
そして今に至る。
「何奴……グギャッ!!」
「曲者! 出会え! 出会えー!」
見張りの兵を瞬殺して正面から砦に討ち入る。
迷路のような入り組んだ作りだろうと、自分のドリルで突き破れば最深部まで一直線に最短だ。
「ドリルバスター!」
相棒が名付けた技で雑兵諸共壁を打ち破る。程無くして砦の最深部、野盗の王の座まで辿り着く。
「あらあら……随分と野蛮なお客様ですね……」
土煙の向こう、涼しげな声が響く。まるで管楽器を奏でたような透き通る声音は、野盗の王などとは断じて思えない。
それでも。
しなやかな両足と。
人間の女のように成熟した肉体。
異形化した巨大な両腕。
それらを兼ね備えた姿は、蛮族の首長と呼んで差し支えない。
「ミネルヴァモン……?」
世界を巡って得た知識を総動員して目の前の敵の正体を看過する。
オリンポス十二神の一人、森のミネルヴァモン。少なくとも伝説に記された情報と特徴は一致する。
だが。
「ちょっと違いますね」
ウフフ。
からかうような微笑みを浮かべ、蛮族の王は玉座より立ち上がる。
「メルヴァモンって言います。以後宜しく……いえ、宜しくって言うほど長い付き合いになるかしら?」
飛ぶ。
跳ぶではない。
跳躍ではなく飛翔。
ミネルヴァモン──いや今はメルヴァモンと呼ぶべきか?──に飛行能力があるという話はない。咄嗟にドルルモンも尻尾のドリルから竜巻を発生させ、砦の壁を破壊するのも躊躇わず空中のメルヴァモンを狙うも、立体的に起動する蛮族の王を仕留めるには至らない。そして翻るメルヴァモンのマントの裏、彼女の背中には何か巨大なブースターのようなものが装着されているように見えた。自前の装備ではなく、明らかに何か別のデジモンの肉体の一部のような。
「デジクロス……!?」
「ご名答。あなたが何モンさんか存じ上げませんが、その名前を知っているのは驚きですが」
理由はない。何故か突き動かされるようにその単語を口にしただけ。
それなのにデジクロスと呟いた瞬間。
ドクン。
心臓が。
電脳核が高鳴り出す。
「スパロウモン。何ヶ月か前に拾った子、この子は私の翼となってくれる……そして」
更にメルヴァモンが取り出す金色の鈍い光。
その正体をドルルモンは知っていた。
「あなたのお友達もこの通りですよ!」
星の剣(スターソード)へと形を変えたスターモンズが、蛮族の王の手に握られていた。
そんな光景を、シャウトモンとバリスタモンは砦の残骸の影から眺めていた。
「助太刀に入らなくていいのか、相棒」
「まあ焦るな、相棒。あのメルヴァモンって奴、かなりの強さだぜ。流石は究極体ってだけのことは……」
そこまで言ってやめた。
自分達にその枠組みは不要だ。何故だかわからないが、そんな気がする。
シャウトモンはシャウトモンとして、バリスタモンはバリスタモンだから、強さの理由も存在意義もそれ以外には必要ない。成長期だろうが成熟期だろうが完全体にも究極体にも負ける気はない、それが全てで絶対だ。どれだけ世界が変わっても、世界の設定にどんなものが組み込まれようとも、自分達が自分達のままで最強で最高であることに変わりはない。
そして目の前でメルヴァモンを前に奮戦しているドルルモンも恐らく同じだ。恐らく成熟期だろうと予想した彼が、究極体が更にパワーアップしたであろうメルヴァモンに勝てないまでも何とか渡り合っている。その事実を世界は黙殺するだろうか。完全体や究極体をそれ以下の存在が凌駕することなど理解できないバグだと切って捨てるだろうか。
させない。
絶対にさせない。
「なあ相棒、俺ぁ決めたぜ」
「ふむ。言ってみろ、相棒」
「アイツは俺達の相棒その2にする」
「初めて意見が合ったな」
「……言うほど初めてか?」
拳を合わせて互いにクククと笑い合う。
「「パワー! アップ!!」」
生まれ出でるシャウトモンX2。
ドルルモンと同じ成熟期。この世界の理屈の上では成熟期が成熟期に加勢したところでどうにもならない。それは世界の絶対の真理であり、覆ることは秩序の崩壊を意味する。戦いと争いを基本理念とするこの世界において、不変の道理として世界に在る。
それでも自分達にはどうでもいいことだ。
成長期だとか成熟期だとか、自分達は何故他のデジモンとは違う形でいるのかという理由と自分達の起源も、デジクロスとはそもそも何なのかという疑問も元々どうでもいい。自分達は気に入った奴らと馬鹿騒ぎできればそれでいい生き物だ。自分達は相棒と呼べる者と共に面白おかしく世界を巡れればそれでいい道楽者だ。
何故なら自分達はこの世界の基本理念を根本から揺るがす存在だ。
何故なら自分達は戦いを乗り越える(クロスウォーズ)世代だ。
「「助太刀するぜ! 相棒その2いいいいいい!!」」
世界がどう変わろうとも、これだけは決して変わることはない。
気付いた時、視界がどこか歪に感じられた。
「「パワー!! アップ!!!」」
そんな間抜けな声があろうことか自分自身の耳元から聞こえたことに驚く。
「せ、拙者は一体……?」
「「オイオイ、ノリが悪いな相棒その2よぉ……叫ばなきゃ気分が乗らねーだろうが」」
「その声……声達? はさっき村で会った……」
凸凹コンビが不躾な質問をしてきたので無下に返したことを思い出すドルルモン。
「ていうか、拙者貴様らと一つになってる!?」
「「驚いただろ? 俺達も驚いた。これで晴れて相棒その2って奴だ」」
「いや相棒その2って何!?」
自分があの凸凹コンビと一つになり、思考すら共有していることに戦慄しつつも、全身に迸るエネルギーは今までの比ではない。
「驚きました。デジクロスってそんなこともできるんですね」
目の前に立つメルヴァモンが随分と小さくなったように思える。
否、それは自分が変わったのだ。
進化とは違う新しい形。デジタルモンスターから世界に示す新しい可能性。
「でもまだ成熟期さんですよね? 私、こう見えて究極体なので……!」
斧状に変化させたスターモンズを上段に振り被るメルヴァモン。少なくとも膂力の面でドルルモンではメルヴァモンに全く太刀打ちできなかったのは事実だ。
一直線に振り下ろされたスターアックスを新たな姿、シャウトモンX3の右の掌が受ける。内部を構成するピックモン達の回転によりチェーンソーの如くギャリギャリとけたたましい音色を奏でてシャウトモンX3の手から火花が舞い散る。
「ぎゃあああああ痛い痛いぞ相棒!」
「何とかしろ相棒その2! これお前の相棒だろ!」
「誰が貴様らの相棒などに……ハッ」
直感が叫ぶ。
右も左もわからなかった自分にドルルモンという名を与えてくれたスターモンズ。しかし彼もまたドルルモンと同様に同族のモンスターは無く世界から見放された存在だった。いつしか成長期という枠組みを与えられてはいたが、その設定以上の強さと可能性を持つ彼または彼らはドルルモンにとって唯一の友と呼べる存在だった。そんな彼が今デジクロスの力を発揮して敵の手に落ちている。純粋な力として使役されている。
それは違うと思う。
絶対に間違っていると思う。
彼は力ではない。
デジモンだ。
スターモンズだ。
自分にとって、唯一の友なのだ──!
「来い! 相棒おおおおおおおお!!」
叫ぶ。生まれて初めての腹の底よりの絶叫。
隣、というより自分と同一存在になっている凸凹コンビから「「へっ、わかってきたじゃねえか」」みたいな言葉が聞こえてきた気がする。それでもその行為が決して間違いではなかったと知ったのは、メルヴァモンの握るそれが眩いばかりの輝きを放ち始めたからこそ、三位一体となった意識の中に新たに相棒の、スターモンズの意識が流れ込み始めてきたからこそだ。
「「「「パワー!!! アップ!!!!」」」」
君臨する勝利を掴む者。
シャウトモンX4。
あれは一時の幻だったのでしょうか。
あの日あの時、やれ成長期だ成熟期だという枠組みに囚われず超越的な力を発揮した勇者は確かに存在したのです。デジクロス、そう呼ばれる力も確かにそこには在ったはずです。私がスパロウモンに対して行ったような、高位なる者が対象の自由意志を奪うことでその能力を自在に使用する、言わば強制デジクロスとは違い、ただ心を通わすことで皆が一つになることのできる可能性が。
でもそれも在りし日の幻。永久に近い時の流れは、一時の強者など歴史の影へ追い遣っていきます。
成熟期や完全体でありながら究極体を凌駕するデジクロス体はいつしか力を失い、レベル相応の強さとなっていました。これが世界の強制力なのか、この為に世界は彼らにそうした枠組みを敷いたのか、それはわかりません。
でも世界が、彼らが変わっても変わらないものだってあります。
「これは……あれ、何モンっていうんだったんダネ」
「バカモン、そんなこともわからず研究者やってるんでやんすか!」
私の広げた日記帳、遠い日の思い出を記したそれを眺めて二人の研究者さん達が騒いでいます。
あの日あの時、私の前に現れた勇者さんを私なりのヘタクソな絵で描いたもの。遠い過去の出来事を伝説にせず、ただ思い出として大事にしておきたいという私なりの世界への反抗なのですが、こういった研究者さんに知ってもらえることに意味があるんだと思います。
「ミネルヴァモン! この日記は何なんでやんすかー!?」
そう、似ているのは当然。
彼らもきっと作られた英雄だから。
左肩を構成するバリスタモンさんは昆虫の王、知識の英雄カブテリモン。
右肩を構成するドルルモンさんは獣の王、友情の英雄ガルルモン。
そして彼らの中心を司るシャウトモンさんは。
何千年も昔、あの三位一体形態で私の前に現れた頭部は。
恐らくシャウトモンさん本人も存在を知らなかったであろうあの頭部が何を模していたかと言えば。
オメガモン。
クロスウォーズデジモンに世代が追加されたことによって変わったもの(それと比して変わらなかったもの)を肯定・否定両面から書こうと思ったものです。
世代設定があると進化系譜に組み込める一方、バイタルブレスやケータイ機で普通の成熟期や完全体の強さになっちゃうのが惜しいなと思った次第。
(後書き後日追記します)
(1/18 追記)
年越しどころか半月経ってしまいましたが追記させて頂きます。
自分の中でXWデジモンに対しては「なんでデジモンなのに世代設定無くしちゃったのよぉ!?」という思いが強く、リアルタイムでは例えるならアーマー体やハイブリッド体以上に「世代無いコイツらをデジモンと認識していいのか……?」という思いが強い存在でした。ただ、10年経ってその間に数多のゲームに登場したり世代が付いたりしたことで逆に個性を失ったなーと感じた時、ああ世代が無い(合体することであらゆる敵とも戦える)ことが彼らの個性であり強み(敢えて言語化すれば“主人公補正”となるのでしょう)だったのだなと思い、そうしたシャウトモンは成長期、バリスタモンは成熟期と定義づける世界への反抗として本作は執筆致しました。
たとえ成長期と言われようと、シャウトモンはマンモンの群れをマイクでブッ飛ばせる強さを持つことに変わりはなく、突拍子もないと言われるその強さを肯定的に描きたい物語となります。シャウトモンX4は成熟期と定義付けられてしまいましたが、それでも「間違いなく最強のデジモンの一体に数えられる」んだ!
そう世界に向けて今後も叫び続けていきたいと思います。
いずれX5以降の物語を書かせて頂く機会が来るやもしれませんが、その時も何卒宜しくお願い致します。
・
ご感想頂きまして誠にありがとうございます。夏P(ナッピー)です。
基本的に私の作品は(アニメの二次創作・他の作者様の作品に合わせたものを除き)同一世界となっております。その一方、個人的な趣味でアニメによく似た出来事や現象も可能な限り“あったもの”として取り込ませて頂いている感じです。なので、クロスウォーズによく似た事件もあったものなのかな~ぐらいのニュアンスではありますが、ジェネラルとXWデジモンの皆が頑張って戦った時代もあったかもしれません。
実を言うと、XW放送時はレベルが無く他のデジモンと一線を画している彼ら(の設定)に肉しみを覚えていたこともあったのですが、昨今(と言っても五年近く前ですが)になって設定を付け加えられた時に「あー、アレは奴らの個性だったんだな……」と改めて認識したことが本作の発端でした。レベル関係なく合体した奴やジェネラルと共に戦う奴は強いのです。
ゲームとしてはデジモンストーリーでは目指せる「成長期や成熟期でも(進化退化繰り返して)最強を目指せる! ……待てよ? それならレベル設定そもそも要らなくない?」っていうのを敢えて肯定的に描かせて頂きました。そしてシャウトモンもバリスタモンもそれぞれ成長期、成熟期って設定を付けられちゃいましたが、それでも彼らはオメガシャウトモン、アトラーバリスタモンという追加された進化先とか関係なく「そのままで最強なんだ!」と叫びたい。そして最強×最強が掛け合わされば「パワー! アップ!!」で勿論最強なのです。
ちょっと悪役側にしてしまいましたが、メルヴァモンがスパロウモンを乗っ取る形で強制デジクロスしているのは、スパロウモンが登場する自作との兼ね合いだったりします。
最後、あの野郎どもが登場してオメガモンの名前だけ出したのは「アカン! オメガモン(の顔)とシャウトモン(から現れるデジクロス後の顔)が似てることへの超理論が投稿〆切までに付けられねえ!」みたいな反省点でした。猛省。
それでは感想頂きましてありがとうございます。
リリスモンとブラストモンの話、実は構想自体はできておりますので何かの企画などございましたら形にしたく思います。