[デジタル鉄道666]
私は目覚めると見知らぬ電車に乗っていた
持ち物は無く、出かけた時の格好のまま何故か知らない電車に乗車して立っている
窓の外を覗くと空は薄暗い
時計は夕方の17時を過ぎている
外は知らない田舎の殺風景な駅のホーム
駅の周りは田んぼや畑が広がっており人の気配は無い
ピィ──────ッ!!!
汽笛が鳴ると電車がガタン、ゴトンと動きだし、重たい車輪音が車内に響く
私は電車の掲示板を見るとここは██駅
そしてダークエリアへ向けて発進していることを知る
(██ってなんだろ?)
文字が霞んで読めない
私は不思議そうに車内を見渡す
車内はとても古く昭和を思わせる木製の座席
天井には丸い形の吊り革と豆電球が点滅しながらゆらゆら揺れている
奥の座席を見ると複数人の人間とデジモンが座っている
デジモンに話しかけますか?
それともニンゲンに話しかけますか?◀
私はデジモンに話しかけてみた
「すみません、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか」
「あ?」
声をかけたのは赤いワインを片手に優雅に寛ぐ刃物の手をしたデジモン。見た目が派手で強者の血を好む吸血鬼のようだ
「気がついたらここにいて、この電車は何処に向かってるんですか?」
彼は答えた
「何処って、実家だよ。この電車に乗れば片道ですぐ着く。俺はここ数日デジタルワールドでたらふく血を吸えるツアーに参加してたんだ。その帰りさ。良い土産話を兄弟にする予定なんだ」
「実家?アナタ、何県出身なんですか?」
「けん?何言って…おいおい!
勘弁してくれよwアハハハ!冗談でも笑えないってw確かにダークエリアはこの世界じゃ珍しく誰でも訪れることが出来る観光名所だけどよぉ、お前のような場違い野郎が入っていい場所じゃねぇぜ」
とっととお家に帰れ
彼は鋭い爪でシッシッと追い払うと再びワインを飲み始める
「ダークエリア?知らない国だ
どうして自分はそんな場所に行こうとしたのだろう?もっと情報が必要だ!今度は人間に聞けば何か分かるかもしれない」
私は別座席に座っている黒い服の男に話しかける◀
「すみません、少しお尋ねしてもよろしいでしょうか?」
「………」
黒い服の男は生気のない顔で見つめてくる
「この電車はダークエリアに着くみたいですね」
「………」
「人間のアナタはどうしてそこへ?」
「………」
「あの、何か言ったらどうなんです?」
「………」
男は黙ったまま何も返答しない
ただ切なそうな眼で私を見つめる
この男、人間してはデジモンを凌駕する不気味なオーラを放っている
なるべく長く話しかけたくないと私の中の本能がそういっている
「別のヤツと話そう」
私は座席を見渡す
時計は18時を過ぎようとしていた
こうなれば片っ端から話しかけることにした
悪魔の姿をしたデジモンに声をかける◀
「近寄るな!まず自分の姿を見ろ!鏡を見ろ!俺は…その、とにかく!アナタみたいなのがダークエリアに来ちゃいけないよ!」
そんなの言われたってこっちは知らぬ間にここに居たんだってば
角の生えた大柄なデジモンに話しかける◀
「おめぇは………いや、何でもない」
どうやら私とあまり関わりたくなさそうだ
それでも諦めず乗客に話しかける
次はあの人間の女性(?)に話しかける◀
「あら嬉しい!話しかけられちゃった♡
私からは何も言うことは無いわ!そのまま他も話しかけてみて!私はずっとアナタを見てるから♪」
やけにテンションの高い人だったな
それに人間しては肌の露出が激しい黒い女性
この人もデジモンなのかな?
もっと聞いてみよう
次は小さな蝙蝠に話しかける◀
「この電車?あともう少しで着くよ」
「ほら」と蝙蝠が翼で示す先
電車の背後から闇が迫ってくる
アレに飲み込まれたらと思うと想像したくない
もっと暗く誰もいない場所に逃げたくなった
「あれ」
闇を見た時点で私はもう正常では居られなくなった
足が勝手に電車内の奥へ進む◀
きっと駅員さんがいるに違いない!きっと助けてくれると信じて
予想通り駅員の制服(?)を着た大男がいた
駅員(?)に近づいてみる
今まで話しかけてきた乗客とは違う見た目
赤いツノ、見るからに赤く毛深い獣のようだった
その姿はまさに魔王だ
そして気づいてしまった
それは大きな鏡で魔王と見ていたのは自身であった
もうすぐ時刻が6と6と6が揃う
カチリッと時計の針が6時6分6秒を刻んだ時
私は全てを思い出す
「そうだ、私は……」
プシューッとドアが開く
『ただいまダークエリアに到着致しました。降りる際にお忘れ物にご注意ください。』
電車内のアナウンスと共に客は全員座席から立ち上がり扉が開くのを待っていた
どうやら本当に私はダークエリアに到着してしまったようだ
「無事に獣に堕ちたようですね!元三大天使ヴェノムヴァンデモン様♡」
ああ、レディーデビモンか
そうか、私は元セラフィモン
寿命を終えるのが怖くなって生き長らえたい思いで天界から逃げた臆病者だ
せめて無垢のまま堕天しようと記憶を消して人間かデジモンなのか分からぬままこうして獣に堕ちたのか
「アンデッドになったからには死を恐れる必要はありません!この私レディーデビモンやこの電車に乗車したマタドゥルモン、デビモン、スカルサタモンは皆、アナタの元部下ですよ
他にもピコデビモンとイレギュラーなお方が客に混じってましたが…とにかく」
死を恐怖することの何処が悪い?
天使として真面目に働いてきたのに
全然楽しくない!欲が満たされない!
そんな天使デジモンに注目されてる
ここデジタル堕天鉄道666
緩やかに堕天する
自身に与えられた責務を放棄する安楽死システム
罪悪も無念も全て吸収される闇の電車
製作者は世界を滅ぼそうとする暗黒デジモンなんだとか
「しかし驚きました!ヴェノムヴァンデモンは本能のまま暴れる手の施しようがないデジモンと聞いてましたが流石♪元三大天使様!アナタといたらもっと面白い時間を過ごすことができるかも♡」
レディーデビモンに手を引かれて駅を出ると真っ暗だと言うのにダークエリアは活気に満ち溢れていた
「ここ最近人間世界の祭りごとを真似てダークエリアの皆で祭りをする様になったんですよ♪」
花火とカボチャのランタンが並ぶ繁華街を歩く
行きゆくデジモン皆が欲のままに無料で食べ飲みし楽しく笑いあってる姿に思わず立ち止まる
私が三大天使として君臨していた時代とは訳が違う
ダークエリアは地獄だ
ゴミ溜の屑が堕ちる場だと
自分はそんな場所で死ぬに相応しい天使だと
私は罪を犯したのだ◀
選択肢を間違えたのだ◀
正しいと思って決断した結果
失敗した◀
騙された◀
気づけなかった◀
まさか
この私が仲間に騙されて
人肉を食してしまうだなんて
「たった一度の過ちで死にたいのに死ぬのが怖い。分かります。私もかつてそうでしたから」
レディーデビモンがヴェノムヴァンデモンの頬に触れる
肌から温もりを感じる
「さぁ、ヴェノムヴァンデモン様!
天使時代味わえなかった道楽をここで思う存分楽しみましょう♡」
まだ私が成熟期エンジェモンだった頃
同僚のエンジェウーモンと私は休みもせず仕事ばかりで告白するどころか手もろくに繋げなかったな
私より先にダークエリアに堕ちたのも
この時のため?
「もしかして、後悔してます?」
いいや
第二の人生がこんな形で叶ってしまったが私は心の底から後悔していない
寧ろ心の底から満たされている
ああ、だからか
満たされているから獣(ヴェノムヴァンデモン)は大人しいのか
アナタは恋人の手をとりますか?
手をとる◀
手をとれ◀
手を握れ◀
抱きしめろ◀
告白してからにしろ◀
もっと彼女に近づけ◀
それから、それから、それからぁ!!!!
正義の選択肢なんていらない
私の為の選択肢はたくさんあってもよかったんだ
ヴェノムヴァンデモンは落ち着いた気持ちで悟る
人肉食べて良かったなぁ…と
レディーデビモンは不敵な笑み零しながら思った
人肉を食べさせて置いて正解だった…と
ダークエリアを繋ぐデジタル鉄道666
乗るも降りるもアナタ次第
そこは果たして地獄か天国か
それを知るのもアナタ次第
【完】