
4話 5話
タツキ達がそれぞれの家に帰った後も――羅々とザミエールモン達はその場に残り、ゴキモンへの詰問を開始した。
「講義の報酬の相談か?」
おどけて聞いてみせるゴキモンに対し、羅々の態度は冷たい。
「残念ながら、その前に聞かなければいけない事がありますわ。……貴方たち、魔王軍との繋がりはありますか?」
選ばれし子どもの目的は「魔王軍を打倒する」こと。表面上は中立を謳う羅々でも、ここだけは外さない。
なあなあで終わらせずにしっかりと問い詰める。
「え、ねえよ。あったら大変だろ」
「そう……」
そこで魔王の名が出るのは心底意外であると、ゴキモンの目が訴えている。
単に戦争の混乱に乗じてリアルワールドに侵入した不審デジモンだとしても、それはそれで問題だが。
「ホントにそうかな?」
「拷問すれば分かるんじゃない?」
ダリアとクリスタルは信じ切っていないようで、顔を合わせて物騒な言葉を言い合っている。先ほどの笑顔と今の会話を目撃すれば、彼らを「妖精」と呼ぶ気には到底なれない。
「なら試すか」
ジェストが背負っていた巨大矢、その名もインドラを下ろして刃先をゴキモンに突きつけた。
それから、柄の握り手近くに設置されている、本来ある筈の無い手押しボタンを押した瞬間――インドラの刃がけたたましい音をかき鳴らし、電動ノコギリのようにギュルギュル回転し始めた。
「なにそれねえなにそれ!? え、血が出るタイプの拷問なの!? ていうか矢じゃなくて電ノコだったのそれ!? じゃないよねザミエールモンの矢ってそんなんじゃないよね!?」
怯え惑い、泣き叫ぶゴキモンブラザーズ。
彼らの想いを代弁して、ゴキモンリーダーは全力で絶叫した。ギュインギュインうるさいので、叫ばなければ聞こえないのだ。
「安心しろ。腕が取れても付け直してやる。貴様らがサイボーグ型に進化できればの話だがな」
「今ここで腕が取れたら進化する前に死ぬと思うんですけど!?」
回転する刃がじりじりとゴキモンに迫りくる。きっと寸止めなんて甘さは見せず、このままスパンと腕をちょん切るつもりだ。ジェストは何も言わないが、ゴキモンには分かった。
「魔王とかナイツとか全員関係無い! 無いって!」
ゴキモンは全力で無関係を訴えた。より良く思われようと考える余裕も一切無く「生きたい」という本能のままに叫んだ。
「……」
キュウンと駆動音が縮小し、電動ノコギリの回転がゆっくり止まる。
ひょっとして、分かってくれたのか? ゴキモンはちらりとジェストの表情を伺う。
「今のは本当に何も知らん奴の叫び方だ。羅々、こいつらはただの野良デジモンだぞ」
「おお……俺らゴキモンブラザーズの想いが届いたんだな」
「無実の訴えも嘘つきの叫びも星の数ほど聞いてきた。聞き分けは余裕だ」
ゴキモンは恐怖のあまりドリームダストを漏らしそうになる。
え、つまり聞き取られ方によっては有罪扱いだったの?
ゴキモンの気持ちを知ってか知らずか、或いは恐れる様子を楽しんでか。羅々は特にフォローも無くザミエールモン達に命じた。
「魔王と無関係なら、縛っておく意味も無いですわね。ほどいて差し上げて!」
「えー。せっかく捕まえたのにー」
ダリアとクリスタルは渋々、ジェストは淡々とゴキモンを縛る縄をほどいていく。
こうして、ゴキモンブラザーズは晴れて自由の身となった。その上で彼らは逃げずにその場に留まっている。
電動ノコギリの甲高い駆動音が、耳に染みついて離れないのだ。
「これだけ怖い目に遭わせれば、もう二度とリアルワールドで大騒ぎする気にはならないでしょう。釈放ですわ」
ゴキモンブラザーズは「もう絶対リアルワールドには頼まれても行くもんか」と固く心に誓った。
「えー、そうそう。授業料でしたわね」
「え!? この流れで払ってくれんの!?」
「いらないんですの?」
「いるけど……」
ゴキモンは羅々があまりにころころ心変わりするのが恐ろしく、もはや彼女に反論する気力は無かった。
「持ってけドロボーゥ、ですわ」
ジャラン、ガシャン。
謝金を支払う場面にも羅々本人にも似つかわしくない、「お嬢様が下町言葉を使ってみたかっただけ」なのがバレバレの言葉と共に袋が放り投げられる。袋はじゃらじゃら音を立てて、ゴキモンリーダーの足元に落ちた。
「いち、じゅう、ひゃく、せん、まん……なんだコレ!? こんな桁のbit見たことねえ!」
袋の中身は大量の貨幣――厳密には実体化した電子通貨――だった。袋の口から溢れ出る貨幣を手で掬い上げると、ずっしりとした重みが伝わってくる。
金の持つ魔力とは恐ろしい。ゴキモンは羅々への怯えを忘れて、黄金の輝きに夢中になった。
「こ、こんだけの金があれば田舎町から引っ越して、城下町なんかにも行けるぜ!」
「って事は……これからは城下町のゴミ山に住めるって事か!?」
「すげぇー! 田舎町のゴミ拾いから都会のゴミ拾いに転身のサンドリモンストーリーだ!」
「皆さんがそれでいいならいいですけど……」
金の力ですっかり陽気なゴキモンブラザーズに戻
羅々はどこまでものんきなゴキモンを見て、呆れたようにため息をつく。
「やれやれ。やれやれのやれやれですわ」
羅々はため息の代替以外に意味のない言葉を呟きながら、きらきらと光る物――会合の日付を間違えたお詫びにタツキ達に渡そうとした、ダイヤモンドを取り出した。
そしてそれを、まるで電話でもかけるように口元へと運んでいく。
「ダイヤ、結局渡しそびれてしまいましたわ。折角分けてもらったのにごめんなさいね。庶民ならダイヤにたまらず飛びつくはずと思っていたのだけれど……」
本来ならば独り言で終わる筈の言葉。しかしなんと、ダイヤモンドの中から、羅々の言葉に対して返事が聞こえてきたではないか。
『これはふーちゃんからの伝言なんだけどォ、“庶民はダイヤの指輪なんて恐れ多すぎて受け取れないよぉ”だってェ……』
「くっ、庶民マインドを読み違えた私の負けね……!」
羅々はぎゅうと目をつむり、拳を震わせ判断ミスを悔いる。そして今までタツキ達の前でもそうしてきたように、すぐにけろりと立ち直った。
「まあいいですわ。貴方の“コレ”は保険……と思っていたかと言うと嘘で、わりと期待していましたがまあいいでしょう。監視は“本職”に任せましょう」
羅々はダイヤの指輪をすっと仕舞う。ダイヤから「えっ」と声が聞こえた気がしたが、無視した。
「まだ彼らとの交流は始まったばかり。打つ手試す手はいくらでもありますわ。どんどんアプローチして差し上げますからね、“セラフィモンに”選ばれし子ども達! お~っほっほっほ!」
田舎町に似つかわしくない、高貴な笑い声が響き渡る。しかし、この声を聴き怪訝な顔をする住民はいない。ヒソヒソ噂する声も聞こえない。
八武家の家紋と「KEEP OUT」という文字入りの黄色いテープが、風でバタバタと揺れるばかりだ。
明けましておめドゥルモン(ハイセンスな新年挨拶)
へりこにあんさんの年末企画『この見て』にて拙作に投票してくださった皆様、この度は誠にありがとうございました。まさかこの作品に投票してもらえるなんて……という作品にもコメントをいただき、感無量です。
さて、新年一発目の投稿はトラウォの最新話、書き直す前には無かった新規エピソードでした!
……はい。短さからお察しの通り、本当は4話投稿後にすぐ投稿する筈だったおまけエピソードでした。遅れてしまって申し訳ありませんでした。
書き直し前はもう少し立場を取り繕っていた羅々でしたが、もう怪しさを隠しもしなくなりましたね! 一体何を企んでいるんでしょうね〜?
次回は魔王サイドの選ばれし子ども達パートです。そう、マタドゥルモンが登場します。
書き直す前の5話を読んでくださった方はご存知の通り、公式リスペクト要素をとりあえず1話に詰め込んである回です。ドゥルノルマと公式リスペクト要素ノルマを同時に達成させます。
なるべく早めに投稿したいと考えておりますので、その時はぜひ!何卒!よろしくお願いします!