ボクはテリアモンでぃす。
この喋り方は癖なのでぃす。デジタルワールドにいたときからこんな喋り方なのでぃす。
ボクはデジタルワールドで暮らしていたのでぃす。ところがある日崖から落ちてしまったのでぃす。
そうしたらなんと、リアルワールドに来ていたのでぃす!ボクはとってもびっくりしてしまったのでぃす。
リアルワールドはデジタルワールドとは似てたり違ったりが色々なのでぃす。デジモンの代わりにニンゲンやドウブツというのが生きている世界でぃす。
ボクはリアルワールドを彷徨ったのでぃす。ニンゲンに変な目で見られたり、追いかけ回されたりもしたのでぃす。
あの時はとても辛かったのでぃす。
そんな時、あるニンゲンがボクを助けてくれたのでぃす。そのニンゲンはソノダさんと言うのでぃす。
ソノダさんはボクに住むおうちを用意してくれたのでぃす。
それだけじゃなくて、リアルワールドについて色々教えてくれたのでぃす。
そして言ったのでぃす。
「デジモンに住む家と食事、仕事を提供する、それが私達が働いている会社…ハッピーワークです」
ボクはいっぱい勉強したのでぃす。
ニホンゴもエイゴも頑張って覚えたのでぃす。
それから働くということや、デジモンがリアルワールドで生きる為に必要なことをしっかり学んだのでぃす。
そんなある日、園田さんからお仕事をしませんかと言われたのでぃす。
ハッピーワークではデジモンが生きるのに必要なお金を稼ぐ為の仕事を紹介してくれるのでぃす。
ボクはお金が欲しい気持ちもあったけど、それより人間の仕事をやってみたい気持ちでいっぱいだったのでぃす。
だから、「やるでぃす!」と大きな声で言ったのでぃす。
ボクが働くことになったのは、老人ホームというところだったのでぃす。
園田さんによると、ここには人間の究極体が住んでいるのだそうでぃす。
「いきなり究極体に会うなんて緊張するでぃす…」
園田さんに言うと、
「まあ究極体って言っても年齢をデジモンの成長過程に置き換えただけだから、心配しなくても大丈夫ですよ」
なんて笑ってたのでぃす。
老人ホームには、しわくちゃの人間がいっぱいいたのでぃす。
もっとすごいオメガモンみたいなのがいると思ってたから拍子抜けだったのでぃす。
でも、みんな優しくてボクを可愛がってくれたのです。
老人ホームでのボクの仕事は、ごはんのお世話に、散歩に付いていったり、話し相手になることだったのでぃす。
ボクは一生懸命頑張ったのでぃす。
ごはんがおいしくないから食べたくないおじいちゃんには、こっそりおやつをあげて怒られたり、散歩の途中で迷子になったり、失敗もいっぱいしたけど、それでも頑張ったのでぃす。
たくさんいる老人ホームのおじいちゃんおばあちゃんの中でも、橘のおばあちゃんとはとっても仲良しになったのでぃす。
おばあちゃんはボクを「テリアちゃん」と呼んで可愛がってくれたのでぃす。
昼寝の時はおばあちゃんの横で一緒に寝たのでぃす。ごはんの時も一緒だったのでぃす。
とっても楽しくて、幸せな日々だったのでぃす。
ある日、ボクが橘のおばあちゃんの部屋へ行くと、おばあちゃんは泣いていたのでぃす。
「どうしたのでぃすか⁉︎怪我したのでぃすか⁉︎」
ボクが聞くと、おばあちゃんは涙を拭いて言ったのでぃす。
「弘文が…息子が、今日は面会日だったのに来れなくなったって…。先月もその前も、仕事で来られなくて…」
「おばあちゃん…寂しいでぃすね…」
ボクはおばあちゃんを抱きしめたのでぃす。
「大丈夫でぃす。来月は絶対会えるでぃす。それまでボクがそばにいるのでぃす」
おばあちゃんはボクを抱きしめ返してまた泣いたのでぃす。
それからしばらくして、ホームの玄関を掃除していたら、緑色のデジモンが現れたのでぃす。
「おうおうこんな所でお掃除してるんでちゅか〜えらいでちゅね〜」
「ボクを馬鹿にするなでぃす!」
こいつはオーガモンでぃす。
デジタルワールドではデジモンハンターとか呼ばれてる好戦的なデジモンでぃす。
「ここに何の用でぃすか!」
「あ〜ん?チビの癖に強がっちゃって。俺様はここに究極体がいるって聞いたから戦いにこただけだ!ほらとっとと呼んでこい!」
「違うのでぃす!ここに居るのは人間だけでぃす!」
「うるせぇ!まずテメーから叩き潰してやんよぉ!
オーガモンの持ってる棍棒が振り下ろされ、ボクは咄嗟に躱したのでぃす。
「何の騒ぎ?」
騒ぎに気付いたみんなが玄関に集まってきたのでぃす。
「テリアちゃん!」
「来ちゃだめでぃす!」
橘のおばあちゃんがボクに駆け寄ったのでぃす。
「なんだこいつら?しわくちゃでヨボヨボじゃねえか。まさかこんなのが究極体なのかぁ?ふざけるんじゃねえ!」
オーガモンは橘のおばあちゃんを掴むと、ブン、と力任せに投げたのでぃす。
「おばあちゃん!」
助けなきゃ!絶対に!
そう思って走り出したボクの身体が光り始めたのでぃす。
体が大きくなっていくのを感じたのでぃす。
長い耳はそのままに、両手にガトリングアームを装着した姿。
ボクはガルゴモンに進化したのでぃす。
大きくなった体だと走るスピードが速くなったのでぃす。
おばあちゃんが地面にぶつかる前に追い付いて抱きとめたのでぃす。
おばあちゃんは困惑した様子でボクを見ていたのでぃす。
「えっと…もしかしてだけど、テリアちゃんかい?」
「そうなのでぃすよおばあちゃん!」
「随分大きくなって…」
おばあちゃんを地面に下ろすと、ボクはオーガモンを睨みつけたのでぃす。
「この姿なら相手をしてやるのでぃす!」
「進化したぐらいでいい気になるんじゃねえ!」
睨み合いになったその時でぃす。
パトカーが何台もやってきて、中からお巡りさんがいっぱい降りてきたのでぃす。その中にはデジモンも混ざっていたのでぃす。
そしてオーガモンを囲むとあっという間に捕まえちゃったのでぃす。
それでオーガモンはパトカーに乗せられて連れて行かれたのでぃす。
パトカーはホームのヘルパーさんが警察に通報したから来てくれたそうなのでぃす。
ボクは橘のおばあちゃんだけでなく、ホームの皆から感謝されたのでぃす。
その日は葉っぱが紅くなって、秋の匂いがしたのでぃす。
橘のおばあちゃんがとっても嬉しそうな顔をしていたのでぃす。
「おばあちゃん、何か良いことがあったのでぃす?」
「テリアちゃん、明日息子が会いに来てくれるって!」
「それは良かったでぃす!」
「ずっと会えなくて寂しかったけど、やっと会えるんだねえ」
おばあちゃんの笑顔を見ると、ボクまで嬉しくなっちゃうのでぃす。
でもボクは知らなかったのでぃす。
この笑顔がおばあちゃんの最後の表情だってことに。
「救急車来ました!」
「担架を!」
ホームのヘルパーさんも、往診に来ていたお医者さんも、慌てていたのでぃす。
運ばれいくのは橘のおばあちゃんだったのでぃす。
ボクは慌てて追いかけたのでぃす。
そして救急車に飛び乗ったのでぃす。
「あっこらっ!」
「お願いでぃす!連れていって欲しいのでぃす!」
「しかし!」
「…仕方がない。君、橘さんの手を握ってあげてくれないか?」
「わかったのでぃす!」
それから病院に着くまで、ボクはおばあちゃんの手を握っていっぱい話しかけたのでぃす。
おばあちゃんはちょっとだけ目を開けるとボクに笑いかけた…ように見えたのでぃす。
病院に着くと、ボクは廊下でひとりぼっちで待ってたのでぃす。
そうしたら、人が数人現れて、おばあちゃんの部屋に入っていったのです。
それからずっと待っていたら、扉が開いてお医者さんが出ていったのでぃす。
ボクはおばあちゃんの部屋に飛び込んだのでぃす。
そこには。
静かに、音も立てず、ただ体を横たえた、橘のおばあちゃんがいた。
「おばあちゃん…?」
部屋に居る人は皆泣いていたのでぃす。
ボクはおばあちゃんの手を握ろうとしたのでぃす。
そうしたら部屋から追い出されたのでぃす。
「何で!ボクもおばあちゃんと一緒にいたいでぃす!」
「今は親族以外は立ち入り禁止だ」
そう冷たく返されて、扉は閉まったのでぃす。
ボクは泣いた。
優しくて仲良しだった橘のおばあちゃん。
もっと一緒に遊びたかった。
色んな話が聞きたかった。
もう、二度と会えない。
悲しくて、苦しくて、つらくて。
ー寂しかった。
葬儀は無事に終わり、参列者の方々が挨拶や談笑をしていたのでぃす。
橘のおばあちゃんは真っ白な服に、ちょっと明るめの口紅を塗って貰っていたのでぃす。
ボクはお棺におばあちゃんの大好きだった花をいっぱい入れてあげたのでぃす。
「橘のおばあちゃん…」
ボクが一人でいると、男性が近付いてきたのでぃす。
その男性は、橘のおばあちゃんの息子さんだったのでぃす。
「…老人ホームでは母さんの面倒を見てくれてありがとう」
「お礼なんていいのでぃす」
「そうか…なあ、渡したい物があるんだ」
そう言って、息子さんは小さな箱を取り出したのでぃす。
開けると、中には二つの指輪が入っていたのでぃす。
「これ、俺の両親の結婚指輪。もらってくれないか?」
「指輪…でぃすか」
「本当は棺に入れようかと思ったけど、お世話になった君に持ってもらえた方が良いと思って」
「…本当にいいのでぃすか?」
「ああ、それを見て、時々でいいから母さんのこと思い出してほしい」
「わかったのでぃす」
ボクは受け取った指輪を鞄になおしたのでぃす。
「じゃあボクは帰るでぃす」
「ああ、元気でな」
会社が用意してくれた寮に戻ると、ボクは指輪を宝物入れに仕舞ったのでぃす。
おばあちゃん。ボクは忘れないでぃす。
楽しかったことも、悲しかったことも。
だから…。
「おはようございますなのでぃす」
「おはようございます、テリア先輩」
新人の玄田さんと挨拶すると、書類の束が机に積まれたのでぃす。
「玄田さんこれは…」
「連休中に溜まったものです。よろしくお願いします」
「うう…多すぎるのでぃす…」
あれからボクは老人ホームから会社の事務員に変わり、毎日目の回る忙しさでてんてこまいなのでぃす。
でも、ボクはこれからも橘のおばあちゃんを忘れずに生きていくのでぃす!
ーテリアモンの日誌
こちらでは初めまして。
いきなり人間の究極体という言葉を見た時には驚きました。高齢者を人間の究極体と表現するのはいいですね、それで緊張してしまうのも異文化交流してるんだというのがわかりやすくて、機会があったら真似したいと素直に思いました。
テリアモンの素朴な優しさからくる進化と、それが最期になってしまう……今回の企画はラストエボリューションなので、予想はできるとはいえ、親族ではないからと病室にも入れなかったりするのは切なくなりますね……胸にじんと来るお話でした。
簡単ではありますがこれで感想とさせていただきます。