千葉県某所。
そこに新設された大型スタジアムの前、そこにはバディデジモンを連れた何組ものバディリンカー達が多くいた。彼らはBLSランク昇格のために集まったバディリンカー達であり、その中にはカズマとコカブテリモンの姿があった。
「よっしゃあ! ついにやってきたぜ、昇格試験!」
『気合を入れているな。カズマ』
「そりゃもちろん、これでランクが上がればお前と一緒に強くなれるんだからな!」
張り切っている様子のカズマの答えにコカブテリモンはニコリと笑う。
こんな純粋に試験へ挑もうとする彼に自分自身も何処か元気づけられるからだ。
何かと失敗続きだが、前向きな彼に元気づけられるのだ。
カズマとコカブテリモンの二人がスタジアムの内部に入ると、すぐに受付をしている人と思われる人物の元へと向かう。
そこに立っているのはオールバックにした銀髪と眼鏡にかけた男性。カズマの目から見ても強面の印象を受ける彼は繭をハの字の形をして対応している様子だ。
「会場はスタジアム中央だ。案内板に従っていくといい」
『「はーい」』
小さなデジモンを連れた小学生くらいの男の子は男性に言われた通りに試験会場へと向かう。
先程の光景を見て男性が案内係だと悟ったカズマは恐る恐る声をかけた。
「あのぉ、すいません」
「ん? 君は……」
「BLSランク昇格試験を受けに来た赤坂カズマです」
「試験者か。今回の案内係を務める真導だ。今日はよろしく頼む」
強面の男性『真導 将騎(シンドウ・ショウキ)』はカズマにそう名乗ると、握手を求めてきた。
カズマは快くその手を握り、見た目と違って優しそうな人だと感じて他愛無い会話を続ける。
「こちらもよろしくお願いします、真導さん」
「オレも受付を終わったら試験管の一人として勤める。若いからって贔屓は一切しないからしっかりと心構えして受けるように」
「はいっす!」
ショウキに案内されて、カズマはコカブテリモンを連れて試験会場であるスタジアムフィールドへと向かう。
足を踏み入れた先に広がっていたのは、――様々なデジモン達を連れた人々だった。
成長期デジモンが多くいる中に混じって、大きな体で佇むエクスブイモン、アンキロモン、アクィラモン、スティングモンといった成熟期のデジモンがちらほらといる。
小さい体躯のデジモンから目につくほど巨躯を誇るデジモンが立つ光景にカズマのテンションはうなぎ昇りになる。
「すごいや、成熟期デジモンがいるよ!」
「彼らはBLSランクBのバディリンカー達だな。彼らもランク昇格のためにやってきたんだ」
歓喜しているカズマに対してショウキは冷静に説明を口にする。
成熟期デジモン達の傍らには相棒のリンカーと思われる人々がおり、彼らが真剣な表情で試験を受けに来た様子を伺えた。
彼らBLSランクBのバディリンカー達も自分のように、あるいはそれ以上強くなるために難関に挑む……そんな風に思ったカズマはがぜんやる気が出てくるのであった。
「コカブテリモン、準備はいいか?」
『当然だ、カズマ。君こそドジを肝心な時に踏むんじゃないぞ』
「うぐぅ……それは言わないでくれよぉ」
コカブテリモンの言葉に対してカズマは試験が始まる前から疲れたようにタジタジな様子になる。
2人は緊張しながら試験の時間になるまで、指定された所で待つことにした。
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やがて時間は過ぎ去って行き、ついに試験の時間となる。
スタジアムに敷かれたコースの上に並び立つ何組ものバディデジモンとリンカー達。カズマとコカブテリモンもその中に居た。
彼ら二人の近くには、同じく試験を受ける別のバディデジモンとリンカーがいて、彼らの会話が耳に届いた。
『大丈夫かい、カグヤ? 震えているよ?』
「どうしましょうロップモン! 今私、とても緊張しております。今朝なんて御飯1合しか食べてないですもの!」
白い長髪で小柄かつ線が太い雰囲気の少女の『卯聖(うしょう) カグヤ』と、そのバディデジモンであるウサギのような見た目をした焦げ茶色のデジモン『ロップモン』。
文字通り緊張しているのか全身震えており、しかしいつもの三日月のような笑みは絶やしていない。
彼女なりの見栄なのだろうとロップモンは理解しており、せめて緊張を和らげるためにカグヤの指を握った。
その一方、数組のバディリンカー達分の離れた位置に2体のデジモンを引き連れた少女がいた。
長い黒髪をロングテールにして纏めている姿の彼女はバディである二体のデジモンに話しかけていた。
「いい、無理はしないでね。エレキモン、ファルコモン」
『大丈夫だって、俺達なら行けるって!』
『そうだよ、僕達は君と大空に飛ぶって夢があるんだから』
黒髪の少女『敷島 雪乃(シキシマ・ユキノ)』は、相棒のバディデジモンである赤い体毛の獣のようなデジモン『エレキモン』と深緑色の羽毛に爪の生えた爪と牙が生えた嘴が特徴なデジモン『ファルコモン』に言い聞かせる。
普段物静かな少女は
彼女達三人もBLSランク昇格試験に挑むようで、ちゃんとした目的を以て挑むようだ。
それぞれがそれぞれの目的でBLS試験を目指す中、ついにその時が訪れた。
拳銃の体を持ったガンマンのような雰囲気のデジモン・リボルモンが普段使っている拳銃を上へと向けて、引き金を引こうとする。
「位置について、ヨーイ」
「「「……」」」
『『『……』』』
「――ドォーン!」
空砲。
スターターピストル代わりの空の銃声が鳴り響くと同時に一声に走り出す成長期のデジモン達。
開始の合図と共に前方へと向かうデジモンの後からリンカー達が追いかける。
多くのデジモン達が入り混じる中でコカブテリモンは全体から見て中くらいの位置にいるが、混雑する前方にカズマは戸惑っていた。
「くぅ、ランク昇格試験がこれほどのものだとは」
『大丈夫だカズマ! これから何が控えているのか分からない!』
焦るカズマに対してコカブテリモンは走りながら叫ぶ。
その証拠と言わんばかりに、先頭を走っていたデジモン達の叫ぶ声が耳に聞こえてきた。
『『『うわああああ!!』』』
「な、なんだぁ!?」
前方を見ると、そこにはコース上から発生した巨大な水の柱によって吹っ飛ぶデジモン達の姿があった。
突如現れた水の柱に参加デジモン達やリンカー達が驚いていると、カズマはとある存在を見つける。
それはコースから少し外れた所に立つ一体の河童を思わせる姿をデジモン……"シャウジンモン"と呼ばれるその魔人型のデジモンは自分の力を駆使して、コース上に水の柱を生み出しているようだ。
その証拠にシャウジンモンの腕には今回のBLSランク試験の運営スタッフを示す腕章がつけられており、水柱が障害物の一つだとカズマをはじめとしたリンカー達は悟った。
「コカブテリモン! 飛べ!」
『おう!』
カズマの言葉を聞いて、コカブテリモンは背中の羽根を広げて飛び立つ。
シャウジンモンが繰り出す何本もの水柱を掻い潜り、最初の難関を突破する。
コカブテリモンに続いて、エレキモンとファルコモン、ロップモンといった具合に次々と後続が突破していく。
先を走るデジモン達へと追いかける形でコカブテリモンとカズマが走っていると、次の難関がすぐに見えた。
『なんだよこれぇ!? ぎゃふっ!?』
「きゃーっ!? モドキベタモーン!!」
第二の難関へ先に到達していた黄色いカエルのような様な姿をしているデジモン"モドキべタモン"が横で吹っ飛ぶ姿が真横で繰り広げられ、コカブテリモンはすぐ前方を確認する。
そこにあったのは巨大な機械でできたマジックハンドであり、見た目は白い手袋そのもの。その大きな手は5本の指で向かってくるデジモン達をデコピンで弾いたり、軽くはたく仕草などで蹴散らしていた。
文字通り手を伸ばしてくるマジックハンドをコカブテリモン達が避けながら、カズマは周囲を見渡すとそこに試験官と思われるデジモンがいた。
それは壊れた機械のような外見をした小型のマシーンデジモン"ナノモン"であり、シャウジンモンと同じく腕章をつけたそのナノモンは両手に抱えた小型化コントローラーで白い手を操作しているようだった。
「今度は大きなお手々か……力は凄そうだけど、コカブテリモンだって負けてないんだぜ!」
『ああ、そうだ!』
ニヤリと笑ったカズマと時同じくして、手をこまねいているデジモン達を掻き分けてコカブテリモンが目の前へと躍り出る。
マジックハンドはまっすぐへとコカブテリモンに飛んでいき、彼の掴もうとする。
だが完全に掴む前にコカブテリモンが接敵し、逆にコカブテリモンがマジックハンドを捕らえた。
『ふんぬっ!』
「いっけぇ、大技だぁ!!」
『スクープ……スマッシュッ!!』
捕らえたマジックハンドの下を掻い潜り、自慢の角で掬い上げて投げ飛ばす必殺技『スクープスマッシュ』。
より大きなデジモンであるトータスモンすら持ち上げるほどの剛力で投げ飛ばされたマジックハンドはそのまま地面へとまっすぐ落ちた。
ドシィン……、と轟音を立てながら自身の投げ技を披露した後、コカブテリモンとカズマは先に向かう。
大きな障害物であったマジックハンドが簡単に撃破されて驚くデジモン達とリンカー達だが、そんな彼らと違ってユキノのエレキモンとファルコモン、カグヤのロップモンが進んでいく。
『おっさきー!』
『復活しないうちにささっといくよ、エレキモン』
『わーい! らっくちーん!』
三体のデジモンが第二の難関を抜けた直後、ナノモンのコントローラー操作によって新たなるマジックハンドが出現。
試験者たちを苦しめていく光景を背に、ユキノ、カグヤがカズマの後をついていく。
「……すごい」
「彼ら、さながら横綱級ですわ!」
「へへっ、これなら最後までいけるぜ!」
コカブテリモンの活躍に驚くユキノとカグヤ、そんな彼女達の驚く声を他所にカズマは前へ前へと走る。
目指すのは最後である三つ目の難関……一体何が待ち受けているのか。
そんな事を思いながら、カズマはコカブテリモンと共に、最後の難関の場所へと辿り着いた。
その時だった、声が聞こえてきたのは。
『最後の難関は、オレ自らが相手をしてやる』
カズマとコカブテリモンがその堂々とした声を耳にした瞬間、目に飛び込んできたのは一個の鉄球。
コカブテリモンは咄嗟に両腕の大きな手でその鉄球を受け止めた。
一体何が……とカズマが鉄球が飛んできた方向を見ると、そこにいたのは一体の紫色の毛並みのデジモン……そして黒髪で黒い服装の一人の少年。
どちらもシャウジンモンやナノモンと同じく試験官を示す腕章をつけており、少年は自身の名を口にした。
「試験官を務めさせてもらう、藤原クロトだ。よろしく」
『クロトのバディデジモン……今はドルモンだ』
片や少年……藤原クロト、片や彼の相棒のデジモン……ドルモン。
特にドルモンはカズマ達がよく知っている通常のドルモンより鋭い眼光でこちらを射抜いてくる。
殺気ともいっていいその剣気にカズマは冷や汗をかき、コカブテリモンは一瞬固まった。
あの時のゴブリモンの群れとはくらべものにならないほどの威圧に二人ともビビってしまったのだ。
身動きできないカズマとコカブテリモンの後ろから遅れてカグヤとユキノが追い付いた。
「よ、ようやく追いつきましたわ……って、アレって」
「……ッ! チームイズモの藤原クロト……!? 本物なの?」
「えっ、イズモって、あのチームロムルスと双璧をなすとかいう!?」
ユキノの呟いた言葉にカズマは驚きの声を上げた。
チームイズモといえばいくつもの事件を解決してきたバディリンカー達が集まるチームであり、その実力はかのチームロムルスと双璧を成すほど強いと言われている。
そんな実力者が最後の難関にとは思ってなかったと言わんばかりにカズマは焦るが……そんな暇を作らせる暇もなく、ドルモンが怒号を上げた。
『噂や名声なんてどうでもいい! 自分自身が強くなることにそんなもの必要ない!!』
『お前らも強くなるために来たんだろ? だったら……』
『手加減してやるから全力でかかってこい!!』
成長期らしからぬ笑みでニヤリと口元を歪ませるドルモン。
彼の背後に見える【二本の刀を持った黒い剣士】の光景が覇気として見えるほどにカズマはビビりながら、最後の難関に立ち向かうことになった。
Special thanks
・赤坂一真/花凜様