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『…よし、と』
新しく買った服をそのまま着て、帰路につく。布質からよくわかる、頑丈な服だ。
自分は、デジタルワールドという未知の世界へ旅立つことになった。デジタルワールドから現実世界にやってきて、友達になったデジモン…アグモンのアルタの手助けをするためだ。
彼女がいたデジタルワールドは、「ゴッドキラーモン」という存在に大半の領地が制圧されてしまって、その中にはアルタの仲間がいる島もあるらしい。
アルタは、仲間を助けるためにゴッドキラーモンと戦う。それを自分が『換装司令』という、彼女の機械の身体に強力な武装を装備することが出来るデバイス…「デジヴァイス-∞-」で手助けすることができる。
もちろん、アルタはそのままでもかなり強い。しかし、素の彼女ではいくらなんでも限界がある。それを助けるために、自分は彼女をサポートする「テイマー」というものになって、共に戦う。
その旅立ちの準備のために、食料やサバイバルグッズ、そしてこの服を買いに行ったのだ。流石にジャージのまま行くわけにはいかないし。そんなことを頭の中で考えているうちに、気づけば自分の家…マンションの一室の玄関に到着した。そして、扉を開ける。
「ユウタロウ、おかえり〜」
家で待ってくれていたアルタは、にっこりと笑って自分を出迎えてくれた。
「わー!その服…すごくカッコイイ!」
『あ、ありがとうございます…?』
アルタは目を輝かせて、着替えた自分の姿をまじまじと見る。
『そういえば、デジタルワールドにはいつ行くんですか?』
「うーん…今日はもう遅いし、明日でもいいか〜。」明日で良いのか…
「泊まっていってもいいかな?」
『ええ、勿論。少し狭いですが…』
「ホント!?わーい!ありがとっ!」
その後、自分が買ってきたコンビニの弁当を2人で食べ、その日は眠りについた。
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翌日、少し早く目が覚めた。
アルタは…まだ寝ている。なかなか芸術的な寝相だ…布団が5mほど吹き飛んでいる。
「むにゃ…おはよ〜…」
『おはようございます、アルタさん。朝食はどうします?』
「う〜ん……」まだ少し寝ぼけているようで、目をこすったあとに大きな欠伸をする。
「…よしっ!朝ごはんね。デジタルワールドで済ませようかな…?」
『デジタルワールドで食事…自分も食べられますかね…?』食事は、自分が生きていく上でかなり重要になる。
「デジタルワールドのごはんもなかなかおいしいよー!でも、シュワシュワには敵わないけどねー」
『なるほど…とりあえず、大丈夫そうですね。』買ってきた食料は、少し少なめに持っていくことにした。
ほかには…彼女が気に入ってくれた飴玉は、少し多めに入れていこう。ナイフに懐中電灯、ロープにテント…こんなものでいいだろう。
『よし…いつでも行けます。』
「…分かった!じゃ、行こうか。ついてきてー!」
そうして、再び外に出る。言われたとおりに、彼女についていく。初めて出会った場所にあるスーパーの建物は、まだ壊れたままで工事が行われていた。
「いやぁ、あはは…少し暴れすぎちゃったかなー…」
頭を掻くような動作をして、苦笑いをしてみせるアルタ。あれはあのバケモノの被害が大半だったが。
『…そういえば、あの時戦っていたバケモノは…』ふと思い出し、尋ねる。
「あれは、ゴッドキラーモンが他のデジモンを乗っ取った姿。乗っ取られていたデジモンはティラノモンだね。ティラノモンは成熟期で、オレ…メタルグレイモンよりも本来は弱い姿なんだけど…ゴッドキラーモンに乗っ取られたデジモンは、一つ上の世代を僅かに上回る…くらいの力を持つようになるんだ。」
『なるほど…やはり、敵はかなり強いですね…』
「そうそう。向こうでも、時折乗っ取られたデジモンを倒したりしていたんだけど……やっぱり、かわいそう…そのデジモンは何も悪いことをしていないのに、倒さなくちゃいけないなんて…」しょんぼりしながら、アルタは話す。話題を変えたほうが良さそうだ。
『…ところで、どこまで行くんです?』
「もうそろそろかな…お、あった!」

山を少し登ったところにある開けた場所の中心に、空間が割れたような穴がある。
「オレは、ここから出てきたんだ。ここから、デジタルワールドに行ける!」
『ついに…デジタルワールドに…』
「よし…飛び込むよ!しっかり捕まっててね…!アグモン!ワープ進化ッ!」
「…メタルグレイモンッ!!よし、いくよー!!」
『はい!』
そうして、自分たちは空間の割れ目に飛び込んだ。
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少しの間、無重力のような感覚が続いた後に地面に足がついた。金属のような地面で、想像とは少し違った。
『…ついた…のか?…あれ、アルタさん?』
周りを見渡しても、彼女の姿は見えない。
「ここだよ〜!」…下から声がする。
『…うわぁっ!?』

まさに、いま自分が立っている場所がアルタの頭の上だったのだ。かなりの高さがあり、下を見たら目を回してしまいそうだ。驚いて、思わず座り込んでしまった。
「あ、ごめん…いま小さくなるね〜」
そう声がすると、視線がどんどん低くなっていき、ようやく地面に降りることができた。
『びっくりしました…今のはいったい…?』
「さっきのが、オレの本来の大きさ。リアルワールドだと、すごい小さくなっちゃうんだー」そう話すアルタは、今は4m程の身長になっている。まだ大きいが …まぁいいか。
『と…とりあえず、ここがデジタルワールドで合ってますか?』
「うん、合ってるよ。ようこそ、デジタルワールドへ!」
…いま自分たちがいる場所は、広大な…それこそ無限大に見える程の草原が広がっており、青い空と白い雲…のびのびとした木々…そして…肉?
『あの…地面から肉が生えているんですけど…』
「うん。普通じゃないの?」
『…いえ、やっぱりなんでもありません…』
焼けてるし。いい匂いするし。なんだこれ。
いや、これがデジタルワールドの常識なのだろう。無理やり納得することにした。
「じゃ、ご飯にしよっか!お腹すいた〜」
アルタは、そこに生えてる大きな肉を3個ほど引っこ抜いて、うち1個をこちらに渡してきた。
…う〜ん、大丈夫か?これ…
『…ええいッままよ!』覚悟を決めてかぶりつく。…美味い。すごい美味い。なんだこれ。
『…うまっ!』「でしょでしょ〜♪」気づけば、アルタは既に1個平らげており、2個目に突入していた。この大きさなら、自分は1個で十分そうだ。

肉を一つ平らげ、空腹は満たされた。
このような調子なら、食料には全く困らなそうだ。段々と安心感が芽生えてきた。
『…ここは安全なようですが、他の「制圧」された場所はどのような感じなのですか?』尋ねてみる。
「…太陽の光が入らなくなって、植物は枯れて…みんなの元気がなくなっていく。そして…ところどころにいる小さなゴッドキラーモンに触れると、乗っ取られる。」
『なぜ、そこまで…?』
「島にいた一人が、乗っ取られちゃったから…その時は、他の人が倒したんだけど…」
『あ…ごめんなさい…』
「いや、気にしないで。これからオレたちが、そのゴッドキラーモンをやっつけに行くんだからさ!」にっと笑い、アルタは自分の肩をポンと叩いてくれた。
『…ですね。一刻も早く、元凶を倒しに行かなければ』
「よしっ!頑張るぞー!えいえいおーッ!」
『お…おー?』共に鼓舞し、やる気がみなぎってきた。その時…草原の向こうから、爆発音が聞こえてきた。
「っ…!?急ごう、ユウタロウ!背中に乗って!」
『は、はいっ…!』
一刻も早く向かおうと、アルタは自分を背に乗せたまま飛行して音がした方向に飛んでいった。…いったい、なにがあったのだろう…?
(To be continued)