___あるマンションの一室
『…ここです、自分の家…』
「お邪魔するねー…うぅ…お腹空いたー……」
自分は、空腹で倒れてしまったアグモン…アルタを、助けてくれた礼をするために自分が住んでいるマンションの一室に招き入れた。
「ここ、キミの巣?」
『まぁ、そんな感じの場所です』
食事の準備をしている間にも何か食べてもらおうと、お菓子がたくさん入ったカゴを差し出す。
「わー…!なにこれなにこれ!」
『お菓子…食べ物ですね。』
「なるほど…食べていいの?」
『どうぞどうぞ』
「わーいっ!…あ、コレなんだろ?」
戦闘時の頼もしい雰囲気から打って変わり、
マイペースで少し子供っぽく感じる。
アルタは、アメの小袋を手にした。
「えっと…これを開けて…」
袋から取り出したアメを、一粒口に入れる。
「…!甘い…美味しい!」
彼女が食べたのは、シュワシュワする粉が入った飴だったらしい。
どうやら、気に入ってもらえたようだ。
「ユウタロウ!これ、美味しい!」
目を輝かせながら、報告してくれた。
『それは何よりです…』
思わず微笑む。料理も完成間際だ。

『よし。これ、どうぞ』
「おー!いい匂い!」
ケチャップで和えただけの、シンプルなパスタ。なるべく早く作るため、これにした。
「いただきまーす!」
元気よく挨拶して、爪でそのまま食べ始める。
『あっ』フォークを渡し忘れてしまった。仕方ないので、手拭きを用意した。
「…美味しい!コレも好きかもー!」
笑顔でどんどん食べ進めていくアルタ。
あっという間に、大盛りを平らげてしまった。
『これ、爪拭くのにどうぞ』
「ありがと!」
ツメと口元を拭きながら彼女は言う。
「いやー、助かったー!」
彼女は、満足そうに布団の上に座る。
『…所で、どこから来たんですか?アルタさん』
「うん。オレは…"デジタルワールド"っていう、こっちとは別の…もう一つの世界?から来たんだ。向こうでは、ぶらぶら旅をしていたんだけど…ある時、“ゴッドキラーモン”っていうデジモンに、世界のほとんどが乗っ取られちゃったんだ……」
『デジモン……?』聞き慣れない言葉だ。
「あれっ…説明してなかったっけ?デジモン…"デジタルモンスター"は、デジタルワールド中に住んでいる生き物のこと。いろんな種類がいて、仲間分けもたくさんあるんだー。うーん…ワクチン?ウィルス?データ…?だっけ…とにかくたくさん!」
『な…なるほど…』なんとなく理解した。
「それで、ゴッドキラーモンの話に戻るけど……アイツらの目的は、デジタルワールドのカミサマみたいな存在"イグドラシル"を乗っ取って、デジモンを全員ゴッドキラーモンに書き換える?ことなんだ。」
『書き換える…つまり、全てのデジモンをゴッドキラーモンにしてしまう…と』
「そうそう!それで、オレの故郷の島"アグ島"も既にゴッドキラーモンに乗っ取られちゃったんだ…中には、まだお兄ちゃんたちがいるのに………」悲しげな表情をし、彼女は続ける。
「…お兄ちゃんやお姉ちゃん、弟たちは…血はつながっていないけど、小さいころからずっと一緒の家族なんだ。だから…オレは、みんなを助けたい!そのために、ゴッドキラーモンをやっつけるんだ…!」真剣な表情で話すアルタ。
『アルタさん……』アルタの話を聞いて、彼女を助けた時のことを思い出す。
「…こうしちゃいられない…急いで戻らないと…助けてくれて、ありがと。またね!」彼女はこちらににっこり笑いかけ、玄関に向かって歩いていく。
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思考を巡らす。
このまま送り出してしまったら、アルタは換装なしでゴッドキラーモンに挑むことになる。
彼女はとても強いが、ゴッドキラーモンはもっと強いことはなんとなく想像がつく。
しかし…自分がいれば、換装により彼女の戦闘能力を大きく上昇させられる。
…こんな自分でも、力になれるのなら………
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『…あのっ!』声を上げる。
「ん?なぁに?」アルタは振り向く。
『自分も、一緒に行きます!デジタルワールド!』
「…えぇっ!?」彼女は目を真ん丸にし、驚いているのが見て取れる。
「で…でも、危ないよ?死んじゃうかもしれないし……」
『それでも…自分はあなたの…デジタルワールドの力になりたい!』
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まさか、一緒に来てくれるのは予想外だった。でも、一人だと確かにすごく不安だ。
…トモダチが一緒なら、オレは何でもできる気がする…!
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「…ありがとうっ、ユウタロウ!」彼女は、とびっきりの笑顔をこちらに向ける。
『では、色々準備をしてきます。食料とか道具とか…あ、お菓子は好きに食べてくれて大丈夫なので』
「うん!いってらっしゃーい!」
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外に出て、買うべきものを考える。
丈夫で動きやすい服に、大きめのカバン…
火を起こせるものも持っていこうか。
そうして考える中、悲しげな表情のアルタを思い出す。
『……全力で、アルタさんを助けるんだ』
小さく呟き、アウトドア用品店への足を早めた。なるべく早く戻って、出発しなければ。
(To be continued)