
空気をつんざき、震わせる咆哮。
それが戦いの始まりだった。
咆哮をあげたものは鳥のそれに似た炎の翼を大きく広げる。
全長15m超、翼長は20mを超えようか。
大地を踏み締めるように四つ脚で立ち、全身を鎧のような真っ赤な装甲で覆われた巨竜。
長い首をもたげ金色のタテガミを振りあおぎながら、力強く咆哮するその姿は竜王と呼ぶに相応しい威風に満ちていた。
……その名はエンシェントグレイモン。
かつて古代デジタルワールドにおいて堕天使ルーチェモンと死闘を繰り広げ、封印する最期まで戦い抜いた十闘士の生き残り二体の片割れ。
全てのグレイモン系デジモンの始祖にして竜系デジモンを後継とする者。
炎の向こう、エンシェントグレイモンが睨む相手は、禍々しさと邪悪さを兼ね備えた異形。
人型をベースに無数の触手を手足の代わりに生やした姿は邪悪と共におぞましさすらある。
…その名はアルカディモン。
七大魔王が一人、デーモンが復活に成功した超究極体。
「ウォーグレイモン!」
エンシェントグレイモンの背へ向けて、叫びがあがる。
風になぶられたブロンドを押さえながら、ホームレスの少女・フィーラは誰よりも信頼した竜戦士の名を叫んだ。
…覚悟はしていた。
父親の魂を宿したアルフォースブイドラモンから聞かされた事実。
デジタルワールドに来たフィーラと彼女の供である猫のアーグルを助けて以来、ずっとその側に居続けてくれたウォーグレイモンという戦士。
その正体が、目の前に聳える火の十闘士の魂の一部だと。
「ダメだ、兄貴は戦うつもりだ!」
一緒に行動してきていた仲間のデジモンの一体であるグレイモンが、後ろからその肩にやんわり爪を置く。
グレイモンの後ろに、猫のアーグルがしがみついている。
遠く離れているアルカディモンに並々ならぬ脅威を感じているのだろう。
首の後ろが逆立ち、何度も繰り返し威嚇していた。
「でも!」
「究極体同士の戦いになれば俺達は引くしかない。…フィーラ、君のその力があっても、君は人間だ。巻き込まれれば命はない…!」
ほんの少しの間視線を外していた間に。
二体の強大なデジモンは激突を開始していた。
アルカディモンの触手が伸び、エンシェントグレイモンの身体に絡みつく。
いかなるデジモンもこの拘束を長く許せばたちまちデータを吸収されデジコアも残らない。
むろんそれを許すわけもなく、エンシェントグレイモンの口腔内に光が満ちたと思うと炎が吐き出され触手を焼き切る。
だが、全ての触手を焼き尽くすには至らない。
グオオオオオッ……!!
触手に拘束された部分からわずかに散るデータの粒子。
苦悶の声が響いた。
「兄貴……!」
劣勢に陥りかねない状況にグレイモンが気づいた時、フィーラは走り出していた。
「フィーラ!」
「にゃん!」
フィーラの全身から金色に輝く粒子が溢れ出す。
腕に光るブレスレットによって、人間(ヒト)のデータから聖なるデジモンのものへと置き換わる。
人間の腕から鳥の翼へと変化したそれを羽ばたかせ、黄金のデジモンが飛翔した。
「フィーラ!だめだ!」
黄金の聖鳥ホウオウモンの背に向けてグレイモンは引き止めようと叫ぶ。
エンシェントグレイモンを拘束する触手を増やす傍らで、アルカディモンは闖入者を視界の隅に捉えた。
「クリムゾンフレア!」
エンシェントグレイモンのそれとは異なる炎が翼から迸る。
炎はエンシェントグレイモンを拘束する残りの触手を焼き払い、自由にさせることに成功した。
「ウォーグレイモン!大丈夫?」
傍らまで飛んできたホウオウモン…フィーラが声をかける。
だが。
エンシェントグレイモンはそれを一瞥で返すだけですぐ前方のアルカディモンへ視線を戻す。
「ウォーグレイモン…」
その反応にフィーラは浅くもショックを受けていた。
操られていた時とはまた別に、そこにウォーグレイモンとしての意志も人格も見受けられない。
そこへ、アルカディモンの触手が伸びた。
「っ!クリムゾンフレア!」
応戦するも判断が遅い。
そもフィーラはデジモンと化すことができても、デジモンとの実戦経験がない。
このような戦いにおいて判断ミスは死に直結するという事実を、自らの身で味わうことになるとは。
「あああああああーっ!!」
触手が金色の羽毛に絡みつき、縛り上げた。
振り解こうにも力が足りず、たちまちデータの搾取が始まる。
エンシェントグレイモンはこれに一切の反応を示さない。
炎の翼を広げるとアルカディモンへと肉薄していった。
「ぁ…ぐ、ウォー…グ……」
呼ぼうにも触手がデータを、体力を搾り取っていく。
そこへ、緋いエネルギー球が飛んできた。
触手を吹き飛ばしたそれは、事態を察知して戦場を横切ってきたブラックウォーグレイモンのものだった。
「くそ…!あいつ、十闘士に戻った影響で戦いの事以外なんも見てねえ!フィーラ!!」
傷だらけの体が真っ逆さまに落ちていく。
地上から、アーグルの鳴く声が聞こえた。
ーーーー
0101011100111001011001100110011110000………
落ちていくなか。
頭の中で電子音が聞こえる。
かちゃり、と小さな錠が開けられたような音も。
脳裏に、ある光景が広がった。
大量の記憶の破片
白亜の空間
その中からある記憶がピックアップされて、音声データとして流れ込む。
それは、覗き込む両親の温かな笑顔であったり。
それは、まだ生きていた頃の祖母が出してくれたスイートポテトパイだったり。
それは、ハロウィンの夜に友達と出かけてお菓子を貰って見せ合った様子だったり。
やがて。
その中から、父親の声が聞こえた。
フィーラの中にあった、「アカシックレコード」によるカーネルへの接続によって引き出された、父親の記憶。
ーーフィーラ。
ーー『月の子(モンデンキント)』。
ーー私達の可愛い『月の子』。
ドイツ系の血を引く母親が名付けてくれたミドルネームを呼ぶ父の声。
ーー私の可愛いフィーラ。
身体中が熱くなる。
毛先の根っこ一つ一つが熱くなる。
ーーパパ!
涙が溢れた時、フィーラの身体に更なる変化が生じた。
「なっ!?」
落下中のところを受け止めようとしていたブラックウォーグレイモンが最初にその異変に気づいた。
黄金の羽根がはらはらと舞い落ちていく。
根本から抜け落ち、羽毛の下から新たに羽毛が生え替わっていく。
黄金から、白へ。
「フィーラ…これは一体!?」
「にゃん?」
グオオオーッ!!
そこへエンシェントグレイモンが吹き飛ばされてきた。
アルカディモンが驚くほどの俊敏さで接近し、闇色の矢を連射する。
「ぐうっ…!」
矢が脇腹をかすってブラックウォーグレイモンの身体が傾ぐ。
…その間にも。
フィーラの身体は純白の羽毛に覆われ両脇から新たに一対の翼を生やして、サイズはより巨大なものに。
その姿は、ホウオウモンよりもシンプルながら神秘的なものへと変わっていった。
「あの姿は……!!」
その姿は他の戦場で戦っていたデジモン達にもよく見えた。
「パージシャイン!」
巨大な純白の翼から放たれた輝きが、アルカディモンの放つ闇の矢をことごとく撃ち落とした。
そこでアルカディモンも、そしてエンシェントグレイモンも、初めて反応を示す。
輝く純白の巨鳥。
それを見たエンシェントグレイモンの脳裏に、一つの記憶が光のように差した。
光の十闘士と共に戦った記憶に、一人の少女の姿が上塗りになる。
そして、エンシェントグレイモンの記憶は、その鳥の姿の少女の記憶を引き出した。
「……フィーラ!?」
ばさり、と白い巨鳥が舞い降り、エンシェントグレイモンの脇に並んだ。
「……ウォーグレイモン」
「フィーラ、私は、お前を…」
そこへ伸びる触手。
それに今度はフィーラも即座に反応した。
「ガイアバースト!」
「パージシャイン!」
「ガイアフォース!」
三体の究極体クラスの攻撃が無数の触手を相殺した。
「ヒヤヒヤしたぞ、俺に世話をかかせんじゃない!」
「何を言っているんだ。しかし、フィーラ、その姿は……」
「なぜかわからないんだけど、パパの記憶が頭の中に響いて…」
そうか、アカシックレコード。
フィーラの中に接続できるプログラムが眠っていたことを思い出す。
だからこそ、なのだろうか。
フィーラが化した姿も、アカシックレコードを経由して為された姿なのだとしたら。
「気を抜くんじゃねえぞフィーラ!カリスモン達に救援に来るよう頼んだがそれまでは俺達だけで耐える羽目になるんだからな!」
ブラックウォーグレイモンが言い、構えた。
アルカディモンが初めて敵意と呼ぶべきものを見せ、天を仰ぎ咆哮する。
ーー最終決戦は、火蓋を切って落とされた。
ほぉー! 連載作品というか個人サイトをお持ちだったとは! 夏P(ナッピー)です。
大変遅くなってしまいましたが感想です。イラスト込みでウォーグレイモンが描写されていたので、それに反してのいきなりのエンシェントグレイモンの登場に「なんだと!?」となりましたがそーいうことでしたか。グレイモンだけでなくアグモンやメタルグレイモンもいて全員義兄弟とは。連載作品ならではの矢継ぎ早に要素が出てくるのに脳が追い付かない。
企画がデジモン化なので覚悟していましたが、マジでホウオウモンになった! と思ったら速攻で見せ場なく劣勢となった! と思ったら一気にヴァロドゥルモンにスライドエボリューション!? いやデジモンストーリー的な超究極体扱いか!? しっかりパワーアップ前に今まで生きてきた半生や死んだ(?)家族のことを思い出すのは王道! 燃える!
……え? 続き無い? ぬあああああああああ!
それでは今回はこの辺で感想とさせて頂きます。